2005年11月

さきほど翻訳作業が一応終わった。
明日は納品前に、ミスのチェックや、訳語の再検討をする予定。

一箇所、字が潰れて判読できなかったので、それだけ問い合わせ中だ。
前後の意味から推測して候補となる単語はあるが、不確実なままだと気になってしまう。

やはりFAX文書の翻訳は目が疲れて辛い。

論文などの複写サービスがあるが、FAX送信での納品が主体なので、
翻訳依頼主のところに問い合わせても、字が潰れた原稿があるだけだ。

コピーした後にFAX送信をするので、画質が劣化するのは仕方ないことだ。

だから、いくら拡大してもらっても、その部分は読めないままだ。
以前は偶然にも、同じPDF文書をインターネット検索で見つけて読めたこともあった。

FAXで原稿をもらうのであれば、最精細モードにしてほしいものだ。

今日はやっと、日付が変わる前に就寝できる。
やはり翻訳家は寝不足になることを実感している。

今回の翻訳では文法上の難点はほとんどないが、
建築と微生物関係の専門用語か出てくるので、
寒天培地の商品名を探したりと時間がかかる。

ところで、「サブロー寒天」 とは何なんだ。

カビなどを採取したいところに、ペタッと貼るそうだが、何で「サブロー」なんだろう。
まあこんな疑問は、翻訳が済んでから解決しよう。

忘年会では生物系の人にも会うだろうから、聞いてみようかと思う。


今回の翻訳で一番面倒だったのは、"Flies" という単語だ。
建物の外壁に貼る建築材料のようだが、「タイル」 は 、"Fliese" なので違う。

よく調べてみると、英語では "fleece" で、そのまま音訳したようだ。

「フリース」とはポリエステルで作られた柔らかい起毛仕上げの織物で、ユニクロで有名だ。

ただしここでは、「断熱材」という意味で、日本語でもそのまま、「フリース」というそうだ。
羊毛も、ユニクロの中古フリースも、再利用で断熱材になるから、フリースのままでもいいのだろう。

ドイツ語で衣類のフリースは "Vlies" だそうだ。
Flies と Vlies は発音は同じだから、日本語のひらがな・カタカナの関係のような気がした。

翻訳が完了したら、もう少し調べて確実な知識にしておこう。

帰宅してメールを見ると、翻訳依頼が来ていた。
直後の電話では、断熱材とかカビの話だと言われた。

納期は金曜の朝で、平日に1日3時間くらいしかできないが、
図が大きいので、A4で正味3ページ半程度なので大丈夫だろう。

最近注目の外断熱工法で、室内環境がどう違うのか、
空気中を浮遊するカビなどの調査のようだ。

前回苦労して調べた "KBE" = 「コロニー形成単位」が出てきた。

ICUにもこんなにカビがいるのかとびっくりした。

とにかく今週は定時で帰宅し、翻訳に専念しよう。

従属の接続詞 "als" については、辞書にたくさんの例が出ている。

基本として 同等(…である、…として)不等(…よりも) を知っていればよいだろう。

例としては、Nachrichten aus der Chemie, 2005, p 743-746 の
"Fluor, Element für (fast) alle Fälle" から紹介する。

ついでに注も付けておいた。

同等の例は以下の通り。

(1) ".., dass sich die ungiftigen Fluorchlorkohlenstoffe exzellent als Kühlmittel eignen .."
「非毒性フルオロクロロカーボンは冷媒として抜群に適している..」

ふつうは sich4 für et.4 <zu et.3> eignen と、前置詞+名詞を取る。

また、置換基名はアルファベット順に並べるので、"Chlorfluorkohlenstoffe"
「クロロフルオロカーボン」の方が正しい。

(2) ".., welchen Einfluss Fluor als Substituent auf die Eigenschaften von Verbindungen hat, .."
「フッ素は置換基として化合物の性質に対してどのような影響があるのか..」

einen Einfluß <Einfluss> auf jn. <et.4> haben …に影響する

(3) "Einer der ersten Fluorchemiker war Alexander P. Borodin. Schon 1863 fluorierte der auch
als Komponist bekannt gewordene Chemiker Benzoylchlorid mit KHF2 und publiziert die
Arbeit als "Zur Geschichte der Fluorverbindungen und über das Fluorbenzoyl"
in Liebigs Annalen.
「最初のフッ素化学者の一人はアレクサンドル・P・ボロディンだった。作曲家としても有名であったこの化学者は、
1863年に既に塩化ベンゾイルをフッ化水素カリウムでフッ素化し、この研究を
"Zur Geschichte der Fluorverbindungen und über das Fluorbenzoyl" として
Liebigs Annalen に発表した。

"als Komponist bekannt gewordene" は冠飾句。

(4) "Dabei dienen Cl- oder NO2- als Abgangsgruppen."
「このとき Cl- あるいは NO2-脱離基として用いられる。」


比較級の後に置かれる不等の例は以下の通り。

(5) ".., das zehnmal wirksamer als das nicht-Fluorierte Analogon ist, .."
「フッ素化されていないアナローグよりも10倍有効な..」

(6) ".. geringere Dosen als bei nicht fluorierten Analoga .."
「フッ素化されていないアナローグの場合よりもより少ない投与量..」

(7) "1997 waren 27 Medikamente mit jeweils mehr als 1 Mrd. US-$ Umsatz auf dem Markt, .."
「1997年に27の医薬品がそれぞれ、市場で100万米ドルよりも多い売り上げがあった。」

(8) "Bei den entsprechenden Reaktionen bilden sich auch weniger Nebenprodukte als mit den
konventionellen Katalysatoren."
「それにまた対応する反応の際、これまでの触媒を用いた場合に対してより少ない副生成物しか生成しない。」


両方の als が使われた例。

(9) "Damit sind die als Antibiotika eingesetzten Fluorchinolone als Breitbandantibiotikum
um das Mehrfache wirksamer als die nicht fluorierten Analoga."
「これにより抗生物質として用いられるフルオロキノロン類は、広域抗生物質として
フッ素化されていないアナローグよりも何倍も有効である。」

"als Antibiotika eingesetzten" は冠飾句。

"um" は、比較や変化における差異を示し、「…だけ」。
um ein Mehrfaches <das Mehrfache> größer sein 何倍も大きい


凡例:
jn. 人4格 et.3 物3格 et.4 物4格
A <A'> 文成分 A と A' は交換してもよい
B (C) 文成分 C は省略してもよい

(チェック・修正日2005年12月3日、2006年04月01日)

科学技術関連の文献では、外国語をカタカナで音訳した専門用語が多い。

明治時代ならば漢字表記に置き換えたのだろうが、今はカタカナが主流だ。
元の発音からはずれたものもあるが、新しい概念を表わすには便利だ。

ただ、同じ単語から音訳しているのに、カタカナで二種類の表記のことがある。

例えば、「コラム」 と 「カラム」 だ。

「カラム」 とすべき訳語が、「コラム」 となっていたのを見つけた。
日本では文系・理系と分けすぎて、お互いの専門用語の違いにも気づかないのだろうか。
また、不慣れな分野の翻訳をするときには、学術用語集や理化学辞典などを見るべきだろう。

どちらも英語の "column" に由来するが、意味の違いで使い分けている。


「コラム」 とは、
(1) 新聞や雑誌で、短い評論などを載せる欄。また、その記事。
(2) 古代ギリシャ・ローマ建築の石の円柱。

日常的には、主に (1) の意味で使われることが多いのではないか。


「カラム」 は、表の縦の列のことを指す以外に、
例えば化学では、クロマトグラフィーで使われる用語だ。

ガラス管にシリカゲルなどの固定相を充填し、移動相に溶媒を用いて混合物の分離精製をする。
分析用には、金属管に固定相を充填したHPLCカラムが使われている。

特許などの翻訳で、「HPLCコラム」 と訳されていたら、その翻訳会社は顧客を失うだろう。
そして、そのケアレスミスをした翻訳者には、仕事の依頼が減ることになる。


こんな簡単な言葉でも、元の外国語でも複数の語義があるし、
あいまいな知識や思い込みで翻訳すると、痛い目をみるだろう。

調査しすぎて納期に遅れてはならないが、ケアレスミスをしないように、再度戒めとなった。

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