2006年11月

原子力発電を認めたくないのは、技術的な問題だけではなく、
信用できない人間たちが推進し、運営しているからでもある。

原子力発電所ではこれまで何度も、測定データの改ざんが行われており、
発覚する度に再発防止策が発表されたり、コンプライアンス意識の向上などと建前を言っている。

東京電力の柏崎刈羽原発では、取排水温度の測定値が改ざんされた。

東京電力のプレスリリースは次のとおり。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/06113001-j.html

原子力発電所は、二次冷却水に海水を使用している。
冷却に使うわけだから、取水よりも排水の方が温度が高くなる。

説明では、取水と排水の温度差が、7℃以内が目標値とのことだ。
測定値がその範囲をはみ出さないように、数値をごまかして報告していたのだ。

温排水については、水産資源への影響について関連性が指摘されているので、
漁業補償の問題もあってか、「目標値の範囲内にあるべき」 という建前を優先したわけだ。

嘘が発覚したときの影響の方が大きいが、そういったリスク管理もできない会社なのだ。


それにニュースでは 「原発データ改ざん」 となっているのに、
プレスリリースでは 「不適切な補正」 と言い換えている。


原発推進側は、反対派に対していつも、「科学的な議論をしましょう」 と言っているが、
測定値を意図的に変更することは、決して科学的な態度とは言えないので、矛盾している。

温度計も含めて測定装置は、様々な要因で、真の値を計測しているとは言えない。
そのため厳密な値が必要な場合は、「較正」 という作業を最初に行う。

例えば、20℃とわかっている液体を測定したとき、表示が21℃であったなら、
次回の測定からは実測値に加えて、1℃低い温度に補正した値も一緒に記録することになる。

実際の較正はもっと厳密で面倒な作業だが、高度技術の塊である原発ではやっているはずだ。


とにかく原発関係者は信用できない。
原発は安全だといくら宣伝しても、「私たちは嘘つきです」 と公言しているようなものだ。


この件について、東京電力のHPにある 「エコーボックス」 で質問を送信した。

これからも監視を続けなければならない。


追記:
東京電力から返答があった。

法令上や安全性の問題がなく、許認可やプラント運転等に係わらない管理値であるため、
軽微な変更と捉えこのような不適切なデータ処理を行ったものと認識いたしております。


この意識が、コンプライアンスという概念に反することに気づくべきだ。
コンプライアンスとは、単なる 「法令順守」 にとどまらない概念だ。

つまり東京電力は、法令などでルールが決まっていなければ、
安全だと思えば、自分たちの都合で何でも変えてかまわないということか。

すると今後は、都合の悪いことは法令や安全基準に加えないという危険性がある。

原子力発電を推進する者たちが信用できない理由がまた増えた。

(最終チェック・修正日 2006年12月01日)

6月発刊の新書なので情報としては古いが、先週の学会の移動時に、
文春新書の 「危うし! 小学校英語」(鳥飼玖美子著)を読んだ。

http://www.bunshun.co.jp/book_db/html/6/60/50/4166605097.shtml
http://www.bunshun.co.jp/jicho/shougakueigo/shougakueigo.htm

章立ては次のとおり。

第一章 「早ければ早いほど」幻想を打ち砕く!
第二章 「親の過剰な期待」が英語必修への道を開いた
第三章 誰が英語を教えるのか
第四章 日本の英語教育はどうあるべきか
おわりに 子どもの「芽」を摘まないで

同時通訳者でもある著者は立教大学教授で、大学院の異文化コミュニケーション研究科に所属する。
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/grad/i-c/index.html
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/cri/ken/vin/torikai_k.html

章立てを見てもわかるように、小学校英語必修化に反対する立場での主張を書いた本である。

一般向けなので論文というわけではないが、参考文献も示されているので、
文部科学省の策略を非難している私にとっては、利用価値のある文献である。

語学の本を全て読んでいるわけではないが、それでも新書を中心にいろいろと買っている。
この鳥飼氏の著書を本棚で探してみたら、次の2冊があった。

岩波ブックレット、「小学校でなぜ英語? ― 学校英語教育を考える」、岩波書店 (2002)
講談社現代新書、「TOEFL-TOEIC と日本人の英語力」、講談社 (2002)



私立学校は、独自のカリキュラムを組む自由があり、以前から小学校で英語教育を導入している。
すると私立小学校出身者は、英語が得意な日本人に育っているのだろうか。

しかし結果は逆で、中学から始めた外部進学の生徒にすぐに追い越されるそうだ。
小学校段階で既に英語嫌いを生んでもいるし、早く始めても定着していないことは明らかだ。

このことは、語学に限らずスポーツ・芸術などでも、個別性を無視できないことを示している。
これは教授法やカリキュラム、そして教師の問題であり、英語だけ特別の課題ではない。
同じ教育をしても、漢字や九九を覚えられない生徒や、逆上がりができない生徒もいる。


第二章では主に、子どもたちにかけられるプレッシャーについて論述している。

英語ができないと中学受験で失敗するとか、有名大学に入れないなどと強迫観念を植え付ける。
英語能力によって職業選択の自由もなくなるのであれば、親が必死になるのは当然だ。

私も読書感想文で経験したが、小学2年で入賞したためか、母親の口出しが多くなった。
障害者の姉のことでいじめられていた私が、唯一自慢できたのが、作文・読書感想文だった。
そのためか担任は、国語の時間に私を何度も指名して、感想文の発表の機会を作ってくれた。

ある日、宿題の感想文がうまく書けないとき、母は 「こう書きなさい」 と無理強いした。
翌日の国語の時間に指名されたが、私は 「自分で書いていない」 と泣いてしまった。

英語でも同じように間違った教育方針を採ってしまい、子どもを追い詰める親が増えるだろう。
足が遅くても生きていけるが、英語ができないと負け組みだとでも言いたいのだろうか。


第三章ではALTについても触れられているが、これほどいいかげんな制度はないと思う。
もっとまともな人材を採用するようにできないものか。

もしかすると、英会話教室から講師を派遣する方が安上がりという、安易な選択をするのかもしれない。


また、中央教育審議会の外国語専門部会が、小学校英語推進派で固められていることにも触れている。

名簿は次のとおり。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/meibo/05062009.htm

文中には何度も、中嶋嶺雄・国際教養大学学長/理事長 の名前が出てくる。
この人は中国の研究者なのだが、英語教育を推進したいようだ。

国際教養大学では学生に海外留学をさせるし、授業は全て英語だから、英語が得意な子どもが増えれば、
うまくいけば入学者も増えるから、大学全入時代でも潰れることはないので安心だろう。


まあ、賛成・反対のどちらにしても、推進派ががっかりするような学習指導要領になるだろうから、
文部科学省が一体何をしたいのか余計わからなくなり、子どもが被害者になっておしまいだろう。

「ゆとり教育」 の失策を、「小学校英語必修化」 で挽回することは無理だろう。

だから、新規予算を獲得する根拠に使っているだけで、その金に大人たちは群がっているだけだ。
推進派も納税者なのだから、予算がきちんと効果的に使われることを監視すべきだろう。

先週の学会では、カタカナ表記の化合物名が、英語の発音に影響されていることを再認識した。

例えば 「アルデヒド」 を 「アルデハイド」、「ブロミド」 を 「ブロマイド」 と。

研究者の留学先は英語圏が多いし、国際会議の公用語は英語だから、影響されるのは当然か。

気になったのは "methide" で、予稿集での表記は 「メチド」 だが、演者は 「メサイド」 と、
質問者は 「メタイド」 と、同じ物質のことを話しているのに発音が違っていた。


大学の講義でも、英語風の発音ばかりしている教授がいたが、少し問題ではないだろうか。
英語の発音だけで教えていると、日本語での表記がわからない学生が増えないか。

日本語の命名法では、アルファベット表記から機械的に、カタカナ表記に字訳することになっている。
日本語で報告書を書くこともあるのだから、専門家ならば、日本語での命名法を知っておくべきだ。


日本語と英語がごちゃまぜになった言い方はやめて、どちらかに統一してほしい。
「アルデハイド」 と言っていても、「アルコホール」 とは言わないのだし。

元素名もドイツ語の 「カリウム」 を正式採用しているのだから、「塩化カリウム」 を
わざわざ 「ポテイシアム・クロライド」 と言わなくてもいいと思うが。

英語の発音を知っているということを、無意識のうちにアピールしているのか?
それとも、いつも科学英語の練習をしていて、無意識に英語の発音になるのか?


ついでに、「-OH 基」 を以前は 「水酸基」 と呼んだが、今は 「ヒドロキシル基」 が正式だ。
また、「Cl-」 は 「塩化物イオン」 ではなく、「クロリドイオン」。

新しい命名法を知らない研究者に、わからない用語を使うなと文句を言われたこともあるが、
ルールが変更されたのだから、変なこだわりは捨てて、慣れてもらうしかない。

まあ、化学と化学工学で用語が違うこともあるので、何が正しいのか迷ってしまう。

S??ddeutsche Zeitung から、ドイツ人学生の外国語能力に関する記事を紹介したい。

http://www.sueddeutsche.de/,jkl1/jobkarriere/berufstudium/special/376/46330/index.html/jobkarriere/berufstudium/artikel/643/92551/article.html


イントロ部分では、チェルシーに移籍したサッカー・ドイツ代表の Michael Ballack の英語を、
「評点3(学校の成績評価で良・上から3番目)」 と、茶化した Bild 紙の報道を引用している。

http://www.bild.t-online.de/BTO/sport/aktuell/2006/08/04/bayern-ballack-ladehemmung/hg-ballack-englisch.html

"I drunk one beer, that is enough." では、時制の間違いが指摘されている。

Bild 紙では他にも引用して、「ぎこちない表現もあるが、だいたいOK」 とのこと。

練習については、"It was very hard, very intensive, but funny." と話したが、
ここで "intensive" はドイツ語からの直訳調で、英語では "intense" を使うのが一般的。

また、短髪となった新しい髪型について、"The cut is for the supporters." と話した。

「髪型」は通常は "haircut" と言うべきだが、意味は通じているとしている。
"fan" の代わりに "supporter" を使うことは、イングランドでも普通である。



そうやってドイツ人サッカー選手の英語力を、面白おかしく報道しているが、
ドイツ人大学生の外国語能力は、雄弁とは程遠いことを指摘する調査結果が仮報告された。

学生 3,700 人を対象にして、外国語能力、特に英語について調査を行った。

大学を卒業したばかりの学生は、英語能力について自信過大だと結論している。
自分の英語能力の評価を質問すると、34%が「非常に優良」、38%が「優良」と回答。

しかし結果は、「非常に優良はわずか1%」、「優良は4%」、「良が76%」 だった。


教育目標では、ドイツの大学生は最低2外国語を使いこなすことが求められている。
しかし、フランス語を優良と自己評価する者は12%、スペイン語では5%。

2外国語の能力が「優良」以上の割合は、1994 年の11%から10年間で6%増加したが、
45%の学生は、1外国語の知識しか持っていないという。



悪い結果ばかりではなく、10年間で外国語能力は着実に向上している。
「優良」以上の割合は、1994 年の51%から 2004 年には72%になっている。

加えて、1外国語ですら成績の悪い学生は、43%から21%に減少した。


外国語を自由に操るエリートはごく少数だが、既に外国語能力で社会的出自が判定される。
親の教育水準が上がるほど、その子どもは数ヶ国語でコミュニケーションするようになる。


驚くべきこととしては、数ヶ国語を話すトップグループでは、男性の割合が女性の2倍。
外国で働こうとするならば、高い外国語能力が求められるからである。

また、最低水準の外国語能力レベルに達した90%の学生は、在学中に留学したことはないそうだ。




比較資料がないが、日本では、英語に自信があると答える学生は、もっと少ないと思う。
そして実際に、間違いがない英語を使える学生は、ドイツと同様に1%程度かもしれない。

ドイツは経済力があり、周辺国がドイツ語を勉強するから、自分が外国語を勉強しなくてもよかった。
バカンスで出かけても、ドイツ人が多く訪問するリゾート地はドイツ語が通じるし。

今はEU域内ならどこでも就職できるので、外国語ができることは有利になる。
それに博士号取得者の場合、外国でのポスドク経験2年が採用条件に入っていることが多い。

大学入学要件として、2外国語の能力が求められるが、英語を選択しない学生もいるのは事実だ。
フランス語とスペイン語を選択すれば、文法的に近いので勉強が楽だ。

だからドイツの大学に留学して、英語が通じない学生がいると、日本人はびっくりするようだ。


この調査は大学卒業者という、ヨーロッパではエリート階級・支配階級が対象だと意識してほしい。
労働者階級の外国語能力については、今回の調査対象ではない。

大学に進学しない子どもは、職業学校に行くが、選択した職業によっては外国語が不要のこともある。

ホテルや銀行員など、外国語能力が必要となる職業では、英語を選択することもあるが、
必要性が感じられない職業の場合には、無理して選択することはない。

ドイツに仕事がない場合、ドイツ語圏のスイスやオーストリア、ルクセンブルクなどで探すことになる。
実際に失業対策としても、スイスでの就業を推奨している。
(ただし、スイスで使う単語は標準ドイツ語とは異なるので、実際に働くと困ることもあるが。)


ところで日本では、本当に外国語を必要とする人の割合はどれくらいだろうか。
観光地のホテルや飲食店、タクシーでは必要かもしれないが、日常生活ではどうだろう。

外国語能力により、単純労働・ワーキングプアから脱出できるのであれば、必死になるのかもしれない。

今週後半は九州地方で開催された、化学関係の○○討論会に参加した。

場所は示さないが、学会の合間に博物館を訪ねたり、地元の有名料理も食べたり楽しかった。
マイルもたまり、それにANAのスキップを使ったので、Edy のポイントバックもある。


学会に参加したと言っても、座って発表を聴いているだけ。
一応、ポスター会場ではいくつか質問もした。

これは会社の研修の一つで、仕事に関係ない話も聞いて、新鮮な気分になろうという趣旨だ。
参加費も旅費も出るので、後は報告書を書いて、セミナーで報告する義務がある。


大学の研究現場から離れると意識が変わるためか、バックグラウンドを知らない発表の場合、
内容を把握することが困難となり、有益な成果かどうか、判断できないことも多い。

発表者の話し方が、一度聞いただけでは理解しにくい長文であることの他に、
受託合成という仕事では、自分で追いかけるテーマがないことも、勘が鈍った原因かもしれない。

最近の学会発表では、PowerPoint が標準になったためか、図表はきれいなものが多い。

色も多様だし、3D表示の分子がアニメーションになって回転するものもあった。


ただし強いて苦言を呈せば、見えにくい色や、互いに区別しにくい色を使ったり、
フォントが小さすぎたり、画面に情報が多すぎたり、疑問のある英語だったり。

プレゼンテーションについては、様々な本も出ているし、研究室でも特訓するはずだが。
発表内容を知っている本人は、知らない人に説明する方法に注意しないのかもしれない。


色表示については、色覚異常の研究者の視点から、使うべき色の種類と組み合わせ、
逆に使ってはいけない組み合わせ、そして色を使わずにグラフを表現する例が提案されている。


一画面に情報が多すぎる場合、いったい今は、どこの話をしているのかわからないことがある。

レーザーポインターの光を説明箇所に応じて、ピンポイントで保持してくれれば助かるが、
たいていの演者は緊張のためか、光がチラチラして、どこを指しているのかわからないことが多い。

それに日本人の特徴として、様々な反応例を一つの表にまとめてしまうことがある。

「こんなに多様な実験条件で検討しました。」 と言いたいのだろうが、
あまり情報が多いと、フォントも小さくなり、比較しながら話を聞くのは疲れてしまう。

ドイツ留学中にドイツ人の講演を聴くことがあったが、ある演者のジョークとして、
「日本人のように、多数のデータを表にまとめてみました。」 というのがあった。


日本国内の学会でも、英語で表題や説明を書く研究者は多い。
国際会議や論文にそのまま使えるので、英語で書いた資料をストックしておくのは便利だ。

ただ、英語としては疑問点のある表現が、いくつか見られたのは残念だ。

例えば 「○○塩酸塩」 は "○○ HCl" としていたが、"salt" を省略しても大丈夫だろう。
ただ、塩酸塩を中和して得られるフリー体については、"○○ free" と書いてあった。

最初、「○○を含まないサンプルを用いて、どうやって合成したのか。」 と勘違いしてしまった。
説明を聴いてみると、中和して得られるフリー体のことであった。

せっかく留学生やポスドクが多数日本に滞在しているのだから、添削してもらってはどうだろう。


来年も遠くの学会に参加して、マイルをもらうことにしようか。

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