2007年11月

11月27日の報道で、理科の実験で考察する能力が低いという調査結果が出たとあった。

例えば、朝日新聞の記事の冒頭は次のとおり。

[理科の実験で、結果が予想と違った場合、原因を調べようという子どもは、小学校より中学校の方が少ない
――こんな傾向が、国立教育政策研究所が27日にまとめた理科の授業の課題調査で分かった。

8割以上の子どもが「実験や観察が好き」と答えたが、研究所は、実験結果から考察したり活用したりする力は
あまり定着していない、と分析している。]


先日は、国語や算数(数学)で、応用問題が解けないという指摘もあったが、
理科でも、知識はあるが、それを応用して推測したり、自分で課題を見つけたり、解決はできないようだ。

「科学技術立国」 を目指す日本政府としては、小中学校での理科教育がこんなことでは将来が不安になる。

国立教育政策研究所のHPでは、1日遅れて11月28日に、調査結果が掲載された。

「特定の課題に対する調査(理科)」
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei_rika/index.htm

そこに掲載された報告書は100ページを超えるので、ざっと見ただけ。

その中で、報道にもあった、「質量保存の法則を理解していない」 をチェックした。

100gの水と、20gの食塩とを混ぜた場合、重量がどうなるかを予想するものだ。

正答は120gなのだが、「食塩は水に溶けてなくなってしまう」 だとか、
「食塩は水に溶けると軽くなる」 として、「100gから120gの間」 を選択する生徒もいた。

ただ、正答が63%あるものの、その理由が 「質量保存の法則」 に基づいていたのは約27%。


ところでこの 「質量保存の法則」 であるが、これは法則というよりも、前提条件である。
日本の教科書では、「質量保存の法則が発見された」 かのように書いているが、間違いだ。

食塩を水に溶かしたり、冷やして結晶を析出させたとき、
質量がいつも変化してしまうのであれば、誰も実験を再現できない。

同一条件なのに再現性がないのであれば、これは一般的な自然科学では扱えなくなる。

つまり論理的に考えて、自然科学が成立するためには、「質量保存の法則」 がないと話が始まらない。

あとは実験を繰り返して、帰納法的にも、「質量保存の法則」 がありそうだと考えるしかない。


しかし日本では、東洋思想の特徴なのだろうか、理詰めでは考えないためか、根付いていないのかも。

「水に食塩を溶かすと、見えなくなるから消えた」 と考えるのも、
「罪がいつの間にか消えてしまう」 という、責任転嫁の思想に影響されていないだろうか。

またこの非論理性は、最近のスピリチュアルブームでも関係していると思われ、
「死んだものが生き返ることもある」 と信じている小学生は、10%以上もいるのだ。

このまま感情・情緒と論理とを区別せずに大人になると、
ダイエットや健康食品の詐欺で被害に遭う人が増えるのではないかと心配だ。

明日から出張なので、その前にドイツ語和訳を終わらせて、先ほど納品した。

受注前のやりとりでは、専門用語の確認に手間取った場合を想定して、週明けを納期としていた。

専門用語の確認に時間は取られたものの、500ワード弱と短いので、作業は比較的早く進んだ。
そのため、当初設定されていた納期である29日朝に間に合った。

いつものように、独→日 で見つからなかった訳語は、独→英→日 で調べることも多かった。

そうして見つかった専門用語は、ドイツ語や英語、そして日本語での解説を読んで、
今回の翻訳対象で合致するのかどうか、何度も確認済みである。

それでも不確かな用語や、自己流造語? と呼べるような訳語もあるので、
納品した後でも、クライアントからの問い合わせに対応するのも義務だ。


また、これは日本の学術用語統一が不徹底であることに起因するが、
例えば 「ネマチック液晶」 と 「ネマティック液晶」 とが混在している資料がある。

反発もあるだろうが、「学術用語集」 というものが一応あり、
また、学会が推奨している用語の書き方にならうのが、基本ではないだろうか。

確かに私も、文部科学省が決めたことに反発するが、他人とのコミュニケーションでは、
こういった用語の表記や意味内容を統一しておかないと、互いに通じないために困ってしまう。


出張から戻ったら、中断していた英語特許和訳の作業を再開しよう。


追記:
出張での移動中に原稿を見直して、ケアレスミスを一つ見つけた。
そこで携帯メールで、翻訳会社に訂正について連絡した。
疲れているときに翻訳すると、間違いがどうしても発生してしまう。

(最終チェック・修正日 2007年12月01日)

帰宅時に携帯電話にメールが転送されてきた。

翻訳依頼のメールで、A4で1ページ半と短いので、受注する返事をすぐに出した。
同じ翻訳会社から依頼された2件の英語特許和訳は、1件が既に仮訳終了なので余裕もあるし。

字数は概算だが、5000円強の翻訳料金となる予定。
これは少なく感じるが、社員食堂での定食10日分と考えれば、十分な収入だ。

依頼内容は、ポリマーの教科書の一部であり、イントロダクションを知らなくても訳せそうだ。

ざっと見たところ、液晶相やゲル状態について説明しているようだ。

固体と液体の中間にあるのが液晶であり、"mesomorphe Phase" と呼ぶ。
文字通りに直訳すると、「中間形態相」 とでもなるだろうか。

今週は出張があるので、納期を来週に延ばしてもらう予定。

短いので、今日から始めて、何も問題がなければ、あさっての朝には納品できるだろう。

まあ、この翻訳会社は毎月20日締めなので、急いで納品しても、お金をもらう日は変わらない。
慌てて間違うよりは、週末に推敲できるようにした方がよいだろう。

それにしても、翻訳専業の人に、こういった案件が回らないのはなぜだろう。

地球温暖化対策ということで、二酸化炭素排出量を減らそうと努力が続いている。

化石燃料の代わりに水素を使うアイデアは以前からあり、水素自動車も実際に試作されている。
この場合、水素ガスを充填するわけだが、その水素源をどうするかが問題であった。

理科の実験で習ったように、水の電気分解で水素と酸素を製造することはできる。
ただし、その電気をどうやって作るのか、そしてそのコストを下げられるかが課題である。

太陽電池を使って電気分解をするという話もあったし、光合成の原理を応用する話もあった。

ところが最近になって、原子力を利用して水素を製造する研究が行われていることを知った。

例えば原子力委員会の第47回定例会議では、「原子力による水素製造について」 という議題があった。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2007/siryo47/tei-si47.htm

その水素製造方法などの詳細は、次の説明資料に譲ることにする。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2007/siryo47/siryo47-2.pdf

実験室規模で試験が行われている 「ISプロセス」 というのは、原子炉から取り出した高熱を利用して、
「水+二酸化硫黄+ヨウ素」 の反応で硫酸とヨウ化水素を作り、ヨウ化水素の熱分解で水素を製造する。


二酸化硫黄とヨウ素は反応系内でリサイクルされ、形式的に見れば、水の熱分解で水素と酸素が得られる。

これで大規模プラントができるならば、確かに他の方法よりもコストが下がり、
水が原料だから、今のような原油価格の高騰に右往左往することもなくなるだろう。

ある限定された前提を導入すると、天然ガスよりもコスト的に有利になると宣伝している。

また、高速増殖炉の高熱を利用して、地球温暖化ガスを発生しない水素製造とも宣伝している。

ただし、原子炉で発生する高熱の利用が前提だから、水素製造プラントは原子炉とセットになるわけだ。

「水素を燃やしても水しか出ない」 と、クリーンエネルギーであることを宣伝しているが、
原子炉がないと水素が製造できないならば、放射性廃棄物の処理や、ウランの価格が欠点となる。


新技術の開発では、あらゆる可能性を排除せずに検討することは大切だ。
しかし、原子力関係の研究機関や産業が存続するためのプロジェクトでは嫌だ。

今は原子力発電に対する社会の反発が大きいが、クリーンエネルギーの水素を製造するとなれば、
「背に腹は変えられぬ」 として、諦めたり、黙認する人も増えるかもしれない。

原発反対という声に対して、「エアコンがないと困るだろう」 と言ったという話は有名だが、
将来は、「水素がないと何も動かせないぞ」 と言って、黙らせるのかもしれない。

新技術が生まれることには興味があるが、必ず存在する負の側面を忘れないようにしたいものだ。

22日に英語特許の和訳を2件受注したが、先ほど1件目の仮訳が終了した。

内容にはそれほど困難な個所はなく、予定よりも順調に作業が進んだ。
納期まで2週間あり、出張もあるが、これでゆっくりと推敲できる。

今回の特許でもタイプミスはあったし、主語も動詞もない文が出てきたり、
必要な語句の欠落で意味がつながらない部分はあった。

ただし、医薬品関連であるこの特許の内容を理解しているので、補足して解釈できた。

ところで、タイプミスの一つを例示しておこう。

特許に記載された医薬品は、"gastronoma" という病気の治療にも使用されるとあった。

辞書でこの単語を調べても載っておらず、似たものとして "gastronome" があった。
これは 「食通、美食家」 であり、病名ではない。

「美食家、グルメ」 はスペイン語で "gastronoma" になるが、
胃潰瘍や胃酸分泌過多の症状に対して用いる薬でも、美食家を患者扱いするのは、あまりにも変だ。

"gastronoma" は、かなりの検索ヒット数があるが、スペイン語のサイトばかりで、
しかもよく見ると病名のタイプミスはわずかで、後はグルメ関係のようだ。

gastronoma.com というサイトまであったが、これも決して病気関係ではない。


別のオンライン辞書で検索すると、"gastrinoma?" と出た。
それで 「ガストリノーマ」 で調べると、この薬を用いて治療する病気だと判明した。

そして 「gastronoma gastrinoma」 で検索すると、「Disease Reference」 というサイトが見つかった。
http://diseasereference.net/info/zollinger-ellison-syndrome/207965.html

やはり "gastrinoma" が正しい表記であり、治療法の説明に出てくる薬の種類でも確認できた。

また、"Typical mistypes for Gastrinoma" という項目の中に "gastronoma" もある。

この特許では胃に関係する症状が列挙されていたから、"gastro-" というつづりに影響されたのだ。


通常は原文ママとし、コメントで指摘するのだが、美食家たちに悪いので、「ガストリノーマ」 とした。
または、「ガストリン産生腫瘍」 としてもよいだろう。


他にも、ピロリ菌の学名が間違っていたので指摘しておいた。


以前にも書いたが、英語が得意というだけでは翻訳はできない。
今回のように、英語以外の専門分野を持っていないと、間違いを指摘できないのだ。

そして、ネット検索も含めて、根拠となる正確な資料を探し出す能力も必要だ。


明日から推敲することにして、出張から戻ったら2件目を始めよう。

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