2008年11月

休眠会社を利用したアイスランドとノルウェーからの鯨肉輸入について、
日本政府が9月に既に輸入許可を出していたことが、11月になってから明らかとなった。

共同通信の配信記事が11月29日に出てから、急に各メディアでも取り上げているが、
NHKニュースでは次のように、反捕鯨団体の反発の可能性についてWWFを例示して言及している。
http://www3.nhk.or.jp/news/k10015687731000.html#

【調査捕鯨などで捕獲された鯨の肉しか流通していなかった日本に、商業捕鯨を行うアイスランドから
17年ぶりに鯨の肉が輸入されていたことがわかり、捕鯨に反対する環境保護団体などから今後、
反発も予想されます。

日本はかつてアイスランドから鯨の肉を輸入していましたが、アイスランドが91年に加盟国間で鯨の肉の
貿易を認めるIWC=国際捕鯨委員会を脱退して以来、輸入が途絶えていました。しかし、その後
アイスランドが再びIWCに加盟し、ことし5月にはナガスクジラの肉80トンがアイスランドから日本に
向けて輸出されていました。経済産業省と農林水産省はことし9月、日本の商社からの申請を受けて審査
した結果、輸入再開を認めたということです。日本では需要の低下もあって1991年以降、鯨の肉は
輸入されず、調査捕鯨や沿岸の小型捕鯨で捕獲された鯨の肉しか流通していませんでした。輸入再開は
17年ぶりになります。日本が鯨の肉の輸入を再開したことに対し、捕鯨に反対するWWF=世界自然
保護基金などの環境保護団体から今後、反発も予想されます
。】

今回の鯨肉輸入の書類を入手して糾弾しているのは、グリーンピースであり、WWFではない
http://www.greenpeace.or.jp/press/releases/pr20080604oc_html

「グリーンピースなど」 とするならば理解できるが、WWFだけを例示するのはなぜだろうか。
この件については、NHKに質問メールを送ってある。


確かにWWFは、反捕鯨の方針を明示している自然保護団体である。
2002年にも、ノルウェーから日本への鯨肉輸入の動きに対して、反対する声明を出している。
http://www.panda.org/about_wwf/where_we_work/europe/news/index.cfm?uNewsID=2498

私が会員であるWWFジャパンでは、方針が少し異なるが、2005年に次のように発表している。
http://www.wwf.or.jp/activity/marine/lib/whale/wl-policy2005.htm

私がWWFジャパンの会員となったのは1992年で、石垣島サンゴ礁の保護が目的だった。
ただ、捕鯨の問題もあったので、グリーンピースと比較して、最終的にWWFへの入会を選択した。

グリーンピースの実力行使という、挑発行為とも考えられる活動が、私の主義に合わなかったためである。

日本の捕鯨関係者は、グリーンピースをエコテロリストと呼んでいるが、WWFはまだそこまでではない。

それでもWWFは、水産資源管理について様々な要望を出して活動をしているためか、
日本の捕鯨・水産関係者からは、政治的な意図を持った自然保護団体として非難されてきた。

最近もWWFは、マグロ類の漁獲制限が不十分であるという声明を出しているため、
日本の水産業および食生活に障害となる、邪魔な自然保護団体だという認識なのかもしれない。

グリーンピースについては、危険な反捕鯨団体というイメージを定着させることに成功したため、
次はWWFを名指しして、日本文化を侵略する反捕鯨団体として認識させようということなのか。

これは考えすぎなのかもしれないが、NHKは日本政府寄りの報道をした過去もあるので、疑ってしまう。

追記:
NHKからは次のような回答があった。

【NHKではことし6月、「アイスランドが日本に鯨肉を輸出した」というニュースを放送しております。
この際、WWF・世界自然保護基金の「商業捕鯨促進しようという挑発的な行為だ」というコメントも
合わせて紹介しました。
今回のニュースは、このとき輸出された鯨肉が必要な手続きを経て日本に輸入されたというもので、
6月のニュースをもとに、「捕鯨に反対するWWFなどの環境保護団体から反発も予想されます」
という表現にしました。

しかし、ご指摘の通り、グリーンピースの動きも踏まえたコメントにするなど、
ほかのやり方があったかも知れません。】

自然保護団体の代表としてWWFを取り上げたつもりなのだろうが、
輸入の件をあばいたのはグリーンピースなのだから、もう少し考えてほしいものだ。

(最終チェック・修正日 2008年12月01日)

イメージ 1

宇宙空間に存在する有機分子を探索する研究は継続しており、
最近も銀河系中心領域以外でグリコールアルデヒドが検出された。

グリコールアルデヒドは最も単純な単糖類とも呼ばれ、その化学反応性から、他の有機分子の原料となる。

例えばプロペナールと反応すると、RNAの構成要素であるリボースが生成するため、
生命の起源を宇宙空間に求めようという考え方が生まれるわけだ。

マックスプランク研究所の11月27日の発表は次の通り。
http://www.mpg.de/bilderBerichteDokumente/dokumentation/pressemitteilungen/2008/pressemitteilung20081127/index.html

研究グーループの発表と、Astrophysical Journal Letters の抄録は次の通り。
http://www.iram.fr/IRAMFR/ARN/glycolaldehyde-081125.pdf
http://arxiv.org/abs/0811.3821v1

グリコールアルデヒドは2000年に銀河系中心領域で検出されているが、
今回は G31.41+0.31 という名称の、多数の恒星が生まれつつある活動的な領域で検出された。

新しく生まれた恒星周辺の星間ガスやちりからは惑星が形成されると考えられ、
多種類の有機分子も惑星に取り込まれることで、生命のゆりかごとなると期待されている。

グリコールアルデヒドに帰属されたスペクトル線は 1.4 mm、2.1 mm および 2.9 mm のミリ波電波の波長で、
比較的高温の領域(> 300 K)、そして原始星近傍(< 104 AU)の最も濃い部分(> 28 cm-3)であった。

ガス濃度が濃いことも検出可能であった要因となっており、G31.41+0.31 だけでなく
同様の活動的な星形成領域でも、より複雑な有機分子が見つかると期待されている。

昼休みに S??ddeutsche Zeitung のサイトを見て驚いた。

ドイツの2007年の温室効果ガス排出が、二酸化炭素換算で、2006年よりも2.3%減り、
そして1990年と比べて21.3%減った値となり、京都議定書の目標を達成できたという。
http://www.sueddeutsche.de/wissen/763/449492/text/

11月28日にドイツ連邦環境相が発表したプレスリリースは次の通り。
http://www.bmu.de/pressemitteilungen/aktuelle_pressemitteilungen/pm/42674.php

ドイツが定めた削減目標では、2012年までに1990年よりも21%削減するというものだった。
2007年に達成できたのだから、このまま維持できれば、今年以降も目標達成は確実だろう。

自家用車の燃費向上やバイオ燃料での代替、住宅や工場でのエネルギー効率向上などが貢献したという。

ただ、2007年の冬季は温暖だったために、温室効果ガス排出が減ったとも言われている。

またEUは、2020年までに30%削減するという野心的目標を掲げているので、安心はできない。


EU諸国の削減目標は、実現可能となるように細工したと言われているので、
他の報道も読んでから、時間のあるときにまとめておこう。

翻訳で対応する日本語が思いつかなかったり、悩んだ表現については、これまでも何度か書いてきた。

例えば、「Kinder unter 5 Jahren」 は 「5歳未満児」 だと、私は解釈していたが、
5歳以下児」 と和訳している文書も多く見られ、どちらか正確なのか悩むこともあった。

このように翻訳では解釈という作業が入るため、同じ原文から、違う日本語になる場合がある。
そのためか、絶対唯一正しい翻訳というものは存在しないとも言われている。

ただし、学会などで公式に決定された学術用語やSI単位の名称などは、変更せずにそのまま使ってほしい。

学術用語の場合、分野によって異なる和訳が存在するので面倒だが、翻訳対象の分野に合わせればよい。

最近和訳したSSK報告書での 「Exposition」 という単語は、「被ばく」 という和訳を選択した。
検索すると、「暴露」 としている文書もあるが、電磁波や放射線の場合は 「被ばく」 がふさわしい。

医学関係の翻訳の時には、日本医学会の医学用語辞典を購入して、病名などを参考にした。
医学用語のオンライン辞書もあるが、学会発行の辞典で、学会が指定した用語を使う方が無難だろう。


そして最近は、放射能の単位 「Bq(ベクレル)」 を、「ベックレル」 としている和訳を見つけた。

この単位名は、「becquerel」 と書き、発音は 「beck-er-L」 と説明されているが、
日本語で表記するときには 「ベクレル」 とすることが決められている。

独立行政法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センターが発行している
「国際単位系(SI)日本語版」 やSI単位のパンフレットでも、「ベクレル」 と表記されている。
http://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8J.pdf
http://www.nmij.jp/public/pamphlet/si/SI.pdf

日本語でどのように表記しているのか、前例がない場合には、字訳か音訳をするわけだが、
ベクレルのように、既にSI単位系の解説書にも載っている場合は、何もせずにそのまま使えばいい。

あるいはその翻訳者は、単位名称であっても語源となった人名の発音を尊重したいのだろうか。

そのような個人的な持論を主張するならば、学会や文部科学省などに申し入れをすればよい。
クライアントや読者が違和感を抱くような自己流にこだわっても、あまりメリットはないと思われる。


前にも書いたが、ドイツ語特許和訳のチェッカーをしていて、用語のデタラメさに唖然としたことがある。
どれも少し調べれば判明することなのに、いくら専門外とはいってもひどすぎるものだった。

「芳香化合物」 が 「芳香化合物」 だったのは、変換ミスだろうが、推敲でも放置してはいけない。

その翻訳者が化学を知らないと確信したのは、「ケイ素」 を 「シリチウム」 と書いていたからだ。
ドイツ語で 「Silicium/Silizium」 であるが、「ケイ素・シリコン」 以外の訳語を見たことがない。

メガネのフレームに 「シリチウム」 という色があるようだが、元素名では使ってほしくない。

ということで、翻訳するときには、翻訳対象の分野の資料を読み込んで、用語を確認することも必要だ。

日本の赤外線天文衛星 「あかり」 の観測成果が公開されている。
アストロアーツの記事は次の通り。
http://www.astroarts.co.jp/news/2008/11/19akari/index-j.shtml

宇宙航空研究開発機構(JAXA)のサイトでの、「あかり」 の説明は次の通り。
http://www.jaxa.jp/projects/sat/astro_f/index_j.html

数多くの成果の中で、オリオン座α星ベテルギウス周辺の観測結果に興味を持った。
ベテルギウスの星風と周囲の星間物質とが衝突し、衝撃波が発生している様子が、高解像度で観測された。
http://thyme.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/PR081119/pr081119_2.html


科学的興味を持って読んでいたのだが、比較で読んだ英語とドイツ語の記事で気になることがあった。
英語とドイツ語の記事は次の通り。
http://www.esa.int/esaSC/SEMCJT4DHNF_index_1.html
http://www.astronomie-heute.de/artikel/974782&_z=798889

それはベテルギウスが英語では 「Betelgeuse」 だが、ドイツ語では 「Beteigeuze」 だったこと。

語源の説明はウィキペディアに譲ろう。
英語で "l" なのに、ドイツ語で "i" になった理由は、英語版とドイツ語版に書いてある。
日本語・英語・ドイツ語の順にリンクを示しておく。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%86%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%82%A6%E3%82%B9#.E5.9B.BA.E6.9C.89.E5.90.8D
http://en.wikipedia.org/wiki/Betelgeuse
http://de.wikipedia.org/wiki/Beteigeuze

アラビア語表記からラテン文字に変換したとき、"l" になった部分があるが、
中世ドイツ語では、手書きの "i" には点がなく、それで "l" を "i" と勘違いしたのだという。


間違いが原因でも、一度固定化してしまうと、今では直せなくなってしまうのだろう。

漢字でも、古い文献の印刷不良により、一画増えてしまった例もあるから、勘違いは世界共通かも。

私は博士論文で、英語を書いているのにドイツ語のつづりになった単語がある。
複数言語を勉強しているときは、意識しないと、ごちゃまぜになる可能性もあるから気をつけよう。


ところで、先に示したドイツ語記事中に、ベテルギウスの説明で、「オリオン座の左肩」 とあった。
"Er befindet sich in der linken Schulter des Sternbilds Orion .." の部分である。

オリオン座の絵を見ると、ベテルギウスはオリオンの右肩に位置しているが、
空を見上げたときには、オリオン座の領域中で東寄り、つまり左上側に位置している。

オリオン座の絵を知らない人が誤解しないように、わざと左肩としたのだろうか。
「オリオンの左肩」 ではなく、「オリオン座の左肩」 だから、表現方法は正しいのだろう。

専門知識を持っている自然科学分野ではあるが、まだまだ英語とドイツ語の勉強は続くようだ。

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