2010年12月

まだ年末の勤務が残っている時期に翻訳を受注して忙しかったが、通勤時間を利用して新書を読んでいた。
今月読んだのは、地球温暖化などの気候変動の原因を太陽だとする新書である。

太陽物理学者の桜井邦朋博士が書いた、「眠りにつく太陽-地球は寒冷化する」 だ。
http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396112158

太陽物理学の第一人者による温暖化・非温暖化論争に決着をつける書
地球気候変動の真の要因を探る

「地球温暖化=CO2排出が原因」
本当にそれは正しいのだろうか?
現在、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」を中心として、地球温暖化が急激に進行していること、そして、その原因が人類が排出する炭酸ガス(CO2)であるということが、結論のようにいわれている。
しかし、本書で出す結論は、それとはまったく別の予測である。
最近の過去100年余りを通じて、太陽活動がどのように変動してきたか、またそれにともなって、地球の気候がいかに推移してきたかについて、一般の方々に正しく理解していただくことが大切なのだと考えた。その結果、できあがったのが本書なのである。


章立ては次の通り。

プロローグ 「眠りにつく太陽」とは?
第1章   歴史に見る地球の気候変動
第2章   太陽活動と地球気候との関わり
第3章   太陽の何が地球の気候に影響しているのか?
第4章   地球温暖化と太陽との関わり
第5章   「眠りについた太陽」の今後は
エピローグ 小氷河期がきたら私たちはどうなるか

2008年1月に、太陽活動の周期は第24サイクルに入ったと発表されたが、それは予測より1年ほど遅かった。
太陽黒点の磁極反転を根拠にして、第23サイクルは極小となり、第24サイクルが開始したと判断された。
しかしその後、予想に反して黒点数は増えず、2009年になってから、ゆっくりと増加し始めた。
過去の記録から、通常の周期であれば、今頃極大になっていてもよかったはずだが、活動はまだ低調のままだ。

国立天文台太陽観測所のHPで黒点相対数のグラフを確認してみると、第24サイクルの立ち上がりは鈍く、
そしてどこまで上がるのかも予想できず、太陽は眠ったと唱える科学者が出てきても不思議ではない。
http://solarwww.mtk.nao.ac.jp/jp/solarobs.html

桜井博士は1970年代にも、小氷河期が来るという論文を出したことがあるそうだが、予測ははずれてしまった。
その頃、氷河期になった場合の地球環境の予測について、あるテレビ番組で見た覚えがある。
ヨーロッパは氷に覆われるが、サハラ砂漠やアマゾンが穀倉地帯になるという想像図が出ていたように思う。

最近は寒冷化ではなく、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加で、地球は温暖化していると言われるようになった。
フロンやメタンなども含めた温室効果ガスの削減だけではなく、グリーンエネルギー革命が必要だとも言われている。

2000年以降は、確かに平均気温よりも高い状態が続いているが、気温上昇は頭打ちになっているとも指摘されている。
他にも様々な反証が試みられており、本当に地球が温暖化するのかどうか、懐疑的な科学者は存在している。

そして著者は、地球の気候に影響を与えているのは二酸化炭素ではなく、太陽の活動度(磁場や太陽風)であり、
太陽活動が弱くなると、宇宙空間から地球に到達する宇宙線が増加し、気候変動の原因となると主張している。
大気中に 0.04% しかなく、しかも水蒸気よりも少ない二酸化炭素が主因と言うのは、非科学的であると考えている。

本書に出てくる様々なグラフを見ていると、太陽活動と地球の気候変動との間に関連性があるように思えてくる。
ただ、科学というものは仮説の塊なので、「もし仮説が正しければ、こうなるかもしれない」 というだけだ。
実際に太陽活動が今後停滞するのかどうか、そして地球寒冷化につながるかどうかもわからない。
わからないからこそ、今回の太陽活動停滞時に、様々な観測データを蓄積して解析することには意味がある。

同様に、温室効果ガス増加による地球温暖化説も仮説なので、予測が当たるかどうかは不確実である。
不確実性という観点から言えば、もし火山の大噴火が頻発すれば、逆に寒冷化するかもしれないし。

それでも温室効果ガスの削減が必要だと言うのは、もし仮説が本当だったと判明したときには手遅れだから、
リスク回避のために今から対処しておこうという、科学というよりも、政治的判断と思われる。

それに温暖化が起きなかったとしても、クリーンエネルギーなどの新技術開発が進めば良いという意見もある。
新技術開発だけではなく、新しいライフスタイルへの転換で、新しいビジネスが生まれるという経済的期待もある。
「低炭素社会」 というキーワードを基にして、一儲けを企んでいる人たちが、世界中にいるはずだ。

ところで、もし桜井博士の言うように、太陽活動が気候変動の原因だとなった場合、
二酸化炭素を排出しない発電として原発増設を進めている関係者は、次はどんな言い訳を考えるのだろうか。

年明け納品の翻訳は、3分の1以上進んだので、今日の午後は長めの休憩をとっている。
本日届いた郵便物を確認してみると、WWFジャパンから、寄付金の礼状が来ていた。
インドネシア・スマトラ島の 「WWFサポーターの森」 に1万円を寄付したためで、協力証書も入っていた。
この協力証書は、WWFとしては当然のことながら、FSC認証を受けた森林由来の紙で作られている。
(協力証書の画像は、トラックバックした過去記事を参照。)

この 「WWFサポーターの森」 には、幻のスマトラウサギが生息するブキ・バリサン・セラタン国立公園も含まれる。
引用した朝日新聞の記事では、保護活動の一部だけ紹介されているので、WWFジャパンのサイトを参照してほしい。
http://www.wwf.or.jp/activities/2010/12/958127.html
http://www.wwf.or.jp/campaign/2010_win/

【…このスマトラウサギは、まだ一度も動画になったことのない、正真正銘の珍獣なのです。
また、世界の博物館にある、この動物の標本は、わずかに12体。それも、1880年から1916年までの間に捕まったものだけ。
写真での撮影が成功した例も、過去に数えるほどしか例がなく、しかも、そのほとんどは、野生生物の調査のため、森の中に設置されたカメラ・トラップ(赤外線センサーで動物の動きに反応して自動撮影する装置)によるものです。

その中で、人が実際にその存在を見て写真を撮影した、きわめて貴重な機会がありました。
場所は、スマトラ南東部の山岳地帯にある、ブキ・バリサン・セラタン国立公園。2008年9月のことです。
ここは、スマトラ島西部を南北に走る山脈の南端に位置し、山地の熱帯林が今も残されている地域で、アジアゾウやトラ、スマトラサイといった、絶滅が懸念される野生動物の、貴重な生息地でもあります。
しかし、違法な農園の開発により森が減少。国立公園という保護区であっても、パトロールや管理がなかなか十分に出来ず、生物多様性の劣化が久しく心配されてきました。
スマトラウサギもまた、この問題に脅かされている可能性があります。

今ある森を守りつつ、新たに再生する取り組みは、まだ人の目にほとんど触れていない、この珍しいウサギと、そのすみかを守る取り組みでもあるのです。
今、WWFではブキ・バリサン・セラタンで、同じく絶滅の危機に瀕しているスマトラサイとあわせたスマトラウサギの生息調査の実施を検討しています。…】

2011年がウサギ年だからというわけではないが、寄付金がもっと集まって、生物多様性が守られることを期待したい。

ersparen
他 (h)
2 ((jm. <sich3> et.4)) (無駄・労力などを)省く,(不快事などを)免れさせる

Erst vom 1. Januar 2011 an gilt die Vorschrift, dass Biosprit im Vergleich zu konventionellem
Kraftstoff der Umwelt3 mindestens 35 Prozent Treibhausgas4
ersparen muss.
従来の燃料と比較してバイオエタノールが、少なくとも35パーセントの温室効果ガスを環境中から取り除かなければならないという規定が、2011年1月1日から
やっと発効する。
("Biosprit: Benzin aus Unkraut", Süddeutsche Zeitung, 27.12.2010,
www.sueddeutsche.de/wissen/biosprit-benzin-aus-unkraut-1.1040456

年明け納品の翻訳作業中で忙しいが、休憩時間に見たAFP記事が気になったので、簡単にメモしておこう。

数年前、新規開店した有名書店に行ったところ、「化学」 の書籍の棚に、「科学」 という札がかかっていた。
理学部で博士を取得した私は 「自然科学者」 ではあるが、専門は 「有機化学」 なので、がっかりしたことがある。

どちらも発音は 「カガク」 なので、話すときは 「のぎへんのカガク」 や 「バケ学」 と言ってみたり、
「サイエンス」 や 「ケミストリー」 と言うこともある(「ケミストリー」 を 「毛虫取り」 と聞き間違える人もいるが)。

手書きのときは気付くのかもしれないが、最近はPCソフトでの漢字変換に頼るためか、
「科学」 と 「化学」 の区別ができていない文章もあり、今回引用したAFP記事もその一つだろう。

見出しの 「シャンパンを化学する」 からして間違いではないか。
そして本文の冒頭は次の通りだが、他にも間違いがあるので、以下のリンクのAFP英語記事と比較してほしい。
http://news.yahoo.com/s/afp/20101227/lf_afp/ussocietychemistrywinechampagnefrance_20101227172722

日本語:【2010年も残りわずか。内外で多くの人びとが、大みそかや新年を、シャンパンで祝うことだろう。こうした絶妙のタイミングで、フランスの研究チームが、美味しくシャンパンを味わう秘訣を化学的に解明し、米国化学会誌(American Chemical Society)の学術誌に掲載した。】

英語:【Days before New Year's Eve, French researchers have found scientific evidence for what many champagne tipplers have long known -- that the bubbles are the key to a good bubbly.
The scientists found that the tiny bubbles "are the essence of fine champagnes and sparkling wines" and play a central role in the transfer of taste, aroma and texture, according to an article published in the American Chemical Society Journal.】

英語では 「scientific evidence」 であり、「chemical evidence」 ではない。
以前から感じているが、和訳記事に疑問点があるときは、元の英語記事を探して読まなければならない。
翻訳の勉強にもなるので、こういった手間は気にしないが、今は自分の翻訳作業中なので時間がもったいない。
AFPに対しては、記載の訂正の他、元記事へのリンクを付記することを要望した。

青字で示した2つ目の間違いとは、American Chemical Society は 「米国化学会/アメリカ化学会」 であり、
「米国化学会誌」 ではない(米国化学会の会員誌は 「Chemical & Engineering News」)。
「米国化学会の学術誌に掲載した」 ならばわかるが、このような間違いは校正段階で修正してほしいものだ。

ちなみにこの論文が掲載された学術誌とは次の通りで、あるサイトで論文がダウンロードできた。
グラスの角度の違いを比較したり、グラスの外側へと広がる炭酸ガスの様子も図示されている。
J. Agric. Food Chem. 2010, 58, 8768–8775.

ついでだが、日本語記事中には 【気泡の蒸発を最小限にとどめられる】 とあるが、
英語では、【minimize the bubbles lost】 なので、「蒸発」 ではなく 「消失」 の方がまだよいだろう。

これから自分の翻訳作業に戻るが、誤訳しないように集中しようと、改めて思った。

追記(12月29日):
私が指摘したからなのか、29日午後に確認したところ、記事が修正されていた(見出しは「化学」のままだが)。

【…フランスの研究チームが、美味しくシャンパンを味わう秘訣を科学的に解明し、米国化学会(American Chemical Society)の学術誌に掲載した。
…シャンパンの栓を抜いたあとも、気泡の消失を最小限にとどめられるという。】

(最終チェック・修正日 2010年12月29日)

日本の一本釣りカツオ漁業は、巻き網漁などと異なり、資源管理に配慮した漁法として認められている。
そして、私が会員のWWFが推奨する海のエコラベルであるMSC認証を、高知県の土佐鰹水産株式会社が取得した。
www.tosakatu.jp/index.php (土佐鰹水産株式会社のHP)
www.wwf.or.jp/activities/2009/11/772404.html (WWFジャパンのプレスリリース)
www.tosakatu.jp/images/news-091104-2.pdf (認証した海洋管理協議会のプレスリリース)

このMSC認証であるが、予備審査からの期間も長く、審査が厳しいほかに、認証を得るための資金も高額である。
その代わり、このMSC認証がないと、エコライフを求める消費者には受け入れてもらえない。
値段が高くても、環境に配慮した食品を求める消費者は、ある一定数存在する。

海洋管理協議会(MSC)のサイトで、認証済み・審査中の漁業を見ると、日本が遅れていることが明白である。
www.msc.org/jp

なぜ日本ではMSC認証が増えないのかというと、日本の水産関係者の中には、環境保護団体WWFが嫌いな人がいるからだ。
反捕鯨団体でもあるWWFは政治的背景があると批判され、さらにトロール漁法などに反対したり、マグロ類の禁漁を提案したりと、日本漁業の敵と思われている。
そんなWWFが設立に関わったMSCが、日本の漁業を審査するなど、受け入れたくない人がいるのは確かである。

過去記事でとりあげたが、ここで再び掲載しておこう。
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/56271484.html
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水産庁の水産政策審議会企画部会・第3回加工流通消費小委員会の議事録には、次のような発言がある。
http://www.jfa.maff.go.jp/sinseisaku/keikaku_19/minute/180413.htm
【最後にエコラベリングのお話が出ましたが、MSCは世界自然保護基金がバックボーンにあって、
やや自然保護的な、政治的な部分も絡んでいて
、もし日本に導入するのであれば独自のものを
きちっと作っていかなければならない。それに当たっては、政府・水産庁の御指示のもとにきちんとした
日本版のエコラベリングを作った方がいいと思います。】
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そこで、水産庁の天下り団体でもある大日本水産会が中心となって、日本版の 「マリン・エコラベル・ジャパン(MELジャパン)」 を作り出した。
www.melj.jp/

新着プレスリリースを見ると、近海・遠洋カツオ一本釣りが、新たに認証されていた。
そして、既にMSC認証を受けている土佐鰹水産株式会社も、なぜか入っている。
www.melj.jp/upload/news/101214press2.pdf

土佐鰹水産のHPには、まだ何も出ていないので、MSCと両方取得した意味が不明である。
認証を維持するための資金も必要なのだが、国内販売用には単独行動を控えて、他社と足並みを揃えたのだろうか。
直接電話して聞いてもよいが、実際に販売されるようになれば、プレスリリースや報道が出ることだろう。
でも、ジャスコではMSC認証のカツオのたたきを買っていたので、MSC認証のままにしてほしいものだ。

私がMELジャパンに対して懐疑的なのは、WWFに対抗して設立したという、政治的事情を背景とする経緯だけではない。
認証済みの日本海かにかご漁業協会で、所属漁船が漁業法違反で処分を受け、認証の使用を無期限で自粛することになったからだ。
www.melj.jp/upload/news/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%99%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%AF%E3%82%A4%E8%AA%8D%E8%A8%BC%E4%BD%BF%E7%94%A8%E8%87%AA%E7%B2%9B%E4%BF%AE%E6%AD%A3.pdf

日本海かにかご漁業協会のHPでは、この自粛の件には何も触れていないが、水産庁境港漁業調整事務所では処分(書類送検)について公表している。
kanikago.web.officelive.com/aboutus.aspx
www.jfa.maff.go.jp/sakaiminato/press/kantoku/100528.html
www.jfa.maff.go.jp/sakaiminato/press/kantoku/100608.html

違法操業が発覚して書類送検された側から、MELジャパン認証の自粛を申し出たわけだが、なぜ認証をはく奪しないのだろうか。
認証を取り消すことを想定していなかったのかもしれないが、次のように書いているのに、その後は何も発表されていない。

【…本件については、引き続き状況を確認するとともに、今後の情勢につきまして、適宜当ホームページでお知らせいたします。】

この違法操業については、食品メーカーなども知ることとなり、ズワイガニの納品先を変える動きもあったようだ。
例えば私が株主であるロック・フィールドでは、境港で水揚げされたズワイガニを使ったカニクリームコロッケを販売しているが、コンプライアンスの観点から、違法操業をした会社からは一切納品していないと回答してくれた。

水産庁の天下り団体でもある大日本水産会が関わったMELジャパンで不祥事があり、水産庁の事務所が処分を下すという、笑い話となっているのだ。

こんなMELジャパンに、MSC認証を受けた土佐鰹水産が参加するのは、やめた方がよかったのではないかと思う。

(最終チェック・修正日 2010年12月30日)

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