2012年11月

Stern2 m. -〔e〕s / -e
2 (人間の運命を左右するものとしての)星,星まわり,運勢;幸運〔の星〕
unter einem glücklichen <günstigen / guten> Stern stehen ((雅)) (計画などが)幸運の星を背負っている

Die gesamte Hayabusa-Mission stand zunächst nämlich nicht unter einem guten Stern.
はやぶさのミッション全体が、はっきり言えば、初めから幸運の星の下にあったわけではなかった。
("HAYABUSA: Forscher untersuchen außerirdisches Material", astronews.com,
28. November 2012,
www.astronews.com/news/artikel/2012/11/1211-036.shtml

(最終チェック・修正日 2012年11月27日)

翻訳依頼がないときは、AFPやCNN、ロイター通信で、ニュース翻訳の勉強をすることもある。
勉強をしていると言うよりも、気になるニュースを拾い読みして、和訳に違和感を持ったときに、元の英語記事を探して比較しているだけだ。

先週は準惑星マケマケに関するAFPの記事で、直径の表現が不十分だと感じ、英語記事の該当部分を提示して質問した。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2912888/9878366 (11月26日修正後の記事)

修正前: 「…両極からやや押しつぶされたような球体で、直径は約1430キロ…」
修正後: 「…両極からやや押しつぶされたような球体で、極方向の直径は約1430キロ…」
英語記事:「… it is a sphere slightly flattened at the poles - its polar equatorial axis
about 1,430 kilometres …」

ちなみに、長くなっている方向の直径は、約1500キロ(1502 ± 45 km)である。
日本語記事として、アストロアーツの天文ニュースを参照してほしい(
誤差についてもきちんと書いてあるため)。
www.astroarts.co.jp/news/2012/11/22makemake/index-j.shtml

「polar equatorial axis」は、日本語に直訳すると、余計に意味がわかりにくくなるので、「極方向の直径」で十分だ。
時間的に納期が厳しいニュース翻訳では、適切な表現が見つからないときに、省略してしまうのかもしれない。

それでも、今回取り上げるCNN日本語ニュースは、もしケアレスミスだとしても、信頼性を低下させる誤訳である。
【米マイアミ州沖合で大型ヨット炎上、警備隊の通常臨検直前】
www.cnn.co.jp/usa/35024829.html

記事のタイトルおよび本文にある、「マイアミ州」とは「マイアミ市」のことだろうか。
それとも、私が知らないうちに、フロリダ州の中に、新しく「マイアミ州」ができたのだうろか。

対応するCNNの英語記事は次の通りで、「Miami Beach」は出てくるが、「Miami State」という語句は見当たらない。
【Fire engulfs yacht off Miami Beach; 3 rescued】
edition.cnn.com/2012/11/24/us/florida-yacht-fire/index.html

もしかすると、「市」を入力するために、「し」または「shi」をタイプしたところ、予測変換で「州」が出てしまったのかもしれない。
そうだとしても、翻訳者自身による推敲時点で気づいてほしいものだ。
また、納品後の社内チェッカー・ディレクターの最終確認の段階で、このような誰が見ても変な誤訳は、必ず修正してほしい。

CNNジャパンは過去に、私の指摘を何度も無視しているので、今回の対応によっては、誤訳探しの練習に使うサイトに格下げしよう。

追記(11月27日):
CNNジャパンから、記事の修正を行ったとの回答があった。
www.cnn.co.jp/usa/35024829.html
マイアミビーチ沖合で大型ヨット炎上、警備隊の通常臨検直前
フロリダ州にあるマイアミビーチから約1.6キロ離れた海上で…】

今回の誤訳は、存在しない州名を書いてしまい、あまりにもひどいため、すぐに訂正したのだろう。
ただし以前、コペルニクスのDNA鑑定に関する記事の誤訳を指摘したときは無視したので、目立つときだけ訂正するのだろうか。

それにしても、記事が掲載されてから私が指摘するまでに約1日あったのに、どうして誰も問い合わせをしなかったのだろう。
翻訳者を目指して勉強している人は多いし、チェッカーとしての仕事を得ようとするならば、こういった誤訳を指摘するだけの能力と行動力を示してほしいものだ。

(最終チェック・修正日 2012年12月02日)

今年9月、重い呼吸器障害の治療のためにカタールからイギリスに搬送された患者から、SARS類似の新種コロナウイルス(HCoV-EMC)が発見された。
その後も、サウジアラビアとカタールで発症者が見つかり、そのうち10月に発症したカタールの患者一人がドイツで治療を受けて回復した。

世界保健機構(WHO)は11月23日、この新種コロナウイルス感染について、最新の情報を発表した。
WHOに報告された症例は6件で、そのうち2名の患者が亡くなっている。
感染源や、人から人への感染可能性など、未だに不明な点が多い新種ウイルスのため、各国医療関係者に注意喚起がされている。
www.who.int/csr/don/2012_11_23/en/index.html

日本語報道として、朝日新聞を引用しておこう。
www.asahi.com/science/update/1124/TKY201211240203.html
【……AP通信によると、カタールの患者は10月に発症、搬送されたドイツで感染が確認されたが、回復した。

9月にカタールから英国に搬送された男性で感染が確認されて以降、この新種ウイルスによる感染者は計6人で、うち2人が死亡した。WHOでは「SARSのときと状況は違う」としながらも、「これまで関係した国以外にもウイルスは広まっているとみなした方が賢明だ」として、監視強化を呼び掛けている。】

9月に新種ウイルスが確認されてから、感染の有無を検査する手法としてリアルタイムPCR法の利用が推奨されている。
イギリスで最初に単離されたウイルスの遺伝子塩基配列がデータベースに登録されているから、比較することで迅速に感染の有無が判定できるはずだった。

しかし、カタールの患者を受け入れたドイツ・エッセン大学病院では、4週間もの間、新種コロナウイルス感染者とは知らずに治療をしていた
この件について報道している SPIEGEL Online を引用しておこう。
www.spiegel.de/gesundheit/diagnose/patient-mit-corona-virus-wurde-in-essener-klinik-behandelt-a-869057.html

また、新種コロナウイルスの確認を行ったローベルト・コッホ研究所(RKI)のプレスリリースは次の通り。
www.rki.de/DE/Content/Service/Presse/Pressemitteilungen/2012/18_2012.html

10月に急性肺炎となったカタールの患者は、10月24日にドイツ・エッセン大学病院の肺疾患センターに搬送された。
カタールから同行した医師は、この患者が新種コロナウイルスに感染している可能性について、ドイツ側に何も伝えなかった。

そのためエッセン大学病院では、WHOが推奨している迅速検査プロトコルを行わずに、通常の治療を4週間続けた。
患者は回復して今週退院できたものの、RKIからの情報で新型コロナウイルス感染者だと判明し、病院関係者は緊張した。
前述したように、今年9月に確認されたばかりの新種ウイルスで性質は未知であり、人と人の間で感染するのかどうかも不明だからだ。

ドイツ搬送前にカタールの医師は、患者の体液サンプルをロンドンの Health Protection Agency(HPA)に送り、分析を依頼していた。
結果は陽性であったにもかかわらず、この事実をエッセン大学病院の医師には全く伝えなかったため、重度の肺炎患者としての治療が始まった。
陽性の結果は22日木曜日になって初めて、RKIを通じてエッセン大学病院に伝えられた。

患者と接触した病院関係者について検査を行ったところ、現時点で感染の疑いはないとのことだ。
またRKIは、ドイツでの感染リスクは非常に低いとの見解を発表している。

ただ、たまたま見つかった症例が6件だけで、サウジアラビアやカタールなどの中東地域で既に感染が広がっている可能性も指摘されている。
海外旅行の前には、厚生労働省や外務省だけでなく、WHOの緊急発表も確認した方がよいだろう。


追記(12月02日):
新種コロナウイルスの検出は9月とされていたが、WHOの11月30日付けプレスリリースでは、実は4月にヨルダンで死者2名が出ていたとのことだ。
保存されていた血液サンプルを検査したところ、感染していたことが確認された。

シリアやイラクからの難民がヨルダンにも流入しているため、難民キャンプでの健康管理対策が必要になるかもしれない。

nähren
I 他 (h)
2 ((雅)) ((et.4)) (希望・感情・野心・計画などを)心に育てる,胸にはぐくむ

Frühere Beobachtungen von Makemake nährten bei manchen Astronomen den Verdacht4
dass auch Makemake - ähnlich wie Pluto - über eine Atmosphäre verfügen könnte.
マケマケの以前の観測から、たいていの天文学者は、冥王星に似たマケマケもまた大気を持っているかもしれないという疑念を抱いていた。
("ZWERGPLANETEN: Makemake wohl ohne Atmosphäre", astronews.com, 21. November 2012,
www.astronews.com/news/artikel/2012/11/1211-030.shtml

先月のドイツ語和訳がキャンセルとなってから、何も問い合わせがない。
そのためいつものように、ドキュメンタリー番組を観たり、英語・ドイツ語そして和訳ニュースサイトを毎日読んで勉強している。
主に利用している和訳ニュースサイトは、英語の元記事と比較が簡単にできるCNNやAFP、そしてロイター通信である。

他の翻訳者の粗さがしをしているわけではないが、今回もAFPの科学記事で、気になる個所を3つ見つけた。
その記事とは、11月16日付けの「はくちょう座のOB2星団に輝く若い星たち、NASA」である。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2912000/9826305

1つ目は、英語原文の最初の部分を大幅に簡略化したため、和訳記事の出だしに違和感があること。
2つ目は、「young star」の訳語に、「若い星」や「早期型星」ではなく、「早期星」を選択したこと。
3つ目は、「X-ray source」を「X線源」ではなく、「X線」とした訳抜けである。

AFP配信の英語記事は、NASAの発表をそのまま引用している。
和訳記事の一部と、対応する英語原文を以下に示しておこう。

【英語:The Milky Way and other galaxies in the universe harbor many young star clusters and 
associations that each contain hundreds to thousands of hot, massive, young stars known as 
O and B stars shown in this NASA image obtained on Nov 12. The star cluster Cygnus OB2 
contains more than 60 O-type stars and about a thousand B-type stars. … About 1,700 X-ray 
sources were detected, including about 1,450 thought to be stars in the cluster. … (AFP)】

【和訳:米航空宇宙局(NASA)は12日、天の川銀河(Milky Way)とはくちょう座(Cygnus)に存在する多数の早期星を捉えた合成画像を公開した。はくちょう座のOB2星団には、高温で質量の大きな早期星のO型星が60個以上、B型星が約1000個存在する。

はくちょう座のOB2星団では、これまでに約1700のX線が検知されており、そのうち約1450がOB2星団内に存在する星と推測されている。(c)AFP】

英語記事の最初にある(The Milky Way、天の川銀河)の後から、はくちょう座OB2星団の話につながる部分は、ほとんど省略されて、大幅に再編集されている。
英語原文を見なくても、銀河系である天の川銀河と、天の川領域にあるはくちょう座とを、同列扱いで併記している点に違和感がある。
それに加えて、NASAの映像ギャラリーを見ると、11月12日に公開した画像は、はくちょう座OB2星団の合成画像だけ。

スペクトル型分類でO型とB型の恒星は、「early type star、早期型星」と呼ばれているが、「早期星」ではない。
young star を専門用語風に和訳したのかもしれないが、見出しにある「若い星」のままでよかったと思う。

3つ目に指摘した「約1700のX線」という表現に、違和感を持つ人は多いだろう。
英語記事を見れば訳抜けだとわかるが、原文を知らなくても、「約1700個のX線源」の方が科学記事としてふさわしい。

AFP日本語記事で使われる学術用語について、星座名など、これまで指摘した個々の事例は再発防止ができている。
それでも今回のように、翻訳者だけでなく、チェッカーやディレクターのレベルが、科学記事を書く能力に達していないと疑ってしまう和訳が散見される。

私は本業があるので、速報性を重視するニュース翻訳はできないが、チェッカーならばなんとかできそうだ。
AFPだけではなく、CNNもロイター通信も、科学記事では違和感のある和訳記事を掲載することがあるので、自然科学系の翻訳者とチェッカーを複数確保すべきだと思う。

まあ、科学記事としての内容よりも、画像の美しさや、新発見について簡単に話題にする程度でよければ、何も予算をつけてまで無理をすることはない。
ただしそれではある意味、一般読者の科学リテラシーが低いことを前提に和訳していると、誤解されても仕方いないだろう。

改善するかどうかはわからないが、16日夜に質問メールを送信したので、今月中の回答を待つことにしよう。


追記:
メールでの回答はまだ来ないが、記事中の語句は私の指摘通りに修正されていた。
ただし、最初の文は修正されていないので少々不満だが、今後の和訳レベルの向上を期待しよう。

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