2020年04月

自称1000万円翻訳者の浅野正憲は、在宅翻訳を勧めるブログの過去記事に、自身の誤訳を堂々と掲載したままにしている。

誰が見ても誤訳というか、なんとなく翻訳をしているのだが、修正も削除もしないということは、本人は自分の訳文が正しいと思い込んでいるのだろう。
これまでの経歴や翻訳者を目指した経緯については断片的な情報しかないが、自分の能力を客観的に分析できていないようだ。

ただ、訳文をゼロから構築することができないことに気づき始めたのか、最近は機械翻訳(MT)の出力の手直し、つまりポストエディット(PE)も講座受講生に教えているという。

しかし、ポストエディターの資格に相当しないレベルの者が教えているので、使えない中途半端な人材を増殖させているだけだ。

3月18日に掲載された記事では、初めての案件でMTPEをすることになった受講生が、Trados の設定で困って助けを求めているメールを紹介している。

そのメールのスクリーンショットについて、下に再度掲載しておこう。
セキュリティに関しても、ポストエディターとしての教育をまともに受けていないことが明らかだ。


翻訳の学校PE2 

このような恥ずかしい事態を公表して、自身の翻訳講座の宣伝になっていると思っているのだろうか。

反省することもなく、以下の Twitter などで批判されているように、PEが翻訳よりも楽な作業だと嘘をついて、受講生をさらに獲得しようとしている

翻訳者とポストエディターの能力について、批判はあるが、ISO規格が定められている。
例えば、言語処理学会での次の発表を参考にしてほしい。

www.anlp.jp/proceedings/annual_meeting/2017/pdf_dir/D7-1.pdf

これに加えて、例えば、雑誌の通訳翻訳ジャーナルではこれまでに何度もMTに関する記事も掲載してきた。
本当に翻訳者を目指すなら、バックナンバーを入手して、多様な情報源を参考にしてほしい。

来月5月21日発売予定の2020年夏号の特集は、どうなる? どうする? 機械翻訳2020だ。
この特集のために、私の勤務先もアンケートに協力しているし、掲載されるかどうかは不明だが、ドイツ語について私も回答している。

実際にMTを使ってPEをしている翻訳会社・翻訳者がアンケートに回答しているので、この特集を読めば、浅野正憲の言っていることが嘘だとわかるだろう。

また、発売したばかりの新版 特許翻訳完全ガイドブックでもMTを取り上げている。
特許が苦手な浅野正憲の講座では紹介しないだろうが、PEが単なる編集作業ではないことを理解できるはずだ。

PEをするには、語学能力の習得だけではなく、MTの癖も学ばないといけない。
人間が犯さない変なミスばかりではなく、人間と同じ種類のミスも出力するから、うっかりすると気づかない。
MTのミスをすべて修正するには、ゼロから訳文を創り上げる能力が必要だ

そのため、翻訳対象分野の専門知識に加えて、翻訳者としての経験が最低でも2年、できれば5年は必要だ。
そして、人間翻訳(HT)のチェックをした経験も必須ではないかと思う。

これはMTの利用を促進したい側の責任でもあるが、MTによって翻訳作業が楽になるという誤解が広まってしまった。
普及のためには少々大げさな宣伝文句で注目を集めたかったのかもしれなが、PEができるようになるには、まずは従来の翻訳を学ぶ必要がある。

MTの使い方を熟知していれば、翻訳作業にうまく取り込めるだろうが、初心者はMT出力を信じてしまうリスクがあるので使ってはならない。

私もあるセミナーで質問を受けて、「翻訳の練習のためにMTを使ってはならない。MTのミスを指摘できるレベルまで勉強してから使うべき」と回答したことがある。

昨年11月のAAMTでも、ヨーロッパの事例紹介で、PEをやりたがる翻訳者は少ないという話が出た。
日本でもPEは不人気で、翻訳者の募集よりも困難である。

従来のHTに比べて、例えば、化学の特許ならば、長い化合物名や測定データのタイピングから解放される利点はあるものの、文脈と無関係の訳文を見て思考が止まったり、どこまで修正するかで迷ったり、意外とストレスが溜まる作業だ。

苦労する割には、翻訳料金の値下げをしようとするクライアントもいるそうなので、PEは人気がない。
しかも、能力が高い翻訳者でなければできない仕事なのに、優秀な人材ほどPEを望んでいない。

ということで、ポストエディターを確保できない翻訳会社が多いため、初心者をだまして人数を集めて売り込もうということなのか。
人数だけ集めても、まともな仕事ができずに多大な損害が出て、賠償することになるだろう。

文部科学省では、「英語が使える日本人の育成」と言っていたことがあったが、翻訳者の養成などの具体的なことは、業界に丸投げされている。
ヨーロッパのように大学で翻訳の学位を与えるようにしないと、人材育成が進まず、今後の翻訳需要に対応できないだろう。

近い将来、翻訳者もポストエディターも、日本語ネイティブでは人材が確保できなくなり、外国で日本語がわかる翻訳者を集めることになるかもしれない。

イカロス出版から新版・特許翻訳完全ガイドブックが発売された。
出版社の内容紹介のリンクは次の通り。
tsuhon.jp/book/8550

書店がほとんど休業しているので、紀伊國屋BookWebで注文し、大雨のなか、本日午前中に届いた。

他分野も同様だが、人数が多いと思われる英日/日英であっても、特許翻訳者は足りない。

日本政府は知財立国と言っているが、特許翻訳者の人数を把握していない(不明または数百名程度)。
英日・日英特許翻訳者の人数を6000人と推定した論文は次のリンクから。
www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/50/11/50_11_727/_pdf

ここ数年、製薬会社が数百人規模で希望退職を募ったとき、私のように特許翻訳者になる研究員もいるかと思ったが、期待したほど増えてはいない。

人材が足りない分野として、医薬・バイオ・化学が指摘されているので、研究者には転職先の1つとして考えてほしい。
専門知識は書籍で学習できるものの、実際の実験操作をした経験がないと理解しにくいこともあるからだ。

これから特許翻訳に取り組もうという翻訳者だけではなく、研究者としてのバックグラウンドを活かそうと思う人にとっても、必要な情報がまとまっているので、有用な書籍の1つである。

私が主に行っているドイツ語特許翻訳の記事がないのは残念だが、「Part 5 特許と機械翻訳には、私が少し関わった記事があるので紹介したい。

まだ実験段階のように思われているかもしれないが、私の勤務先では、NMT出力のポストエディット(PE)をしている。
使えることがわかってから参入するのではなく、フロンティアに飛び込む勇気が必要ではないかと思う。

ニューラル機械翻訳(NMT)を導入することで、人手不足の解消やコストダウンに寄与すると期待されている。
納期の大幅な短縮とまではいかないが、タイピングの手間が減った分、10%~20%の時間削減にはなっている。
わずかな効果で、期待したほどでいないという声もあるが、残業しなくて済むので、健康の維持には重要ではないだろうか。


PEをするには、人間翻訳者とは異なるNMTの癖に慣れる必要はあるが、これからの翻訳者の働き方の1つとして、環境の変化に柔軟に対応することも考えた方がよいだろう。

120ページからは、私も少し関わった、NIPTA特許機械翻訳研究会の記事だ。

基本的にはNMTを導入しようという前向きな方針ではあるが、開発側の宣伝文句ではなく、翻訳者が実際に使ってみて、どのような課題があるのかを指摘している。

122ページに書いてあるように、「『NMTさえ使えば翻訳作業が効率化されて、コストダウンができる
などということはありえません。」と、一部ユーザーの誤解についても指摘している。

NMTの誤訳パターンを見るとわかるように、人間と同じエラーもあれば、NMT特有のエラーもある。
そのため、NMTの出力を翻訳としてそのまま使うことはできず、人間翻訳者によるPEが必ず必要となる。

人間翻訳者ならば犯さないエラーが頻出するので、PE作業中に思考が停止することもあり、意外と疲れるストレスが溜まる作業でもある。

だから、「NMTの精度が上がったならPEなんか楽でしょう」などと言って、翻訳料金を下げようとするのは間違っている。
まあ、人手翻訳(HT)のチェックでも、チェッカーの受け取る料金は、翻訳者の料金の10%~20%程度なので、PEも同じレベルに下げたいのかもしれないが。

また、特に日英翻訳では、原文の日本語をプリエディットして、英語に翻訳しやすくする処理が効果的な場合もある。
123ページの表2の具体例で下に示した、化合物名のプリエディットの例は、私が情報提供したものだ。

特許公報から長い化合物名を含む例文を探してきて、英日と日英でいろいろと試してみた。
そのうち、プリエディットの効果が一番わかりやすい例として、長い化合物名を一度「化合物A」で置換してから英訳する工夫が選ばれた。

これからどこまで発展するのかわからないが、環境が変わっても柔軟に対応して、70歳になっても翻訳者を続けられるようにしたいものだ。

4月1日、前例にとらわれない大胆で強力な施策として、「各世帯に布マスク2枚配布」が、高らかに宣言された。
私は手ぬぐいで作った簡易的なマスクで構わないし、サイズが不明の布マスクをもらっても困ることだろう。

国が各世帯に配布する布マスクは、すでに福祉施設などに優先配布しているものに類似していると思われる。

ということで、本日4月4日時点で患者数がゼロのままの岩手県の新聞、岩手日報で、布マスク優先配布の記事を探してみた。
すると、下に引用したように、大人用なのにサイズが合わずに困惑している例が紹介されている。

【釜石市内の障害者福祉施設には2日、厚生労働省からベトナム製の布マスク30枚が届いた。利用者に1枚ずつ配布したが、ひもが短く男性には着けられない人も。説明書には大人用と記されているが伸縮性に乏しく、「何とか着けても長時間は無理」と、諦めの声も聞かれた。】
www.iwate-np.co.jp/article/2020/4/4/75748

実用性など無視して、実物を確認せずに、とにかく数だけ集めて配布しようということだったのだろうか。
ひもを付け替えるなど、現場で工夫することを求めているのか。

ないよりましなのかもしれないが、現場が困惑して、がっかりするようなことを、なぜ平気でやってしまうのか。

福島第一原発の事故の時、現場にトランシーバーが大量に届いたが、周波数が全部同じで混信してしまい、使えなかったことを思い出した。

各世帯に届く布マスクも、一体どのような仕様なのか不明だ。

記事中にも、【厚生労働省は「現状ではどのタイプになるか分からない」と、正直に告白している。

使えるサイズかどうかは運しだいだなんて。

街角インタビューでは、布マスクの配布決定を喜んでいる人もいたが、あまり期待しすぎると、届いた現物を見たときの失望は大きくなるだろう。

各世帯に配布することは中止して、その数百億円を、福祉施設にまともなマスクを追加で配ること、医療機関向けに高性能マスクを確保することに使ってほしい。

ドイツ語メディアで新型コロナウイルスCOVID-19の記事を読むときには、当然ながら医学専門用語が出てくる。

これまで病名などは、翻訳の仕事も含めて、オンラインの独英辞書でまず調べて、次いで英和の日本医学会用語辞典で日本語表記を確認している。

基本的な筋肉や骨、臓器の名称などは、「医学・歯学・薬学・看護学生のための 独・英・和 総合ドイツ語」(大羽武、同学社)を参照することもある。

また、南山堂の「日英独医語小辞典」は購入していないが、電子版にするか、改訂されたら検討したい。
www.nanzando.com/books/01315.php
www.logovista.co.jp/LVERP/shop/ItemDetail

今回は簡単に、2種類の感染経路の名称についてメモしておきたい。

Tröpfcheninfektion 飛沫感染
(英 droplet infection)

Schmierinfektion 塗沫感染
(英 smear infection)
参考として、小学館独和大辞典第2版では、「不潔な手指による感染」。

以下の図の説明がわかりやすい(ZEIT, 03. Apr. 2020)
www.zeit.de/wissen/gesundheit/2020-04/coronavirus-zahlen-todeszahlen-infizierte-deutschland-italien-usa/komplettansicht
飛沫・塗沫感染

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