2006年08月

実家の母は、別に寂しい思いをしているわけではない。

町内会の仕事もあるし、ヘルパーとして車椅子の老人の代わりに買い物したり、
片親家庭の保育園のお迎えなどを、ほぼ毎日やっている。

楽しい仕事のようだが、ストレスはあるわけで、たまに点滴が必要になるほど疲れるようだ。

癒しが必要であれば、ペット(最近はコンパニオン・アニマルと呼ぶ)も選択肢の一つだ。

市内の私立医大で実験用にネコを集めているとのことで、最近は、野良猫がいなくなった。
そのため、お金がかかるが健康な子猫を購入して、母のストレス解消にしようかとも考えている。

猫がいた方が、帰省したときに、一人で家にいても楽しいだろうし。



以下は猫の思い出の一部。

父は、開業していない獣医(ウシ専門)で、農協関係の仕事をしていた。

母と私たち子どもは、居ついた野良猫をかわいいと言っていたが、
父は、「野良猫は病気があるから家に入れてはだめだ」 と文句を言っていた。

母が1年以上もメスだと思っていた猫がいたが、父はちらっと見て 「オスじゃ」 と判定した。
オスだと言われてから、生殖器をよく見ると、確かにオスだ。
母が乳首だと思っていたものは、父の判断では 「ダニ」 だそうだ。
痩せていたのはそのダニのせいなのか。


その後何匹が出入りがあり、やがて母は、知り合いのところで生まれた子猫をもらってきた。

夏休みで帰省すると、その子猫で家中が、てんやわんやの大騒ぎだ。
トイレのしつけが済んでいないので、あちこちにしてしまうので、
床を拭くついでに連れてきて、「ここでしちゃだめでしょ。」 と毎日説教をした。

動くものに反応するので、辞書をめくっても、消しゴムを使っても飛びかかってくる。
こちらは遊ぶ気はないのに、朝は4時に起こしに来て迷惑だ。

仕返しにおどかそうと、レッサーパンダのぬいぐるみを目の前に出したところ、
「フーッ」 と威嚇の声を出して飛びかかり、首に噛み付いた。

生き物ではないことがわかってからは、普通にじゃれるようになった。

試行錯誤の末、「はたき」 を使って遊んであげることにした。
すると、別の部屋でパタパタという音がしても、飛んでくるようになった。

翌年の夏休みには、ぶくぶくと太っていた。
母がキャットフードの箱を床に置いているから、首をつっこんで食べている。

その後、体調不良ということで、父の同期がいる、近くの大学農学部の 「家畜病院」 に行った。
どうして研究をする 「家畜病院」 に猫を連れて行くのだろう。
大学内の研究施設でもあるので、OBならば、治療費を少しまけてくれるそうだが。
獣医科では小動物に関する知識も必要だから、学生のためにはなるのだろうか。

教官の指示のもと、学生? スタッフが、診察台の上で猫の足を押さえつけ、
教官が猫の首の柔らかい部分に、注射をズブりと刺す。

注射針が曲がるほど激しく抵抗する猫。
そして、猫の力に負けるふがいないスタッフに怒鳴る教官。

注射のおかげで寄生虫はいなくなったが、再診のとき、病院近くになると暴れ始めた。

2回も注射されて嫌になったのか、その後しばらくして家出してしまった。

健康体にしてくれた恩など理解するはずもなく、注射で虐待する恐ろしい家だと感じたのだろう。


次に飼う猫はどんな運命をたどるだろうか。


追記:
転職のことで母に電話したついでに、猫のことも聞いてみた。
最近の消臭グッズのことを知らないので、「猫はかわいいけど家が臭くなるから」 と言っていた。
それに昔、コンセントにおしっこをされて、ショートした経験があるから、嫌なのかも。

(最終チェック・修正日 2006年09月03日)

トラックバックで示した先日の記事で、ドイツ人が憧れる苗字には von が付いていることを書いた。

今回はこの前置詞 von についての勘違い、あるいは知った振りの例を挙げたい。

私が大学・大学院で所属した研究室の助手の話だ。


彼は東大教養では、第二外国語にフランス語を選択したと言っていた。

ドイツ語についは、「辞書で単語の意味を調べるだけでわかる」 と豪語していた。

しかし、ある学生に、「このドイツ語論文は重要だから、全訳してセミナーで発表しろ。」 と命令していた。
新着文献を紹介するセミナーなのに、その論文は3年も前のものだから、学生は無視した。

その後も無視されたためか、彼は本当に、単語の意味をすべて辞書で調べて、行間に隙間なく書いていた。

ちらっと見たところ、"Zugabe" という単語を 「おまけ」 としていたので、
彼が指導している学生に、「論文だから 『添加』 とした方がいいよね。」 と教えてあげた。

ドイツ語知識があれば、動詞 "zugeben" の意味から推測することもできるはずたが。

その学生がこのことを彼に伝えてしまい、「『おまけ』 でも意味はわかるんだ。」 と激怒したという。
東大卒のプライドが、私の指摘で汚されたとでも感じたのだろうか。


ここから、本題の von の話。

彼は自分の研究分野について、主要な研究者別の論文ファイルを作っていた。
一応親切なのか、学生が閲覧できるように、そのファイルはセミナー室に置いてあった。

私も引用文献の調査もあるので、そのファイルを覗いてみた。
すると、著者名のところに蛍光マーカーで印をつけていた。

タイトルがあって、その次に著者名が、例えば "Von G. Becker" のように書いてある。
ここで前置詞 von は、「○○による」 と、論文を書いた行為者を示すものだ。

印は "G. Becker" だけではなく、"Von" にまでついていたので、念のため彼に聞いてみた。
すると、「von はドイツ人の名前の一部のはずだ。」 と答えた。


"G. von Becker" と書いてあれば苗字の一部だが、von が一番前にあったら疑うものではないか?

辞書で調べればわかると豪語していたのに、この von は調べなかったわけだ。
思い込み・知った振りで間違いを犯したのだ。

名詞などの意味を単独で調べるならば、辞書を頼りにしてもいいだろうが、
文章として意味を知るためには、文法を無視してはならない。

第二外国語にフランス語を選択していながら、文法を無視してもいいとは、一体どんな教育を受けたのか。


彼はその後、文部省の予算でドイツ留学を申請するわけだが、
「大学教養課程でドイツ語履修済み」 と嘘を書いていた。

この程度のドイツ語知識では、履修済みとは認められず、確実に落第ですよ。

今回はノーベル化学賞受賞者である Hans Meerwein の論文
Chem. Ber., 1957, 90, 841 の実験の部より、
以前の文法項目で取り上げた冠飾句と、ついでに出てきた関係代名詞の例を記載する。

赤で冠飾句の部分を、青で関係代名詞とその先行詞、および関係文の動詞を示した。
もう一つ、助動詞 lassen については茶色で示した。

4-Brom-benzolsulfochlorid:
Eine aus 43 g (0.25 Mol) 4-Brom-anilin, 85 ccm 36-proz. Salzs??ure und 19 g (0.275 Mol)
Natriumnitrit in 30 ccm Wasser bereitete
L??sung von 4-Brom-benzol-diazoniumchlorid, die
9.5% freie Salzs??ure enth??lt, l????t man in 200 ccm einer 30-proz. L??sung von Schwefeldioxyd in Eisessig,
die mit einer konz. w????rigen L??sung von 10 g Kupfer(II)-chlorid-dihydrat versetzt ist, einflie??en.

(訳例)
4-ブロモベンゼンスルホクロリド:
4-ブロモアニリン 43 g (0.25 mol)、36% 塩酸 85 cm3、および水 30 cm3 中の亜硝酸ナトリウム 19 g
(0.275 mol) から調製した 4-ブロモベンゼンジアゾニウムクロリドの溶液を、これは 9.5% の遊離塩酸を含むが、
塩化銅 ()ニ水和物 10 g の濃水溶液と混合してある二酸化硫黄の 30% 氷酢酸溶液 200 cm3 に注ぎ込む。


赤で示した冠飾句は、"eine L??sung" の不定冠詞と名詞の間に入って修飾している。
複数の単語から構成される形容詞と思えばいい。
冠詞のすぐ後ろに名詞がなくても、あわてずに冠飾句部分を括弧でくくればわかりやすくなる。

冠飾句は、関係節を使って "Eine L??sung, die aus ... bereitet wird (または ist)." と書き換えることもできる。

ここでは "eine L??sung" を修飾する関係節が別にあるので、冠飾句を用いることで、
2種類の別々の情報を同時に 「溶液」 の説明に盛り込むことができる。

動詞 "bereiten" が過去分詞 "bereitet" になっているので受動的意味で、
語尾は形容詞変化と同じで、ここでは混合変化だから、女性単数4格名詞を修飾する "bereitete" になる。


関係文は副文なのでコンマで区切り、定動詞は最後に配置されるから、
関係代名詞と動詞で挟んだ、いわゆる 「枠構造」 を見つければわかりやすい。

どちらの例も、先行詞 "L??sung" は女性単数、そして関係文内で主語となるから1格の "die" を使う。

ちなみに一番最初の先行詞 "Eine L??sung" は4格、次の先行詞 "einer L??sung" は3格。
そして、この文の形式上の主語は "man"。

2番目の関係文は "sein" を使った状態受動で、"versetzt ist" は 「○○されてある」。
ジアゾニウム塩溶液を調製する前に、氷酢酸溶液をあらかじめ準備してあることが想像される。


助動詞としての lassen は zu なし不定詞と結んで、ここでは使役というよりも、
容認・放置の 「○○させておく」 という意味でいいだろう。

この文では主語の "man" を訳出しないし、「氷酢酸溶液に流れ込むようにさせておく」 も変なので、
「氷酢酸溶液に注ぎ込む」 とした。

この文の定動詞 "einflie??en" は自動詞なので、先に4格とした "Eine ... L??sung" は、
"lassen" の目的語とされ、意味上の主語でもある。

「注ぐ」 の他動詞は "gie??en" や "sch??tten"、「流し込む」 なら "eingie??en" を普通使う。
例えば、"Man gie??t ..." や、"○ wird ... gegossen" とする。
この論文の別の化合物の合成法では、"gie??en" を使っていた。

自動詞のときは "einflie??en lassen" として、主語に man を用いて、同様の意味にするのだ。

(最終チェック・修正日 2006年08月29日)

東北地方の河北新報に、「自治体に引き取り要請 東北農政局が職員移籍先探し」 という記事があった。

「国が定めた国家公務員の純減計画を進めるため、東北農政局が、
管内の県や市町村に対して、職員引き受けを要請している」
 とのことだ。

「30―40代職員を中心に毎年100人近くが配置転換の対象となる見通し」 とのことで、
民間企業で言えば、バブル期入社組を中心とした余剰人員の削減を、国はやっと始めるわけだ。

人件費の都合で削減なので、能力が足りないわけではないと、総務部は強調している。
「情報技術などに詳しい即戦力職員が多い。東北は移籍先が少ないので協力してほしい」 だと。

農水省が所轄する独立行政法人や公益法人に、全員分のポストを用意できないわけだが、
地方自治体も予算削減で余裕がないのに、国のリストラ要員を押し付けられて、迷惑な話だ。

農水省だけで今後5年間に7012人の定員削減をするという。
新規採用を抑制して、定年退職者分が減少しても、職員数は超過するそうだ。
それで3000人近くを、配置転換する必要があるのだ。

そんなに能力の高い人材であれば、どこでも活躍できるのではないだろうか。
それに地方自治体では活躍の場が狭すぎて、希望する職種には合わないのではないか。

総務としては、本人の希望を調査して、実際の求人とマッチングをするのが仕事だろう。
総務がお願いをするくらいだから、希望する配置転換先は、同じ公務員でないと嫌なのだろうか。
本人だけでなく家族も、これまでのぬるま湯生活から抜け出せないのかもしれない。

それに民間を活用すると政府・自民党・小泉は言っているのだから、
転職コンサルタント会社に登録して、半年から1年かけて、じっくり準備すればいいと思う。

民間での給与は、手当三昧の公務員レベルとはいかなくても、まともな雇用条件が提示されるはずだ。

そういった準備をしても、これまでの公務員生活で染み付いた体質が抜けないのかもしれない。
だから成果主義を取り入れた民間企業では、今までと違う環境なので、何もできないのかもしれない。

すると総務が言うような、能力の高い人材という触れ込みは、嘘ではないか。

大学でもう面倒をみられない30代後半の研究員を、教授が知り合いの企業に押し込むことがあるが、
同じことを公務員の再就職でもやられると、使えない人材を引き取った側は本当に迷惑なのだ。

農水省の仲間の厚生労働省が中心となり、再チャレンジ社会の実現を目指すというではないか。

ならばハローワークで登録したり、さまざまな研修施設を活用して公務員意識を捨て去り、
民間でバリバリ働ける人材に改造してから、企業に斡旋してほしいものだ。

失業対策や職業訓練に有効だと言っているハコモノもあるのだから、その有効性を証明して見せてほしい。

留学中に住んでいた大学のゲストハウス (G??stehaus) では、
真冬を除いて、ほぼ毎月、インターナショナル・パーティーをしていた。

毎月誰かが新しく留学してくるし、専門が違う人と話もできるので、私は毎回参加した。

でも日本人研究者は家族がいると、なかなか複数回参加する人が少ないので、
ホストからは、他の日本人を連れてくるように頼まれてしまって、少々困った。

ヨーロッパ人同士でも国が違えば、いろいろと冷やかすお決まりのネタもあるので、面白いとも感じた。

ロシアの研究環境のことや、旅行に行った話など、いろいろと楽しめた。

日本に短期滞在をしたアメリカ人からは、招待した財団に対する報告書で、
日本の大学や学生に失望し、無意味な滞在だったと文句を書いてやった、という話も聞けた。

大学関係者であれば外国人にこだわらず、ドイツ人もパーティーに参加している。
ヨーロッパだからなのか、夫がドイツ人で、妻がオーストリア人などということも珍しくない。

研究室の同僚にも、父がドイツ人、母がポーランド人という人がいた。


ドイツとオーストリアというのは、使用言語がドイツ語ということで、文化的には似ていると言われる。
留学中の長野オリンピックでは、ドイツ人選手と同様に、オーストリア人スキー選手も紹介していた。

オーストリアのドイツ語は、バイエルン州と一緒に南部方言と呼ばれることもある。
スイスと一緒にすることもあり、標準ドイツ語とは発音が違うので、よくからかうネタとなっている。

歴史的な背景をここで詳しく説明できないが、一番近い事件としては、
ナチス・ドイツによるオーストリア合邦(併合)が挙げられる。

ヒトラーはオーストリア人だったし、自ら進んでナチス党員になったオーストリア人も多く、
戦後はその暗い歴史を背負うことになる。

国連事務総長、そしてオーストリア大統領も勤めたヴァルトハイムは、ナチスの将校だったと判明した。
虐殺には関与していないという「グレー」扱いだったが、彼一人を責めることができない事情もある。

そんな歴史があるので、オーストリア人はドイツ人のことをどう思っているのだろうか?

先に紹介した、パーティーで出会ったオーストリア人の夫人から聞くことができた。
私がいたテーブルにはその夫婦と、もう一組、韓国人夫婦がいて、談笑していた。

ドイツ人の夫が、他のテーブルにワインをサービスしに席を離れたときであった。

同じアジアでも日本と韓国では、外見以上に違いがあるという話の流れで、
韓国人研究者の男性が、「ドイツ人とオーストリア人は似ていますか?」 という趣旨の質問をした。

すると、オーストリア人夫人は、「本当はドイツ人は、あまり好きとは言えない。」 と答えた。
「大抵ドイツ人はオーストリアのことを、ドイツの弟のように扱う態度を見せるから。」 だそうだ。

ドイツ人と結婚しているのだから、これは一般的な印象を語ったものであろうと思われる。
たった一人に聞いた話なので、これから何かの調査を探してみたい。

ドイツ人から見れば、「ドイツ的なもの」 の中心はドイツにあり、
オーストリアはドイツ中央部から離れた田舎だと考えているのだろう。

ドイツ国内でも、バイエルン州は祝日も違うので、ドイツ的ではないと言われるくらいだし、
それに旧東ドイツの州も、未だに経済的格差を残したままだから、
実際に国が違うオーストリアを、対等に扱おうという意識はないのかもしれない。


日本に置き換えると、東京と京都の関係だろうか?
すき焼きの作り方で対立し、もめるくらいだから、これからも文化的に融和することはないだろう。

ドイツとオーストリアはどうだろうか。
今後も関心を持って、観察していきたい。

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