2007年10月

40ページほどの英語特許の和訳をしているが、おとといの推敲中に、2ページ分の訳抜けを見つけた。
派遣社員の指導で疲れているが、昨日と今日で、その訳抜けの部分を和訳した。

いつもと違う順番で作業をすると、こういった訳抜けに気づかないようだ。

特許の和訳を依頼されると、最初にタイトルと要約を翻訳して、特許の分野と内容を確認する。

次に、たいていの場合は、特許請求項の和訳を行うようにしている。
長い明細書を読むよりは、請求項で特許の目的や特徴を把握するようにしている。

そして明細書のイントロ部分を訳し、途中を飛ばして、実施例を訳すようにしている。
その後、残りの部分を順次訳している。

ただし今回は、同じ表現があるような個所、参照文献の個所など、訳しやすいところをつまみ食いした。

そのため、訳していない部分が飛び石のように存在していたし、
意味不明の語句の調査で手間取り、そして2ページ分を忘れたというわけだ。


和訳時の疑問点やコメントする個所は、付箋を貼っているし、
訳した部分は、意味の区切りごとに鉛筆で、自分なりの印を付けて区別している。

今後はもっとはっきりした表示をして、作業を後回しにする部分を明示するようにしたいものだ。


ところで、今回の訳抜け部分にも、単語の誤記が見つかった。

"experfimentation" というのは、文意からして "experimentation" が正しい。


納期に余裕がある案件だから助かったが、余裕があるから単価が安いのかもしれない。
それでも5万円はもらえるから、週末にきちんと推敲して納品しよう。

調査捕鯨と呼ばれる鯨類捕獲調査は、約5億円の補助金を使い、日本鯨類研究所と共同船舶が実施している。

この鯨類捕獲調査は随意契約であり、平成17年度から21年度まで、5年間の継続がほぼ約束されている。

その後も随意契約になる可能性は高いためか、共同船舶は新しい捕鯨船「第三勇新丸」を発注した。

進水式については次のとおり。
http://0845.boo.jp/times/2007/07/07001533.php

海洋資源の調査船としているが、その形状からして捕鯨船だ。

そして竣工については次のとおり。
http://www.whaling.jp/news/071011m.html

[共同船舶の調査船「第三勇新丸」が10日完工し、入魂式、引渡式が同日、広島県尾道市瀬戸田町の
内海造船で執り行われた。共同船舶の鶴本多次郎常務、農水省資源管理部遠洋課の成子隆英課長
日本鯨類研究所の森本稔理事長、日本捕鯨協会の髙山武弘会長代理、第三勇新丸の三浦敏行船長らが
出席した。

初めに入魂式があり、修祓(しゅうばつ)、祝詞(のりと)奏上などに続き、鶴本常務らが玉ぐしを供えた。
引渡式では、内海造船の嶋末幸雄社長から鶴本常務に引渡書と受領書の授受、社旗の交換などが行われた。
乾杯、見学の後、多くの関係者に見守られながら出航した。

第三勇新丸は全長69.61メートル、幅10.8メートル、深さ5.3メートル、総トン数742トン、
最大搭載人員25人、最高速力18.668ノット、航海速力17ノット。
南氷洋、北氷洋の荒れた海域も操舵(そうだ)できる優れた耐航性、凌波(りょうは)性を備えた船形を採用。
漁業調査を行うため計3ケ所の見張り所を設け、操舵室頂部に調査用の設備を装備。調査研究のため
2室の研究室を設け、各種の測定装置を装備している。]


民間企業が発注した船なのに、農林水産省の課長が出席している。
ただし本年度の幹部名簿では、肩書きは 「水産庁資源管理部遠洋課長」 と、報道と異なっているが。
http://www.jfa.maff.go.jp/jfasosiki/190516.htm

2006年度の漁船建造許可一覧によれば、第三勇新丸は 「官公庁船」 となっている。
http://www.ship-densou.or.jp/tokei/gyosen/2006-kenzo.html

この資料では、船名は未定となっているが、その他のデータから第三勇新丸であることは明白だ。

随意契約の鯨類捕獲調査や、委託の鯨類資源調査は、国が直接調査をしているわけではない。
日本鯨類研究所は農林水産省所管ではあるが、一応民間扱いのはずだ。
まあ天下り団体だし、国も商業捕鯨再開を目標として一体化しているから、「官公庁船」 になったのか。

この件については、農林水産省に問い合わせ中である。


この成子隆英課長は、4月の三陸沖鯨類捕獲調査の出港式には出ず、課長補佐が代理出席した。
http://www.e-kujira.or.jp/topic/res/07/0416/index.html

捕鯨ばかりではなく、カツオやマグロなど、他にも様々な資源管理があるから忙しかったのか。
釧路沖鯨類捕獲調査の出港式には、台風にも関わらず出席しているから、単にスケジュールの問題か。
http://www.e-kujira.or.jp/topic/res/07/0910/

それでも捕鯨船の竣工式よりも、実際の捕鯨の出港式を優先すべきだと思うが。

ところで来賓ということは、旅費などは主催者持ちなのだろうか。


追記(11月18日):
南極海鯨類捕獲調査の船団が出航した。
水産庁のニュースリリースは次のとおり。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/enyou/071117.html

ここで第三勇新丸は「標本採取船」となっており、単なる「海洋資源調査船」ではない。

(最終チェック・修正日 2007年11月18日)

作業中の英語特許和訳で出てきた、意味不明の単語について書いてきたが、
今日は、フランス語の単語が混ざっていたことが判明した。

その単語は "convergerent" と書かれており、文意から "convergent" に訂正して和訳した。

この時点では、単なるタイプミスだと思っていたが、他言語にありそうなつづりだった。

少し気になったので "convergerent" で検索すると、この特許以外には、フランス語ばかりヒットする。

そこで、オンライン辞書で仏英辞典を探して調べてみた。

すると、"convergèrent" = "converged" と記されている。

動詞 "converger" から派生した単語のようだが、フランス語文法は後で確認してみよう。


この特許を書いた人はわからないが、フランス語を知っている人だから間違えたのかもしれない。
単なるタイプミスで、フランス語の単語に偶然一致する可能性は低いと思われる。

英語とフランス語では、似た単語もあるから、うっかりタイプミスをすることはありうる。


私も博士論文を英語で書いている途中に、ドイツ語の単語が混ざったことがある。
ポスドクのときにドイツ語で発表したOHPシートにも、英語が混ざったことがある。

今でも英語をタイプしていても、例えば "sh" を "sch" と、ドイツ語風にタイプミスすることが多い。


まあ、今回のタイプミスも、特許の内容には影響はしないのだろうが、
出願を早く行うことも大事だが、きちんと推敲をしてほしいものだ。

現在翻訳作業をしている英語特許は、世界的な大規模製薬メーカーが出願したものだ。

有名企業が出願したといっても、特許文書には誤記が含まれることが常識だ。

今回も試薬名や構造式の間違いに始まり、反応温度が「-40℃」のはずなのに「40℃」だったり。

私は有機化学が専門だから、こういった間違いについては、自信を持って指摘できる。
まあ、経験のある専門家であれば、再現実験のときに誰でも気づくだろうが。

化学は専門でも、英語については比較的自信がなく、常に調べながら慎重に翻訳している。

製薬メーカーで働いていても、医学専門用語にはなじみがなく、調査には時間がかかってしまう。


過去記事では、"ats" という、意味不明の単語(文字列)について書いたが、
もう一つ、"delitirous" という単語について、同様に誤記であると推定した。

"The delitirous effects of androgen deprivation .." という文があったが、
特許の背景の説明ということから推測して、「アンドロゲン除去療法の阻害作用..」としてみた。

これは、「アンドロゲン除去」 と 「作用」 をキーワードにして検索し、類似表現を拾ったものだ。


次に "delitirous" で検索してみると、たった29件しかヒットしなかった。
それも個人のブログなどで、この特許の他には、論文などの学術資料は皆無だった。

どこのオンライン辞書でも載っていないので、これは別の単語のスペルミスだと推測した。

するとこの文意に沿った単語とは、"deleterious" であろう。
この単語で検索すると、800万件以上がヒットした。

そして訳文は、「アンドロゲン除去療法の有害作用」 とした。


このような誤記の場合、辞書には当然載っていないのだが、スペルミス辞典はないものだろうか。
スペルチェックのオートコレクト機能があるのだから、簡単にできそうなものだが。


雑誌 「言語」 7月号では、「インターネットと言語研究」 という特集があった。

その中で、「英語研究とネット活用」 という記事が参考になる。
インターネット上の情報をコーパスとして扱う可能性について、実例を挙げて解説している。

その記事では誤用の例として、不可算名詞 "furniture" の単数形・複数形の検索結果を示している。
いくつかの単語について、考えられるスペルミスを入力して探すこともできるだろう。


今回も、"delitirous" は29件しかヒットしなかったから、
つづりを間違えて覚えいてた人が書いた文だと判断できた。


こんなことで時間を取られて、時間当たりの単価が下がってしまうが、
本業では得られない経験ができるから、翻訳を続けているのかもしれない。

文部科学省は毎年、企業研究職に採用された大卒・大学院卒社員の調査もしている。
「民間企業の研究活動に関する調査」 という調査の一部だ。

各年度の統計資料は次のように公開されている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index37.htm

調査の目的は、文部科学省のHPによれば、次のとおり。

[我が国の研究費の7割程度を負担、また使用する民間企業の研究活動について状況を把握し、
今後の科学技術政策の立案、推進に資することを目的としている。
(本調査は統計報告調整法に基づく承認統計で、昭和43年より実施している。)]

有効回答が50%前後と低いのは、民間企業にとっては、文部科学省の言うことを聞く必要がないから?
調査期日が毎年度1月から3月と、年度末の忙しい時期に行うことが間違いではないかと思う。


最新の調査(平成18年度版)はまだ登録されていないが、朝日新聞で一部報道されている。
(追記:調査概要について、次のように公開されている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/10/07102312.htm


過去数年分と数字の比較をすべきだが、時間もないので、報道内容についてだけコメントする。

[研究者の資質を学歴別に尋ねたところ、「期待を上回る」は、学士が1.0%、修士課程修了者で1.4%、
博士が2.6%、ポストドクターが2.2%にとどまった

いずれも「ほぼ期待どおり」は60%前後。

「期待を下回る」とした割合は、学歴・年齢が高いほど低く、
「修士では約26%、博士約15%、ポスドク約8%だった。

期待を下回る理由は、学士では「基礎教育の内容・方法が不十分」が最も多く、
修士や博士は「企業ニーズに無関心など企業研究者としての自覚に欠ける」が最多だった。

ほかに「教科書や既成理論への偏重教育で独創性が育っていない
隣接分野の教育が不十分」を挙げた企業も多かった。]


定職に就けない博士・ポスドクが多い中、なんとか民間企業に就職できた人は、
ある程度のフィルターを通過したため、企業の研究に向いているはずである。

それでも研究内容が変わると対応できないのか、期待を上回る能力の人は少ないようだ。
期待を下回るという回答が、博士で15%、ポスドクで8%もあるのは、厳しい評価だと思う。

調査時期からみて、入社から半年以上経っても適応できないのであれば、がっかりということかも。


期待を下回る理由のトップは、「企業研究者としての自覚に欠ける」 とあるが、これはうなづける。

過去記事にもあるが、正社員でも派遣社員でも、不思議な博士はたくさん見てきた。
職場のルールを無視する、コスト意識が欠如している、プレゼンが下手というのが中心だ。

また、指導教授のコネで無理矢理就職させた例もあるので、企業にとっては 「お荷物」 になる。


その他の理由にもある 「隣接分野の教育が不十分」 というのは、実際に問題となっている。

私が勤務する製薬メーカー子会社に、原料や対照薬の合成依頼があるのは、
本体の若手研究員には、それだけの経験も能力もないことが多いからである。

最近の新入社員は、特定の反応については詳しいが、それ以外は全く理解できないという。

例えば、パラジウム触媒を用いたカップリング反応ばかりやっていて、
基本的なヘテロ環を合成する縮合反応を知らないなど。

しかもNMRなどの基本的なスペクトルでさえ、1人では解析できない社員がいるという。


大学院での教育の問題点を指摘されていると考えるべきだろう。
確かに専門的な研究能力を高めることは大切だが、直接関係しない論文を読むくらいの余裕が必要だ。

私が博士1年で研究室のセミナー(抄録会:新着文献の紹介)の責任者を担当したとき、
「研究に直接関係する論文の紹介は1報にとどめることが望ましい」 と推奨した。

しかし研究室内部の対立もあり、紹介論文のすべてを自分の研究分野だけにした研究グループがいた。

その研究グループの講師は、自分の研究成果だけ上がればいいという人だったから、
学生にも研究テーマのみに専念し、他分野に興味を持つことを禁止していたからだ。

その研究グループの勉強会で取り上げればいいのに、発表を聴いている我々には退屈だった。

学生の大半は、大学院を出たとしても、アカデミックポストに就くわけではないから、
学生の将来を考えているのならば、セミナーのときだけでも、他分野の勉強を許可してほしかった。

教官からすれば、学生は就職してから勉強すればいいと思っているのだろうが、
採用する側からすれば、「何でこんなことも知らないのか」 というギャップに悩むことになる。

卒論から博士まで6年間、一つのことしか研究しなかった人が、就職後に対応できるかどうかわからない。

私のように、卒論と大学院で研究テーマを変えたり、ポスドクを3ヶ所でやったり、
そして、派遣社員などの肩書きにこだわらずに働く姿勢を見せないと、評価されにくいだろう。

やはり研究者の流動化ということで、大学院進学時に別の研究室を選択する義務を課したり、
博士取得後に2年間のポスドク経験を採用基準に入れたりしないと、期待する人材は生まれないのかも。

また、研究職派遣を行う派遣会社が、きちんとスキルチェックができる体制作りも必要だ。

バイオ系ではスキルチェックをするベンチャーがあるのだが、有機合成では皆無だ。

私は、以前登録していた派遣会社の有機合成研修について、いくつか助言をした経験があり、
将来的には、派遣社員や転職希望者のスキルチェックができないものかと、提案したことがある。

実際に実験させてスキルチェックをすると、1件で最低50万円くらいはかかるだろうか。
採用した後で失敗したと判明するより、50万円払って回避できるなら安いものではないか。

例えば35歳の博士を中途採用した場合、平均年収600万円と低めで計算しても、
60歳定年までの25年間で、1億5千万円の給料を支払うことになる。

厚生年金保険料や退職金の負担だけでも、1千万円は軽く超えることになる。

有機合成のスキルチェックには実験設備が必要なので、儲からないと思うが、
派遣会社の研修設備の空き期間を埋めるような形式で、始められないものかと考えている。

文部科学省の博士・ポスドクの就職支援で、プロジェクト採用されないと資金的に厳しいかもしれない。

それでも、派遣会社の社員として転職して、こういった仕事ができないか考えたこともある。

宝くじで高額当選して資金が確保できたら、やってみようかな。

(最終チェック・修正日 2007年10月31日)

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