2008年10月

日本という国は、「ひとにやさしくない国」 であり、そのしわ寄せは子どもにまで及んでいる。
大人たちがまともな仕事をしないために、将来を担う子どもたちを苦しめている。

貧困問題というと、発展途上国の話だと思う人もいるだろうが、日本やアメリカのように、
社会的支援策が足りない先進国でも貧困問題があり、子どもたちに与える影響は無視できない。

山野良一著、「子どもの最貧国・日本 学力・心身・社会におよぶ諸影響」 を読んだ。
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334034702

【家賃を払えず、児童養護施設に預けられる3歳のミヤと4歳のシン。生活保護の申請を受理してもらえず、
給食の時間までぐっとお腹が鳴るのを堪える小2のタクヤ……今や7人に1人の児童が経済的に困窮しており、
ひとり親家庭はOECD諸国中で最貧困である。

日本は、アメリカと並ぶ最低水準の福祉となってしまった。しかも、日本だけが事実を無視し、
対策を取らず、貧困な子どもたちを社会的にネグレクトしている。

本書は、この問題に対して私たちの認識を研ぎ澄ますために書かれたものだ。日米の児童福祉の
現場経験をふまえ、理論・歴史・統計などの多角的な視座で実態を検証し、解決策を考える。】

章立ては次のとおり。

1章 貧困化の著しい日本の子どもたち
2章 なぜ子どもたちは貧困に陥ったのか?
3章 学力格差と児童虐待
4章 脳・身体・こころへの影響
5章 貧困が子どもたちを蝕むプロセス
6章 生活保護と児童養護施設はいま?
7章 各国の貧困対策に学ぶ


1章では、OECD各国の貧困状況を比較しており、日本の貧困率が増加していることを明らかにしている。

気になる記述として、国際的比較のための所得調査に、日本は参加を拒んでいるということだ。

予算要求のときには、諸外国との比較で日本の水準は低いことを強調することがあるが、
所得調査に参加すると絶対貧困率が算出され、それを根拠に野党が社会保障費増額を言い出すので嫌なのか。

日本にも社会保障制度や税制優遇など、様々な社会的支援が存在しているが、
政府介入後の貧困率の方が、介入前よりも高くなるという、不思議な先進国でもある。

つまり日本の社会保障制度というのは、本当に困っている家庭のことは対象にしていないと言ってもよい。
扶養控除や所得税の優遇をしても、もともと課税されないくらいの低所得家庭には関係ないことだ。

毎月の家賃や光熱費の支払いに苦労している家庭では、精神的にも余裕がなくなってしまう。
それは子どもの発達や学力にも影響し、貧困層から抜け出せなくなる危険性もある。

そこで行政改革の名の下に削られた、生活保護や児童手当など、所得再分配のしくみを見直し、
本当に困っている家庭を救う国になってほしいというのが、私の願いである。


貧困家庭を援助しようと言うと、必ず 「自己責任論」 という反対意見が出てくる。
「学歴がないのは勉強しなかったから」、「仕事に就けないのは努力が足りないから」 などと。

加えて、「お金を渡しても酒やギャンブルに使う親もいるから」 と、
低賃金でも頑張って子どものために働いている親が大半だという調査結果を、無視する人もいる。

社会的支援が足りないと、子どもの発達や学力に悪影響が出ることが、統計的に有意であるとされている。
誰かが、日教組のせいで学力が下がったと言っているが、経済的な問題の方がはるかに関係が強い。

社会保障費を捻出するために天下り団体を潰しても、官僚は優秀なのだから、再就職には困らないはずだ。
官僚の老後保障よりも、未来を担う子どもたちにお金を使ってほしい。

このブログでは、英語・ドイツ語のニュースや報告書などの概要を和訳して紹介することがある。
ただ、最初に断っておくが、これは業務ではなく、私の学習のメモである。

業務ではないから、私が興味を持った話ばかりが紹介されるので、内容は偏っているのは確かだ。

「○○の記事を書いてほしい」 だとか、「○○の報告書の概要を知りたい」 という人もいるだろうが、
私が興味を持たない話題について、無償ボランティアとしてブログ記事を書くことはないだろう。

業務で、つまりフリーランス翻訳者として和訳する場合は対価を得ることもあり、非常に慎重に和訳する。
誤訳のおそれはいつもあるが、何度も推敲して、なるべく品質が高くなるように、責任を感じて努力している。

特許での異議申立書など、誤訳するとクライアントに損失を与えることも考えられるからだ。

だからといって、このブログに書くときに、手抜きをしているわけではないが、
これまでも数字を間違えたり、漢字の変換ミスを残したままのことがあった。

まあそれでも、日本で報道されていないニュースでは、大意が合っていれば、
後は興味を持った人が、自分で調べるなどの対応をしてくれるだろう。


今読んでいるSSK報告書に関連して、「Kinder unter 5 Jahren」 について、
「5歳未満児」 か 「5歳以下児」 かという記事を書いた。

疫学研究の主要成果は、原子力発電所まで5km圏内で小児白血病が頻発していることであり、
研究対象小児の年齢が、5歳未満か5歳以下かは、和訳だけ読んだ人は、それほど気にしないと思う。

しかし、大意さえわかれば、その他の細かい数字を、おろそかにしていいわけでもない。
特に公的機関の資料や、有料で和訳を提供する翻訳家は、私も含めて責任がある。

誰に対してかというと、外国語が苦手で、日本語資料に頼るしか方法がない人に対してである。
加えて、外国語はわかるが、とても全部読んでいる暇がない人に対してでもある。


ところで以下は、他者を批判するのではなく、自分で考える材料となったものを紹介している。

SSK報告書に関して、連邦環境省などのプレスリリースを紹介している公的機関があった。
独立行政法人 原子力安全基盤機構の、「規制関連情報」 の検索で、今年10月を選んでほしい。
http://www.jnes.go.jp/cgi-bin/search/list.cgi

「原子力発電所から5 km以内に居住する5歳以下の年少者における白血病発症」 とあるから、
私の主張が正しければ、「5歳未満」 に訂正すべきとなるが、そこまで気にする人はいるだろうか。

私が判定するのも変だが、他に誤訳はないようなので、後は句読点を入れて読みやすくすればよいだろう。


このSSK報告書については、原発問題に関心のある人たちもブログで記事にしている。

あるブログでは、「化学物質問題市民研究会」 に投稿された次の記事を引用していた。
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_08/08_10/081014_Childhood_leukemias.html

連邦環境省プレスリリースの要点が書かれているが、ブログでは3番目の赤字部分に疑問があるという。

【仝業の立地場所から半径5km以内に住む、5歳以下の子どもは白血病を発症する確率が有意に高いという、
KiKK報告書の結論は正しい。

原発のつくりだす放射線曝露が,慮彊?任呂覆い海箸確認されたので、放射線保護のために
ドイツの原発の周辺で新たな対策を導入する必要はない。】

疑問を持ったブログ主は、報告書を英語に自動翻訳して読んだそうなので、確信はないようだ。
それでドイツ語を知っている私が、ここで代わりに疑問に答えることにした。

ということで、ここに相当する部分を、連邦環境省プレスリリースで確認した。
http://www.bmu.de/pressemitteilungen/aktuelle_pressemitteilungen/pm/42345.php

".., da die Strahlenexposition aus einem AKW die festgestellten Leuk??mie-Erkrankungen
nicht erkl??ren kann."

文字通りには、「原発由来の放射線被ばくが、確認された白血病発症を説明できないため」 と読める。
そのため、英語への自動翻訳で読んだ人も、上記引用記事の表現に違和感を持ったのだろう。

上記引用記事の投稿者は、もしかすると、わざと文字通りには和訳せず、
他の部分もまとめて 「因果関係がない」 という意味で、要点のみ書いたのかもしれない。


他に私が気になったのは、【新たな対策を導入する必要はない】 という断定的表現だ。

"Das Bundesumweltministerium (BMU) sieht auf der Basis der ??berpr??fungen keinen Anlass, .." は、
「根拠(理由)がないと判断している」 だが、踏み込んで解釈すれば 「必要ない」 なのかも。

ということは、客観的に文字通りの和訳ではなく、自身の見解も混ぜた記事を書いているのだろうか。

全体として誤訳ではないとされるだろうが、この日本語記事しか読めない人への配慮が足りないと感じた。
ドイツ語がわからない人は、連邦環境省が必要なしと判断した、と信じてしまうかもしれない。

こういった投稿は非営利目的で、公文書ではないにしても、参考にする人がいるのだから、
原則として、原文に忠実に客観的に和訳してから、個人の見解・解説を分けて書く配慮は必要だろう。

翻訳料金をもらわない自由投稿であっても、文章を公開するにあたっては、いくらか責任はあるだろう。

私のブログは、1日当たり100件くらいしかアクセスがないため、比較的影響力はないが、
それでも他のブログや掲示板で引用されることがあるので、和訳の掲載には気をつけようと思う。

私は今の職場にたどり着くまで、大学・派遣社員・正社員のどの場合でも、パワーハラスメントを受けてきた。

それは私が、労働条件や人権の尊重について発言したため、組織にとって危険人物と認定されたためでもある。

たった一人の人間だが、私の人権意識が周囲に浸透することを、本能的に恐れたのかもしれない。
反乱の芽は小さいうちに摘み取るのが、支配者・独裁者の性質なのだろうか。

今の職場では、おおむね順調なのだが、転職の契機となったパワハラと退職勧奨の後遺症なのか、
実験結果が思わしくないなどストレスがたまると、冷静さを失って、判断ミスをしてしまうことがある。

今の仕事でも、微量不純物の問題を棚上げしたまま合成を進めてしまい、
再度、原料から作り直しとなり、約3週間の時間が無駄になってしまった。

問題点に気づきながら、なぜ上司にきちんと報告しなかったのか、それは私にもわからない。
なぜかと聞かれても、二重人格と言われても仕方のない行動結果であった。

不純物の問題について頭ではわかっていても、なぜか体を動かすときになると、違うことをしてしまう。
分析結果を十分に検討する前に、反応を進めてしまったり、中間体を捨ててしまったり。

「魔が差した」 という表現になると思うが、なぜそんなことをしたのか、自分でもわからない。

ストレスがたまっても、パニック障害になるわけではないが、コントロールできていないと感じることはある。

定時帰宅をして、ストレスがたまらないように注意しているのだが、
それに加えて毎月1日、または2ヶ月ごとに2日は有給休暇を取って、ストレス解消をすべきかも。

副業で翻訳をやっているのも、会社の外では第二の自分に変身することが目的だ。


10年前にあった大学教授との対立、そして3年半前にあった化学メーカー上司との対立、
この二つが特に著しく、私の心に傷をつけた事象である。

トラウマというのは、時間が解決するのかと思っていたが、どうもそうではないようだ。
以前、このブログに連続投稿された執拗なコメントを見たときも、トラウマのためか体の不調が認められた。

やはり一人で頑張ろうとせず、カウンセリングを受けるのも必要かもしれない。

gelten*○○galt/gegolten; du gilst/er gilt 命 gilt 接 g??lte
自 (h) 1 b) ((alsやf??rを伴う形容詞や名詞と)) (…と)見なさ<思わ>れている,(…で)通っている

Als F??lle galten alle im Deutschen Kinderkrebsregister Mainz f??r die Studienregion
(Wohnort zum Zeitpunkt der Diagnose) und den Studienzeitraum gemeldeten erstmaligen,
nach der International Classification of Childhood Cancer (ICCC) als b??sartig klassifizierten
Neubildungen.
「ドイツ小児がん登録機関(マインツ)で研究地域(診断時点での居住地)および研究期間について登録された
初回に、小児がん国際分類(ICCC)に基づいて悪性として分類された新生物全てが、症例群と見なされた。」
("Bewertung der epidemiologischen Studie zu Kinderkrebs in der Umgebung von Kernkraftwerken
(KiKK-Studie)", Berichte der Strahlenschutzkommission • Heft 57 (2008), p.4.
http://www.ssk.de/werke/volltext/2008/ssk0806.pdf

主語は "alle Neubildungen" で、alle に続く "im ~ klassifizierten" が冠飾句。


Supernovae vom Typ Ia gelten auch als Hauptproduzenten schwerer Elemente.
「Ia型の超新星は、重元素の主要な生成場所としても見なされている。」
("Neues ??ber Tychos Supernova", astronews.com, 4. Dezember 2008.
http://www.astronews.com/news/artikel/2008/12/0812-006.shtml

(最終チェック・修正日 2008年12月23日)

趣味で外国語の資料をざっと眺めるだけならば気にならないが、
翻訳となると単語の基本的な意味について、慎重になることが多い。

翻訳の場合は、私の和訳を読む人は、翻訳対象の外国語がわからないという前提だから、
もし誤訳をしてしまったり、あいまいな点があると、そのまま誤解される危険性が高い。

今回取り上げる 「以下」 と 「未満」 も、日本語でも問題になることが多い表現だ。

現在読んでいるドイツ放射線防護委員会(SSK)の報告書でも、この問題が出てくるので再度考えた。

"Kinder unter 5 Jahren" を私は 「5歳未満児」 と理解していて、過去の投稿記事もそうしている。

しかし、ドイツ原発周辺での小児白血病疫学研究(KiKK研究)に関する日本語記事を探してみると、
同じドイツ語を和訳しているはずなのに、「5歳未満」 と 「5歳以下」 の両方があった。

中には同じ記事中で、「5歳未満」 と 「5歳以下」 が混在しているものさえあった。

私はまだプロの翻訳家とは言えないので、他者の表現を見て、自信がなくなることもある。
他者の和訳を批判するのではなく、自分の知識を確認するために再調査した。


結論から先に言うと、私は 「5歳未満児」 が正確な表現だと考えている

unter の意味を考えなくても、報告書の中では、「5歳の誕生日までに白血病を発症した小児」
という表現があるから、このことからも 「5歳未満児」 が適切だろう。


日常生活では 「以下と未満の区別」 はあいまいなこともあり、なんとなく文脈で解釈するが、
法律や科学分野で数字を扱う場合は、「以下はその数を含み、未満はその数を含まない」 と定義する。

まずは日本語について、広辞苑第六版で 「以下」 と 「未満」 の語義解説を確認してみた。

以下:程度・数量などについて、それより少ない、または劣っていること。
法律・数学などでは、基準の数量を含みそれより下。「1万―」「平均―の成績」

未満その数に達しないこと。「1円―切捨て」「18歳―は立入禁止」】


それでは、ドイツ語で unter はどのような概念なのだろうか。

DUDEN では、「ある特定の値などを下回っていること」 だから、「未満」 と考えるのが妥当だろう。

unter: 1. (räumlich) g) ‹mit Akk.› kennzeichnet ein Absinken, bei dem ein bestimmter Wert,
Rang o. Ä. unterschritten wird: u. null sinken】

ただ、独和辞典や、日本語で書かれた文法書の解説を読んだだけでは、混乱してしまうようだ。

三修社の 「現代ドイツ語文法」 では、「あるものより下回る分量」 とあるが、
次に示すように例文では 「以下」 という訳語としている。

【Er suchte ein Hotelzimmer unter zehn Mark.
彼は10マルク以下のホテルの部屋を探していた。】

大修館書店の 「マイスター独和辞典」 では両方示していて混乱してしまうが、例文では未満だ。

unter: 3. a 〔+3格〕((数量)) …以下の[で],…未満
Kinder unter sechs Jahren 6歳未満の幼児。】

いつも使っている小学館の 「独和大辞典」 では、「未満」 という意味だけ例示。

unter: 前 1 ((空間的)) b) ((未満;数量的上限に関して)) ((3格と))
(weniger als) …に達しない数の,数値的に…未満で,…に達しない
Kinder unter zehn Jahren 10歳未満の子供】

報告書ではやはり、数値を厳密に取り扱う必要があるため、「5歳未満児」 が正しいと思う。

前置詞1つで迷っているくらいだから、まだまだプロの翻訳家には道のりは長い。
まあ、言葉に敏感であるという、ポジティブな解釈をしておこうか。

(最終チェック・修正日 2008年10月28日)

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