2011年03月

福島第一原発での事故が報じられてから、世界各国で原子力発電への依存について、様々な議論が始まっている。
これから建設しようとしている国は、計画の一時凍結や見直しをしているし、老朽化原発を持つアメリカやヨーロッパなどでは、運転可能期間の延長が議論の的になっている。

ドイツではメルケル首相が、原発延命措置の見直しをすばやく宣言したにもかかわらず、州議会選挙の結果にまで影響した。
環境団体が主導する原発反対デモも各地で行われていて、特にヨーロッパでは、脱原発の動きが再び盛り上がるかもしれない。

原発反対の動きが激しくなる中、電力の40%(2008年)を原子力発電でまかなっているスイスで、手紙爆弾テロが発生した。

AFPの英語記事と日本語記事、地元スイスのテレビ局のニュース、そしてドイツの報道は次の通り
www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5g3P7nYQSkQCpwCG2f0un64U-D3Pg (英語)
www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2793591/7029184 (日本語)
www.tagesschau.sf.tv/Nachrichten/Archiv/2011/03/31/Schweiz/Olten-Briefbombe-bei-Schweizer-Atom-Lobby-explodiert (ドイツ語)
www.spiegel.de/politik/ausland/0,1518,754233,00.html (ドイツ語)

ここでは情報量が多いAFP英語記事を元にして、スイスやドイツでの報道で補足しておこう。

警察の発表によると、スイス北部のオルテン(Olten)にある原子力発電事業者団体の Swissnuclear のオフィスで午前8時15分頃、開封しようとした手紙が爆発し、女性2名が軽傷を負ったという。
爆破が起きた部屋には、他に3名の従業員がいたものの、怪我はなかった。
この爆弾テロの背景には、反原発などの政治的意図があると言われているが、詳細は不明である
爆弾テロの標的となった Swissnuclear のHP(ドイツ語)は次の通りで、福島第一原発の情報へのリンクはあるが、この爆弾テロについては何も報告していない。
www.swissnuclear.ch/de/home.html
スイスで2か所の原発を運転している Alpiq 社に対して、原発新設に反対するグリーンピース・スイスが、3月17日に抗議文を送っていた。
それに対する Alpiq 社側の回答文書は、22日に既に示されており、政府との交渉の場にグリーンピースも参加できるようにするとも書いてあった。
www.alpiq.com/de/images/antwortbrief-alpiq-an-greenpeace-de_tcm96-85381.pdf

しかし、この内容に納得しなかったのか、原発の新設計画即時停止を求めて、ドラム缶をたたくデモが Alpiq 社前で行われた。
www.alpiq.com/de/news-storys/pressemitteilungen/press_releases.jsp (Alpiq 社のプレスリリース)
www.greenpeace.org/switzerland/de/News_Stories/Newsblog/jhes-ende-fr-trommel-aktion/blog/34028 (グリーンピース・スイスのブログ)

30人で行われたこのデモはすぐに終わったようだが、HPを見ると、 Alpiq 社へ抗議メールを送る運動を展開している。
www.greenpeace.org/switzerland/de/Kampagnen/Stromzukunft-Schweiz/Atomstrom/Atomkraft-in-der-Schweiz/Unsere-Forderung/Mail---ALPIQ/

手紙爆弾が届いた31日に、近くでグリーンピースがデモをしていたので、事件との関連性が疑われた。
AFP英語記事によると、取材に対してグリーンピース側は、手紙爆弾とは無関係であることを主張している。

また、AFP英語記事最後には、電力会社 Axpo の Heinz Karrer 社長の発言が引用されている。
福島第一原発の事故後の今は、原発新設について考えることはできないと言っている。
インタビューしたスイスの新聞とは、Tages Anzeiger Online(3月20日)。
www.tagesanzeiger.ch/wirtschaft/unternehmen-und-konjunktur/AxpoChef-denkt-an-Strategiewechsel/story/15087164

このような見直しの機運が生まれている状況で、あえて爆弾テロという手段を選んだ犯人の目的はまだ不明だが、原発新設停止ではなく、現在運転中の原発も含めて、原発の全廃を要求しているのかもしれない。
犯行声明が出るのかどうかわからないが、日本国内での抗議運動も含めて、今後の報道をチェックしておこう。

aus|nutzen (aus|nützen)
In Deutschland wurde 1916 während des Ersten Weltkrieges erstmals eine Sommerzeit 
eingeführt. Dadurch sollte die Arbeitskraft der Beschäftigten in der Rüstungsindustrie besser 
ausgenutzt werden.
ドイツでは第一次世界大戦中の1916年に、初めて夏時間を導入した。この夏時間によって、軍事産業において従業員の労働力が、より十分に利用しつくされたと言われている。
("UHREN WERDEN UMGESTELLT: Sommerzeit beginnt", Frankfurter Rundschau, 

Hiobsbotschaft f. -/-en (Hiob + Botschaft)
悲報,凶報(聖書:ヨブ1, 14-19から)

Hiob [人名] [聖] ヨブ、イヨブ(あらゆる試練に耐え抜いた信仰の人)


Täglich meldet Tepco neue Hiobsbotschaften aus dem Kraftwerk an der Nordostküste
des Landes.
毎日東京電力は、この国の北東部海岸にある発電所からの凶報を伝えている。
("Atomkatastrophe in Japan: Plutonium-Leck alarmiert Japans Regierung", SPIEGEL Online, 29.03.2011,
www.spiegel.de/panorama/0,1518,753716,00.html

旧約聖書ヨブ記1:14-19
14-15ヨブのもとに、一人の召使いが報告に来た。
「御報告いたします。わたしどもが、牛に畑を耕させ、その傍らでろばに草を食べさせておりますと、シェバ人が襲いかかり、略奪していきました。牧童たちは切り殺され、わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
16彼が話し終わらないうちに、また一人が来て言った。
「御報告いたします。天から神の火が降って、羊も羊飼いも焼け死んでしまいました。わたしひとりだけ逃げのびてま参りました。」
17彼が話し終わらないうちに、また一人来て言った。
「御報告いたします。カルデア人が三部隊に分かれてらくだの群れを襲い、奪っていきました。牧童たちは切り殺され、わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
18彼が話し終わらないうちに、更にもう一人来て言った。
「御報告いたします。御長男のお宅で、御子息、御息女の皆様が宴会を開いておられました。
19すると、荒野の方から大風が来て四方から吹きつけ、家は倒れ、若い方々は死んでしまわれました。わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」

政府の審議会や委員会には、専門家として科学者が委員として呼ばれることが多い。
ただし、科学者として正直に警告を発したとしても、政府側に都合の悪い情報であれば、過小評価または無視されることがある。
審議会答申や報告書に記載しようとしても、官僚が添削して削除することもある。

今回の東京電力・福島第一原発での津波による被害は、科学者の警告を政府と共に無視したことが原因である。
地震とそれに伴う大津波は自然現象による天災だが、警告無視による対策の先送りによる被害は人災である。
東京電力のHPにあるQ&Aコーナーでは、「津波に対して発電所は大丈夫ですか?」 という質問に、次のように答えている。
このような回答をまだ掲載しているということは、単なるチェック漏れなのか、それとも想定外だったことを強調するためなのか。
www.tepco.co.jp/nu/qa/qa08-j.html

【原子力発電所の津波評価においては、「安全設計審査指針」,「原子力発電所の津波評価技術(土木学会)」の考えに基づき、敷地周辺で過去に発生した津波はもとより、過去最大の津波を上回る、地震学的に想定される最大級の津波を数値シミュレーション解析により評価し、重要施設の安全性を確認しています
具体的には、数値シミュレーション解析により求まった津波の最高水位に満潮時の水位を加えた水位においても、重要な施設の運転に支障のないこと、また、津波の最低水位から干潮時の水位を差し引いた水位においても原子炉の冷却に支障のないことを確認しています。】

しかし、共同通信の記事では、2年前の警告を東京電力が無視していたことが報じられ、海外メディアも取り上げている。
www.47news.jp/CN/201103/CN2011032601000722.html

【東日本大震災で大津波が直撃した東京電力福島第1原発(福島県)をめぐり、2009年の審議会で、平安時代の869年に起きた貞観津波の痕跡を調査した研究者が、同原発を大津波が襲う危険性を指摘していたことが26日、分かった。

東電側は「十分な情報がない」として地震想定の引き上げに難色を示し、設計上は耐震性に余裕があると主張。津波想定は先送りされ、地震想定も変更されなかった。この時点で非常用電源など設備を改修していれば原発事故は防げた可能性があり、東電の主張を是認した国の姿勢も厳しく問われそうだ。】
危険性を指摘したのは、独立行政法人・産業技術総合研究所」の岡村行信活断層・地震研究センター長。
岡村センター長の昨年6月の挨拶は次の通りで、沿岸地域の活断層の研究も進めていた。
unit.aist.go.jp/actfault-eq/aisatsu.html

そして2年前に福島沿岸部が大津波に襲われる可能性を指摘したものの、その警告が活かされなかったことを悔やんでいる。
センターHPのトップページにある 「お見舞い」 を引用しよう。
unit.aist.go.jp/actfault-eq/index.html

【3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震で被災されました皆様に心からお見舞い申し上げます. 
活断層・地震研究センターでは,数年前から西暦869年に仙台平野を襲った貞観地震に伴う津波の研究を行ってきましたが,その結果が地域の防災対策に反映される前にこのような大震災が発生してしまい,残念でなりません.宮城県及び福島県内の調査では多くの方々にご協力して頂きましたが,その地域が甚大な被害を受けられたことに,私たちの無力さを痛感しております.被災された地域で、再びかつてのような美しい田園風景と、活気ある町並みが復活することを心より願っております.私たちは今回の事態を直視し,真に地震防災に貢献できる研究を進めるため,さらに努力して参ります.】

この貞観地震について東京電力では、地震動の解析のみで、津波被害についての解析は先送りしていた。

総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会/耐震・構造設計小委員会/第33回地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループで配布した説明資料は次の通りで、警告を無視・軽視したことは明らかである。
www.tepco.co.jp/nu/material/files/fg09071301.pdf

【869年貞観の地震については,今後も引き続き知見の収集に努め,適宜必要な検討を行っていく所存。】 とあるが、文部科学省の予算を使って行われた貞観地震の研究成果を無視するとは、なんと自分勝手な企業なのだろうか。

津波については再評価中だったとも言われているが、元々今回のような複数の震源域の連動を想定していないので、再評価による対策をしていても、被害に遭っていたと思われる。



それに加えて驚いたのは、東京電力の清水社長が過労のため、対策本部を一時離れていたことだ。

日本経済新聞の記事は次の通り。

【東京電力は27日夕、清水正孝社長が過労のために16日から数日間、同社本店内に設置された対策本部を離れていたことを明らかにした。ただ、入院したのではなく、役員フロアで体を休めながら、現地などの情報を収集したり、復旧作業などの指示を出していたという。…】

このような危機的状況に対応できないのであれば、株主総会も紛糾して議事進行ができないだろうから、すぐに社長を辞めて、まともな指揮ができる人に代わってほしい。

追記(4月24日):
4月19日の朝日新聞の報道では、東京電力のHPが13日に更新したときに、津波対策のページを削除したそうだ。
www.asahi.com/national/update/0419/OSK201104190035.html

【…
東電によると、13日にHPを一新した際、津波対策のページを削除した。事故の後も、HPに「考えられる最大の地震も考慮して設計しています」などという対策が載り続けていることに対し、閲覧者から非難の声が寄せられたという。

そのページには、津波対策として「敷地周辺で過去に発生した津波の記録を十分調査するとともに、過去最大の津波を上回る、地震学的に想定される最大級の津波を数値シミュレーションにより評価し、重要施設の安全性を確認しています」と記載。イラスト付きで「発電所敷地の高さに余裕を持たせるなどの様々な安全対策を講じています」としていた。】

イラストは削除されたようだが、Q&AのURLは生きているので、記載内容の確認は可能だ。
www.tepco.co.jp/nu/qa/qa08-j.html

(最終チェック・修正日 2011年04月24日)

金融危機をきっかけとしてアイスランドは、EU加盟に向けた交渉を行っているが、EU議会の外交委員会報告書草案が可決された(賛成48、反対2、棄権1)。
EU議会の3月22日付けプレスリリースは次の通り。
www.europarl.europa.eu/en/pressroom/content/20110318IPR15863/html/MEPs-welcome-Iceland%27s-progress-towards-EU-membership

【In its first annual report on Iceland since the launch of that country's EU membership 
negotiations last year, the Foreign Affairs Committee welcomes the prospect of bringing on 
board one of Europe's oldest democracies with its well-functioning market economy. However, 
some sensitive issues remain, such as the Icesave dispute, whale hunting (which is 
banned in the EU) and Iceland's desire to protect its fisheries and agriculture markets.

加盟に向けて一歩前進のように思えるが、破綻した Icesave の他に、捕鯨とサバの問題がまだ障害となりそうだ。

アイスランド外務省のEU加盟交渉HPでは、この草案可決についてはまだ触れていない。
europe.mfa.is/phase-2---negotiation-process/ (英語)

漁業問題としてサバが取り上げられているが、これはEU未加盟のノルウェーも巻き込む問題かもしれない。
アイスランドが加盟すれば、サバの資源管理方法や漁獲割り当てについてEUの規則に従わねばならないし、加えて他国の漁船がアイスランド近くで操業するようになり、水産物輸出国としては複雑な心境だろう。

また捕鯨問題については、例えばドイツ議会が捕鯨反対勧告決議を採択していることもあり、最大の障害になりそうだ。
先のプレスリリースから、捕鯨に関する部分を引用しておこう。

Fisheries: mackerel and whale hunting

"Serious divergences" remain on whale hunting, adds the committee, emphasising that 
the ban on whaling is part of the EU acquis (the existing body of laws and regulations that all 
new Member States must take on). It calls for broader discussions on the abolition of both 
whale hunting and the trade in whale products.】

EU加盟国はそれぞれ独自の法律や文化を持っているので、例えばマルタが離婚を禁止していても、カトリック教徒が多い加盟国ということで認められている。
しかし、捕鯨と鯨由来製品の売買は、全加盟国で禁止することが求められており、捕鯨国のアイスランドには厳しい注文だ。

金融危機からの回復を主眼とするならば、捕鯨による雇用の損失は相殺できるかもしれない。
ただ、鯨肉を食べる人は人口の数%は実際にいるので、以前のように小規模調査捕鯨に戻したり、グリーンランドのように先住民生存捕鯨に変えるのかもしれない。

そうなると、日本への輸出を目的としたナガスクジラの捕鯨は、断念しなければならない。
加盟交渉は急に進むとは思えないので、今年も捕鯨はできそうだから、今のうちにたくさん捕獲して冷凍保管し、加盟前に日本に全部輸出するのかもしれない。

ただしアイスランド統計局の記録によると、日本で需要が増えそうな去年の11月から今年1月まで、3か月連続で鯨肉輸出はない。
シーシェパードの妨害で日本の鯨肉が足りなくなりそうなので、1千トン以上のナガスクジラ肉在庫を全部放出するかもしれない。
今後の動きも、ときどきチェックしておこう。

追記(4月8日):
4月7日発表のEU議会プレスリリースによると、この報告書が採択された(賛成544、反対29、棄権41)。
http://www.europarl.europa.eu/en/pressroom/content/20110407IPR17168/html/Parliament-praises-Iceland's-progress-towards-EU-membership

そして6月27日から、最終期限を設けずに、アイスランドの加盟交渉が始まるそうだ。

ただし、捕鯨などの諸問題が壁となることは周知の通りである。

(最終チェック・修正日 2011年04月08日)

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