2011年06月

5月初旬からドイツでは、腸管出血性大腸菌(EHEC)による食中毒事故が大規模に広がっている。
菌株はO104:H4と同定されたが、遺伝子解析の結果、別の2つの大腸菌株から遺伝子を獲得していたことが判明した。
一つは、アフリカ中央部のHIV感染者によく見られる大腸菌の遺伝子、そしてもう一つは、O157の遺伝子である。

EHECの新株が生じる場所は、主にウシなどの家畜の腸内と言われていたが、今回のアウトブレイクの原因となったO104:H4は、ヒトの腸内で発生したのではないかと考えられている。

感染者の食事から、汚染された食材の履歴をたどっていくと、サラダなどに使われたスプラウトではないかと思われた。
ただしスプラウト農場の製品ではなく、自宅でスプラウトを栽培して感染した患者も発生したため、種子そのものがO104:H4で汚染されていたという仮説も出てきた。

欧州疾病対策センター(ECDC)と欧州食品安全庁(EFSA)が共同で、原因食品の追跡を行い、マメ科のコロハ
(fenugreek)の種子が原因ではないかと推測している。
ecdc.europa.eu/en/Pages/home.aspx
www.efsa.europa.eu/
www.efsa.europa.eu/en/press/news/110629a.htm

ドイツ国内の報道は、例えば次の通りで、このコロハの種子はエジプトから輸入した可能性が高いと推定している。
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/0,1518,771476,00.html
www.sueddeutsche.de/wissen/gefaehrlicher-darmkeim-ehec-bakterien-stammen-vermutlich-aus-aegypten-1.1114324

ECDCもEFSAも、そしてドイツなどの政府機関も、エジプトから輸入した種子が原因だとは断言していない。
ただ、過去2年間のEHEC(O157:H7)による食中毒でもスプラウトが原因食品で、種子が汚染されていたと考えられていた。
そのため、今回も原因食品の候補になったのだろう。


取材したメディアの記事中では、「もしかするとエジプトから輸入したコロハの種子が関係している可能性があるかもしれない」 という婉曲表現になっている。

エジプトなどの北アフリカ地域で、O104:H4が検出されたという情報は、
まだ出ていないようだ。
ただ、エジプトから種子を輸入した会社がイギリス企業に販売し、その後ドイツやフランスに再輸出された。
そしてその汚染された種子を栽培したことで、EHECがついたままのスプラウトを消費者が食べることになったと思われる。

エジプトから輸入した種子が原因となれば、強毒性に変化したO104:H4の遺伝子の一部が、アフリカ中部のHIV患者の大腸菌由来という事実と、何か関係がありそうだと思わせる。

日本でも食中毒シーズンだから、このEHECについては続報をしばらく確認しておこう。

また、スプラウト用種子の消毒方法について、時間があれば調べてみたい。
外資系企業から翻訳ではない仕事を頼まれて、土日はほとんど潰れてしまうから、納品後に調べることにしよう。


追記(7月2日):
エジプトから輸入したスプラウト野菜の種子が原因の可能性が高いことが、公式に発表されている。
EFSAの調査結果について、ドイツのリスク評価研究所(BfR)が次のように文書を出している。
www.bfr.bund.de/cm/343/samen_von_bockshornklee_mit_hoher_wahrscheinlichkeit_fuer_ehec_o104_h4_ausbruch_verantwortlich.pdf

フランスでの過去のEHEC食中毒事故も、このエジプトの種子輸出会社が関係していると推測されている。
そして今年のドイツでのO104:H4アウトブレイクも、同じエジプトの会社が疑われている。
ドイツ・ビーネンビュッテルのスプラウト栽培農場で、実際にその種子が使われていたと、ドイツ国内では報道されている。
www.spiegel.de/wissenschaft/mensch/0,1518,771818,00.html
www.sueddeutsche.de/wissen/der-weg-der-ehec-bakterien-von-aegypten-nach-bienenbuettel-1.1115114

依頼された仕事を片付けてから、これらの記事を精読しておこう。

追記(7月6日):
EUはO104:H4アウトブレイクについて、エジプト産のスプラウト野菜用種子が感染源と特定し、市場から撤去するとともに、10月末まで輸入を一時停止と決定した。
www.deljpn.ec.europa.eu/modules/media/news/2011/110705.html
europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do
www.efsa.europa.eu/en/press/news/110705.htm

(最終チェック・修正日 2011年07月05日)

Heber m. -s/-
[球技] ロブ,ロビング,浮き球,ループシュート
engl.: lob
Nach einem Ballverust der Neuseeländerinnen in der Vorwärtsbewegung schickte Mizuho 
Sakaguchi ihre Mitspielerin steil, die gegen die herauseilende neuseeländische Torfrau 
Jenny Bindon per Heber zum frühen 1:0 traf.
ニュージーランド選手が前方に向かう時にボールを失った後、阪口夢穂は味方選手(永里優希)へ一気に前にパスを出した。大急ぎで飛び出してきたニュージーランドのゴールキーパー、ジェニー・ビンドンに対して永里は、ループシュートによって早い段階で1対0とした。
("Frauen-WM 2011: Japan zittert sich zum Sieg gegen Neuseeland", SPIEGEL Online,
27.06.2011,
www.spiegel.de/sport/0,1518,770864,00.html

私は1994年に、自然保護団体WWFジャパン(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)の会員となった。
他にも様々な環境保護団体が設立されているが、活動内容などを比較して、何か月か考慮してからWWFジャパンに入会を決めた。
年会費1万円の他に、南西諸島やトラなどの保護プロジェクトが実施されるときに、年間で2万円ほど寄付している。

WWFジャパンは、WWFインターナショナルに協力する組織として発足し、
今では国内での自然保護活動だけではなく、熱帯雨林保護やトラ保護など、国際的な保護活動にも取り組んでいる。
www.wwf.or.jp/ (WWFジャパン)
wwf.panda.org/
 (WWFインターナショナル・グローバルサイト)

世界最大の自然保護団体と言われるWWFは、会費と寄付金の他にも、パンダのロゴマーク使用料などで
多額の活動資金を集めており、「Green Empire(緑の帝国)の一員」 と揶揄されることもある。

今年で設立50周年を迎えるWWFであるが、6月22日にドイツのテレビ局ARDで、WWFの暗部を暴く批判的ドキュメンタリー番組が放映された。
トラやオランウータンの保護活動が失敗していることや、遺伝子組換え大豆栽培を推進するモンサント社との関係などについて批判している。

監督は何度も賞を受けた Wilfried Huismann(ヴィルフリート・フイスマン)である。
フイスマン監督のHPと、番組紹介(ドイツ語・英語)は次の通り。
www.wilfried-huismann.de/
www.daserste.de/doku/beitrag_dyn~uid,0suwq2mshunzgo89~cm.asp
www.united-docs.com/dokumentationen/2011/silence_of_pandas.phtml

ドイツで放映されたため、ドイツのメディアでは大きく取り上げられており、さらにこの問題のまとめサイトも出現した。
www.spiegel.de/wissenschaft/natur/0,1518,770184,00.html
www.sueddeutsche.de/medien/wdr-recherchen-ueber-den-world-wide-fund-for-nature-wwf-am-tisch-mit-monsanto-1.1111269
de.wwfdoku.wikia.com/wiki/WWF-Doku_%22Pakt_mit_dem_Panda%22_Wiki

この約44分のドキュメンタリー番組は、放送局ARDのサイトで、現時点では無料で閲覧できる。
また Radio Bremen では、フイスマン監督へのインタビューについて、音声ファイルも用意している。
www.radiobremen.de/fernsehen/buten_un_binnen/themen/bubithema100.html
www.radiobremen.de/funkhauseuropa/sendungen/nova/audio62348-popup.html

このドキュメンタリーについては、放送直後にWWFドイツが、全ての批判について詳細に反論している。
www.wwf.de/themen/huismann-kritik-pakt-mit-dem-panda-faktencheck/der-pakt-mit-dem-panda-im-faktencheck/

また、この番組の放映時間が平日の23時半からということで、誰も観ない時間帯にするようにWWFが圧力をかけたと、監督は憤慨していたそうだが、WWF側は当然ながら否定している。
WWFの歴史については長いので、引用する代わりに、WWFジャパンのサイトで説明を読んでほしい。
www.wwf.or.jp/aboutwwf/history/
ヨーロッパは、旧植民地も含めて資源搾取・自然破壊を繰り返してきたが、これ以上の破壊では人類の生存が危うくなると理解・反省する者が増え、自然保護に転換することになった。
大半の日本人には理解しにくいことだが、ヨーロッパ人はあるきっかけで、正反対の価値観に変えてしまうことがある。
このように、新しい価値観の方が良いと思えばすぐに乗り換えるという特徴を知っておくと、ヨーロッパ人の行動を理解しやすい。

そうは言っても、巨額の資金が集まる組織であることや、様々な企業との協力事業が多いことも、疑惑の温床となっている。
それに開発途上国では、独裁政権下で活動することもあるため、政府との癒着など、
以前から様々な批判があることは確かだ。

WWFがユニリーバと共同で海のエコラベル制度(MSC認証制度)を創設したとき、日本の水産関係者は、反捕鯨団体のWWFが関わった制度を日本に持ち込まないように、日本政府に進言していた。

ユニリーバはMSC創設に協力することで、持続可能な漁業を推進する企業として評価されることになった。
しかしユニリーバは同時に、食品用パームオイルを大量使用する企業でもあり、熱帯雨林保護の観点から攻撃対象となりうる。
WWFはパームオイルを製造・利用する企業と円卓会議を開催して妥協点を探っているし、国立公園の保護にも力を入れている。
それでも違法伐採によるプランテーション化は後を絶たず、WWFの活動は失敗していると、番組では批判している。

トラの生息地域確保のため、熱帯雨林に住む先住民族が強制移住させられたり、エコツーリズムと称するトラ見学ツアーのために道路が作られたり、WWFの活動はここでも無意味だと非難されている。

ヨーロッパ人たちはアジアの植民地で、毛皮を得るためだけでなく、趣味でトラ狩りをしていた。
WWFの元会長のフィリップ殿下は、自分ではトラ狩りをしたことはないとインタビューに答えているが、ある国を公式訪問した際、エリザベスⅡ世とトラ狩り見物に行ったことがあり、仕留められたトラと一緒に記念写真に収まっている。

また、遺伝子組換え作物についても円卓会議をしているが、そこには悪名高きモンサント社が入っている。
番組ではアルゼンチンを中心に、モンサント社の遺伝子組換え大豆が大量生産されていることを指摘している。
農場では除草剤のラウンドアップを散布しているのだが、周辺住民のがん発症率が高まっていると報告されている。
WWFは
遺伝子組換え作物に反対し、モンサント社と無関係と言っているが、実態を全く変えられないと批判されている。

もっと過激な実力行使を使う団体もあるが、WWFは対話と啓蒙活動を主体にしているので、モンサントなどの大企業に甘いとか、対応が遅いと感じる人がいてもおかしくはない。


その代わりにマグロ漁規制などの提案は素早いので、日本の水産関係者にとっては嫌いな団体の一つだろう。
ということで、こういったWWFの暗部を暴くようなドキュメンタリーは、一部の日本人は歓迎しているかもしれない。

私はドイツ語が理解できるので、ドキュメンタリーとWWFの反論の両方を把握できるが、大半の日本人には無理だろう。
ということでWWFジャパンには、今回のドイツでの騒動の概要について、日本語で解説するように依頼しておいた。


追記(6月30日):
WWFジャパンでは既にこのドキュメンタリーの内容を把握していた。
現時点では、ドイツとスイスのドイツ語圏での放映のみなので、WWFドイツが代表して反論を公開している。
このドキュメンタリーは日本版の予定がないため、WWFジャパンではこの問題を現時点では静観し、自身の自然保護活動の内容説明に集中しているそうだ。
追記(7月23日):
WWFドイツでは、このドキュメンタリーに対する反論のページを更新している。
WWFジャパンでは取り上げないそうなので、ドイツ語で情報を確認してほしい。
www.wwf.de/themen/huismann-kritik-pakt-mit-dem-panda-faktencheck/der-pakt-mit-dem-panda-im-faktencheck/

(最終チェック・修正日 2011年07月23日)

pointieren
I 他 (h) 鋭く<先鋭化>する,強調する

III 過分・形 強調<先鋭化>された,機知のある,才気煥発な;(しゃれに)落ちのある;(表現などが)要点をおさえた,的確な

Den von Huismann pointiert formulierten Vorwurf der Industrienähe hat man beim WWF 
über die Jahre immer wieder hören müssen. Die Organisation setzt auf Kooperationen, 
so prangt etwa das WWF-Logo auf einem Joghurtbecher von Danone, der aus Biokunststoff 
hergestellt wird.
フイスマンにより強調して表現された企業寄りという非難は、WWFに関して長年に渡って何度も聞かされてきたことである。例えば、ダノンのバイオプラスチック製ヨーグルト容器にWWFロゴが目立つように、WWFは提携している。
("Vorwürfe gegen den WWF: Sturm im Pandaland", SPIEGEL Online, 23.06.2011,
www.spiegel.de/wissenschaft/natur/0,1518,770184,00.html

verhelfen* verhalf/verholfen
自 ((jm. zu et.3)) (…を)助けて(…を)取得させる
jm. zum Sieg verhelfen …に力をかして勝利を得させる

Ursprünglich hätten die Fördermittel Katastrophenopfern3 zu neuen Arbeitsplätzen3
verhelfen
sollen.
本来この助成金は、災害被災者が新しい職場を得られるように助けるはずだったのに。
("Nach Erdbeben- und Tsunamikatastrophe: Japaner geben Hilfsgelder für Schildkrötenzählung
aus", Süddeutsche Zeitung, 03. Juni 2013,
www.sueddeutsche.de/politik/nach-erdbeben-und-tsunamikatastrophe-japaner-geben-hilfsgelder-fuer-schildkroetenzaehlung-aus-1.1686928


Huismann dokumentiert, dass der WWF offenbar zweifelhaften Unternehmen3 zu
"Nachhaltigkeitszertifikaten"3 verhilft.
見たところ評判の良くない企業をWWFは助けて「持続可能性証明書」を取得させていることを、フイスマンはドキュメンタリーで示している。
("WDR-Recherchen über den World Wide Fund For Nature: WWF und die Industrie -
der Pakt mit dem Panda", Süddeutsche Zeitung, 22.06.2011,
www.sueddeutsche.de/medien/wdr-recherchen-ueber-den-world-wide-fund-for-nature-wwf-am-tisch-mit-monsanto-1.1111269

参考: ドキュメンタリー番組を放送したWDRの番組予告と、この番組に対するWWFドイツの反論、そしてフイスマン監督へのラジオブレーメンのインタビューは、それぞれ次の通り。
www.wdr.de/unternehmen/presselounge/programmhinweise/fernsehen/2011/06/20110622_pakt_mit_dem_panda.phtml
www.wwf.de/themen/huismann-kritik-pakt-mit-dem-panda-faktencheck/der-pakt-mit-dem-panda-im-faktencheck/
www.radiobremen.de/funkhauseuropa/sendungen/nova/audio62348-popup.html

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