2011年09月

文章を書くときには、手書きであっても、ワープロソフトなどを使っていても、いつも誤字・脱字の問題が生じる。
ワープロの変換ミスの話はよく聞くが、手書きでも字を書き間違えることはよくある。

それに、文章の構成があまりに個性的なため、一体何を言いたいのか理解できないこともある。
何年か前に、留学希望者の手紙の翻訳依頼があったが、内容が理解できずに翻訳不能でキャンセルしてもらったことがある。
また、独立行政法人のプレゼン資料や、○○原発立地予定地の環境アセスメント報告書などでは、回りくどい言い方が多いため、その官製日本語とも言うべき言葉を、一度通常の日本語に変換しなければならない。

私の本業は有機合成研究であるが、臨時的な業務の一つとして、社内報の編集を手伝うことがある。
手伝うというと簡単なようだが、実は他人の代理で原稿を2回書いたことが一番の貢献である。
コラムを依頼した社員が、1か月も余裕があったのに、締切日直前に書けないと言い出したので、私が代筆したのだ。
今後も同様の事態が考えられるため、いつでも代筆できるように、このブログのようにネタを常に集めている。

コラムでは、自分が好きな話題について書くので、それほど辛くはないが、他人の文章のチェックは苦労する。
単なる誤字・脱字ならば、本人に連絡して確認するだけでいいが、文章が意味不明の場合は、本人のプライドを傷つけないように配慮しながら問い合わせメールを書かねばならない。


少々脱線したので、メールでの変換ミスの
話題に戻そう。

原稿のチェックが終了したので、本人に最終確認の依頼メールを送ったところ、変換ミスを含む返事が来た。
「…締切を2、3日二場してくれませんか」と、締切日について何かしてほしいという依頼のようであった。

二場」という部分について、本人に問い合わせてもよかったが、何と書きたかったのか推測することにした。
いろいろと考えているうち、たいていの人がローマ字入力をしていることに気付いた。
私は、直接かな入力をしているので、入力方法について検討することを忘れていた。

そこで、「二場」を「にば」と読むことにして、これをローマ字にすると、「NIBA」となる。
次にN・I・B・Aの周辺のキー配列を見て、タイプミスの可能性を考えた。
すると、Iの隣はOなので、「NIBA」ではなく、「NOBA」とすれば、意味のある文になることに気付いた。

つまり、「…締切を2、3日延ばしてくれませんか」という、延期の依頼メールだったというわけだ。

変換ミスに慣れている人ならば、このくらいならすぐに判断できたかもしれないが、私は重要な合成実験の合間にメールを読んでいるので、それほど集中して考えることはできない。
試薬を加えて1時間待つなど、ちょうど手が空いた時に、先ほどのようにキー配列を見てタイプミスの可能性を探ったりする。

そう言えば、TV会議システムの説明会資料に、「設定の詳細は、使用のパソコンの取扱説明書をご覧ください」とあった。

部署内だけで使う文書ならば、「後で修正版をフォルダに入れておきます」と言えば済むが、社外向け資料での誤字は恥ずかしい。
私は一般社員だが、社外向け資料の執筆を依頼されることもあるので、細心の注意を払って推敲することにしよう。


vor|weisen* wies vor/vorgewiesen
他 (h)
2 (自分の知識・能力などを)示す,披露する

Jetzt kann das Planet Hunters genannte Projekt einen ersten Erfolg4 vorweisen
Den Teilnehmern könnte die Entdeckung von zwei extrasolaren Planeten gelungen sein.
いまや、プラネット・ハンターズと呼ばれるプロジェクトは、最初の成果を披露できる。プロジェクト参加者が、太陽系外惑星2個の発見に成功した可能性があるとのことだ。
("KEPLER: Planet Hunters entdecken erste Planeten", astronews.com, 27. September 2011,
www.astronews.com/news/artikel/2011/09/1109-031.shtml

9月22日からローマ法王ベネディクト16世(ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー(Joseph Alois Ratzinger))が、母国ドイツを公式訪問している。
メルケル首相はプロテスタントだが、ローマ法王はバチカン市国の国家元首でもあるので会談し、訪問を歓迎する公式コメントを発表している。
www.bundesregierung.de/Content/DE/Mitschrift/Pressekonferenzen/2011/09/2011-09-22-merkel-papst.html

ベルリンではミサの他、連邦議会で演説をし、政治家の倫理観などについて説いた。
www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2011/35768399_kw38_benedict/index.jsp


しかし皮肉にも、カトリック教会での児童虐待事件が次々と明るみになっており、聖職者の倫理観の方が問題だと反論されている。
加えて、議会での演説は政教分離原則に反するなどの理由で、主に野党議員がボイコットした。
www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,787836,00.html

緑の党は、ローマ法王が議会で演説できるならば、次はダライラマ14世も議会に招待すべきだと主張している。
www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,787999,00.html

先日のスペイン訪問時もそうだったが、反カトリック派やカトリック改革派の他、無宗教主義者などが抗議デモをしていた。
一般市民の中でも、財政難のこの時期なのに、法王警備に税金を使うことに反対する人が多かった。
スペイン政府側は、法王訪問時の観光客が増えるので、
警備費用を上回る経済効果があると反論していた。

ドイツでは、昨年のカトリック教会児童虐待スキャンダルがまだ尾を引いていて、法王が正式に謝罪することを要求して、法王を国際犯罪者として告訴している団体もある。
ということで今回のドイツ訪問では、性的虐待犠牲者の慰問も日程に含まれている。

そして宗教改革で有名なルターが学んだエアフルト訪問では、ミサ会場周辺から、エアライフルを使用したと思われる発砲があり、容疑者が逮捕されている。
www.spiegel.de/panorama/gesellschaft/0,1518,788145,00.html
www.mdr.de/thueringen/mitte-west-thueringen/papstbesuchzwischenfall100_zc-bbe278c7_zs-433c639c.html

エアフルトの大聖堂前の広場に設営されたミサ会場付近は、朝から道路が封鎖され、多数の警察官を動員して監視していた。
ミサ会場には午前4時頃から参加希望者が集まり、警備担当者が所持品検査などのセキュリティーチェックを行っており、長蛇の列ができ始めていた。

すると、午前7時15分から8時までの間に、エアライフルまたはエアガンと思われる発砲があり、警備員1名が脚を負傷した。
警察の捜索により、会場から約1km離れた屋根裏部屋の窓から発砲されたとわかり、そして容疑者が逮捕された。
容疑者やエアガンについての情報はまだ公開されていないが、ミサが始まる前に容疑者を逮捕できたため、法王にもミサ参加者にも何も起きなかった。

バチカンやバチカン放送が発表する記事では、ドイツ訪問中の反対運動やトラブルについては、なぜか書いていない。
ローマ法王のミサでの説教の他、ユダヤ教やイスラム教の指導者との会談など、バチカン視点でのニュースばかり。
www.vatican.va/holy_father/benedict_xvi/travels/2011/index_germania_en.htm
www.oecumene.radiovaticana.org/ted/articolo.asp

25日までの訪問日程中、危惧された大規模デモなどの混乱も少なく、法王を暴漢が襲うような事件もなく、比較的穏便に済んだようだ。
私がドイツ留学中には、ヨハネパウロ2世のパレード時に全裸の男性が飛び出してきて、大勢の警官に取り押さえられたという事件があった。

保守派のベネディクト16世を嫌う勢力は、カトリック改革派にも多数存在するので、常に命が狙われていると言ってもよいだろう。
バチカン内の公園を法王が散歩する前には、どこかに誰か隠れていないか、爆弾などがないかどうか、全てチェックしている。

ところで、今回の法王訪問の警備費用とミサ参加者などが現地に落とした金額の比較や、ジェット機やヘリコプターでの移動による二酸化炭素排出量など、変わった視点での記事があれば探して読んでみよう。

(最終チェック・修正日 2011年09年25日)


古くからあるドイツの企業の大半は、どうしてもナチスとの関わりについてという、暗くそして消すことのできない歴史を持っている。
戦争捕虜以外にも民間人を強制労働させたり、ユダヤ人の財産没収に協力するなど。
ナチスに協力した事実についてドイツ企業は、第三者による調査に基づく公式声明を出し、国際企業としての説明責任を果たそうとしている。

日本では、「中国人などの強制労働はなかった」と言い張る人たちがまだいるが、ドイツに学ぼうという意思はないのだろう。
ただしドイツでも、過去の負の歴史について、なるべくイメージダウンにならないように、余計な工作をする企業もあるようだ。

ドイツのファッションブランドの一つ、ヒューゴ・ボス(HUGO BOSS)は、会社沿革でナチスとの関係について説明している。
1924年に Hugo Ferdinand Boss が Metzingen に HUGO BOSS AG を設立した。
その後 Boss はナチス党員となり、ナチス親衛隊やヒトラーユーゲントも含めて、ドイツ軍用の軍服のデザインと生産を行った。
そして縫製工場などでは、フランス人やポーランド人など140名の強制労働者(主に女性)を使用し、さらに40名のフランス人捕虜も強制労働させた。

依頼を受けて調査した Roman Köster は、「Hugo Boss, 1924-1945. The History of
a Clothing Factory During the Weimar Republic and Third Reich
」 という書籍の出版を許可されている。
www.chbeck.de/productview.aspx
group.hugoboss.com/en/history_study.htm
group.hugoboss.com/de/history_study.htm

しかし、今回の調査依頼は2回目のもので、1999年に依頼した1回目の調査は、なぜか非公開扱いとなった。
この背景について Süddeutsche Zeitung が取り上げている。
ちなみに、記事中に商品の写真があるが、意図的に「茶色」を選んでいる。
それは茶色を意味するドイツ語 braun には、「ナチの」という軽蔑を込めた形容詞としての用法があるからだ。
www.sueddeutsche.de/wirtschaft/nazi-vergangenheit-von-hugo-boss-braune-hemden-1.1146339

今回の調査をした Roman Köster は、HUGO BOSSから資金援助を受けたが、調査内容については影響を受けていないと言っている。
報告そして著書で、強制労働者や捕虜の強制労働について取り上げているが、この内容については1回目の調査報告でも取り上げられている。

1回目の調査は、Elisabeth Timm が担当したが、副題にあるように強制労働に関するドキュメンタリーということで、強制労働が若干強調された報告となっていた。
Hugo Ferdinand Boss (1885-1948) und die Firma Hugo Boss. Eine Dokumentation.

調査を依頼したのに会社側は、何も理由を説明することなく、この報告書を非公開扱いとした。
推測では、強制労働を少し強調しすぎた Timm の報告は、期待した内容ではなかったようだ。

この不当な扱いによって研究成果の公開を阻まれた Timm は、代わりに自分のHPで、PDFファイルとして公開している。
PDFのURLに「metzingen-zwangsarbeit(メッツィンゲン-強制労働)」を入れているのは、抗議の意味かもしれない。
euroethnologie.univie.ac.at/index.php
www.metzingen-zwangsarbeit.de/hugo_boss.pdf

ざっと読んでみたところ、会社側にとって何か都合の悪い事実が、特に強調されているとは思えなかった。
今回出版された2回目の調査を読んでいないので比較できないが、報道によれば内容にそれほど違いはないそうだから、やはり謎が残る。
目次を比較すると Timm の報告が強制労働を中心にしたのに対して、Köster はバランス良く各項目を記載したようだ。

創業者の Boss は戦後、強制労働に対する罰金をきちんと支払っているし、「ヒトラーの専属縫製係」という噂は既に否定されているので、既知の事実をまとめた Timm の報告書が葬られた理由は、やはり私には理解できない。
その報告書を受け入れる心の準備が、10年以上前の1999年の時点では、経営陣にはまだなかったのかもしれない。

これからもドイツでは、企業だけではなく国民全員が、ナチス時代の負の遺産を認識・理解し、再発防止の強い意志を持ち続けることが求められるだろう。
一方日本では、過去の残虐行為や強制労働はなかったことにしようという歴史修正主義者が、たびたびメディアに登場するから、だまされないように気をつけたいものだ。


死海は宗教的意味の他に、地表で一番低い位置にあることや、海水よりも塩分濃度が高いこと、または泥パックエステなどがあるリゾート地としても有名である。

そして環境問題の観点では、湖面が毎年約1メートル低下していることから、死海の消滅が懸念されている。
死海の水位回復に必要な水量は既に試算されており、紅海から運河を引いて海水を補給する計画も提案されている。

死海の方が海抜が低いため、その落差を利用した水力発電も可能となる。
その電力で海水の一部を淡水化し、生活用水や農業用水に利用すれば、ヨルダン川などの水源を保全できるだろう。

しかしその運河によって、砂漠に生息する動植物に影響が出ると警告されており、死海の水位回復は単純な課題ではない。


死海という名前の由来について、塩分濃度が高すぎて生物がほとんど生息できない塩湖だから、という説もある。
ただ、淡水の湧水がある一か所では、魚類が生息しているそうだ。
www.kokusai-kyoiku.or.jp/cat08/


また、これまでの調査では、緑藻類ドナリエラや、古細菌の高度好塩菌(ハロバクテリア)が確認されている。
しかし、湖底の様子や生態系の調査が足りないため、マックス・プランク研究所がイスラエルのベングリオン大学と共同で、2011年10月に潜水調査を行った。
すると、淡水の湧水が複数個所で見つかり、また微生物のサンプル取得にも成功した。
研究所のプレスリリースと、潜水調査の様子の動画は次の通り。

www.mpi-bremen.de/Quellen_des_Lebens_im_Toten_Meer.html
www.youtube.com/user/MPIMarinMicrobiology

この研究成果を報じた SPIEGEL Online と、Jerusalem Post の記事は次の通り。
www.spiegel.de/wissenschaft/natur/0,1518,787784,00.html (ドイツ語)
www.jpost.com/Sci-Tech/Article.aspx (英語)

ドイツとイスラエルの共同研究と言うと、ホロコーストを知っている人の中には違和感を持つ人がいるかもしれないが、戦後ドイツの信頼回復の努力、そしてヴァイツゼッカー元大統領の演説が、両国の関係改善を進展させたと私は思っている。

今回の潜水調査では、最新設備を使って湖底を詳細に調査して、淡水の湧水を複数個所で新発見した。
そしてその湧水周辺では、微生物がマット状に堆積するほど大量に生息していることがわかった。
動画でも湧水と、サンプル採取時に舞い上がる堆積物がよくわかる。

海水の約10倍という塩濃度であっても、淡水の湧水付近では局所的に濃度は薄くなっているため、微生物が大量に生息可能になっていると思われる。
まだ微生物の分類などの詳細は報告されていないが、これからDNA分析なども含めて、論文が発表されるだろう。

死海の湖底に、実際にどれだけの数の湧水地点があるのか、それはまだ不明である。
そのため湖底の湧水が、死海の水収支にどれだけ影響しているのか、それもまだ不明のままである。
まあ、死海の水位は毎年下がり続けているので、人間がヨルダン川から奪った水を補うほどではないことだけは確かだろう。

このように、地球上のことなのに、まだまだわからないことがたくさん残っているのだから、科学者が取り組むテーマは尽きることがない。
そして、人間側の勝手な常識で、「生物が生息できない死海」というイメージを作ってはならないことも学んだ。
生物多様性の実例として、死海という厳しい環境でも生息できる生物が多数存在していることを知ってほしい。


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