2011年12月

ドイツのジーメンスグループ傘下のジーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティクス(Siemens Healthcare Diagnostics)は12月28日に、医療機関向け妊娠検査薬キット Clinitest hCG のリコールを発表した。
出荷済みの15ロット分で、検査結果が擬陽性となる不具合が発覚したためで、世界中で100か所以上の医療機関が対象になっているという。

ジーメンス社は12月31日になってもプレスリリースを出しておらず、製品紹介ページもそのままである。
www.siemens.com/press/de/index.php
www.medical.siemens.com/webapp/wcs/stores/servlet/ProductDisplay~q_catalogId~e_-111~a_catTree~e_100001,1023069,1028367~a_langId~e_-111~a_productId~e_181491~a_storeId~e_10001.htm

代わりにロイターの英語記事とドイツメディアの記事、そしてフランス保健製品衛生安全庁(Afssaps)の通知を引用する。
www.reuters.com/article/2011/12/30/siemens-recall-idUSL6E7NU15G20111230
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/0,1518,806406,00.html
www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5jJLAFTDurXt7gCrxgl1gT5yVQawg
www.afssaps.fr/Infos-de-securite/Retraits-de-lots-et-de-produits/Reactif-Clinitest-hCG-SIEMENS-Rappel-de-tous-les-lots

www.afssaps.fr/var/afssaps_site/storage/original/application/1ac66796898c95c13fe32c4f94d4d5aa.pdf

Afssaps では2008年にも、この検査薬キットの不具合について警告している。
www.afssaps.fr/Infos-de-securite/Retraits-de-lots-et-de-produits/Retrait-de-lots-de-reactif-Clinitest-hCG-cassettes-SIEMENS/(language)/fre-FR
妊娠検査薬キットでは、黄体ホルモンの分泌を継続させる hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を検出している。
hCG は、受精卵の着床後に分泌されるため、妊娠判定では一番利用されている。

検査薬キットでは、検出感度や精度の信頼性だけでなく、使用方法が不適切な場合にも、擬陽性・擬陰性の問題がいつもついてまわる。
ただしジーメンスの Clinitest hCG は医療機関専用なので、使用方法や判定が間違っていたという可能性は低いはずだ。
ということで、単なるロット間誤差ではない、何かがあったと思われる。

現時点では、「擬陽性になる場合が見られた」という情報だけなので、不具合の原因についてはわからない。
出荷前に抜き取り検査はしているはずだが、それでも再び欠陥ロットが出荷されたため、問題のロットを全て回収して返金したとしても、ジーメンス社の信用失墜は避けられないかもしれない。

検査薬キットでは元々、100%の信頼性は保証されていないので、1回だけの検査で結論を出さないものだ。
すると今後は、複数の検査薬キットで比較したり、血液検査なども含めないと、信頼性は確保できないと考える人も増えるだろう。

nach|empfinden* empfand nach/nachempfunden 接II empfände nach
他 (h)
2 ((et.4 jm. <et.3>)) (芸術作品などを…に)ならって作る
Das Gebäude ist der Form3 und Dynamik3 einer Spiralgalaxie nachempfunden
この建物は渦巻銀河の形状と躍動感を取り入れて建てられた。
("Begegnungen in der Galaxie", Max-Planck Geselschaft, 19. Dezember 2011,
www.mpg.de/4688781/Haus_der_Astronomie

冥王星(Pluto)の表面に存在する化学物質のドイツ語記事を読んでいたところ、固有名詞の2格について学ぶことになった。
www.astronews.com/news/artikel/2011/12/1112-035.shtml

Die Oberfläche Plutos ist von gefrorenem Methan, Kohlenmonoxid und Stickstoff bedeckt.
冥王星の表面は、凍結したメタン、一酸化炭素および窒素で覆われている。】

固有名詞が2格付加語となる場合は、通常は前置されて、「Plutos Oberfl?che」とする。
ただし名詞に冠詞類が付いている場合には、引用したように後置されて、「die Oberfl?che Plutos」となる。

別の個所では2格の代わりに、【… die rötliche Verfärbung von Pluto …】となっていたが、
「des Plutos」は使わないのだろうか。
文章をいろいろと検索してみると、「des Plutos」と「des Pluto」の2種類が使われていたが、
des Pluto の方が多いようだ。
新聞記事や研究機関の発表など、例文として利用できるレベルの文章なのに、これは困った。

次の Süddeutsche Zeitung の記事では、後置した Plutos の他に、des Pluto が出てくる。
www.sueddeutsche.de/wissen/hubble-blick-ins-weltall-pluto-erroetet-1.141465
【Das Erröten Plutos ist laut Nasa wahrscheinlich damit zu erklären, dass auf dem
sonnenbeschienenen Pol des Pluto Eis schmolz und am anderen Pol gefror.】

次のESO(欧州宇宙機関)のプレスリリースでも des Pluto が使われている。
www.eso.org/public/germany/news/eso1142/
【Eris ist demnach von der Größe her nahezu eine perfekte Zwillingsschwester des Pluto
und scheint eine stark reflektierende Oberfläche zu besitzen.】

次の Frankfurter Allgemeine Zeitung の記事では、des Plutos が出てくる。
www.faz.net/aktuell/wissen/weltraum/neues-planetensystem-zwangsabstieg-fuer-pluto-1359539.html
【Charon soll ein Mond des Plutos bleiben und nicht in die Liga der Zwergplaneten
aufgenommen werden. 】

ということで、私が使っている「独和大辞典第二版(小学館)」と「マイスター独和辞典(大修館書店)」で調べてみると、2格語尾変化はないと記載されている。
また、独和辞典で疑問があった場合に使う DUDEN Deutsches Universalwörterbuch(第6版)によると、Pluto は男性名詞で、「冥王星」の意味のときの2格語尾は Plutos
2Pluto, der; -s: kleinster, (von der Sonne aus gerechnet) neunter, äußerster Planet
unseres Sonnensystems.】
(注:2006年発刊のため、冥王星は太陽系第9惑星となっている。)

しかし、オンライン検索の DUDEN-suche で調べると、2格は des Pluto と異なっていて、さらに困った。
www.duden.de/rechtschreibung/Pluto_Planet
【früher als (von der Sonne aus gerechnet) neunter, äußerster Planet
unseres Sonnensystems angesehener Zwergplanet

Genitiv   des Pluto

日本で発刊された独和辞典や、オンライン独英辞典などで疑問点があるとき、私は DUDEN の記載を信頼することにしている。
ところが今回のように、DUDEN の独独辞書同士でも記載が異なるならば、情報が更新されているオンライン検索版の方を信じて、des Pluto を使うべきなのかも。

新正書法を調べても、des Plutos と des Pluto のどちらが正しいのか、残念ながらわからなかった。
近いものを挙げると、外国の地理的名称で -s を省略することが多いそうだから、Pluto も外国の地理名と同様の扱いかも。
もしかすると、一つの単語が男性名詞と中性名詞のどちらでも使われるという、いわゆる「性のゆらぎ」と似たことかもしれない。

言葉は変化するものだから、2格支配の前置詞 wegen が、最近では3格名詞支配のように誤用されることも増えた。
他にも、im Begriffe sein という慣用句は、今でもそのまま使うことが多いが、あいまい母音の -e が省略された im Begriff sein という例も散見される。

DUDEN の辞書は今年に第7版が出版されたので、ユーロ安の今のうちに買い換えるか、CD-ROM版のオンライン更新ライセンスを購入することを検討しよう。

追記(12月31日):
他の惑星名で、例えば天王星 Uranus は s で終わるので、2格ではアポストロフを付けた Uranus' とする。

しかし、このアポストロフを付けていない新聞記事も見かけるので、ドイツ人でも忘れてしまうということなのかも。

(最終チェック・修正日 2011年12月31日)

天然痘は撲滅されたが、アフリカや東南アジアの熱帯地方では、マラリアが未だに主要な病気であり、WHOはHIVと共に重要課題として取り上げている。
特に最近は、地球温暖化に伴って、マラリア感染地域が拡大することが懸念されている。


WHOのマラリア関係のページは次の通りで、2011年のレポートも発表されている。
様々な対策・取り組みが行われており、罹患率は下がっているようだが、それでも毎年65万人以上が死亡している。
www.who.int/malaria/en/
www.who.int/malaria/world_malaria_report_2011/en/index.html

対策の一つは、マラリア原虫を媒介するハマダラカ(特にガンビエハマダラカ、Anopheles gambiae)を撲滅することだ。
以前は殺虫剤を散布していたが、最近は壁に塗料と一緒に塗り付けたり、殺虫剤入りの糸で作った蚊帳を利用している。
しかし食糧難のためか、蚊帳を魚捕りに使って小魚まで取り尽くす人たちがいたため、生態系破壊という別の問題を引き起こしている。

別の対策としては、マラリア原虫そのものを殺す医薬品の開発や、原虫の活動を抑制する抗体ワクチンの開発である。
キニーネの構造にヒントを得て、様々な抗マラリア薬が開発されている。
しかし結局は、原虫が抵抗性を獲得してしまうため、抗生物質と同様に、いたちごっことなってしまうことだろう。

原虫が赤血球に侵入することを抑制する抗体ワクチンが開発され、ケニアでの臨床試験の結果も良好だという。
www.who.int/immunization/newsroom/newsstory_malaria_vaccine_trial_results/en/index.html (WHOのニュース)
www.reuters.com/article/2011/12/20/us-malaria-vaccine-idUSTRE7BJ17W20111220 (ロイター通信の英語記事)
www.nature.com/ncomms/journal/v2/n12/full/ncomms1615.html (論文のダウンロードは有料)

そういった医薬品研究の一方で、ハマダラカがヒトに寄ってくるのはなぜなのか、その原因を解明する研究も進んでいる。
どうやら皮膚常在菌が作り出す化学物質、つまり体臭がハマダラカを引きつけるようだ。

皮膚常在菌を培養したときに作り出す揮発性有機化合物と、ハマダラカの反応を調べた論文は2009年に発表されている。
www.biomedcentral.com/content/pdf/1475-2875-8-302.pdf

ということで、実際の体臭の個人差(体臭の成分組成の違い)、つまりそれを作り出す常在菌の種類や多様性が、ハマダラカの反応に影響すると推測された。
そしてボランティア48人が参加した実験で、特定の皮膚常在菌が多いほど、ハマダラカに刺されやすいと判明した。
PLoS one の論文と、この研究を取り上げた記事は次の通り(英語とドイツ語)。
www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0028991
www.google.com/hostednews/ukpress/article/ALeqM5iBqJBcfkxnIMDEHngsLr8sg5vgiQ
www.spiegel.de/wissenschaft/natur/0,1518,806217,00.html
www.sueddeutsche.de/gesundheit/malaria-der-duft-der-muecken-betoert-1.1245757

ハマダラカを寄せ付ける体臭に関係する常在菌は多様だが、特に Staphylococcus epidermidis が一番関与しているそうだ。
逆に、Pseudomonas aeruginosa が多い人は刺されにくかった。

皮膚常在菌の存在比を変えることは困難だろうから、誘因物質を分解する消臭剤や、ハマダラカが嫌がる物質を混ぜたスプレーが開発されるかもしれない。

3月11日に発生した大地震と、それに伴う巨大津波の被害、そして福島第一原発の事故は、私の精神状態にも大きく影響した。
阪神・淡路大震災で父の実家と親戚が被害に遭ったときよりも、東日本大震災は何倍も衝撃的な印象をもたらした。

子どものときに見た風景が一変してゆく映像が、テレビの報道番組で毎日繰り返し流されたこともあり、2か月くらいは週末に外出する気力もなかった。
実家は内陸にあるため停電程度で済んだが、知人の訃報が届いたり、以前の勤務先が原発に近くて操業停止になったことなど、直接の被害者でなくても心理的打撃を受けた。

そのうち、地震や津波の映像が出たときには、チャンネルを切り替えるようになった。


ひかりTVなどで視聴しているチャンネルの一部では、自然災害や放射線被ばくをテーマにした番組や映画の中止・延期を行ったところもあった。
人気テレビドラマの「24・シーズン8」の放映が延期されたのも、前半部分に核兵器テロのシーンがあるからだと言われていた。
他にも、放射線被ばくのシーンが出てくるため、最終回の放映が無期限延期になった番組もある。


それでも番組の最初に、「放射線被ばくのシーンが出てきますが、製作者の意図を尊重してそのまま放映します」と断っているチャンネルもある。
これならば、その番組を観るかどうか、視聴者側が自分で判断可能だ。

しかしニュースのトップ項目で突然、予告なしに津波の映像を使ったりすると、直接被害者であった人たち、特に子どもたちに対する心理的影響は大きいはずだ。

共同通信の配信記事によると、日本子ども家庭総合研究所が報道各社に対して、津波映像によって子どもたちのPTSDが悪化するという懸念を伝えたという。
www.47news.jp/CN/201112/CN2011122701001539.html

日本子ども家庭総合研究所(東京)は27日、東日本大震災で被災した子どもが、テレビのニュース映像などを見て記憶を呼び起こし、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を悪化させる恐れがあるとして、報道各社に津波の映像を繰り返し放送しないよう文書で求めた。

研究所によると、多くの子どもたちがPTSDを抱えており、映像を見て腹痛や頭痛を訴えたり、夜に寝られなくなったり、怖い夢を見たりするようになる恐れがあるという。

年末年始から来年3月11日にかけて、震災報道が増えるため、注意が必要としている。】

社会福祉法人恩賜財団母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所のHPは次の通りだが、この要請文書については、まだ情報はない。
www.aiiku.or.jp/index.htm

このニュースの直後から、NHKや東京にある民放キー局のプレスリリースを読んでみたが、要請があったその日には用意できなかったのだうか、何も掲載されていなかった。

衛藤隆・副所長(母子保健研究部長)の教職員向けの助言と、日本セーフティプロモーション学会のHPは次の通り。
chiba-hps.org/file/eto_ken
plaza.umin.ac.jp/~safeprom/

家庭だけでなく、教育や医療などの現場で、子どもたちのPTSDに対応しようと努力をしているが、事前の警告なしに突然、津波などの映像を観てしまえば、あの日の恐怖がよみがえって、不眠や体調不良になるのは当然だろう。

BBCなど外国のニュースでは、テロや紛争の現場など、悲惨な映像が含まれている場合、その映像を流す前にキャスターがかならず一言断っている。
日本の放送局に真似をしろとは言わないが、もう少し配慮した方法を考えてほしいものだ。


私の精神状態にもよるが、年末の報道特集番組をできるだけチェックして、配慮が足りない放送局には苦情を伝えることにしよう。

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