2012年07月

学術誌に投稿された論文は、編集部と専門家による審査を経て、新規性などの重要度が認められると掲載される。
論文掲載が認められても、内容が正しいかどうかの保証はなく、追試によって間違いだったと判明することもある。
間違いに気付いた場合、その論文を掲載した編集部に対して意見書を送ったり、追試結果そのものを論文にすることもある。

他にも、自分が著者に入っていない、サンプルを提供したのに謝辞がない、自分の論文が引用されていないなど、様々なトラブルはよくあることだ。
編集部を通して著者と交渉することになるが、直接メールで著者に意見を伝える人もいる。

New England Journal of Medicine に最近掲載された臨床試験の論文の著者に対して、ある医薬・医療器具メーカーが直接メールで、論文内容の修正要求をした。
試験に使った薬品は他社品だが、論文の表記のままでは自社品と誤解されるとのことで、「修正しない場合は、法的措置を取る可能性がある」という内容だった。

論文の主著者で、修正メールを受け取ったのは、デンマーク・コペンハーゲン大学病院の Anders Perner 医学博士
forskning.ku.dk/search/profil/

論文は6月に既にオンライン版で公開されていたが、印刷版の7月12日号では、次のようにタイトルと抄録は修正されている。 
www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204242
【Hydroxyethyl Starch 130/0.42 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】

修正前の論文タイトルは、臨床試験が行われたコペンハーゲン大学病院のサイトに掲載されている。
www.rigshospitalet.dk/RHenglish/Top+menu/News+and+Media/News/News+Archive/Hydroxyethyl+Starch+130+04+versus+Ringers+Acetate+in+Severe+Sepsis.htm
Hydroxyethyl Starch 130/0.4 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis

論文本文の修正個所は不明だが、タイトルと抄録部分で、臨床試験に用いたHES(ヒドロキシエチルスターチ)の表記を、「130/0.4」から「130/0.42」に修正している。

この修正要求をしたのが、ドイツに本社を置く Fresenius Kabi(フレゼニウス・カービ)ということもあり、この裏話は、ドイツの SPIEGEL Online で取り上げられている。
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/hes-von-fresenius-kabi-pharmakonzern-bedraengt-kritische-forscher-a-846611.html

Fresenius Kabi 社のサイトは以下の通りだが、今回の修正要求については何も発表していない。
www.fresenius-kabi.com/index.htm
www.fresenius-kabi.de/ (ドイツ語)
www.fresenius-kabi.jp/ (日本支社)

Perner 教授はメールチェックをしていて、「修正しないと法的手段を取る」という、アメリカ支社の弁護士から届いたメールに驚いたことだろう。
Fresenius Kabi 社からも研究費をもらっているのに、修正を強要するようなメールが突然来るとは思ってもいなかっただろう。

修正要求対象の論文は、B. Braun Melsungen 社のHESである Tetraspan (表示は130/0.42)を使用していたが、タイトルも含めて Fresenius Kabi 社が使っている表示の 130/0.4 と書いてしまった。

METHODS のところで使用した製品名を明記しているし、Disclosure forms をチェックすると、
B. Braun Melsungen 社から臨床試験用に援助を受けたことがわかる。
だから、一般的な表示としても受け入れられている、「130/0.4」でもかまわないと思う。

しかし、論文タイトルに「130/0.4」と書いてあるだけでは、どこの会社の製品なのかは判断できないとも言える。
ということで Fresenius Kabi 社としては、誤解による自社製品 Volven の売り上げ低下を恐れて、論文の修正を要請したと思われる。
会社側は教授への圧力を否定しているものの、リスクが高いHESとは、市場で競合する
B. Braun Melsungen 社の製品の方だと印象付けたいのかも。

抄録の最後には次のようにあるのに、メールの指示に従ったのだから、何も影響を受けていないとは言えないだろう。
【Dr. Perner reports receiving grant support from Fresenius Kabi. 
No other potential conflict of interest relevant to this article was reported.】

ヒドロキシエチル基の平均置換度が 0.4 と 0.42 とで有意差があるのかどうか、という疑問を持つ研究者もいるのは事実だ。

今回は有名学術誌に掲載された論文で、数え切れないほどの医師が読むから、会社側も修正を求めたのだろう
ところが、他の学術誌はそれほど有名ではないためか放置されているので、修正要求をするかどうかは学術誌の認知度が影響しているのだろう。

Pernar 教授のHES関連の論文は、Trials という学術誌にもあり、タイトルに「130/0.4」とあるが、これは訂正を求められていないようで、そのまま残っている。
www.trialsjournal.com/content/12/1/24
【Comparing the effect of hydroxyethyl starch 130/0.4 with balanced crystalloid solution on
mortality and kidney failure in patients with severe sepsis …】

ところで、日本支社のHESの説明では未承認の製品も含めて、以下のように、高い評価を受けていることを紹介している。

HES製剤
Fresenius Kabiは、長年にわたり、代用血漿剤、特にHES(hydroxyethyl starches, ヒドロキシエチルデンプン)製剤の開発を進めてきました。
現在、本邦では分子量 70,000の、低分子HES製剤を販売しています。低分子HES製剤は、日本で数十年に渡り使用されており、効果と安全性の面で非常に高い評価を受けています

そして海外では、分子量 130,000或いは 200,000の、中分子 HES製剤(本邦未承認)を販売しています。
特に、1999年に販売開始された分子量 130,000の中分子HES製剤は、それまでに得られた知識や経験を活かして開発された製剤であり、より良い物理化学的特徴を有し、安全で高品質のVolume Therapyに最適のHES製剤と言われています。】

最適のHES製剤」と記載しているが、HESについては、「Crystalloid Versus Hydroxyethyl Starch
Trials (CHEST)」という、安全性に関する大規模な比較試験が現在も継続している。
clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00935168

会社の研究費を使う研究者の論文よりも、できるだけ公的機関による臨床試験の結果を参考にして、日本での導入を検討してほしいものだ。
医薬メーカーで勤務する者として、リスクがないかのように説明する企業は、どうも信用できない。
SPIEGEL Online の記事でも、サリドマイドのような薬害にならないように注意喚起しているし。

昨年2011年秋に、東京都世田谷区の民家の床下やスーパー駐車場の地中から、放射性物質ラジウム入りのビンが相次いで発見された。
東京電力福島第一原発事故由来の放射性物質による汚染を調査していたら、高線量の場所が見つかり、そこから出所不明のラジウムが出てきて大騒ぎとなった。

海外でも同様の事件はあり、核施設や研究所などの跡地でプルトニウム入りのビンが見つかったこともある。

そしてドイツでは、ミュンヘンの蚤の市で買った古い金属容器に、ラジウムが入っていたことが判明して騒ぎとなっている。


ドイツ語報道は、例えば次の通り。
www.sueddeutsche.de/muenchen/alarm-bei-der-feuerwehr-muenchner-kauft-auf-flohmarkt-radioaktives-geraet-1.1418958

www.abendzeitung-muenchen.de/inhalt.emanator-in-kiste-flohmarkt:-muenchner-kauft-radioaktives-geraet.147136dd-35b5-4b9c-804b-409048f90101.html

44歳の男性は蚤の市で、約100年前と思われる金属容器を見つけて購入した。
その容器を知人に見せたところ、「これは放射性物質が入っている Emanator という容器だ」と指摘されたため、驚いて消防署に持ち込んだ。
警察が鑑定したところ、放射性物質ラジウム226が検出されたものの、健康を害するほどの放射線量ではなかったという。

ラジウム226が崩壊すると、同じく放射性のラドン222になり、これは水に溶ける。
そのため Emanator は1930年代前後に、飲料水やプールの水などにラドン222を溶かす器具として利用された。
リウマチや皮膚病などの治療に効くと言われ、放射能療法という分野で使われた。
ラジウム温泉(ラドン温泉)まで行かなくても、同様の効能が期待できると考えられていたようだ。

健康被害はなかったから良かったものの、まだ100年経たないのに、Emanator という言葉がほぼ死語となっていることが気になった。
その男性の知人が Emanator を知っていたから良かったが、容器の表記が理解できない人ばかりになれば、危険性についても気付くことなく、健康被害のリスクもあった。

つまり、放射性物質だけでなく、保管しているPCBなどの危険物質についても、100年後に理解できない人ばかりになる可能性を考慮して、危険性の表現方法を考えなければならない。



危険性の話ばかり続いたが、この記事を読んで、語学の勉強として役に立ったこともある。
ラドン(Radon)の旧称が、「放射」を意味するラテン語由来の Emanation(エマナチオン)だとか、
Emanatorium が「ラジウム(ラドン)療養所」という意味だということを、私は初めて知った。

新しい物がどんどん出てくる時代だが、古い物に関する正確な情報も、すぐに検索・調査できる体勢作りも必要と感じた。

ドイツの大学ではセメスター制(ドイツ語発音ではゼメスター)を採用している。
半年間ずっと講義をしているわけではなく、4月開始の夏ゼメスターでは、夏休み前の7月下旬には最終試験も終わる。
ということで、無事に夏ゼメスターを乗り切ったことを祝って、いろいろな打ち上げパーティーをする。

ゲーテの化学実験に助言をしていたことで有名なイェーナ大学(Friedrich-Schiller-Universit?t Jena)でも、夏ゼメスターの打ち上げパーティーがあったが、火事が起きて学生13人が火傷を負い、大学病院に搬送された。

そのうち3名は女子学生で、顔と上半身、そして両腕に火傷を負ったという。
大学病院で応急処置をした後、重度の火傷をした女子学生は、専門病院があるハレとライプチッヒにヘリコプターで搬送された。
現時点で命に別状はないとのことだ。 

イェーナ大学の公式のプレスリリースは次の通り。
www.uni-jena.de/Mitteilungen/PM120719_Brand_Pharmazie.html

事故があった薬学部では昔からの伝統として、実験実習で使った白衣をゼメスター打ち上げパーティーで燃やすそうだ。
白衣はバーベキューコンロや、ドラム缶状の金属容器に入れて燃やす。

今回のパーティーには100人以上の学生が参加していて、事故は22時頃に起きた。
伝統行事ではあるものの、取材に対して大学側は、学生が独自に実施している行事という説明をしている。

木綿製の白衣が燃えやすくなるように、ある学生がエタノールを染み込ませようとした。
ただ、エタノール入りビンの口を開けたまま火に近づいたため、空気と混合したエタノール蒸気に引火して、爆発的に炎上した(Verpuffung、突燃)。
その学生はパニックとなり、炎を噴き出しているビンを投げ捨てたため、飛び散ったエタノールが自分だけでなく、近くにいた学生にもかかり、そして火傷をした。

警察・消防による現場検証と目撃証言の調査は継続中。
動画撮影していた学生もいたようなので、事故場面の映像を探して、解析を検討するようだ。
伝統行事ではあっても、路上で白衣を燃やすことを、誰が許可したのかも調査する予定。

エタノールの沸点は約78℃で、常温では液体であっても、一部は蒸気になっている。
そして、ある割合で空気と混合すると、爆発の危険性が高くなる。
実験のときには注意していても、打ち上げパーティーという開放感を味わう場では、安全意識は欠如してしまうものだ。
それに、いたずら好きの学生はどこにでもいるもので、エタノールで炎に勢いをつけて、盛り上げようとしたのかもしれない。

家庭内でも、スプレー式の消毒用エタノールを使用することがある。
水を混ぜたエタノールでも着火するので、ガスコンロの火を消すなど、「火気厳禁」の注意事項を再確認してほしい。


日時などを正確に記すことはできないが、今月のある朝、通勤で最寄駅に向かう途中、一時停止無視のBMW116iと接触した(より詳細な種別は不明)。

私は体を守るために、受け身を取るような形で両腕を前に出し、一番強く当たった左手首を負傷した。
加速しながらショートカットで右折してきたBMWは、私に接触後に止まることもなく、すぐ先を左折して逃げてしまい、ナンバーを確認することはできなかった。

110番通報で車種と色、ドライバーの特徴を伝えて手配してもらったが、ナンバーが不明のためか、該当するBMWはまだ見つかっていない。
相手不詳ではあるが、「ひき逃げ事故」として届けるため、会社の近くの整形外科で診察してもらった。

まずはレントゲン撮影をして、骨折の有無を確認した。


骨折はしていないため、「左手首関節挫傷・全治5日」という診断書を書いてもらった。
そして処方された鎮痛消炎剤を塗って、週末は様子をみることにした。

診察に診断書と薬を加えた医療費は約5200円で、警察署から帰宅するためにかかった交通費は
約400円。
私が加入している傷害保険では、通院日額3000円が出るものの、ひき逃げ犯のBMWドライバーを探し出して、医療費だけでも払わせたい。
ということで、警察署のひき逃げ捜査担当部署に、私の案件が引き継がれた。

手首のねん挫くらいで、ひき逃げ事件にするとは大げさだ、と思う人もいるかもしれない。
私は当たり屋ではないので、事故直後に被害届を出しておかないと、相手が後から何をしてくるかわからない。

私の運転技術は高度ではないものの、ドイツならば当然の運転マナーを身につけていると自負している。
だから帰国後も、留学前と同様に、頑固にドイツ流運転をしている。
「ここは日本だ。そんなに言うならドイツに帰れ。」と怒鳴った人もいたが、日本人は道路交通法を自己流解釈しすぎである。

まあ、ドイツでも変なドライバーはいるのだが、それでもドイツ車を運転する人だけでも、ドイツ流運転マナーを学んでほしいし、ディーラーも運転マナー向上の活動を強化してもらいたい

日本人ドライバーの大半は交通規則を守っていると思われるが、信号が既に黄色(基本は停止)なのに加速して交差点に進入したり、一時停止なのに停止線を越えてから止まってみたり、歩行者が渡ろうとしているのに横断歩道前で停止しないことも多い。

私は頑固に道路交通法を守ろうとするので、他のドライパーからすると邪魔者に思われるようだ。
停止線できちんと止まって追突されそうになった。
横断歩道前で停止しても対向車が止まらず、歩行者がいつまでも渡れず、後続車がクラクションを鳴らした。
高速道路の料金所前や合流個所などで、速度規制に従ってきちんと減速したら、後続車が路肩を使って追い抜いた。

ドイツでは、学校や病院の近くの制限速度が、時速30~40kmになっていることが多い。
この制限区間では、BMWでも、ポルシェでも、フェラーリでも、きちんと減速して守っていた。

速度無制限というイメージが強いアウトバーンでも、勾配がきつい下り坂が長く続くときは、普通車は時速60km制限になるし、大型車なら時速40km制限となる。
制限速度など無視して時速100km以上で疾走している、日本の大型トラックとは正反対だ。
安全運転を徹底している会社もあるものの、危険なトラックに出会ったときに、その運送会社に抗議電話したところ、「急いでいるんだ。何が悪い。」などと怒鳴られたこともある。
業界団体の主張では、物流の9割近くがトラック輸送とのことなので、道路上では自分たちが優先されるべきだと考えているようだ。

私にとっては運転しにくい日本ではあるが、前述したように、ドイツ車を運転する人だけでも意識を高めてほしい。
私が好きなVWを取り上げた雑誌では、ドイツ人の運転マナーを学ぼうというエッセイもあったし。

最後に、ひき逃げ犯が運転していたBMWの名誉のために、安全運転技術などの講習会について紹介しておこう。
BMWドライビング・エクスペリエンス」という活動だ。
www.bmw.co.jp/jp/ja/brand/activities/driving/training_overview.html

加えて、点検や車検、展示会の案内のDMに、BMWオーナーの有名人が書いたドイツの運転マナーについてのコラムでも同封して、一人でも安全なドライバーを増やす活動をしてほしいものだ。


化学・医薬メーカーというのは、日本でも海外でも、公害や薬害の元凶という、悪者として扱われることが多い。

工場では危険な物質を大量に用いるため、インドのボパール事故のような大惨事に至らなくても、漏洩や爆発といった事故のリスクは必ずある。
実験室では少量の合成ではあるが、新規化合物が強力な発がん性を持っているという、予想外のリスクもある。
10年以上前には普通に使っていた化合物なのに、その後の研究で変異原性が指摘されて驚いた、という経験を私はした。

医薬品の臨床試験では、試験結果をねつ造したり、被験者を発展途上国のスラム街で集めたり、医療援助という名目で小児に適用不可の薬を配布してデータを集めるといった、コンプライアンス違反が指摘されることがある。
また、新薬認可後でも医師を買収して、副作用の報告をさせなかったり、投与量をわざと増やしたり、不要な薬の処方箋を出すように仕向けているとも言われる。
さらに海外の子会社(ペーパーカンパニー)を使って節税していることも批判されることがある。


悪者はどこの組織にもいる、と言ってしまえばそれまでだが、高いコンプライアンス意識を持ってまじめに働いている社員のモチベーションは低下してしまう。

GSKに課された罰金30億ドルのニュースを取り上げるのは少々遅いが、科学誌 Nature のエディターが11日付け(オンライン版)でコメントを発表しているので、合わせて紹介したい。

日本語ニュースとして朝日新聞とAFP日本語版、英語報道としてBBCを引用し、Nature の記事は最後にリンクを示した。
www.asahi.com/international/update/0703/TKY201207030114.html (朝日新聞・具体的な医薬品名なし)
www.afpbb.com/article/life-culture/health/2887564/9212812 (AFP日本語版)
【AFP:米司法省は2日、医薬品の違法な販促活動などをめぐり、英製薬大手グラクソ・スミスクライン
(GlaxoSmithKline、GSK)が罰金などとして計約30億ドル(約2400億円)の支払いに応じたと発表した。医薬品関連での同様の支払額としては米史上、最高額だという。

司法省によると、グラクソ・スミスクラインは市販薬3種類について不正な販売促進活動や、データの隠蔽・虚偽報告を行っていたことを認めた。

同社は抗うつ薬パキシル(Paxil)、同ウェルブトリン(Wellbutrin)について、未成年への処方など米医薬品規制当局が承認していない使用法を宣伝していた。また糖尿病治療薬アバンディア(Avandia)については一部のデータを報告せず、安全性や効能に関して実証されていない内容をうたっていた。
…】

www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-18673220 (BBC)
www.nature.com/nature/journal/v487/n7406/full/487139b.html (Nature487, 139 (12 July 2012),
 Editorial)

GSKのプレスリリースは次の通り(USAサイトの方が詳細版になっている)。
www.gsk.com/media/pressreleases/2012/2012-pressrelease-1164663.htm
us.gsk.com/html/media-news/settlement-press-kit.html

罰金の支払いで利益が減るし、信用も失うわけだが、あまりにも巨大企業のため倒産することはまずないから、株価も下がらない。
いつものことだが、政治家への寄付金が功を奏しているし、足りなければ社員を削減すればいいと経営陣は考えるだけだ。


最近は大手医薬メーカーであっても、巨大な利益をもたらす大型新薬(ブロックバスター)が出なくなっている。
診療試験が進んでから、プラセボとの有意差がほとんど見られなかったり、予想外の副作用で開発中止ということもある。
また、特許切れ後は、ジェネリックメーカーのシェアが徐々に増えるので、定評のある薬でも販売が伸び悩むことがある。

ということで医薬メーカーの営業部門は、コンプライアンス意識を捨てて販売目標の達成のみを目指し、医師の買収なども含めて、不正行為を次々に起こしてしまうのだろう。

今回対象となった抗うつ薬パキシルは、適切な処方であれば、特に問題もほとんど生じず、標準的な治療に用いられる薬である。
ただし未成年者では、有効性がないだとか、自殺リスクの増加が報告されているので、選択肢に入れないのが一般的な対応だ。

海外での報告を考慮して、日本でもパキシルの添付文書には、未成年者への投与について警告を明記してある。
glaxosmithkline.co.jp/medical/medicine/item/paxil_tab10/paxil_tab10.pdf
【海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象としたプラセボ対照試験において有効性が確認できなかったとの報告、また、自殺に関するリスクが増加するとの報告もあるので、本剤を18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。】

それでも、「慎重に検討する」という部分を、異常行動発生率が低いと勝手に判断して、まずは試しに投与してみてから、問題がなければそのまま続けようと考えた医師や営業担当者がいたというわけだ。

GSKはブタインフルエンザ流行時のワクチンでも、返品拒否や副作用の補償免除を取引条件に入れていたことが批判された。
今回の罰金によって、医薬メーカーはやはり悪者というイメージが、一般的に定着してしまうのだろうか。

私の勤務先ではコンプライアンス研修を継続しているものの、毎年何らかの懲戒処分が行われている。
二度と不祥事が起きないことを祈るのみである。

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