2013年07月

(最終チェック・修正日 2013年08月02日)

日曜日の朝、聖歌隊で歌うためにプロテスタント教会に向かっている途中、電車内でメール着信に気付いた。
教会からの緊急連絡かと思ったが、なんと翻訳会社からスケジュールの問い合わせだった。
コーディネーターは忙しいのか、日曜日にも働いているのだ(まあ、交代制だと思うけど)。

今回もドイツ語和訳のチェッカーの依頼であった。
あるメーカーのFAQで、ユーザー登録やスマートフォン用アプリの使い方などだ。

納品日は平日のため、作業時間は長くはとれないものの、予定時間以内に終わりそうだったので受注可能と返事をした。

添付ファイルのワード文書を開いて、ドイツ語原文を移動中にざっと読んでみた。
製品やサービスの名称が出てくるので、日本支社のサイトにアクセスして確認したみたが、日本では未発売のものだった。
英語版はあったものの、FAQの項目が一致していたのは3分の1くらいで、あまり参考にならなかった。

まあ、それでも帰宅前に、ある程度の情報収集をして心の準備ができるので、スマートフォンを利用してよかったと思う。

翌日の月曜日夕方に和訳ファイルが届いた。
ざっと目を通してみて、「これは時間がかかりそうだ」と覚悟した。
文法の解釈は大丈夫なのだが、訳抜けの他にも、タイプミスや漢字変換ミス、訳語の不統一が見つかった。

お金をもらう仕事なのだとわかっていても、「前庭条件」や「段ロード」といったケアレスミスの修正が頻発すると、他のチェックに時間をまわせなくなってしまう。
翻訳者は時間的余裕がなかったのだろうが、推敲にも1日かけてほしかった。

ページが変わると訳語も変わっていたので、訳語の統一も私が考えることになった。
日本語表現が適切かどうかを考える時間が減ってしまう。
初日は2時間くらいで疲れて寝てしまった。

納期には間に合ったものの、作業時間は予定を2時間超過して10時間となった。
このチェッカーの仕事は時給制のため、料金は源泉徴収後でも1万円を超えるが、翻訳会社の取り分が減るのでどうなんだろうか。
まあ今回は、和訳をやり直すことはほとんどなかったので、まだましな方だったのかもしれない。

ところで、時給制のメリットを今回は感じることになった。
ワード単価で計算することもあるが、和訳の仕上がり具合で作業時間は異なるため、時給制の方が実情に合うと思う。

平日の作業時間が短い副業翻訳者の私にとって、やはりチェッカーの方が受注しやすいのかもしれない。
このブログでも、ニュース記事や字幕などの誤訳について指摘しているから、チェッカーが向いているのかもしれない。

8月は夏休みを取るが、依頼があれば人助けだと思って受注しよう。

追記(8月1日):
納品して安心していたら、クライアントから用語集が届き、過去の和訳と合わせてほしいとの要望が来た。
ということで帰宅してから、用語集を見ながら、修正作業を3時間行った。
用語集とは言いながら、過去の各国語訳を集めただけなので、和訳の候補が複数あるなど、余計に困惑した。
作業が追加された分、翻訳料金も増えるが、今回のような対応は疲れるので、できれば避けてほしいものだ。

追記2(8月2日):
仕事が終わって帰宅しようとした時、スマートフォンにメールが届いていることに気付いた。
何と、クライアントから別の用語集が届き、もう一度修正作業をしてほしいとのことだ。
睡眠時間を1時間半も削ったのに、昨夜の作業は一体何だったのだろうか。
追加料金をもらわなければ、翻訳会社の利益もなくなってしまうのではないだろうか。

昼休みにスマートフォンを見ると、先日納品した翻訳会社からメールが来ていた。
クライアントからの問い合わせかと思ったが、新規案件の打診だった。

今回も独文和訳のチェックで、納期は翌日朝となっていた。
原文を確認すると、官庁の文書なので、化学者の私に理解できるのかどうか不安であった。
ただ、ワード数も少ないので、専門用語を確認すれば大丈夫だと思った。

作業予定時間は3時間とのことで、料金は5千円に届かないが、実績づくりも兼ねて受注した。

届いた和訳をスマートフォンで読みながら帰宅した。
電車の中で10分ほどの短時間だが、一度通読することで、読みやすさを確認したり、帰宅後に調査する訳語をあらかじめ探すこともできる。
スマートフォンの活用とまでは言えないものの、メール添付の PDF やワードファイルの内容を確認できるので便利だ。

今回のチェックで一番時間がかかったのは、翻訳者がわからないとコメントしていた専門用語を調査したことだ。
検索してみると、ドイツの法律について解説した研究書や論文が見つかった。
ただ、訳語が研究者によって異なっていて、どうやら統一されていないようだ。
検索で見つかった資料を読んでみて、ドイツ語の意味に近い漢字を使っている訳語を採用した。

今回は誤訳はなかったものの、副詞を訳出していないなど、いくつか気になる点を修正しておいた。

平日に翻訳するのは大変だが、チェッカーならばなんとかできそうだと思った。
単価は安いものの、自分にできることを無理せず続けたいものだ。

Grund m. -es (-s)/Gründe
2 ((単数で)) (Boden) 底(水底・谷底・容器の底など); (Grundlage) (建物の)土台;根底,基礎;内奥,(心の)奥底
et.3 auf den Grund gehen <kommen> …の根源を究明する,…の真相をきわめる

Auch müssten die betreffenden Unternehmen den Ursachen3 hoher PA-Gehalte in den Produkten
auf den Grund gehen
.
関係する企業もまた、製品中の高いPA含有量の原因を究明すべきだったのだが。
(" Kinder und Schwangere: Behörde warnt vor Schadstoffen in Kräutertees", SPIEGEL Online, 15. 07. 2013,
www.spiegel.de/gesundheit/ernaehrung/kinder-und-schwangere-bfr-warnt-vor-zu-viel-kraeutertee-a-911217.html

überwinden2* überwand/überwunden
I 他 (h)
1 ((et.4/jn.)) (…に)打ち勝つ;克服する,乗り越える,過去のものにしてしまう

Sie kamen in den frühen Morgenstunden, aufgeteilt in drei Gruppen: Rund zwei Dutzend Aktivisten
der Umweltschutzorganisation Greenpeace sind in das sudfranzösische Kernkraftwerk Tricastin
eingedrungen. Sie
überwanden mehrere Sicherheitszäune4 und kletterten auf die Metallgerüste
an den Reaktorgebäuden.
彼らは早朝の時間帯に3グループに分かれてやってきた。環境保護団体グリーンピースの活動家20人以上が、フランス南部のトリカスタン原子力発電所に侵入した。彼らはいくつもの防護フェンスを突破し、原子炉建屋の金属構造物によじ登った。
("Kernkraftwerk Tricastin: Greenpeace-Aktivisten stürmen AKW", Frankfurter Rundschau, 15. Juli 2013,
www.fr-online.de/energie/kernkraftwerk-tricastin-greenpeace-aktivisten-stuermen-akw,1473634,23718360.html

「…のようなもの」といった比喩表現は、どの言葉にもあるものだ。
先日納品した和訳チェッカーの仕事でも、「木は天まで伸びない」という表現があったが、これは「物事には限界がある」という意味である。
英語やドイツ語の原文で、「木は天まで伸びない」と書いていても、そのまま日本語にしても意味がわかりにくい。
同じ比喩表現が存在しないため、「限界がある、永遠に続かない」など、具体的な表現にした方がよい。

次のAFP日本語記事を読んだ時にも、そのような比喩表現の扱いについて考えることになった。

タイトルは、【巨大質量星を包む
星の「子宮」、銀河系で発見】。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2955448/11027416

【星の「
子宮」】とは、具体的には、星形成領域のガス雲のことを指している。
元の英語記事、そしてESOのプレスリリースでは、確かに「
womb」を使っている。

www.afp.com/en/news/topstories/astronomers-spot-monster-star-stellar-womb
「Astronomers spot monster star in stellar '
womb'」

www.eso.org/public/news/eso1331/
「A stellar womb with over 500 times the mass of the Sun has been found ― the largest ever
seen in the Milky Way ― and it is still growing.
… This core ― the
womb of the embryonic star ― has over 500 times the mass of our Sun
swirling around within it.」

これまで見聞きした表現とは異なるため、どうも違和感がある。
この場合は、【
星のゆりかご】とした方がよいと思われる。

「womb」の意味として「子宮」の他に、「物が生まれる所、成長する所」がある。
新しい恒星が生まれる場所なので、womb を使っている。
日本語でカッコ付きで「子宮」と示しても、比喩表現とは理解されにくく、そのイメージは湧きにくいのではないか。

「ゆりかご」は赤ん坊を入れるかごで、原始星が誕生する場所の比喩表現としてふさわしいと思う。
「サンゴ礁は海の生物のゆりかご」などとも使うので、わたしにとってはなじみがある。

どういった経歴の翻訳者が和訳したのかわからないが、私とは異なる感覚を持つ人であることは確かなようだ。


ついでに比較として、ドイツ語とノルウェー語の記事を探してみた。

ドイツ語で子宮を意味する「Mutterleib」を使っている記事はあった。
www.astronews.com/news/artikel/2013/07/1307-017.shtml

【Dieser Kern, also im Prinzip der "
Mutterleib" des stellaren Embryos, hat eine Masse,
die mehr als der 500-fachen Masse unserer Sonne entspricht. 】

ESOのノルウェー語プレスリリースでfは「stjernelivmor」を使っているが、NRKの記事では「星の孵化場」という意味の「stjerneklekkeri」を使っている。
www.eso.org/public/norway/news/eso1331/
【Det er funnet en
stjernelivmor med over 500 ganger Solas masse – den største man har
sett i Melkeveien noensinne – og den vokser faktisk fortsatt.】

www.nrk.no/vitenskap-og-teknologi/1.11125173
【11 000 lysår unna jorda har astronomene funnet et
stjerneklekkeri.】

いろいろと表現はあるものの、私が和訳するなら、どれも「星の
ゆりかご」にするだろう。

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