2016年06月

(最終チェック・修正日 2016年07月18日)

私は先週、英語・ドイツ語の専業翻訳者になることを決断した。
研究職派遣社員を2年くらい続けてからと思っていたが、いろいろと考えることがあり、そしてちょうどある翻訳会社から声がかかったので、この機会を逃さずに決意を固めた。

派遣社員としての就業は、6月30日で契約満了の扱いで終わる。
7月1日から、まずはフリーランス契約で仕事をしてみて、どのような雇用形態がふさわしいのか、その翻訳会社と協議する予定だ。

3月末で解散した前勤務先では退職金がなかったので、翻訳だけでは家計のやりくりは厳しいが、80歳を過ぎても生活費を稼げる仕事を選んだと考えるようにしている。

今回は、私の決断を促した要因の一つとして、今月受注した独和チェック案件を紹介したい。

材料系のドイツ語特許を和訳したものだが、元素名の 「Silicium / Silizium (ケイ素)」 を 「ジリチウム」 と和訳していた。

トライアルに合格したはずなのに、どうしてこのような間違いをしてしまうのだろうか。
ドイツ語での元素名の発音を、カタカナ表記にしてみたのかもしれないが、元素の日本語名称は日本化学会が決定しているので、勝手に変えないでほしい。
それに、「ジリチウム」 では、「リチウム2個」 の意味になるので、化学の知識が弱いことは確実だ。


似たような事例として、2007年に受注したドイツ語特許和訳のチェックでも、「ケイ素」 ではなく 「シリチウム」 としている翻訳者に出会ったことがある。(→ 追記参照)

化学の知識がないと思われる間違いが多く、このチェック案件では40%くらい書き直すことになり、有給休暇を取得して対応して、納期ぎりぎりに提出したと記憶している。

このときの悪夢がよみがえり、そして、自然科学の知識を持つドイツ語翻訳者が足りないという危機感を翻訳会社と共有できたので、翻訳業界のためにも、そしてドイツや日本の企業のためにも、私でよければお手伝いしたいと思うようになった。

私が専業翻訳者となれば、これまでは納期の都合であきらめていた案件も受注でき、「ジリチウム」と書くような翻訳者の代わりに貢献できるだろう。
また、私がチェッカーとして翻訳者にフィードバックをして、自然科学分野のドイツ語について指導することもできるだろう。

ところで、「ケイ素」 のことを 「ジリチウム」 と書いた辞書などが存在するのかどうか、ネット検索してみた。

すると 「ことばさあち」 というサイトで、「ジリチウム」 という見出し語があり、その意味は 「(ドイツ語で)ケイ素。」 とあった。
出典不明なので検証もできず、この辞書サイトの信頼性を保証できないため、リンクは示さないことにしたい。
(追記(7月18日):本日検索してみると、「ジリチウム」の項目は削除されているのか、ヒットしなかった。)

他の検索結果を見ると、ドイツ製の馬用サプリメントの紹介文に 
「ジリチウム」 があった。
これはミネラル成分の 「ケイ酸(二酸化ケイ素)」 のことらしい。
randr-horse.com/

このような事例があるので、ネット検索で集めた情報を、そのまま辞書サイトに登録したのかもしれない。
免責事項があるので、「ジリチウム」 とした和訳で損害が生じても、ネット情報を信じた翻訳者と見逃した翻訳会社の責任になってしまう。

登録翻訳者の大部分は優秀だと思うが、それでも訳抜けを指摘しても修正しない人もいるそうなので、私が専業になる意味はあるだろう。

7月になったらブログタイトルも変えて、語学・翻訳の記事を増やそうと思う。でもその前に国民年金と健康保険の手続きをしよう。

(追記:7月5日)
「ケイ素」 を 「シリチウム」 と書いている文献をようやく見つけた。

1938年発行の 「齒科學報」 である。
東京歯科大学のサイトで公開されていて、PDFとしてダウンロードできる。
ir.tdc.ac.jp/irucaa/handle/10130/1778

この頃は、「ケイ素」 を 「硅素」 と漢字表記している。
そしてアルミニウム合金のところで、 「シリチウム」 が出てくる。
105ページの 「アルミニウムシリチウム合金」の前後を見てほしい。

例えば、【「アルミニウム」に「シリチウム」(硅素)を加へたもの】とある。

元素名の日本語表記は、現在は日本化学会が決定することになっている。
過去の文献を根拠にして 「シリチウム」 と書くことを主張しても、クライアントに受け入れてもらえないので、ルールには従ってほしい。

技術が日進月歩することと同様に、学術用語などの見直しも随時行われるので、最新の情報をチェックするようにしたいものだ。

4月から派遣社員となって収入が減ったことから、雑誌の定期購読も含めて、いろいろと支出の見直しを進めている。
しかも、この6月末で派遣社員としての勤務を終了し、7月1日からは英語・ドイツ語の翻訳者としてスタートする決断をしたため、年間予算の再検討も必要である。

生命保険については、新規契約から1年が経過した6月になって、ようやく見直しが可能となった。
結果として、月の保険料が約6千円の節約となった。
細かく書けば、月額保険料は、23,805円から 17,834円になり、5,971円の節約である。

これは毎月の電気料金に近い金額なので、ある程度大きなものと考えている。
県民共済やネット保険の案内を見ると、もっと安い契約もあるが、先進医療の扱いや、骨折の一時金、ドナー特約など、私の希望する内容の保険を選んでいる。

死亡・高度障害保険金の金額は、特約の種類で決まるとのことで、1,200万円から900万円に下げただけ。
介護状態なった場合の一時金も1,000万円から700万円に下げただけ。

生活習慣病の医療保険は変えずに、入院一時金を10万円から7万5千円に減額、入院日額を10,000円から半額の5,000円に減額した。
自己負担が増えるように思えるが、他の所得補償保険でもカバーされるので、減額してもかまわないと判断した。

ちなみに、保険金を請求したのは約8年前の交通事故での骨折だ。
正確に言えば、警察が交通事故としないと決めた自損事故であった。
自転車が車道を走っていることに逆上した軽ワゴン車ドライバーが前をふさいだので、自転車の私が衝突を避けようとして転倒し、骨折したものだ。

保険金が出るのはかまわないが、このときは受注していた翻訳の納期を変更してもらい、さらに受注予定の翻訳もキャンセルして他の翻訳者に担当してもらった。
病気にならない健康管理、事故を避ける危険予知など、自衛も必要だが、収入減少に対応して安心するために保険は必要だ。

これからも必要な保障について定期的に見直しをしてみよう。

私が活動しているプロテスタント教会では、キリスト教入門講座でハイデルベルク信仰問答を学んでいる。
オリジナルはドイツ語で書かれているが、全員がドイツ語を読めるわけでもなく、日本人なので吉田隆訳(新教出版)で学んでいる。

私は教会ではドイツ語担当ということになっていて、「この和訳でよいのだろうか」などと質問があると、調べて答えなければならない。

例えば問52の答で、「御自分とわたしの敵を…永遠の刑罰に投げ込まれる」について、「『キリストが御自身を永遠の刑罰に投げ込む』と、誤解する可能性はないか」という質問があった。
そこでオリジナルを調べて、「御自分の敵、すなわち
私の敵でもあるすべての敵を…」という私訳を示して、納得してもらったことがある。

別の人からは、現代ドイツ語に書き直されたハイデルベルク信仰問答を使って、読みやすい和訳を考えてほしいと頼まれたこともある。
1997年の改訂版(2012年に新正書法に修正)は以下のリンクで確認でき、和訳もすでに発表されている。
www.heidelberger-katechismus.net/8261-0-227-50.html
uraga-church-07.seesaa.net/ (日本基督教団浦賀教会・楠原博行牧師)

私が和訳する必要はなくなったようだが、神学生とのドイツ語勉強会で取り上げる題材として、ハイデルベルク信仰問答はふさわしいと思っている。
市販のドイツ語テキストよりも、聖書に関するドイツ語を読む方が、興味をもって取り組んでくれるからである。

ということで、問1とその答で使われる語彙や文法項目について資料を作り始めた。

最初から、特殊な男性弱変化名詞
の Wille が出てくるし、2格目的語をとる形容詞 gewiss など、基礎文法の説明を3回しただけの神学生には大変な内容となりつつある。

そして dass副文で、定形の位置が通常とは異なる例が出てきたため、どのように説明すべきか、いろいろと調べては悩んでいる。

その dass副文を抜粋して示すと、次のように副文の文末が fallen kann ではなく、kann fallen となっている。
“er bewahrt mich so, dass ... kein Haar ... kann fallen,“

主語以外が長いときに語順を変えてもよいのか、それとも kann fallen lassen の省略形と考えるのか。

あるいは、kein Haar ... kann の枠構造を先に作っておいて、fallen を枠外配置したのだろうか。
この場合、「髪の毛一本にも起こることはない、落ちることすら」という強調表現と考えるのだろうか。

手元の文法書には書いていないため、大学図書館にでも行って調べるしかないのだろうか。
それともNHKやDUDENに質問を送って、専門家に解説してもらうべきなのだろうか。

もう少し調べてみてから、勉強会の資料に反映させよう。

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