2017年12月

(最終チェック・修正日 2017年12月11日)

有機化学の研究をしているとき、参考に読んだ一番古い論文でも 1880年くらいだった。
化合物名のつづりが異なることや、今は使わない薬品が出てくることもあったが、それほど困難を感じずに読むことができた。

ゲーテと化学との関係についての書籍で、悪臭が発生する化学実験をしたときに書いた手紙の一部を読んだが、このときもつづりが一部異なるだけで、特に困難なことはなかった。

私はプロテスタントなので、ルターなどのドイツ語聖書を読むこともある。
ルターの聖書は何度か改訂されていて、2015年に宗教改革500年記念事業として、現代ドイツ語に改訂されている。
そのため、研究者でもないのに、わざわざ古い聖書を読むこともないが、改訂の歴史をたどるときには、古いつづりに出会うこともある。

例えば、動詞 heben の過去形は、現在は hob だが、古語では hub になる。
1912年版のルター聖書で改訂されるまで、つまり20世紀初めまで、この古語のつづりで読んでいたわけだ。
古語のままずっと残した理由は、時間があるときに図書館で調べるか、神学生に聞いてみよう。

古語が出てきても困らないように、例えば、小学館の独和大辞典を持っているとよいと言われている。
他の独和辞典でも、古語を載せていることは多いので、分野によって必要な人は、辞書を選ぶ時の基準としてもよいだろう。

ただし、同じ古語として採録されていても、辞書によって語義説明が異なることもある。

例えば、famos という形容詞についてメモしておこう。

その形容詞は、外国の翻訳会社から依頼があった短いドイツ語和訳のチェックで初めて目にした。

ある博物館の展示の紹介で、18世紀に描かれた絵画のタイトルであった。
「Von der famosen ...」 を 「すばらしい~について」 と和訳していたのだが、その展示内容に合わないタイトルだと感じた。

それで小学館独和大辞典第2版で調べてみると、確かに第1義には、「すてきな,すばらしい,見事な」 とあった。
しかし、2番目に古語として、「悪評高き,名うての」 と出ていた。

ここでは18世紀の絵画のタイトルだし、古語の意味にした方が合うので、「悪名高き~」に修正して納品した。

ついでに他の辞書も調べてみた。
三修社新現代独和辞典では、同様に1番目が 「すてきな,すばらしい,すごい」 で、2番目に古語として 「名高い,悪名高い」 となっている。
同じ三修社でもアクセス独和辞典第3版では、「((やや古語)) すてきな,すばらしい」 になっている。

翻訳者がどの辞書を使ったのかは不明だが、複数の辞書で、ふさわしい訳語を探すべきであることは、今回の事例でも再認識した。

特許翻訳では古語は出てこないが、これからもいろいろなドイツ語に触れて勉強を続けよう。

verlegen1
他 (h)
1 ((方向を示す語句と)) a) ((jn. / et.4)) (…を…へ)場所を移す,移転する

Gabriel bekräftigte, der Status Jerusalems müsse "ganz am Ende zwischen Palästinensern und 
Israelis" entschieden werden. Er betonte, dass Deutschland seine Botschaft4 nicht verlegen werde.
エルサレムの地位は「最後の最後にはパレスチナとイスラエルとの間で」決定される必要があると、ガブリエルは確認し、ドイツは大使館を移転しないと、強調した。
("NAHOST-KONFLIKT: Jerusalem-Status im Dialog klären", Die Bundesregierung, Aktuell, Artikel, 7. Dezember 2017,
www.bundesregierung.de/Content/DE/Artikel/2017/12/2017-12-06-nahost-konflikt-jerusalem.html

2年ほど前、「きょうだいリスク」に関するアンケートがあった。
その回答に連絡先を記入したので、記者から取材の申し込みがあった。

障碍者の姉は、福祉団体が面倒を見てくれる予定で、自治体の補助金が取得できれば、実家をグループホームにしたい。
ダウン症の姉は、I型糖尿病を発症して、毎日インスリンを自分で注射している。
血糖値管理のために、食事に留意したり、間食の取り方なども指導しなければならない。

実家に戻って世話をしろ、と言いたい人もいるかもしれないが、それはグループホーム開設が実現しなかった場合に考えることにしている。
それでも、障碍者の支援は、家族がすべてを抱え込まないように、自治体や地域社会に担ってもらいたい。

翻訳の仕事は、どこでもできるかもしれないが、社員としての仕事もあるし、私には教会での人間関係もあるので、60歳までは現状のままを予定している。

姉のことは、父が生前に契約してくれた個人年金もあり、なんとかなりそうなので、それほど心配はしていない。
取材を受けているときに明確になったのは、就職できない弟の存在が、「きょうだいリスク」を象徴していることである。

その取材から2年経過し、私は勤務先が閉鎖されて転職を余儀なくされ、翻訳者として独立し、そして今年は翻訳会社の社内翻訳者となり、なんとか生活を維持して老後に備えようとしている。

しかし、弟の状況は何も変わらず、今回の追跡取材でも、深刻な状況であることが記者には伝わったようだ。
前回の取材後も、似たような状況にある人たちから、出版社あてに手紙やメールが届いたそうだから、私は代表で取材を受けているようなものだ。

年明け頃に記事になるときには、専門家などからのコメントも記載されることだろうから、全国の似たような問題を抱えている家族に何かヒントが与えられることを祈りたい。

バブル崩壊後の不景気のときに大学を卒業した弟は、どこにも就職できなかった。
新卒優先の日本社会では、特別な能力や経験がない限り、時機を逸した者が就職することは困難である。

資格がないと就職できないと思ったのか、社会保険労務士の試験を受けると言い出した。
30代前半で合格すると思っていたが、20年近く不合格が続いている。
数年前に今後どうするのか聞いたが、1科目のみ1点から2点足りずに不合格ということが多く、諦めきれないと言っていた。

向いていないのであれば、他の仕事を探せばよいと思うが、本人が何をしたいのかが全くわからない。
福祉や農業もしたくないようだし、例えば、宅配便の荷物の仕分けなど、体力を使うことも嫌なようだ。

社会保険労務士を目指すならば、事務所に見習いで雇ってもらったり、年金相談などのNPOに参加して、実務経験を積みながら受験勉強すればいいと思うが、なぜか何もしない。

必死さが伝わってこないのは、母が生活費を援助していたためかもしれない。
母が払っているのは、弟の国民年金保険料と光熱費+αくらいと思っていたら、家賃も含めて月12万円近くを負担していた。
実家の隣にあるアパートの家賃収入は、月10万円だから、年金から月2万円以上を仕送りに回していたわけで、このままでは実家やアパートの修繕費もなくなり、グループホームにするときに多額の費用がかかる恐れがある。

それで母と相談して、最大譲歩した結果、仕送りを継続する条件として、2020年3月までに、試験に合格するか、社会保険のある仕事に就くことを、一方的に弟に通告した。
しかし、今年の試験も、1科目で1点足りずに不合格になった。

それで、今後どうしたいのか、勉強法を変えるために通信教育を申し込むのか、それとも試験対策講座を受講したいのか、または事務所の見習いをするのか、何も反応がない。
電話をしても出ないことがあるので、母が手紙で聞いても、反応がない。
考えることもできなくなったのか、試験勉強だけが生きるモチベーションなのか。

もし来年、運よく合格したとして、会社での勤務経験がない人に、誰が仕事を頼むだろうか。
誰でも資格があれば、人生の大逆転ができるのだろうか。

来年の予算を計算したところ、私の収入のみで弟への仕送りを維持することは不可能であることが判明した。
母の折半分は、今年は手を付けずに積み立てておく方針にしていたが、来年は月4万円から6万円を引き出すことになるだろう。

それに、以前は週3日くらいはアルバイトをしていると言っていたが、住民税の非課税証明書を見ると収入がゼロになっていた。
月8万円くらい収入があっても扶養家族にはできるだろうから、少しは働いてほしい。
他にもいろいろあるが、仕送りを停止して、生活保護申請にでもならなければ、目が覚めないのかもしれない。

このように、自分の現在の生活が破綻する危機にさらされるだけではなく、老後の準備もできなくなり、家族が共倒れするのが、「きょうだいリスク」の深刻なところだ。
自治体だけでなく、就労支援のNPOなどを利用したいが、無理やり連れていくことになるのかもしれない。

とにかく私は、自分の翻訳の仕事を地道に続けて、ドイツ語専門のキャリアを積んで、一生収入を得られるようにしておこう。

年明けに出る予定の記事を楽しみに待ちながら、弟の意識が前向きに変わることを祈りたい。

(最終チェック・修正日 2017年12月05日)

先週、外国の翻訳会社から、ドイツ語和訳の打診があった。
トラドスのパッケージをインポートしてみると、どうも何かの劇の台本のようだった。
この分野は経験がないし、ワード数を見ただけで断った。

慣れている分野で500ワードくらいまでならば、土曜日の半日を使えば可能と思うが、平日の夜や日曜日まで使うのは、健康とストレスの管理にはよくないことだ。

翻訳は断ったのだが、チェックが可能かどうか、再び問い合わせがあった。
5時間以内に終わりそうだったので、受注することにした。

翻訳はトラドスだったのに、チェックはMemoQを使うことになった。
この会社では、ヨーロッパからの仕事のうち半分くらいはMemoQだ。
まだMemoQには慣れていないのだが、これからは日本でも使うクライアントが増えるかもしれないので、このチェック案件で経験を積んでもよいだろう。

ということで、新しいPCにMemoQ 8.2をインストールして、チェックを開始した。
劇のセリフということはわかっていたが、どのような劇なのか、そのあらすじもわからないし、見たこともないので、誤訳のチェックだけにした。

例えば、固有名詞と思われる Jungfrau が 「乙女座」 となっていて、まったく意味が通じないため、「ユングフラウ」 に修正した。
ドイツ語風に、「ユンクフラウ」 でも可能だが、山の名前に合わせて濁音にした。

しかもこの 「乙女座」 は、その後なぜか 「双子座」 になっていたから、私がチェックした意味はあったわけだ。

【追記(12月5日):
翻訳対象をぼかしていて、原文を明示していないため、この説明では誤解を生じたようだ。
そのため、説明を追記しておこう。

翻訳対象は何かの劇の台本で、ドイツ語のセリフを、16文字以内という制約の下で日本語にする仕事であった。

どのようなタイトルの劇なのか、どこで上演されるのか、Jungfrau の前後の文脈は何か、それはすべて明らかにできない。
そして、Jungfrau という星座名と同じ固有名詞も、その台本に
本当に出てくるのかどうかも言えない。
Wassermann や Skorpion だったかもしれない。
単に星座名と同じつづりの単語であるとしか言えず、Jungfrau で代用して例示したと言ってもよい。

Jungfrau というのは、会社あるいは組織の名称であって、その業績あるいは活動内容について、会話を交わしている。
短絡的に推論されたように、「乙女座」 では決してない。
誤訳であっても、Jungfrau を最後まで統一して 「乙女座」 にしてくれれば、一括で置換できたのだが、途中から 「双子座」 になっていたので困った。】


ただ、気になっていたのが、QAを実行すると、センテンスの字数が超過しているというエラーが、たくさん出たことだ。
最初のメールでは、「40文字以内」 とあったため、これは条件の設定ミスだろうと考えて納品した。

しかし翌日、クライアントからは、再納品を求められた。

翻訳会社からのメールでは、「字幕に使うため16文字以内」 という新たな注意事項があった。
ドイツ語から、例えば、英語に翻訳するときは、最初のメールにあったように40文字なのだが、日本語は16文字とのことだ。

クライアント名を再確認すると、翻訳対象はオペラであった。
セリフを単に日本語に翻訳するのではなく、上演中に字幕を表示するため、一目でわかる長さにする必要があるのだ。

この字数制限について最初に提示していれば、翻訳者が字数を超過したままにするはずがなく、私の1回目のチェックも誤訳の修正のみで済んだはずだ。

ドイツ語の内容のうち3割から4割程度しか表現できていないが、QAでエラーが表示されなくなるまで字数を削減した。

日本で公演したり、DVDを販売するならば、日本の映像翻訳の会社で、字幕翻訳の専門家に依頼するのかもしれないが、私がチェックした字幕で本当に通用するのだろうか。

ということで、教会の会員で、海外のオペラ公演を観たことがある人に聞いてみた。
すると、ワインを飲みながら鑑賞していて酔っぱらっているので、字数が多いと理解できないそうだ。
あらすじがわかればよいので、情報が少なくてもかまわないとのことだった。

二度とないかもしれないが、テレビでオペラ番組があれば、字幕を見て勉強しておこう。

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