2019年05月

ドイツ語翻訳をしていると、特に学術論文や新聞記事などで、冠飾句を目にすることが多い。

冠飾句は、冠詞と名詞との間に置かれた長い形容詞句である。
関係節で書き換えることもできるが、冠飾句から順に訳すと日本語の語順に近くなることが多いので、理解しやすいのではないだろうか。

原稿を紙に印刷してから翻訳していたときは、冠飾句の部分を( )でくくっていた。
長い冠飾句のときに間違えることがなくなるし、推敲時に見直すときにも楽になる。

しかし最近は、CATツールを使ってPC画面上で原文を読むことが多いからなのか、うっかりして冠飾句を見逃してしまう人もいるようだ。

今月チェックしたドイツ語和訳案件の例を示しておこう。

ある工作機械の製品紹介パンフレットに掲載された写真は、アップグレードした製品の前に開発担当者が立っているものだった。
その説明のところに、次のように書いてあった(冠飾句部分を青にした)。

vor dem zur 4-Achsen-Bearbeitung aufgerüsteten 3-Achsen-CNC-
Bearbeitungszentrum.

翻訳者の和訳は、「3軸CNCマシニングセンタを4
軸加工用にアップグレードする前」。
修正例は、「4軸加工用にアップグレードされた3軸CNCマシニングセンタの前で」。

写真を見れば、機械の前に開発者が立っているのだから、その状況からも翻訳者は間違いに気づいてほしかった。

もしかすると、冠飾句を把握する前に、前置詞 vor が「時間的に前」だと誤解してしまったのが、誤訳の原因なのかもしれない。
「アップグレードする前
(vor dem Aufrüsten」という先入観から逃れることができず、無理に意訳したようになったと思われる。

冠飾句を除いて書くと、vor dem 3-Achsen-CNC-Bearbeitungszentrum であり、これならば前置詞 vor が「空間的に前」を表すことは明白だろう。

私も完璧ではないので、いろいろな事例から学習を一生継続することになるだろう。

雑誌「英語教育」の今年の連載の1つに、「AI技術と外国語学習の未来」(川添愛、元国立情報学研究所特任准教授、作家)がある。
他の連載にも興味を持ったので、今年度は定期購読にした。

6月号の第3回は、「機械翻訳の現状と展望(前編)」で、ニューラルネットワークを利用した機械翻訳を取り上げている。

説明内容は、主に中澤敏明「機械翻訳の新しいパラダイム」、情報管理、vol. 60, No.5, pp. 229-306 に基づいている(記事末尾の引用では、「vol. 6」と誤記がある)。
この論文はフリーアクセスなので、次のリンクで確認してほしい。
doi.org/10.1241/johokanri.60.299

ニューラル機械翻訳(NMT)では、Google 翻訳が事例として取り上げられることが多い。
著者が試した日英翻訳の例では、驚くほど自然で実用的な翻訳が出力されている。

しかし一方では、「奇妙な凡ミス」という不思議な特徴も持つ。
平昌オリンピックでのノルウェー代表団に起きた、卵の発注数の誤訳の例が紹介されている。
1,500個の卵を注文するために Google 翻訳で韓国語にしたところ、一桁多い 15,000個の卵が届いたという。

この誤訳騒動を伝える BBC の記事は次のリンクから。
www.bbc.com/news/world-europe-42978915

この BBC の記事では、1,500 と 15,000 が韓国語でどのように異なるかも示している。
数字のままであれば、一桁違うことに気づいたかもしれない。
しかし、ターゲット言語の知識がないと、出力結果が正しいかどうかを判断できないため、誤訳を放置してしまう。

このような単純ミスが起きるのは、NMTの手法に起因している。
単語を数百の実数値からなる列のベクトルに変換して計算している。
各単語の数値列から文の数値列が計算され、それをもとにして訳文の単語の数値列を出力する。
数値計算であるため、原文のどの部分が訳文に反映されているのか、解釈することが困難になっている。
卵の数が一桁増えたとしても、「原因不明」としか言えない可能性もある。

また、NMTの特徴として、よく知られているが、入力された原文が過不足なく翻訳される保証はなく、重複訳や訳抜けの発生がある。

「AIが発達すれば、外国語の勉強をしなくてすむ」という言説が広まりつつあるようだが、このようなNMTの現状をまず踏まえてから、次回の後編も読んで、これからの外国語学習について考えてほしいものだ。

連休中の5月2日に届いた本は、【「欠陥だらけの子ども」と言われて 出生前診断と愛情の選択】(サンドラ・シュルツ著、山本知佳子訳、岩波書店)である。
岩波書店のリンクは次の通り。
www.iwanami.co.jp/book/b450151.html

ドイツ語原著のリンクは次の通り。
www.rowohlt.de/paperback/sandra-schulz-das-ganze-kind-hat-so-viele-fehler.html

ドイツ語和訳の勉強になるかもしれないので、原著をこれから注文する予定だ。

著者のドイツ人ジャーナリスト、サンドラ・シュルツは、38歳で待望の妊娠をする。
血液検査によってダウン症の疑いがみられ、羊水検査で確定した。
その後、超音波診断などで、心臓に重篤な疾患が見つかった。
生まれてからの大手術を乗り越えて、マルヤ(仮名)は今年3月に4歳になった。

この本を読もうと思ったのは、姉がダウン症だからというだけではなく、もし50年以上前に出生前診断が可能だったら、母は中絶したかもしれないと言っているから。

人口の約60%がキリスト教徒のドイツであっても、出生前診断でダウン症という結果が出ると、約90%が中絶を選択するという。
ドイツにはダウン症の店員だけのカフェがあったり、様々な分野で活躍するダウン症の人もいるが、だからと言って社会が障碍者受け入れで一体化しているわけでもない。

それが現実というのものであり、そのため私たちはその現実の中で苦しむのである。

姉が障碍者ということで、親戚も含めて私たち家族を受け入れてくれない人もいて苦労したが、子どものままで毎日楽しく生活している姉を見ていて、これでよかったと神様に感謝するようになり、私は洗礼を受けてクリスチャンになった。

家族の事情はそれぞれ複雑なので、経済的な困難などの理由で中絶を選択する人がいても、私は残念だと思うが、非難しない。
それでもできれば生むことを選択してほしいと期待するのは、出生前診断は神様の領域を犯しているような感覚があるから。

生まれる前に手術の準備もできるというメリットが指摘されたり、医療的ケアや心理カウンセラーなどのサポートもあるものの、不完全な人間が、神の代理人のように振る舞って、命の選別に手を出してもよいものかどうか、そして障碍者が生まれない社会を望んでいるのではないかとまで感じてしまうのだ。

この本の中で注目したのは、分量は少ないものの、プロテスタント教会の女性牧師が出てくる個所である。
私の教会にも、ダウン症の子どもを持つ夫婦が時々訪れ、一緒に遠足に行ったこともある。
会員の中にも、家族や親戚にダウン症の人がいるという方も多く、それぞれの体験を伝えることもある。
そのためその個所が、教会の活動、牧会の1つの姿を示していると思い、興味を持っているのである。

【結婚式の前に知り合ったプロテスタント教会の女性の牧師にメールを書いた。「どうしていいかわかりません。クリストフは絶対、この子を育てたいと言っています。けれども、現実的に考えると、より負担を背負うことになるのは私のほうだと思うのです。かなり追いつめられているので、一度会ってお話しすることはできませんか。…」
 神学的な問いに答えてもらいたいのではない。彼女は現実に即して考えることのできる人だと知っているから。】

【私たち三人は、それぞれティーカップを手にして、牧師の仕事机をかこんですわっている。そして、牧師が取り出したA4の用紙に、クリストフと私はこれからの生活設計を書き記していく。用紙の一番上の枠に、クリストフが黒いフェルトペンで「マルヤ誕生」と書く。… 最後のところに、カッコでくくって「マルヤ六歳」と書く。…】

【マルヤは、私たちが結婚した教会で洗礼を受けた。…
 牧師は説教の中でこう言った。マルヤの名において、あなたたちが子どもを授かったことを感謝します。
 とても美しく、とても悲しい言葉だった。生まれたことを感謝しなくてはならないのは、悲しい。
 マルヤ、私たちのところに来てくれてありがとう。素晴らしい子ども。】

この本を教会で紹介する前に、ドイツ語原著をやはり手に入れて、最後の「悲しい」がドイツ語でどうなのかを確認したくなった。

5月1日納期の翻訳を昨日の夜までに納品して、今日は浅草で行われているスタンプショウに行った。
目的は、郵便局出張所で行われる、宮内庁内郵便局風景印の特別押印である。

臨時出張所で押印できる風景印や小型印の案内は次のリンクから。
yushu.or.jp/event/s_show2019/goods/goods02.html

宮内庁職員の御家族から、宮内庁内郵便局の風景印が押された記念アルバムをプレゼントされたことがあったが、自分で足を運んで押印してもらった経験がなかった。

加えて今回は、元号が変わるということで、皇室関連切手と合わせたコレクションを作るチャンスでもある。

受付は9時からと書いてあったが、8時45分に会場に到着すると、5分前に締め切ったとのことだ。
1本早い電車に乗ればよかったが、別の小型印でも日付は同じなので、諦めてすぐに気持ちを切り替えた。
それでも、係員にあれこれと文句を言って食い下がっていたおじさんがいた。

本日は新元号最初の日なので、朝早くから押印希望者が殺到し、受付開始時間前に控室に入れたそうだ。
また、最終日の今日は、昨日までよりも1時間早く終わるため、押印可能人数が減ったのも影響した。
さらに、祝日のため宮内庁内郵便局が閉鎖しており、郵頼での押印が不可能となり、この臨時出張所での押印に業者も含めて殺到してしまったようだ。

代わりに、皇室切手展の小型印を押した記念品を以下に示す。

また、臨時出張所でムーミン切手が購入できたので、ムーミン切手展の小型印と合わせてみた。
ムーミン切手が入手できたので、飯能郵便局に行って、ムーミンバレーパーク開業記念の小型印も押印してもらおう。



平成令和 改元記念皇太子成婚

フィンランド100年ムーミン

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