2020年01月

noch の接続詞としての用法の1つに、weder … noch … や nicht … noch … などの形での否定表現がある。

独和大辞典第二版(小学館)の説明は次の通り。

noch II 接 ((ふつう weder … noch, nicht … noch … などの形で否定詞として))
(…でもなく)…でもなく:
1 ((並列;語句と語句を結ぶ)) weder klug noch schön sein 利口でもハンサムでもない
 (注:所有している2刷と8刷では、weder klng ~ と誤植である。ここでは klug に修正して記載した。最新刷での修正について、小学館に問い合わせ済み。)

2 ((副詞的;主語を同じくする文と文を結ぶ)) Weder habe ich davon gewußt, noch habe ich es geahnt.
 そのことについては聞き及んでいなかったし,予感もしなかった.

ここでは 1 の並列の接続詞の用例について、本日1月25日のローズンゲンから引用しよう。
イザヤ書第40章28節から。

Luther 2017:
28 Weißt du nicht? Hast du nicht gehört? Der HERR, der ewige Gott, der die Enden der Erde geschaffen hat, wird nicht müde noch matt, sein Verstand ist unausforschlich.
疲れることもなく、弱ることもない

新共同訳:
28 あなたは知らないのか、聞いたことはないのか。
 主は、とこしえにいます神
 地の果てに及ぶすべてのものの造り主。
 倦(う)むことなく、疲れることなく
 その英知は究めがたい。


聖書協会共同訳:
28 あなたは知らないのか 
 聞いたことはないのか。
 主は永遠の神
 地の果てまで創造された方。
 疲れることなく、弱ることなく
 その英知は究め難い。

ドイツ語特許の和訳で使う辞書の1つは、小学館の独和大辞典第二版である。

古語や雅語も載っているので、19世紀の文献だけではなく、ルターの聖書やハイデルベルク信仰問答などの古い文献を読むときにも、ある程度使える辞書である。

さらに、例文として聖書の一節が引用されているのも、キリスト教徒としてうれしい辞書だ。

そして今日、基本的な動詞 geben(与える)の説明の冒頭に、箴言第22章9節が引用されていることを初めて知った。
初版にも同じ説明があったので、30年以上も使っていて初めて気づいたのだ。

動詞 geben は、基本的に「人3格に物4格を与える」という意味で、目的語を2つとる。
ただし、古い用法では、物4格ではなく、物2格(部分の2格)をとることもあったそうだ。

独和大辞典の説明を引用しておこう。
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古くは Er gibt seines Brots den Armen.(彼は自分のパンを貧しい人たちに与える.聖書:箴22, 9)のように(いわゆる部分の)2格を目的語にとることがまれではなかった.
今日でも jm. von dem Obst geben(…に果物を与える)のように部分の2格に相当する von et.3 が目的語になることもさほど珍しくはない.
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では、箴言第22章9節について、ルターの聖書を年代順に並べて比較してみよう。
1545年版が2格で、現代ドイツ語に改訂された1912年版以降は von 3格になっている。

Luther 1545:
9 Ein gut Auge wird gesegnet; denn er gibt seines Brots2 den Armen.

Luther 1912:
9 Ein gütiges Auge wird gesegnet; denn er gibt von seinem Brot3 den Armen.

Luther 1984:
9 Wer ein gütiges Auge hat, wird gesegnet; denn er gibt von seinem Brot3 den Armen.

Luther 2017:
9 Wer ein gütiges Auge hat, wird gesegnet; denn er gibt von seinem Brot3 den Armen.

新共同訳:
9 寛大な人は祝福を受ける 自分のパンをさいて弱い人に与えるから。

聖書協会共同訳:
9 善意に溢れるまなざしの人は祝福される。 自分のパンを弱い人に与えるから。

geben を調べたのは偶然ではあったが、この箴言の言葉に出会ったのも意味があるだろう。
ちょうど今日は、WWFから寄付の感謝状と、年会費の案内が来たから。
私はそれほど金持ちではないが、できるだけ寄付をしようと思う。
また、お金ではなくても、様々な奉仕で他者のために働こうと思う。

他社の宣伝になってしまうが、ドイツ語特許翻訳者が増えてほしいので紹介しよう。

トランスユーロ株式会社では、ドイツ語特許翻訳の通信講座を新たに開講するという。

www.trans-euro.jp/TAex/2020/01/10/%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%83%a6%e3%83%bc%e3%83%ad%e3%82%a2%e3%82%ab%e3%83%87%e3%83%9f%e3%83%bc%e3%80%80%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e8%aa%9e-%e8%8b%b1%e8%aa%9e-%e7%89%b9%e8%a8%b1%e7%bf%bb/
トランスユーロアカデミーでは通学型の特許翻訳講座を開講していたが、要望が多いということで通信講座も行うことになった。
遠距離の翻訳者は交通費の負担が大きくなるので、通信講座の方が受講しやすくなるだろう。

私の勤務先は規模が小さいので、このような講座を開設することは困難だ。

数年前に、英語・フランス語の翻訳者から、ドイツ語を学びたいと問い合わせがあり、勉強を手伝ったことはある。
ただし、自分の仕事もあるので、既に英語などで特許翻訳の経験がある人を対象に、1~2人をインターンとしてOJTするくらいしかできない。

通学型では他に、日独協会のドイツ語特許翻訳講座がある。
www.jdg.or.jp/lesson/patent/patentuebersetzung2019.html

2019年度は2月で終わってしまうが、来年度も続けて開講する予定なので、首都圏の方は参加してみてはどうだろう。

ドイツ語翻訳者は足りないし、特許翻訳者はもっと足りない。
特許事務所や翻訳会社の求人も出ることがあるので、興味がある人は定期的にチェックして、ドイツ語特許翻訳に参入してほしいものだ。

昨年末から、ワインに関する1962年のドイツ語論文を和訳している。
醸造そのものではなく、食品添加物の効果や、重金属の除去などの実験についてである。

実験に使ったワインの説明には、ブドウの品種についても書かれていた。
ワイン用品種として有名なリースリングの他にも、ケルナーなど、ドイツワインのファンであれば聞いたことがある名称が出てくる。

しかし、Kurtraube という初めて出会う品種名があった。
私は化学者であって、ワイン研究者ではないので、ドイツワインに使う品種をすべて知っているわけではない。

検索してみると、Kurtraube は、Schiava Grossa の様々な異名の1つのようだ。
品種名のカタカナ表記例が見つからなかったので、原文ママの Kurtraube にしようと思っている。

ただ、念のため、昨年出版された 「ワイン用葡萄品種大辞典」(共立出版)を確認することにした。
書籍の紹介サイトは次の通り。
https://www.kyoritsu-pub.co.jp/lp_vine/index.html

内容見本では、カタカナ表記になっている品種名もあれば、原著 Wine Grapes の原文ママのアルファベット表記もある。
Kurtraube がどちらなのか、やはり確認した方がよいと思った。


紀伊国屋書店の店舗在庫検索をすると、近くの店舗に1冊あることが判明した。

教会での会合の後、紀伊国屋書店に向かい、その大辞典で Schiava Grossa の項目を確認してみた。
すると、ドイツで栽培されている品種名として Meraner Kurtraube も載っていたが、原文ママのアルファベット表記であった。

これで当初の予定通り、Kurtraube とアルファベット表記のままで納品することにした。

今回のドイツ語論文和訳をして、ワインに添加されている亜硫酸塩の役割や、どうして重金属が混入しているのかなど、雑学的な知識も得られて楽しい面もあった。

ワイン醸造技術の特殊な用語の確認で手間取って苦労するものの、こういった知識が増えることがメリットと思って続けたいものだ。

昨年発売の書籍であるが、「科学技術ドイツ語表現・語彙・類用語大辞典」(町村直義 編著・技報堂)を本日購入した。

出版社の書籍紹介は次の通り。
gihodobooks.jp/book/3020-0.html

以前から発売するという話を聞いていたのだが、紀伊国屋BookWebの新刊検索では、「語学」と「辞書」の分類のみを調べていたので見逃していた。

この正月休みの間に、「理工」の分類を見ていたら、偶然発見した。
キーワード検索で「ドイツ語」にしていれば、発売直後に見つかったはずだ。

いつも利用している紀伊国屋書店の店舗には在庫がなかった。
ウェブストアに在庫はあったが、すぐに入手したかったので、店頭在庫が1冊あった新宿本店で取り置きを依頼した。
電話しなくてもオンラインで依頼ができ、確認のメールが届くので便利になったものだ。

今日は礼拝の後、クリスマスで使った飾り付けを取り外し、昼食後に新宿に移動して入手した。


科学技術ドイツ語表現

特許にもよく出てくる表現が分類されて例示してあるので、互いに比較しながら学ぶことができる。
特に機械系では、バルブや歯車などの名称で悩むこともあるので、まとまっている資料は貴重である。

ただし、この辞典が絶対的に正しい訳語だと決め付けない方がよいだろう。

例えば、140ページの「3-38 -schlüssig の語」で取り上げた機器、部位の連結方式を表す形容詞を見てみよう。

stoffschlüssig は、材料接合連結の(接合接着の、固着の)となっているが、ドイツ語特許翻訳の業界では、材料接続のという訳語の方を採用することが多い。

また、元素の日本語名称が気になったのは、136ページの「3-33 nur noch の用法」に出てくる。
Da Phosphor und Schwefel .. の和訳が、「サルファーは、…」となっている。
日本語名称は日本化学会が決定しており、正しくは「リン硫黄は、…」と書く。

ということで、どの辞書でも同じだが、他の資料や最新情報も確認しながら使うべきだろう。
この辞典を補足するわけではないが、化学者の私は、翻訳をしながら、化学ドイツ語の用例集を作成することを、本気で考えてもよいかもしれない。

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