2020年03月

私は英日・独日翻訳者として仕事をしているが、専門は自然科学系(化学)なので、知らないことも多い。
今回の記事の話題も、正確な情報について、英語が専門の方からのコメントを求めたい。

自称1000万円翻訳者・浅野正憲のブログでは、本日3月30日も新規記事が投稿されている。
タイトルは、「突然、出てくる人名的表現について」で、比喩表現の話のようだ。

そのブログ記事で取り上げた表現と、本人による和訳の部分を下に示す(赤下線を加えた)。
RoseParks.jpg 

例文には、Rosa Parks moment という、有名な人名を含む表現が使われている。

この例文の前後が示されていないため、どのような文脈で使われているのか私にはわからないが、自称1000万円翻訳者の解釈では、革命的な瞬間を意味するそうだ。

以下に示す私の解釈とは異なる説明なので、私が間違っているのか、あるいは新たな意味が追加されたということなのか
引用がないので判断できないが、浅野正憲が読んだ文章では、「革命的な瞬間」にすると文脈に合致するということか。

Rosa Parks さんは、アメリカ公民権運動を学ぶと必ず出てくる、バスの席を白人に譲らなかった話の主人公だ。
詳細については様々な文献を参考にしてほしい。

差別に対して抵抗したということから、例えば、乗り物や学校などの公共の場で、「差別されたと感じて、その差別に対してノーと主張した場面」などを意味する表現として、Rosa Parks moment が新聞記事などでも使われている。

和訳するときには、人名の部分は消えてしまうが、「差別への抵抗を決意した瞬間である」になるだろうか。

超有名企業からのオファーが絶えず、年収1000万円超を継続し、1000人以上の受講生にノウハウを教えている、「センスがある」一流翻訳者なのだから、単なる思い込みで誤訳をしているはずはないだろう。

「差別に反対すること」を、「これまでの常識とは異なる革命的なこと」という意味にまで広げたということか。

本人が誤訳していないとすれば、元の文章で誤用しているのだろうか。

言葉は変化するものなので、誤用が定着することもあれば、似た状況などにも適用されて意味範囲が広がっていくこともある。
このような複数の、幅広い意味が共存している過渡的状況には、語学的興味がある。
辞書を作る人たちにも有益な情報なので、続報として具体的な引用をして説明してほしいものだ。

新聞や論文など、わずか10件程度の調査では結論を出せないので、英語が専門の方々の解釈を教えてほしい

雑誌「英語教育」の Question Box に送ったら回答してもらえるだろうか。
例えば、「思い込み誤訳」が生じるメカニズムについてなど。

今回も自称1000万円翻訳者のブログ記事は、その真偽について各自が調査して判断すべきであるという、すばらしい教材となった。

自称1000万円翻訳者・浅野正憲のブログでは、様々な話題を提供してくれている。
ただ、理解しにくい日本語であることに加えて、誤訳や誤記が含まれている記事が多いことが、SNSなどで指摘されている。

誰でもうっかり、誤訳や誤記をしてしまうが、気づいたときには恥ずかしくなって、すぐに修正するものだ。

しかし、1000万円翻訳者とは思えない誤訳の掲載を堂々と続けているので、本人は正しい和訳だと思い込んでいるのかもしれない。
自己流の「なんとなく翻訳」の例を見ているかのようだ。

本日3月28日に投稿された記事にも、誤記があることが、SNSで指摘されている。
その Twitter の一例と、ブログ記事の該当部分のスクリーンショットを以下に示しておこう(ブログのリンクは示さない)。
libety.jpg

ここで引用している2月18日の過去記事にも、「Libety」が2か所に書かれていた。
このときは、あるSNSでの「Libetyなんて単語はない」という指摘を見たためか、「Liberty」にいつの間にか修正していた。
しかし慌てたのか、2か所のうち1つだけを修正しており、修正を忘れた「Libety」が残ったままになっている。

せっかく1か月ほど前に再学習した単語なのに、今回も「Libety」と書いている。

受講生に勧めているオンライン辞書の英辞郎では、libetyを入力すると、該当する項目がないと表示され、代わりの候補としてlibertyが提案されるのに。

もしかすると、rがあいまい母音化していることに加えて、カタカナで書いた「リバティ」に影響されて、つづりからrが脱落しているのかもしれない。

超有名企業からのオファーが継続している1000万円翻訳者なのだから、何か根拠があってLibetyを使っているのかもしれない(嫌味です)。

もしかすると、21世紀の英語の発音では、rが完全に脱落すると予測して、Libetyという新しいつづりの規則を提案するために、わざと独自のつづりを編み出しているのかもしれない。

本人が翻訳者に必要な能力として、いつも強調している「検索力」で、その根拠を探してみよう。

最初は、Libetyという人名があると思って検索してみた。
すると、次のリンク先でわかるように、Libetyという姓が実在する。
渡航者名簿など、証拠書類もいくつか掲載されている。
www.ancestry.com/name-origin

もう少し調べてみると、「The Facts on File Dictionary of American Regionalisms」という書籍に記載があることがわかった。
Google Books のリンクは次の通り。
books.google.co.jp/books

18世紀にロンドン付近では、rがあいまい母音化して、aやahになっていたそうだ。
例えば、cardの発音が、caadのようになっていたわけだ。
アメリカに移住した人たちが、この方言? をそのまま使ったためか、「libety」という誤記も見られたそうだ。

【.. Anyway, New Englanders were constantly dropping their r's midway through the 18th century, which is why liberty is so often misspelled libety in early American documents. ..】

ミススペルと書いてあるので、ある程度使われていたlibetyであるが、次第に消滅したのだろう。

だから単なる誤記だと思うが、超有名企業からのオファーが絶えない翻訳者のネームバリューを利用して、独自の言葉を使うことで、約200年前の事象のリバイバルを狙っているのかもしれない(嫌味です)。

ところで、30年くらい前に、たしかBBC制作の英語史のドキュメンタリー番組で、母音の発音が変化してきたことについて聞いたことがあった。
ただ、つづりにまで影響した例については知らなかった。
このような雑学を提供してくれたのだから、今回のブログ記事には感謝しなければならないのかもしれない。

新型コロナウイルスCOVID-19が流行しているため、教会でも礼拝ではマスクを着用することにしている。
受付でマスクを配っているが、在庫がいつまでもあるわけではない。

私もマスクが入手できないということで、手ぬぐいマスクを作った。

手ぬぐいマスク 

高校のときから手ぬぐいを使っていて、記念品なども含めて、30枚くらい持っている。
そのうち、今回は、屋外で着用していても無難な柄のものを選んだ。

参考にしたのは、手ぬぐい専門店「にじゆら」がアップした動画だ。
全く同じではないが、私の顔に合わせて折り畳み方などを工夫して作った。
さっそく、午前中の買い物で使ってみたところ、密着度は医療用マスクに劣るものの、突然のくしゃみには十分対応できそうに思えた。




ちなみに、ドイツで紹介されている手作りマスクの動画は次の通り。
日本では、「だいたいこんな感じ」という説明だが、ドイツ人は細かいのか、定規できちんと測定し、アイロンまで使って本格的だ。
私はここまでやろうとは思わないが、ドイツ的手作りマスクの方が丈夫そうに思えるならば、参考にしてみてはどうだろう。


特許翻訳のセミナーに参加していたとき、私が理系研究者出身ということで、大学では文系だった翻訳者から質問があった。
化学やバイオ、医薬などの分野を勉強する際の入門書についてだった。
大学1、2年向けの教科書でもよいのだが、高校理科の知識+αで読めるものとして、講談社のブルーバックスを挙げた。

ブルーバックスは最新の研究成果についてわかりやすく解説しているので、文系出身翻訳者だけではなく、私のように医薬メーカー研究所で勤務していた化学者でも、参考図書として年に数冊を読んでいる。

今月読んでいるのは、分子レベルで見た薬の働き(平山令明著、講談社、ブルーバックス B-2127)。
内容と目次は次のリンクから。
gendai.ismedia.jp/list/books/bluebacks/9784065187326

医薬の特許翻訳をする場合に必要となる知識は多岐にわたるが、基本的知識がコンパクトにまとまっているので、入門書としては有益だ。
また、主な酵素や受容体の名称では英語名が併記されているため、翻訳者にとっても勉強になるだろう。

ただし、人間が書いたものだから、間違いはある。

195ページの図5-5下側で、アンジオテンシン変換酵素に結合する化合物の説明では、分子の右側にある炭素原子2個の価数(結合の数)が四価ではなくて、五価になっている。

また、「突然変異」を使っているが、日本遺伝学会が、「変異」に改訂することを提案している。
英語の mutation という言葉には、「突然」という意味はないからである。
この改訂案は、まだ他の学会では採用していないのか、それとも一般向けだから馴染みのある「突然変異」にしたのか。

そして、有機化学者の私が一番こだわっているのは、化合物名の日本語名称である。

26ページのアミノ酸の名称で、threonine (Thr, T) の日本語名称は、私はトレオニンを使っているが、この本ではスレオニンになっている。

化合物名については、主に英語を原語とする命名法をIUPACが決めている。
そしてそのIUPAC名から、各国で使用言語での表記を決めている。
日本では、日本化学会命名法委員会が、日本語名称の作り方を決めている。

原則として、英語の発音とは無関係に日本語名称を作っており、threonine の日本語名称は、トレオニンのみである。
1つの化合物に対して、ただ1つの名称が存在することが望ましい。

英語由来の名称を慣用名として使ってもよいのではないか、という意見もありそうだが、一般向けとしては1つに統一した方がよいだろう。
専門家にとっては小さなことが、初心者にとっては学習のつまづきになるかもしれない。

また、これは余計なことかもしれないが、ドイツ語好きとしては、英語の発音に影響された自己流の日本語名称は嫌だ。

日本語での学会発表なのに、aldehyde(アルデヒド)を、わざわざ「アルデハイド」と言う人もいる。
それならば全部英語読みで、ketone(ケトン)も「キートン」、alcohol(アルコール)を「アルコホール」にすればいいのにと思うが。

細かいことかもしれないが、自分が特許翻訳をするとき、そしてチェックをするときは、最新の情報に基づいて正しい化合物名を書くようにしている。

自称1000万円翻訳者の浅野正憲が運営する「翻訳の学校」は、テレビ番組でも宣伝するなど、関係者のストレスを高めるばかりだ。
宣伝用のブログでも、連日、様々な投稿や報告が掲載されている。

そして今日、3月18日の投稿では、初めて仕事を獲得したという受講者のメッセージが公開されていた。
しかし、よく読むと、初めての受注案件で勝手がわからず、困惑している様子だ。

そのメッセージ部分のスクリーンショットを下に示す。

翻訳の学校PE

Trados には機械翻訳エンジンを組み込むことができる。
この受講者は、許可を得て Google Cloud Translation API を入れることにしたそうだ。

ただし、次のような機密性に関する警告メッセージが出たので、自分では判断できず、不安になって、メンバーたちに質問をしているようだ

フリーランスとして自立してやっていく覚悟はあるのだろうか。
Trados_GoogleAPI.jpg 
ブログの運営担当者は、内容を精査せずに、受講者が実案件を受注した宣伝に使えると思って掲載したのだろうか。
それとも、「翻訳の学校」とは無関係の人たちにも向けて、助けてほしいと発信しているのだろうか(コメント投稿欄があるので)。
このような初心者のために、お金を取って講師も雇い、サポート体制を用意していたのではないのか。

最近、「翻訳の学校」では、機械翻訳の出力を修正することも教えていると言われていた。
しかし、翻訳初心者が、最初の案件でポストエディットをするのは危険すぎる

ポストエディットを担当できる能力については、まだ議論の途中であるが、従来の人手翻訳の経験が長い翻訳者が担当する方が無難ではないか。

加えて、機械翻訳の出力の癖を熟知していて、人間とは異なるエラー、例えば、文脈を無視した誤訳の連続、訳語の揺れなどで、ストレスがかかって予想外に疲れることも理解している人が担当すべきだ。

経験が浅い人の場合、機械翻訳の出力が意外と読みやすいため、そのまま信じてしまい、誤訳や訳抜けに気づかない危険性がある。
また、知らない単語でも、既に和訳が出力されているので、辞書で確認する手間が省けると勘違いする人もいる。

私は仕事で機械翻訳を使用する前にチェッカーも経験していることもあって、ポストエディット作業への適応は早かったと思う。
ただ、ポストエディット時に少しでも気を抜くと、エラーに気づかないことがあり、2回目の推敲で慌てて修正することもある。

数値や化合物名などの面倒なタイピングの手間は少し減ったかもしれないが、文脈に合っているか、訳抜けはないか、用語は統一できているかなど、細かい点に注意する必要があり、それほど楽な作業になったとは感じていない。

この投稿の翻訳初心者が失敗しないことよりも、クライアントに損害が出ないかどうかが心配だ。

考えすぎかもしれないが、日本人が信用されなくなったら、ヨーロッパの大学で翻訳の学位を取得した人だけをスカウトするようになるかもしれない。

↑このページのトップヘ