2020年08月

定期購読している通訳翻訳ジャーナル2020年秋号が20日の午後に届いた。

特集はコロナ禍でどうなるのか? 不況を経験した人に学ぶ ピンチの乗り越え方だ。


現在のコロナ禍での状況だけではなく、過去のリーマンショックなどの不況時の体験談から貴重な情報が得られる。
新規開拓をすべきなのか、それとも回復するまで勉強して実力を蓄えるのか。
また、お金の不安に対するQ&Aも役に立つことだろう。

私の場合、勤務先が主に特許翻訳(英日・独日)を扱っているので、今年になってからも仕事の合計量は減っていない。
取引先を個別に見れば、5月以降にゼロになっている国内の特許事務所もあるが、海外からは切れ目なく仕事が来ている。

特許という分野の特徴なのだろうが、COVID-19 が来年も続くとなると、業界動向は予測できない。
ただ、COVID-19 関連の特許出願も次々に出ているので、バイオ・医療関係を得意にしている翻訳者は忙しくなるだろう。

ということで、今月作成した英日特許翻訳のトライアル課題は、コロナウイルス検出キットの特許、そして、COVID-19 の治療薬に関する特許をもとにした。

今号の特別企画では、COVID-19 関連の専門用語が取り上げられているので参考にしてほしい。

それで、リーマンショックの2008年はどうだったのか、過去記事のうちの1つを参照してほしい。
https://livedoor.blogcms.jp/blog/marburgaromaticschem/article/edit?id=219167

2008年当時は医薬メーカー子会社の研究員で、副業として英日・独日翻訳をしていた。
年間の翻訳料金の合計は約93万円だった。


リーマンショックで減ったなどということは、このときは書いていない。
副業ということで、翻訳専業の人たちよりも元々案件数が少ないので、影響が見えなかったのだろう。

2004年に独日翻訳者として最初に登録した翻訳会社からは、リーマンショックが起きる前の2008年6月から受注していない。
その翻訳会社が子会社を吸収合併した後、2009年7月に取引を再開している。

1年間も空いたのは、リーマンショックの影響の可能性もあるが、独日翻訳の案件数が元々少ないことと、私が副業ということで作業時間が足りずに断ったことが大きいと思う。

また、リーマンショック直後の2008年10月に、原子力発電関係の翻訳会社から新規受注している。

このとき、ブログで、ドイツ原発周辺での小児がん発生(特に白血病)に関する報告書を紹介したので、興味を持ったクライアントが、その翻訳会社を介して和訳を依頼してきたのだ。

今ならSNSということかもしれないが、ブログも含めて積極的に自分の専門性をアピールしておいて損はない。
現在の取引先のいくつかも、ブログ記事がきっかけとなったから。

では、ワード単価はどうだったのだろうか。

ドイツ語和訳で言えば、元々12~15円/ワードの幅があり、これはリーマンショック後も変わらなかった。
ただし、東日本大震災後、15円ということはほとんどなくなり、12~13円になった。
その後、12円が主流になっているので、単純計算で20%の売上減になったわけだ。

最近は独日なのにワード単価10円も見たことがある。
消費税10%を加算したとしても、受注したくない料金設定だ。

不況かどうかは関係なく、値下げ圧力が常にあるということだろう。
そしてクライアントから、震災の影響だとか、もっともらしい理由を突き付けられて、渋々値下げを受け入れなければならない状況に追いやられているということだ。

副業翻訳では、会社員としての給料もボーナスもあるのであまり気にしないが、専業で20%以上の減収はきつい。
ということで、翻訳専業になってから海外の翻訳会社と契約して、国内では少ないドイツ語和訳案件を受注するようにした。

まとまっていないので参考にならないと思うが、不況かどうかに関係なく、常に自分の専門性を活かすことを考えて力を蓄え、ブログなどの発信も継続して、チャンスが訪れたら逃さないという機動力も必要だと思う。

2年くらい前から、機械翻訳(MT)の精度が上がったということで、その出力をチェックして翻訳を完成させるポストエディット(PE)が話題となるようになった。

訳文が既に入力されているものの、MT特有のエラーが含まれるので、PE作業は期待されたほど楽ではない。
文脈を反映しない想定外の誤訳も出現するので、かなりストレスが溜まる作業だ。

運よく高精度のMT出力に当たれば、作業時間が大幅に削減されるが、たいていは10%から20%程度の短縮と考えた方がよい。
高精度になったとしても、全文を細かくチェックするので、ざっと流してみるようなことはできないのだ。

案件によってPEの手間は大きく変動すると思われるため、料金設定はワード数換算ではなく、時給制の方が合っていると思う。
これは、人間翻訳(HT)のチェックと同じことだ。

しかし、ワード数から一律ディスカウントした方が計算が楽なので、CATツールによるマッチ率ディスカウントと同様の値下げ圧力が働いているようだ。

今月、ある海外の翻訳会社から、MTPE案件について
受注を希望するかどうかの問い合わせメールが来た。
言語ペアは不明で、料金についてのみ提示されていた。
具体的な料金設定を書けないが、全部HTだった場合の50%よりは高く、80%よりは低い料金と言っておこう。

MT出力の精度が低い場合は、通常の翻訳案件に切り替えて、料金も100%になるという。
ただし、MTPEからHTへの変更は、コストアップになるのだから、クライアントが同意した場合に限られるようだ。

MTPEは、大量の文書を翻訳しなければならないのに翻訳者が足りない場合に、有効な方法と期待されている。
それでも、作業時間がいくらか短縮可能だとしても、半分になることは滅多にない。

ストレスが溜まる仕事でもあるので、もしディスカウントするとしても、時間短縮分を考慮して、HTの場合に対して最低でも80%の料金を確保すべきではないか。

低料金でも受注する人はいるかもしれないが、優秀な翻訳者ほどMTPEを断るため、翻訳品質が確保できなくなるだろう。

英語話者から見て日本語は、最も習得が困難な言語に分類されているのだから、料金は高くてもよいはずだ。
アメリカ合衆国国務省の次のサイトで、カテゴリーIVであることを確認してほしい(スクリーンショット添付)。
www.state.gov/foreign-language-training/

日本語困難度

だから、クライアントから値下げを要求された翻訳会社も含めて、翻訳関係者は協力して対応すべきではないだろうか。
MTPEを受けないと決めている翻訳者も、できれば協力してほしいものだ。

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