北陸電力で、過去に起きた臨界事故を隠蔽していたことが発覚し、
同社は事故調査対策委員会を設置して、調査と再発防止を検討することになった。

その委員会のメンバーを発表した最初のニュースリリースは、3月16日に発表された。
http://www.rikuden.co.jp/press/attach/07031602.pdf

委員の名簿には、「片岡勲・大阪大学大学院工学研究科教授」 とあるが、
なぜか3月20日には 「大橋弘忠・東京大学教授」 に交代したとある。
http://www.rikuden.co.jp/press/attach/07032001.pdf

所属が 「東京大学大学院」 ではないことに、急に変更したことを感じてしまう。



日本経済新聞・地方経済面では、3月21日の報道で、北陸電力が説明した理由が書いてあった。

[北陸電力は二十日、志賀原子力発電所1号機(石川県志賀町)の臨界事故隠しの原因究明や、
再発防止対策作りなどに取り組む「志賀1号機事故調査対策委員会」の委員一人の交代を発表した。

大阪大学大学院の片岡勲教授に代わり東京大学の大橋弘忠教授が就く。

同社は片岡氏が委員会のスケジュールに合わず辞退したと理由を説明した。]


片岡教授は、JCO臨界事故に関する論文もあり、また沸騰水型原子炉の設計の研究もしていた。
今回は沸騰水型原子炉の臨界事故だし、原子力関係の委員も既に経験しているから適任ではないか。

大阪からは、特急を利用して日帰りも可能なのに、学会や他省庁の委員会で忙しいのだろうか。
教授の新年度のスケジュールだって、委員会設置時点でわかっていたはずだ。

たった3日(実際には週末の土日)で、緊急課題を断るくらいの重大な用件が入ったのだろうか。

わざわざ地理的に遠い東京大学の大橋教授に入れ替えたのは、
彼がたまたま暇だったわけではなく、ある意図が背景にあることを疑ってしまう。

経済産業省の原子力安全・保安院長が訪問した後に変更したことも、疑いを強くする。


大橋教授がプルサーマル推進派だから、真の目的は臨界事故の解析と再発防止ではなく、
プルサーマル計画実施のために、北陸電力が今後取るべき対応策の協議になるはずだ。



片岡教授を委員にすると、臨界事故や沸騰水型原子炉の設計の問題点の指摘がされてしまうので、
今の原子炉でプルサーマル計画を実施したい政府・業界の意向と、異なる報告となる可能性がある。

大橋教授は、佐賀県でのプルサーマル公開討論会で、次のように発言している。
http://www.pref.saga.lg.jp/at-contents/kurashi_anzen/genshiryoku/genshiryoku/touron/plu_touronkai_iken.html#susumu2

安全性は解析や実験で確認されている

我々の現代社会には、いろんな問題が出てきます。原子力発電とか、遺伝子操作、伝染性の疾患、
地球環境問題。こういう問題は、極めて技術の果たす役割が大きいものです。

過度に情緒的なアプローチや、怖い・恐ろしいといったイメージがたくさん流されていますが、
科学技術の問題というのは、科学技術をベースにした客観的な判断をすることが一番の基本です。

安全確保の視点は、安定に運転できるかどうか、何か起きたときに安全に停止できるか、
万一の事故時に放射能影響を防げるか、といった問題です。

プルサーマルについては、燃料をプルトニウム入り燃料に変えるだけで、原子炉特性に
基本的な変更はなく、安全性が現行の軽水炉と変わることはありません。


こういうことの判断の根拠は解析や実績、実験、学術的知見、経験に基づいて総合的な特性を判断します。
これまで軽水炉、プルサーマル、高速炉、実験炉、新型転換炉、多様な条件の経験と実績を持っており、
また、データベースの整備、解析手法の改良、計算機性能の向上とあいまって、
基本的に特性を正しく予測できる技術が確立しています。

これに、プルサーマルに関しては臨界実験や装荷割合、原子力出力、燃焼度、
プルトニウム含有率についての実績をベースに判断をしています。 

事故の影響範囲については技術的に想定しうる最大の放射能漏洩を仮定した時、MOX燃料装荷では、
よう素が1%弱増えるが、希ガスは5%強減るという結果になっており、現行と同等の結果です。

これに対して距離が2倍に、面積が4倍になるという話があります。
その評価は、プルトニウムとか他の元素がチェルノブイリより更に放出されるという想定をしています。

これは技術的には発生しないシナリオです。

軽水炉ではチェルノブイリのようなことは起きません。
それを意図的に想定して恐怖の垂れ流しをやっているような評価結果です。


安全余裕を食いつぶすとか、事故の影響が2倍4倍になるというようなことは全くありません。
玄海町だとか佐賀県の地元の方々が不安を感じる必要は全くありません。

この公式の新聞報道版とは違って、公開動画を見た人の感想が 「美浜の会」 に載っていた。
http://www.jca.apc.org/mihama/News/news85/news85ohashi.htm

アンケートでは、「大橋氏の話が特に理論的で共感できる」 ともあったが、批判も少なくない。
http://www.pref.saga.jp/kenseijoho/koho/kisha/archives/200601/18/h43cdff4a61d9d/pulsa-maru-iken18-2.pdf

[大橋氏の話は慎重派の人の話に正面から答えるものでなく理解できなかった。
慎重派の人が発言しているときにいつも「ニヤッ」と笑っていて人間性に欠陥があると感じた
そのような人の話は全く信用できない]

[安全安心に不安があるから参加しているのに、大橋氏の参加者をバカにしたような発言は失礼]


この大橋教授の発言について議事録を読んでみると、その人格を疑ってしまう。
まあ、大学教授だからといって、決して人格者だとは思わないが。

[【東京大学大学院 大橋教授】
今日はプルサーマルの安全性というタイトルでパネルが開かれました。

私はこういう問題をどういうふうに考えるべきであるかをどういうふうに考えて、
どういうふうに設計して安全を確保しているのかというご説明を差し上げました。

で、それがかみ合わないとおっしゃるんですけども、反対派慎重派の方が言っておられるのは、
(中略)九州電力は安全審査の解析書を作って、国がさらに安全審査をしたという結果の中に
入っていることをごちゃごちゃ言っておられます。

で、それはもう全部かたがついちゃってますから、今日、慎重派の方が言っておられたのは
地震が起きたらどうするんだとか、再処理工場で青森とか岩手のことを考えてみろとか、
プルサーマルの安全と全然かけ離れてることばかりです。

そんならそういう専門家を呼んできて議論する。どうして関係あるんですか。
プルサーマルの安全とは関係がないですよ。



【中村コーディネータ】

不規則発言で、やらないでください。壇上と。それはあのみなさんのお気持ちは、多分、
小出先生が先ほどおっしゃったことだと思うんで、あのそういう刺激の仕方はしないで下さい。
せっかくみんな冷静に話してきたんだから。

【東京大学大学院 大橋教授】

せっかく説明してもですね、いやかみ合わない、わからないと、
いつまで言ってもそうじゃないですか。理解しようと言う気があるんでしょうか。


【中村コーディネータ】

ちょっとそれぐらいにしておいてください。今の大橋先生の発言に対しては、
私もイエローカード出します
けれども、ただ会場でまたそうして不規則発言をたくさんされると
他に静かに聞きたい方もいらっしゃるんで、それだけは控えて下さい。]



ならば大橋教授は、この公開討論会以後に発覚した、臨界事故隠蔽や制御棒脱落を再度考慮しても、
それでもなお、これまでの解析・実験結果から完全に安全だと言い切るのだろうか。

科学では感情や作為的要因を排除するものだが、人間が運転する原発について、
コンピュータ・シミュレーションだけで、すべてをわかったつもりの大橋教授は怖い。


事故調査委員会の委員を、わざわざプルサーマル推進派に入れ替えたのだから、
「再発防止策により、プルサーマル計画実施には問題ない」 という結論を出すのが目的だろう。


権力側が意図的に人選しているわけだから、様々な審議会・委員会と同様に、
政府・業界側に都合のよい報告書を作ることは、最初からわかっている。

こういった 「御用学者」 が、専門知識を持たない一般市民を黙らせるのに利用される。
それに 「御用学者」 も、自分の研究費が続く体制を維持したいから、利用されたいと思っている。


大橋教授に取材しているメディアの情報は、今のところないようだ。
大橋教授が選ばれた背景を、独自取材して報道してほしいものだ。

特に、東京ではなく石川県に常駐して、毎日調査をしているかどうかを。

こういった肩書きを利用する、学歴エリートのわがままを監視していかなければならない。


追記:
朝日新聞富山版では、この委員交代について3月31日に報じられていた。

[2人の外部委員を加えて設置された事故調査対策委員会も、「社内の調査」を理由に一切が非公開。
いつ開催されたのかすら明らかにしなかった。そればかりか外部委員の1人が辞任、別の専門家に
交代したときも朝日新聞が問い合わせるまで発表はなかった。


大橋教授は、公開されると何か困ることでもあるのだろうか。

(最終チェック・修正日 2007年04月14日)