先月のドイツ語和訳がキャンセルとなってから、何も問い合わせがない。
そのためいつものように、ドキュメンタリー番組を観たり、英語・ドイツ語そして和訳ニュースサイトを毎日読んで勉強している。
主に利用している和訳ニュースサイトは、英語の元記事と比較が簡単にできるCNNやAFP、そしてロイター通信である。

他の翻訳者の粗さがしをしているわけではないが、今回もAFPの科学記事で、気になる個所を3つ見つけた。
その記事とは、11月16日付けの「はくちょう座のOB2星団に輝く若い星たち、NASA」である。
www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2912000/9826305

1つ目は、英語原文の最初の部分を大幅に簡略化したため、和訳記事の出だしに違和感があること。
2つ目は、「young star」の訳語に、「若い星」や「早期型星」ではなく、「早期星」を選択したこと。
3つ目は、「X-ray source」を「X線源」ではなく、「X線」とした訳抜けである。

AFP配信の英語記事は、NASAの発表をそのまま引用している。
和訳記事の一部と、対応する英語原文を以下に示しておこう。

【英語:The Milky Way and other galaxies in the universe harbor many young star clusters and 
associations that each contain hundreds to thousands of hot, massive, young stars known as 
O and B stars shown in this NASA image obtained on Nov 12. The star cluster Cygnus OB2 
contains more than 60 O-type stars and about a thousand B-type stars. … About 1,700 X-ray 
sources were detected, including about 1,450 thought to be stars in the cluster. … (AFP)】

【和訳:米航空宇宙局(NASA)は12日、天の川銀河(Milky Way)とはくちょう座(Cygnus)に存在する多数の早期星を捉えた合成画像を公開した。はくちょう座のOB2星団には、高温で質量の大きな早期星のO型星が60個以上、B型星が約1000個存在する。

はくちょう座のOB2星団では、これまでに約1700のX線が検知されており、そのうち約1450がOB2星団内に存在する星と推測されている。(c)AFP】

英語記事の最初にある(The Milky Way、天の川銀河)の後から、はくちょう座OB2星団の話につながる部分は、ほとんど省略されて、大幅に再編集されている。
英語原文を見なくても、銀河系である天の川銀河と、天の川領域にあるはくちょう座とを、同列扱いで併記している点に違和感がある。
それに加えて、NASAの映像ギャラリーを見ると、11月12日に公開した画像は、はくちょう座OB2星団の合成画像だけ。

スペクトル型分類でO型とB型の恒星は、「early type star、早期型星」と呼ばれているが、「早期星」ではない。
young star を専門用語風に和訳したのかもしれないが、見出しにある「若い星」のままでよかったと思う。

3つ目に指摘した「約1700のX線」という表現に、違和感を持つ人は多いだろう。
英語記事を見れば訳抜けだとわかるが、原文を知らなくても、「約1700個のX線源」の方が科学記事としてふさわしい。

AFP日本語記事で使われる学術用語について、星座名など、これまで指摘した個々の事例は再発防止ができている。
それでも今回のように、翻訳者だけでなく、チェッカーやディレクターのレベルが、科学記事を書く能力に達していないと疑ってしまう和訳が散見される。

私は本業があるので、速報性を重視するニュース翻訳はできないが、チェッカーならばなんとかできそうだ。
AFPだけではなく、CNNもロイター通信も、科学記事では違和感のある和訳記事を掲載することがあるので、自然科学系の翻訳者とチェッカーを複数確保すべきだと思う。

まあ、科学記事としての内容よりも、画像の美しさや、新発見について簡単に話題にする程度でよければ、何も予算をつけてまで無理をすることはない。
ただしそれではある意味、一般読者の科学リテラシーが低いことを前提に和訳していると、誤解されても仕方いないだろう。

改善するかどうかはわからないが、16日夜に質問メールを送信したので、今月中の回答を待つことにしよう。


追記:
メールでの回答はまだ来ないが、記事中の語句は私の指摘通りに修正されていた。
ただし、最初の文は修正されていないので少々不満だが、今後の和訳レベルの向上を期待しよう。