カテゴリ: 大学・研究・論文

私は元々大学で研究することを望んでいたし、父が獣医で農協関係の団体で働いていたから、この数か月話題となっている加計学園の獣医学部新設に関わる報道を毎日気にしていた。

私が加計学園に関係しているかどうか、そして父がどの大学を出たのかは、ここでは個人情報に関するため公開しないことにしたい。
そのため、これから書く内容は、引用した資料が存在しない場合、伝聞のこともあれば、私が直接見たことも含む。

私の率直な意見として、この加計学園の獣医学部は、最初に
優秀な教員と研究者を確保すれば、なんとかなりそうだ。
海外で研究している日本人をスカウトするのかもしれないし、傘下の大学から異動させるのかもしれない。
ただし人選を誤ったり、論文数が少なければ、中間評価時などに特区の条件を満たしていないという批判が起きるリスクもある。

加計学園ではこれまで、幼稚園から大学までの様々な学校や各種学校などを設立し、それぞれの理事長などの要職は、加計一族でほとんど占めている。
20年くらい前にも、大学関係者から、親族の人数分の学校を作っている、と悪口を言われていた。

今回も、親族の誰かにプレゼントするために獣医学部を作りたかったのではないかと思っていたら、理事長の息子が獣医だという。
今は傘下の倉敷芸術科学大学の講師で、獣医学博士を目指して、他大学院に社会人学生として在籍中のようだ。

ということで、息子の博士号取得に合わせて獣医学部を新設し、運営を任せるのかもしれない。
www.kusa.ac.jp/teachers/satoru-kake/ (倉敷芸術科学大学の教員紹介)

加計学園は、その傘下の大学の入試偏差値がそれほど高くないこともあり、「単なる卒業証書販売業」という批判を聞いたことがある。
「夜の帝王」と呼ばれた理事長は、世界最先端の研究のみならず、教育にどれほど興味あるのだろうか。

また、傘下の大学には、文部科学省からの天下りの他に、国立大を定年退官した有名教授をスカウトしている。
その学会重鎮の力で国から予算を確保し、ハイテクリサーチセンターなどの付属施設も作っている。
大学では常に何らかの工事が行われており、業者の仮出張所が大学敷地内にあるが、これは常駐と同じだ。
癒着とまでは言えないものの、研究すると言って国から予算を取り、そして仲良しの建設業者に分配しているようなものだ。

これからは少子化で潰れる大学も出てくるのだから、せめてまともな運営をして、学生が困ることがないようにしてほしいものだ。

ただ、文部科学省や日本獣医師会などの関係者が、もっと早く獣医教育改革を実現していれば、安倍首相などに抵抗勢力と呼ばれることもなく、加計学園に有利に働くこともなかったのではないだろうか。

山本大臣の「日本の獣医学部の質は落ちている」という発言について、日本獣医師会が反論している。
www.jsvetsci.jp/pdf/20170608iken.pdf

また、全国大学獣医学関連代表者協議会のHPも参考にしてほしい。
plaza.umin.ac.jp/~vetedu/index.html

しかし、もっと前に改革が成功していれば、こんな事態にならなかったと思う。

以前から課題となっていた獣医教育の改革は、ようやく共通の獣医学教育モデル・コア・カリキュラムが2011年3月にまとまり、昨年度から国際水準の教育を目指してスタートしたばかりだ。
times.sanpou-s.net/special/vol5_2/ (大学タイムズ2012年6月Vol.5)
www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/__icsFiles/afieldfile/2011/06/16/1307168.pdf (獣医学教育モデル・コア・カリキュラム)

これまでも課題の指摘や改革案の提案がなされてきたので、せめて10年前にまとまっていればよかったのにと思う。

例えば、日本獣医師会誌で2005年に、「獣医学教育改革運動の反省と今後」という記事が発表され、経緯が概観できる。
www.jstage.jst.go.jp/article/jvma1951/58/3/58_3_148/_pdf

更に、抜本的改革を提言する文書も日本学術会議でまとめられている。
www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-17-t933-9.pdf

国立大学の再編が様々な事情で実現できなかったため、各地に分散したまま効率的な教育ができず、加計学園に付け入る隙を与えたように思える。

引用した日本獣医師会誌の記事でも、再編に言及しているが、結局は実現しなかった。

【第3段階は,入学定員60~80名,教員72名以上の獣医学部の設立である.
もちろん,自主努力によりこれが達成できることが最も望ましいが,客観的に見て,その実現の前提は再編整備であろう.】

単独で獣医学部を維持しているところもあるが、小さい地方大学は、複数校が連携して共同獣医学科を作った。
ある大学から獣医学科のみが、別の大学に移籍するというのは、様々なしがらみもあって無理だったのだろう。

これより前、約30年くらい前の話だが、父が関与していた、ある獣医学科の獣医学部への昇格計画も、結局は実現しなかった。

戦前からの歴史ある獣医学科であるが、戦後は農学部に属する一学科の扱いであり、父を含めたOBの運動もあって、獣医学部への昇格を申請することになった。
父も委員に選ばれて、カリキュラムに加えて、どのような講座を追加するのか、教授から助手までの研究室体制も細かく検討されていた。
家畜から小動物まで、生理学や疫学、その他の幅広い分野を網羅する学部になるはずだった。

最後にもう一度言うが、このような改革が進んでいて、国際的に通用する獣医学教育が早く実現していれば、加計理事長が息子に獣医学部をプレゼントするために特区に選ばれるようなバカなことも起きなかったはずだ。

今後、何か問題が発生しても、誰も責任を取らないのだろう。

(最終チェック・修正日 2017年02月28日)

トランプ大統領が地球温暖化に対して懐疑的であることなど、選挙戦最中から科学界からは懸念の声が聞こえていた。
加えて、中東・アフリカ7か国からの入国禁止大統領令を発表したことで、批判の声は大きくなっている。

アメリカには、入国禁止の対象国も含めて全世界から、自国では得られない研究環境やテーマを求めて、研究者が集まっている。
競争社会にはいろいろと問題はあるものの、イノベーションが生まれる土壌であることは事実だ。

しかし、この入国禁止という大統領令が有効になると、そして更に対象国が拡大されると、アメリカの大学や研究機関のレベルが下がる恐れがある。
また、留学だけではなく、アメリカで開催される国際会議や学会、シンポジウム、セミナーなど、国際的な研究者の交流も阻害されてしまう。

先日もNHKのニュースで、日本で研究しているイラン人研究者が、アメリカの学会に参加できなくなったことを報じていた。
しかし日本では、大多数の日本人には関係ないためか、あるいは、経済関係や安全保障の方が重要だからなのか、日本学術会議をはじめとしてトランプ大統領令に反対しているとは聞かない。
国際的な研究環境の危機かもしれないのに、日本人は対象外のはずだから、ということで、国際社会と連帯しようとまでは考えないのだろう。

それに対してドイツでは、政府が反対声明を表明しただけではなく、2月3日にドイツ研究振興協会(DFG)やマックスプランク協会など9団体が連名で、「Wissenschaft ist internatioal(科学は国際的である)」という声明を発表した。

例えば、マックスプランク協会のHPでは、次のリンクでPDFをダウンロードできる。
www.mpg.de/11033476/Stellungnahme-Wissenschaftsorganisationen_Praesidialdekret-Einreise-deutsch.pdf

この声明文を紹介するマックスプランク協会の Standpunkte には、次のように書いてある。

Es ist "eine pauschale Benachteiligung von Menschen aufgrund ihrer Herkunft und damit ein Angriff auch auf die Grundwerte der Wissenschaft".
(この大統領令は、人々をその出身に基づいて一律に不利に扱うことであり、それと同時に科学の基本的価値への攻撃でもある。)

声明文では、入国禁止措置は、テロとの戦いに対して不適切な方法であり、科学界での国際的共同研究や交流に影響すると指摘し、この措置をすぐに撤回することを要求している。

ドイツには、イランから学生や研究者が留学しているだけでなく、移民も受け入れている。
イランとドイツの二重国籍の人も多いという背景もあるため、今回の抗議声明が出るのも当然かもしれない。

それでも、自由な交流が原則である科学の世界に国境を持ち込もうとする試みには、その原則を守るためにも、断固として反対しなければならない。

期待しても無駄かもしれないが、日本の研究機関や学会のうちどこか1つでもいいから、抗議声明を出してほしいものだ。
私は翻訳専業になってから、日本薬学会などを脱退したため、代わりに学会員の誰かが要望を出してほしい。

追記(2月28日):
1月31日に発表された「国際科学会議(
International Counsil for Science (ICSU))」の声明に続いて、2月16日になってから、日本学術会議会長談話が発表された。
www.icsu.org/publications/icsu-position-statements/statement-on-the-us-governments-executive-order-201cprotecting-the-nation-from-foreign-terrorist-entry-into-the-united-states201d/
www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-d9.pdf

日本学術会議を代表していても、会長談話ではなく、明確な抗議声明を出してほしかった。
日米首脳会談の日程に配慮したと思われないように、もっと早く行動してほしかった。

私の本業は医薬メーカー子会社での有機合成研究職である。
研究のために読む専門書や学術誌は、1990年代の大学・大学院時代は、約30%がドイツ語だった。
有機合成やNMRに関する Thieme の専門書は、英訳も和訳もないものが多かった。

21世紀になってからは、特許も含めてほとんど英語ばかりになり、本業でドイツ語資料を読むのは、3年に1回くらいの頻度になった。
そのため、副業のドイツ語翻訳・チェックで読む特許の数の方が、本業よりも多くなっている。
一番多いのは、昼休みと帰宅後にネットで読むドイツメディアの記事で、次にルター訳聖書になるだろうか。

スイスの Helvetica Chimica Acta も英語論文ばかりになり、今年もドイツ語は読まないのかと思っていたところ、重要中間体の合成法について、ドイツ語特許を参考にすることになった。
実際に必要な部分は、実施例が書いてある部分の一部で3ページくらいだが、それでも久しぶりだとうれしいものだ。

ところで、このドイツ語特許は、文献検索サービスの種類によっては、見逃されてしまうことに今回気付いた。

検索しやすく、結果も見やすいサービスとして、Elsevier社の Reaxys を利用しているのだが、これは特許は英文のみ対象にしており、ドイツ語特許はEPであっても採録されていない。

Reaxys の特徴を説明する資料は以下の通りで、スライド6に採録内容の記載がある。
www.elsevier.com/jp/online-tools/reaxys/documents/Reaxys_update20091011.pdf
【WO/US/EPに出願された英文特許から抽出 (US: 1976年以降, WO/EP:1978年以降)】

この Reaxys では専門家が、利用価値の高い反応と判断して、データベースに加えているため、検索結果から実験条件を決めても大丈夫だろうと思って使っている。
ただし、前述のように特許については、ドイツ語も、そして日本語も採録されていないので、重要な特許が検索できないという欠点がある。

Reaxys での調査結果に満足できない場合、次の段階として、利用料金は高いのだが、SciFinder を使って網羅的に検索を試みることになる。
www.jaici.or.jp/SCIFINDER/

私は子会社採用の契約社員なのでライセンスはもらえないので、親会社からの出向社員に検索してもらった。
その結果、今回合成する重要中間体の特許にたどりつくことができた。

最近のWO特許では、原文がドイツ語で出願された特許でも、英訳版も存在するので、Reaxys でも採録されると思われるが、英訳が義務ではないEP特許で出願されたドイツ語特許は、SciFinder を使わないと検索すらできないのだ。

使うサービスの特徴を知らないと、検索漏れが発生してしまい、研究が遅れる原因となってしまう。

最近は英語至上主義の人が増えたように思うが、研究者であれば第二外国語も英語並みに使いこなしてほしいものだ。

私は医薬メーカー子会社で有機合成の研究職をしている。
化学系ではあるが、私が合成した化合物、主に対照薬がマウスなどに投与されるため、動物実験に関与していると言ってもよい。
日本の会社だからなのか、敷地内には祠(ほこら)と実験動物慰霊碑があり、関係者の代表が参列する慰霊祭を行っている。

最近の動物実験では倫理的基準が厳しくなっており、苦痛の軽減や、不要な実験を実施しないこと、使用する動物の頭数を減らすこと、そして培養細胞などの代替手段の利用が求められている。
そして、単なる実験材料として扱うのではなく、人間のために尊い犠牲となったことへの感謝の念を持つように教育されている。

特定の受容体をターゲットとした化合物ならば、動物実験をする前に、培養細胞などを用いて反応を調べることで、候補化合物を絞り込むことができる。
そして、この化合物ならば効果が期待できる、と言えるようになってから、動物に投与して様々な生理反応を調べることになる。
動物実験によって、未知だった毒性や副作用などが見つかることもあり、現状では、人間で臨床試験をする前に必須の手順となっている。

現在の医療技術は医薬品開発も含めて、多くの犠牲の上に成り立っていることに変わりはなく、人工的にヒトの臓器を作成できるようになるまでは、動物実験を避けることはできないと思われる。

しかし、倫理的観点から、すべての動物実験に反対し、即刻停止を求めて、強硬手段に訴える人々もいる。
過去にも、研究所が放火されたり、研究者が暴行される事件も起きている。

2014年9月からドイツでは、隠し撮りの手法による stern TVの告発報道をきっかけとして、テュービンゲンのマックス・プランク研究所でのサルを使った実験に対する反対運動が激しくなった。
www.stern.de/tv/sterntv/tierversuchslabor-des-max-planck-instituts-leiden-fuer-die-wissenschaft-2136630.html

この報道に対して、マック・プランク研究所は反論していたが、数か月に及ぶ抗議や脅迫メールの圧力により、研究代表者のNikos Logothetis が2015年4月下旬に中止を決めた。
今後はげっ歯類を用いる実験を続ける予定だが、ヒトに近い種ではないため、脳科学の最先端の研究とは言えなくなる。
www.mpg.de/9209981/Primatenforschung

反対運動の中心となっている SOKO Tierschutz は、今回の停止だけでは不十分で、フランクフルトなど他の施設でのサルを使った実験、そして、すべての動物実験の停止を求めている。
そのため、5月13日からピケを張り、5月27日に大規模デモを予定している。
www.soko-tierschutz.org/de/news/346-ende-der-affenversuche-am-mpi-in-t%C3%BCbingen.html

動物実験を含めた科学研究に対する反対運動は、遺伝子組み換え技術などでも見られるように、拒絶とも言える絶対反対という立場であることが多いように思う。
犠牲を少なくし、苦痛を減らす手法を用いるなど、倫理規定を作って守っていても、すべての動物実験に反対と言われると、残念ながら妥協点は見いだせない。

ヒトに近い霊長類で実験する意味についてマックス・プランク研究所は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの研究に応用するためと説明している。
また、HIVやエボラなどに対する新規ワクチンの開発にも、いきなりヒトで臨床試験はできないため、霊長類での研究が必要となる。
もし、すべての動物実験を否定してしまうと、臓器移植なども含めて、新しい治療法の開発が大幅に遅延してしまう。

人間が助かるためならば動物を犠牲にしてもよいのだろうか、という問いは忘れてはいけないが、今は代替法の開発が進むまでの過渡期として、管理された動物実験を容認できないだろうか。

遺伝子組み換え作物に反対する人たちは、糖尿病患者が使うインスリン製剤にも反対するのだろうか。
他のバイオ医薬品も含めて、遺伝子組み換え大腸菌の恩恵に浴している人は多い。

ただ、反対者だからといって、開発段階で動物実験を利用した医薬品や、遺伝子組み換え技術で生産した医薬品を使わせないというのは、これも倫理的に容認できない。

不完全な人間の行為なのだから、はっきりと答えの出ないグレーゾーンにあることが多いのではないだろうか。
難しい問題だが、無視せずに問い続けることが大切ではないか。

学術誌に投稿された論文は、編集部と専門家による審査を経て、新規性などの重要度が認められると掲載される。
論文掲載が認められても、内容が正しいかどうかの保証はなく、追試によって間違いだったと判明することもある。
間違いに気付いた場合、その論文を掲載した編集部に対して意見書を送ったり、追試結果そのものを論文にすることもある。

他にも、自分が著者に入っていない、サンプルを提供したのに謝辞がない、自分の論文が引用されていないなど、様々なトラブルはよくあることだ。
編集部を通して著者と交渉することになるが、直接メールで著者に意見を伝える人もいる。

New England Journal of Medicine に最近掲載された臨床試験の論文の著者に対して、ある医薬・医療器具メーカーが直接メールで、論文内容の修正要求をした。
試験に使った薬品は他社品だが、論文の表記のままでは自社品と誤解されるとのことで、「修正しない場合は、法的措置を取る可能性がある」という内容だった。

論文の主著者で、修正メールを受け取ったのは、デンマーク・コペンハーゲン大学病院の Anders Perner 医学博士
forskning.ku.dk/search/profil/

論文は6月に既にオンライン版で公開されていたが、印刷版の7月12日号では、次のようにタイトルと抄録は修正されている。 
www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204242
【Hydroxyethyl Starch 130/0.42 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】

修正前の論文タイトルは、臨床試験が行われたコペンハーゲン大学病院のサイトに掲載されている。
www.rigshospitalet.dk/RHenglish/Top+menu/News+and+Media/News/News+Archive/Hydroxyethyl+Starch+130+04+versus+Ringers+Acetate+in+Severe+Sepsis.htm
Hydroxyethyl Starch 130/0.4 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis

論文本文の修正個所は不明だが、タイトルと抄録部分で、臨床試験に用いたHES(ヒドロキシエチルスターチ)の表記を、「130/0.4」から「130/0.42」に修正している。

この修正要求をしたのが、ドイツに本社を置く Fresenius Kabi(フレゼニウス・カービ)ということもあり、この裏話は、ドイツの SPIEGEL Online で取り上げられている。
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/hes-von-fresenius-kabi-pharmakonzern-bedraengt-kritische-forscher-a-846611.html

Fresenius Kabi 社のサイトは以下の通りだが、今回の修正要求については何も発表していない。
www.fresenius-kabi.com/index.htm
www.fresenius-kabi.de/ (ドイツ語)
www.fresenius-kabi.jp/ (日本支社)

Perner 教授はメールチェックをしていて、「修正しないと法的手段を取る」という、アメリカ支社の弁護士から届いたメールに驚いたことだろう。
Fresenius Kabi 社からも研究費をもらっているのに、修正を強要するようなメールが突然来るとは思ってもいなかっただろう。

修正要求対象の論文は、B. Braun Melsungen 社のHESである Tetraspan (表示は130/0.42)を使用していたが、タイトルも含めて Fresenius Kabi 社が使っている表示の 130/0.4 と書いてしまった。

METHODS のところで使用した製品名を明記しているし、Disclosure forms をチェックすると、
B. Braun Melsungen 社から臨床試験用に援助を受けたことがわかる。
だから、一般的な表示としても受け入れられている、「130/0.4」でもかまわないと思う。

しかし、論文タイトルに「130/0.4」と書いてあるだけでは、どこの会社の製品なのかは判断できないとも言える。
ということで Fresenius Kabi 社としては、誤解による自社製品 Volven の売り上げ低下を恐れて、論文の修正を要請したと思われる。
会社側は教授への圧力を否定しているものの、リスクが高いHESとは、市場で競合する
B. Braun Melsungen 社の製品の方だと印象付けたいのかも。

抄録の最後には次のようにあるのに、メールの指示に従ったのだから、何も影響を受けていないとは言えないだろう。
【Dr. Perner reports receiving grant support from Fresenius Kabi. 
No other potential conflict of interest relevant to this article was reported.】

ヒドロキシエチル基の平均置換度が 0.4 と 0.42 とで有意差があるのかどうか、という疑問を持つ研究者もいるのは事実だ。

今回は有名学術誌に掲載された論文で、数え切れないほどの医師が読むから、会社側も修正を求めたのだろう
ところが、他の学術誌はそれほど有名ではないためか放置されているので、修正要求をするかどうかは学術誌の認知度が影響しているのだろう。

Pernar 教授のHES関連の論文は、Trials という学術誌にもあり、タイトルに「130/0.4」とあるが、これは訂正を求められていないようで、そのまま残っている。
www.trialsjournal.com/content/12/1/24
【Comparing the effect of hydroxyethyl starch 130/0.4 with balanced crystalloid solution on
mortality and kidney failure in patients with severe sepsis …】

ところで、日本支社のHESの説明では未承認の製品も含めて、以下のように、高い評価を受けていることを紹介している。

HES製剤
Fresenius Kabiは、長年にわたり、代用血漿剤、特にHES(hydroxyethyl starches, ヒドロキシエチルデンプン)製剤の開発を進めてきました。
現在、本邦では分子量 70,000の、低分子HES製剤を販売しています。低分子HES製剤は、日本で数十年に渡り使用されており、効果と安全性の面で非常に高い評価を受けています

そして海外では、分子量 130,000或いは 200,000の、中分子 HES製剤(本邦未承認)を販売しています。
特に、1999年に販売開始された分子量 130,000の中分子HES製剤は、それまでに得られた知識や経験を活かして開発された製剤であり、より良い物理化学的特徴を有し、安全で高品質のVolume Therapyに最適のHES製剤と言われています。】

最適のHES製剤」と記載しているが、HESについては、「Crystalloid Versus Hydroxyethyl Starch
Trials (CHEST)」という、安全性に関する大規模な比較試験が現在も継続している。
clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00935168

会社の研究費を使う研究者の論文よりも、できるだけ公的機関による臨床試験の結果を参考にして、日本での導入を検討してほしいものだ。
医薬メーカーで勤務する者として、リスクがないかのように説明する企業は、どうも信用できない。
SPIEGEL Online の記事でも、サリドマイドのような薬害にならないように注意喚起しているし。

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