カテゴリ: 翻訳単語帳

今朝は午前4時20分に目が覚めて、女子サッカーワールドカップの決勝戦を見た。
見始めたのは前半途中であったが、スコアが0:0ということで、もしかしたら日本は勝てるのかもしれないと思われた。
ドイツびいきの私としては、ドイツが負けてしまったので半分落ち込んでいたが、その後は日本だけを応援することにした。
延長でもリードされながら同点にしたことは、大会を通じて成長するという、理想的なチームになったことを証明した。

前半はアメリカにチャンスが多くあり、シュート数も日本を上回ったが、ゴールポストに当たってしまうという不運もあった。
ドイツ紙では、「アルミニウムがアメリカのゴールを阻んだ」 という表現をしている記事もあった。
これは、「ゴールポスト」 という同じ語を何度も使わないようにするために、言い換え表現を工夫しているということだ。

同時期に開催されているコパアメリカも含めて、スポーツニュースを読むことで、サッカー用語をいろいろと知ることができる。
ループシュートや細かいパス回しといった用語の他にも、ペナルティエリアぎりぎりでのスライディングタックルなどの表現も。
3年くらい前に、ドイツのサッカー選手へのインタビュー記事を和訳したことがあったので、また受注しても対応できるように慣れておきたい。


ここでは、日本が優勝し、澤選手が得点ランキング1位となったので、「得点王・得点女王」 について取り上げよう。

ドイツ語の名詞では職業名などで、男性形と女性形の区別をすることが多い。
得点王は男性形の 「Torschützenkönig」、得点女王は女性形で 「Torschützenkönigin」 と、語尾が異なる。
澤選手は女性なので、ドイツ語記事では当然ながら、「Torschützenkönigin(得点女王)」 と書いている。

ということで、日本のメディアではどちらを使っているのか、いくつか調べてみた。

朝日新聞では、「得点王」 としている。
www.asahi.com/sports/update/0718/TKY201107180001.html
【…延長前半に勝ち越されたが、同後半に沢(神戸)が得点。PK戦を3―1で制した。沢はMVPと得点王に輝いた。】

毎日新聞も 「得点王」。
mainichi.jp/enta/sports/soccer/news/20110718mog00m050003000c.html
【…澤(INAC)が通算5得点で大会得点王になり、大会の最優秀選手にも選ばれた。】

デイリースポーツでは 「得点女王」 としている。
www.daily.co.jp/soccer/2011/07/15/0004270849.shtml
【…得点女王トップに並ぶ今大会4得点目、日本代表最多得点記録を「79」に伸ばすゴールで、チームに勝利をもたらした。】

スポニチでは見出しと記事で異なっている。
www.sponichi.co.jp/soccer/news/2011/07/13/kiji/K20110713001199620.html
【狙え得点女王!沢、エース弾でなでしこを決勝に導く
…やはり頼れるのは主将のMF沢穂希(32)。今大会3得点で現在得点ランキング2位につけており、“北欧の巨人”を倒すゴールを決めて、優勝と得点王に王手をかける】

英語報道を和訳しているロイター通信は、「得点王」 としているが、元記事の英語では 「Golden Boot」 を受賞したと書いてある。
jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-22241120110718
【主将としてチームを引っ張り、大会MVPと得点王に輝いた澤は…】

uk.reuters.com/article/2011/07/18/uk-soccer-women-world-idUKTRE76G2ML20110718
【… Homare Sawa, Japan's captain who scored the second equaliser for Japan. She won the Golden Ball as the top player and Golden Boot as well. 】

Golden Boot という賞は、FIFAワールドカップのスポンサーであるアディダスが、得点ランキング1位の選手に授与する。
トロフィーが金色のサッカーシューズの形なので、Golden Boot 賞と呼ばれている。
ただ、日本語記事では、サッカーファン以外にもわかりやすくするためか、「得点王」 を選択しているようだ。

日本国憲法には男女平等が明記されているが、個人的には 「得点女王」 を使ってほしいと思う。
私がニュース翻訳をするならば、「得点女王」 を迷わず使いたい。

ところで澤選手本人は、どちらで呼ばれるのがいいのだろうか。

約1か月に渡って、ドイツ連邦軍に関する和訳作業をしてきたが、昼過ぎに推敲が終わった。
昼食後にもう一度見て、誤字脱字をチェックしてから納品した
これで源泉徴収後に約13万円入るので、旅行でも行こうかと思ったが、新型インフルエンザのために未定だ。

翻訳ではいつもそうだが、前例や定訳が見つからず、前後の文脈や他の例文から推測して和訳することがある。
つまり、私の和訳が初めてかもしれず、誤訳の恐怖を感じて悩んでしまう。

今回の翻訳で最後まで悩んだ語句は2つある。
1つはドイツ軍の基本思想 「Wirkung geht vor Deckung」、もう1つは 「Ypsilon」 というタイトルだ。

Wirkung geht vor Deckung」 は 「援護に先んじて実行する」、「Ypsilon」 は 「分断」 とした。
これが最適とは言えないだろうが、文脈から考えて現時点ではこのような和訳とした。
「誤訳だ」 と糾弾されるかもしれないが、翻訳は誤訳のリスクを常にはらんでいることを前提にしてほしい。


Wirkung geht vor Deckung」 は、Focus 誌のインタビューを受けたドイツ軍幹部の発言にあった。
そのインタビュー記事のタイトルは、「我々は臆病者ではない」 だ。

「海外出動時にドイツ兵が殺害されるリスク」 について質問されたときに、この基本思想を引用して、
「攻撃された場合に逃げ隠れするのではなく、命を賭けて反撃する勇気がある」 と示したものだ。

他の文書も参考にして、この基本思想とは、「敵から攻撃された場合に、装甲車の後ろに隠れたり、
援護部隊の到着を待つのではなく、敵に応戦しながら態勢を立て直して主導権を奪取すること」 と理解した。

ということで、先に示したように、「援護に先んじて実行する」 としておいた。
まあ、ドイツ連邦軍に関する適切な資料が見つかったならば、いつか訂正することになるかもしれないが。


もう1つの 「Ypsilon(Y字型のもの)」 は、ドイツ警察学校の教育課程に関する記事のタイトルだ。
あまりにも抽象的で、何を意味するのか全くわからなかった。
本文を読んでみると、「Y字型 → 2つに分かれる形 → 2つの教育課程への分裂」 と推測できた。

ドイツ警察学校では、最初のごく短期間に共通教育科目があるものの、すぐに2つの課程に分かれる。
保安警察と刑事警察の2つであり、その後の教育でも配属後でも、共通の訓練はほとんど行われない。
警察内部で互いに別々の道をたどるということで、「分断」 と意訳した。

こういった本文の内容を反映したタイトル名は、やはり意訳となり、機械翻訳では無理なことだ。
ドイツ語専門家ならば、もう少し適切な言葉になるのかもしれないが、今の私ではこの程度だ。


私は化学者であり軍事専門家ではないが、同じクライアントから依頼があれば、また受注するだろう。
以前もスイス教育制度の文書について、連続して受注したことがある。
化学・バイオ系で登録しても、その分野に固執することなく、幅広く受注する人が喜ばれるのだろう。

これからもいろいろなドイツ語を和訳して経験を積み、定年後は年金を補完できるようにしておこう。

チリにあるESO(ヨーロッパ南天天文台)で、超大望遠鏡群を接続した干渉計を用いて、
小惑星 (234) Barbara(バルバラ)の特異な形状と大きさの観測が行われた。

ESOのプレスリリース(英語)は次の通り。
http://www.eso.org/public/outreach/press-rel/pr-2009/pr-04-09.html

ドイツ語での解説記事は、例えば次の通り。
http://www.astronews.com/news/artikel/2009/02/0902-006.shtml

今回は天文学の話というよりは、小惑星形状の表現についてメモしておこう。

いびつなバルバラの形状が明らかとなり、観測結果に最も適したモデルでは、
直径が 37 km と 21 km の2つの部分があり、それらの中心は互いに少なくとも 24 km 離れているという。

ただ、その2つの部分は重なっているそうで、「落花生型」 または 「連星系」 と考えられている。

ESOの記事中には、次のような表現が出てくる。

【"The two parts appear to overlap," says Delbo, "so the object could be shaped
like a gigantic peanut or, it could be two separate bodies orbiting each other."】

そしてドイツ語記事で、相当する部分は次のようになっている。

【"Die beiden Teile scheinen sich zu überlappen", so Delbo, "deswegen könnte der Asteroid
entweder wie eine riesige Erdnuss aussehen oder es könnten tatsächlich zwei Objekte sein,
die sich gegenseitig umkreisen."】

英語の peanut、ドイツ語の Erdnuss は、そのまま和訳して 「落花生」 としてもかまわないだろう。
落花生の殻のざらざらした表面は、小惑星のイメージにぴったりだし。

ただ、「落花生型」 では、殻をむいた状態を想像してしまうおそれがあるならば、
「2つのこぶ状の部分から成る形状」 を強調する 「ひょうたん型」 の方がよいかも。

日本人ならば 「ひょうたん型」 の方がなじみのある表現かもしれない。
ヨーロッパではヒョウタンという植物が一般的ではないので、「落花生」 の方がよいのだろう。

でもヒョウタンは表面が滑らかなので、小惑星のごつごつしたイメージにはつながりにくい。

これは訳語選択での妥協なのだが、原文にある語を優先して、「落花生型」 が無難だろう。

翻訳記事ではなく、日本語オリジナルであれば、「ひょうたん型」 としてもいいだろうし、
「ひょうたん型/落花生型」 と、用語が固まるまでは両方書いてもよいだろう。

後で国立天文台などの広報を見ておこう。

なお、今回の観測をまとめた英語論文では、 "a bi-lobated shape" としている。
http://www.eso.org/public/outreach/press-rel/pr-2009/ms2_pr0409.pdf

また、他の英語表現は、"bone-shaped"、"bifurcated"、"dumbbell"、"two-ellipsoid" があった。

日本の赤外線天文衛星 「あかり」 の観測成果が公開されている。
アストロアーツの記事は次の通り。
http://www.astroarts.co.jp/news/2008/11/19akari/index-j.shtml

宇宙航空研究開発機構(JAXA)のサイトでの、「あかり」 の説明は次の通り。
http://www.jaxa.jp/projects/sat/astro_f/index_j.html

数多くの成果の中で、オリオン座α星ベテルギウス周辺の観測結果に興味を持った。
ベテルギウスの星風と周囲の星間物質とが衝突し、衝撃波が発生している様子が、高解像度で観測された。
http://thyme.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/PR081119/pr081119_2.html


科学的興味を持って読んでいたのだが、比較で読んだ英語とドイツ語の記事で気になることがあった。
英語とドイツ語の記事は次の通り。
http://www.esa.int/esaSC/SEMCJT4DHNF_index_1.html
http://www.astronomie-heute.de/artikel/974782&_z=798889

それはベテルギウスが英語では 「Betelgeuse」 だが、ドイツ語では 「Beteigeuze」 だったこと。

語源の説明はウィキペディアに譲ろう。
英語で "l" なのに、ドイツ語で "i" になった理由は、英語版とドイツ語版に書いてある。
日本語・英語・ドイツ語の順にリンクを示しておく。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%86%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%82%A6%E3%82%B9#.E5.9B.BA.E6.9C.89.E5.90.8D
http://en.wikipedia.org/wiki/Betelgeuse
http://de.wikipedia.org/wiki/Beteigeuze

アラビア語表記からラテン文字に変換したとき、"l" になった部分があるが、
中世ドイツ語では、手書きの "i" には点がなく、それで "l" を "i" と勘違いしたのだという。


間違いが原因でも、一度固定化してしまうと、今では直せなくなってしまうのだろう。

漢字でも、古い文献の印刷不良により、一画増えてしまった例もあるから、勘違いは世界共通かも。

私は博士論文で、英語を書いているのにドイツ語のつづりになった単語がある。
複数言語を勉強しているときは、意識しないと、ごちゃまぜになる可能性もあるから気をつけよう。


ところで、先に示したドイツ語記事中に、ベテルギウスの説明で、「オリオン座の左肩」 とあった。
"Er befindet sich in der linken Schulter des Sternbilds Orion .." の部分である。

オリオン座の絵を見ると、ベテルギウスはオリオンの右肩に位置しているが、
空を見上げたときには、オリオン座の領域中で東寄り、つまり左上側に位置している。

オリオン座の絵を知らない人が誤解しないように、わざと左肩としたのだろうか。
「オリオンの左肩」 ではなく、「オリオン座の左肩」 だから、表現方法は正しいのだろう。

専門知識を持っている自然科学分野ではあるが、まだまだ英語とドイツ語の勉強は続くようだ。

新聞や雑誌、論文などを読んでいると、日本語でも外国語でも、毎日新語に出会う。
外国語の場合、辞書にまだ採録されていないから、自分で訳語を考えたり、ネット検索をすることになる。

昨日は新聞で、環境に配慮したパーム油の記事を読んだが、その記事中に 「Ökosiegel」 があった。

「Öko + Siegel」 に分解して考える他に、用例を比較してみると、「エコラベル」 がふさわしい。
ついでに同義語として、「Umweltsiegel(環境ラベル)」 という単語も見られた。

ヨーロッパでは翻訳のために新語もすぐに対応しているのか、オンライン独英辞典で「eco label」 だった。

また、スイス連邦評議会のサイトには、英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語の用語集があった。
http://www.bk.admin.ch/dokumentation/publikationen/00292/anglizismen/index.html?lang=de&letter=E&action=translate&id=eco-label

英語の 「eco label」 に対応するドイツ語は、「Ökosiegel・Ökosignet・Ökolabel」 の3つあった。

私が読む分野は限定されているが、新語も含めて、なるべくこのブログにメモして資料にしたいものだ。


ところで、「Ökosiegel」 に関する日本語サイトを検索していたら、
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告書では、「エコ・シール」 としていた。
http://www.maff.go.jp/sogo_shokuryo/yusyutu/16_10.pdf

「平成16年度農林水産物貿易円滑化推進事業貿易情報海外調査報告書 -ドイツ編- 食品別輸入関連規則・
流通事情」(2005年3月)
p.50 「食品には多くの品質シール(Gütesiegel)、エコ・シール(Ökosiegel)がある。」

ジェトロ内部で翻訳したのか、それとも外注したのかわからないが、
2005年時点で 「エコラベル」 という日本語がなかった、とは思えない。

それとも固有名詞ということで 「エコ・シール」 とし、一般名詞の 「エコラベル」 と区別したのか。
固有名詞ならば、「エコ・ジーゲル」 と音訳してもかまわないのだろうか。

また、「エコマーク」 とすると、日本では財団法人日本環境協会が商標権を持っており、
海外動向の報告書に使ってしまうと、誤解を与える危険性がある。

「エコシール」 だと、何だか認定証ステッカーのような雰囲気がするので、どうしても違和感がある。
また、レジ袋を辞退するともらえるポイントシールの例もあるので、報告書ではふさわしくないだろう。

「Siegel」 は英語で 「seal」 に対応させてもよいが、これでは 「封印」 という印象が強い。
「シール」 ではなく、「認証」 とすればよいのだろうか。

独立行政法人の報告書で使ったのであれば、ある程度公式の訳語になると思うが、
委託した農林水産省は報告書を確認して、「エコラベルに変えてくれ」 とは言わなかったのだろうか。

私も翻訳で様々な単語に出会うので、ふさわしい訳語を思いつくように、常に訓練しておきたいものだ。


追記(11月24日):
「Bio-Siegel」 について調べていたら、「ビオ・ジーゲル」 とカタカナ音訳で使っている。

農林水産省の消費者相談の回答例は次の通り。
http://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/0310/12.html

【BIOマークは、ドイツの連邦消費者保護・食糧・農業省大臣によって、はじめて統一された
国家認定の有機認証マーク「ビオ・ジーゲル(Bio-Siegel)」のことをいいます。】

農林水産省が使っているのだから、「ビオ・ジーゲル」 とするのが無難なのだろう。
しかし、「エコ・シール」 としたジェトロの報告書とは一貫性が見られないが。

他にも例えば、無農薬認証ハニーワインの商品説明は次の通り。
http://cheese-honey.com/cheese/7.1/win-000024/

【環境保全に厳格なドイツの厳しい基準をクリア。
ドイツ国家認定のオーガニック認証マーク「ビオ・ジーゲル」が与えられています。】

(最終チェック・修正日 2008年11月24日)

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