カテゴリ: 原子力問題

イギリスの原子力施設セラフィールドは、アイリッシュ海を汚染しているなど、いろいろと問題視されている。
日本は使用済み核燃料の再処理を委託しているのだから、環境汚染や作業員の被ばくに加担しているとも言える。
しかし日本では、六ヶ所村再処理工場の話は聞くが、セラフィールド関連のニュースはあまり流れないようだ。

ということで、同様に再処理委託をしているドイツの報道をチェックしている。
ドイツ人は心配症なので、少しでも異常があったというだけで大々的に報道してくれるので、情報収集の点では役に立つからだ。

1月31日金曜日夜に見た SPIEGEL Online で、セラフィールド施設内の放射線モニタの1つが異常値を検知したとあった。
www.spiegel.de/wissenschaft/technik/britische-atomanlage-erhoehte-strahlung-in-sellafield-gemessen-a-950332.html

この記事の投稿時点(ドイツ時間10時59分)では、施設で事故が起きたわけでもなく通常の稼働をしており、異常値を示した原因がまだ特定されていなかった。
ただし念のために最小限の作業員だけを残して、大半の作業員は自宅待機措置となっていた。

その後、バックグラウンドレベルを超えた原因は、自然界のラドンだったことが判明して、通常の勤務シフトに戻したという。

約4時間後に更新された SPIEGEL Online の記事は次の通り。
www.spiegel.de/wissenschaft/technik/atomanlage-sellafield-a-950438.html

Sellafield Ltd. の発表は次の通り。
www.sellafieldsites.com/press/sellafield-site-operating-at-reduced-manning-levels-update/

【Our in-air monitors are extremely sensitive and pick up on any abnormality. Overnight the
monitoring system initially indicated elevated levels of activity. Following investigation and
analysis, we can now confirm these levels to be naturally occurring background
radon.】

日本の報道は少ないが、共同通信の配信記事は次の通り。
www.47news.jp/CN/201401/CN2014013101002459.html
【英中西部セラフィールドの原子力施設を管理するセラフィールド社は31日、施設で放射線量の上昇が検知されたと発表した。安全確認作業が行われたが、施設には問題が起きておらず、同社は「自然放射線を検知したものだった」との声明を出した。】


このように簡潔すぎる日本の報道では、「ラドン」すら出てこない
日本の新聞は配信記事を転載することが多いので、詳細を知りたい人は、外国の報道を参考にするしかないのだ。

ということで、ロイター通信の英語記事も探して確認してみた(投稿時点で日本語記事は出ていない)。

uk.reuters.com/article/2014/01/31/uk-britain-sellafield-idUKBREA0U0CW20140131

【Sellafield, the largest nuclear site in Europe, declared an alert on Friday after discovering
higher than usual levels of radioactivity, but later called it off, saying naturally occurring
radon gas had triggered the alarm
.】

BBCの記事も経緯をまとめてあるので引用しておこう。
www.bbc.co.uk/news/uk-england-cumbria-25975785

セラフィールドがある地域の地層は古く、もともとラドンが多いことは知られているが、たまたま風向きの関係でラドンガスがモニタのところに集まったのか、バックグラウンド値を超えた理由は分からない。
日本語報道は期待できないので、英語とドイツ語での続報を待つことにしよう。

ドイツ・ハンブルク港では5月1日夜に、スウェーデン船籍の自動車運搬船Atlantic Cartier号で火災が発生した。
200人を超える消防士が消火活動を行ったものの、
鎮火までに丸一日かかり、約30台の自動車が損傷したという。

例えば、Süddeutsche Zeitungの記事は次の通り。
www.sueddeutsche.de/panorama/hamburger-hafen-brand-auf-autotransportschiff-1.1663174

そして貨物船Atlantic Cartie号の現在地は以下のリンクで確認でき、5月17日朝の時点で、火災を起こしたハンブルクのままである。
www.marinetraffic.com/ais/shipdetails.aspx


この貨物船はスウェーデン・ヨーテボリを出航し、主な積荷は自動車70台であった。
このニュースを見たときは、「新車が燃えてもったいない」と思っただけで、
他のコンテナのことは気にしなかった

しかし、その後の報道で、
核燃料物質の六フッ化ウランも積まれていたことが判明し、大騒ぎとなっている。

ハンブルクの放送局NDRによると、20トンもの六フッ化ウランが積まれていたそうだ。
他にも
引火性のエタノールが約180トン、そして爆薬類が数トン積載されていたため、もし爆発していれば、ハンブルクが核汚染される危険性があった。
そのため消防隊は迅速に対応し、消火活動と並行して、六フッ化ウランのコンテナを船から下ろした。
www.ndr.de/regional/hamburg/schiffsbrand107.html (NDR)
www.sueddeutsche.de/panorama/hamburger-hafen-brand-auf-autotransportschiff-1.1663174 
Süddeutsche Zeitung


5月初めの週には、ちょうどハンブルクでプロテスタント教会の集会が開催されており、ガウク大統領も含めて約35,000人が参加していた。
会場は火災現場から約500メートルと近かったため、もしものときには、多数の人々が被曝するという核事故になるかもしれなかった。

それにしても、核物質を運搬するのに、引火性物質や爆薬と一緒にしてもよいのだろうか。
いくら丈夫なコンテナであっても、わざわざこんなリスクを冒さなくてもよいと思う。
運搬ルールについては、後で探して確認してみよう。

ミュンヘン近郊のガーヒンク(Garching)には、ミュンヘン工科大学の研究用原子炉施設 FRM II がある。
www.frm2.tum.de/

この FRM II では、高濃縮放射性ウランを中性子源に用いて、物理や化学、生物学、医学の基礎研究が広範に行われている。
また医療分野では、腫瘍に中性子を照射するという方法で、がん治療も実施されている。

中性子をそのまま使う研究だけではなく、核反応にも利用して、炭素14などの放射性核種の合成も行われている。
化学や生物学では、反応機構や代謝経路などの研究で、放射性炭素14で標識した化合物を使うことがある。
取り扱いには特別な設備が必要なため、非放射性同位体の炭素13で代用することもあるが、現在でも様々な基礎研究に必要とされる放射性核種である。

発電用原子炉よりは小型で、出力20Mwだとしても、放射性物質や設備の管理は厳重に行う必要がある。
しかし FRM II では定期検査時や燃料棒交換時に、冷却系統のトラブルなどが見つかっている。
それに加えて、報告義務があるトラブルも多く、管理体制についても批判されていた。

そして先月11月9日には、放射性炭素14の漏洩のために、原子炉は停止された。
年間放出許容値の上限に近付いたための措置とのことだが、詳細については公表されていない。
その後の洗浄処置で再利用可能となったため、12月6日から再稼働している。
ただし21日からはクリスマス休暇で停止している。
研究施設の発表は次の通りで、今回の漏洩では許容値を超えていないとのことだ。
www.frm2.tum.de/aktuelles/news/einzelnews/article/30-zyklus-fortgesetzt/index.html

施設関係者や周辺住民に被害はなかったものの、あまりにも簡単な発表のため、バイエルン州議会の緑の党やドイツ社会民主党は、今回のトラブルについて情報公開を求めている。
ドイツメディアの報道を、2件引用しておこう。
www.sueddeutsche.de/muenchen/abschaltung-des-garchinger-reaktors-spd-fordert-aufklaerung-1.1556203
www.abendzeitung-muenchen.de/inhalt.garching-erhoehte-radioaktive-werte-forschungsreaktor-abgestellt.e2052bd0-69d7-432e-af8a-38e88d625a5e.html

過去の軽微なトラブルも含めて、ミュンヘン工科大学とバイエルン州政府環境省は、原子炉を管理できていないと批判されている。
連邦放射線防護庁(Bfs)は FRM II の管轄権限を持っておらず、今回は放射線量の測定を行っただけである。

大学側は、核反応で合成した放射性炭素14の漏洩は、原子炉の管理と直接の関係がないとも説明している。
つまり、中性子源の原子炉は管理できているが、中性子を使う外側の実験施設での問題と言いたいようだ。

放射性核種は基礎科学の実験で必要な場合もあるので、動物実験などと同様に情報公開をして説明責任を果たすことが、研究を行うための最低条件ではないだろうか。

9月15日の S?ddeutsche Zeitung(南ドイツ新聞)に掲載された調査報道によると、ロシアの核兵器を解体して得られたウランから製造した核燃料が、ドイツの原発で使用されているという。
www.sueddeutsche.de/wirtschaft/geschaefte-deutscher-energiekonzerne-mit-uran-aus-russland-deutscher-strom-aus-russischen-atombomben-1.1468771

2002年にカナダ・カナナスキスで開催されたG8サミットでは、冷戦時代に製造された核兵器の解体について決議された。
その後のサミットでも核不拡散および核セキュリティーの観点から、核兵器解体で発生する高濃縮ウランとプルトニウムが、テロリストなどの「悪の手」に渡ることがないように議論が続けられている。

そしてこれは映画の見すぎかもしれないが、いつもロシアの核兵器がどうなったのかが問題とされることが多い。
イランやシリアといった核兵器開発疑惑国と関係が深いことも、ロシアが疑われる一因でもある。

ただしロシア側は、名言していないものの、関係者の協力で核兵器解体は進みつつあることを匂わせていた。

そして信頼できる情報によれば、ロシアの核兵器から取り出されたウランやプルトニウムを原料として、原発用核燃料が製造され、それはドイツの原発5か所で利用されているのだという。
その5か所とは、 Obrigheim(オーブリッヒハイム)、Neckarwestheim(ネッカーヴェストハイム)、Brockdorf(ブロックドルフ)、Unterweser(ウンターヴェーザー)、そして Grundremmingen(グルントレミンゲン)である。
ということは、ドイツ国民が電気を使うたびに、ロシアの核軍縮に協力していることになるわけだ。

ただ、ドイツの原発運転企業3社(Eon や EnBW)が核兵器由来の核燃料を利用しているのは、核軍縮や核セキュリティーのためではなく、西ヨーロッパで生産するよりも安く済むという経済的理由だ。

西ヨーロッパで使用済み核燃料から再処理したウランと、核兵器由来のウランとをロシア国内の工場で混ぜて、新たな核燃料棒を製造している。
その核燃料棒は、鉄道や船、またはトラックでドイツの原発に送られている。 

それに加えて気になるのは、このロシア産核燃料の利用は、ドイツ連邦政府が関与しない形で秘密裏に行われ、ドイツ国民は何も知らされていないことだ。

この核燃料ビジネスにおいて、ロシア側の重要人物とは、プーチン大統領と親しいロビイストの Andrey Bykov(アンドレイ・バイコフ)である。
彼はドイツの電力会社 EnBW から、不正に約2億ユーロを受け取った疑いがあるとして告発されている。
彼の主張では、教会の修復などの慈善事業に使ったそうだが、プーチンと親しく、核燃料ビジネスに関与する人物なので怪しい。

取材に対してドイツの原発運転企業3社の回答は、少しずつ異なったものであった。
RWE は、核兵器ウランを含んだ856本の核燃料棒を使用していることを認めた。
Eon も、ロシア製核燃料棒の使用について認めた。

ただしバイコフと関係のある EnBW だけは、「そのような核燃料棒の使用は可能性としてあるかもしれない」と、あいまいだった。
加えて内部文書によると、問題の核燃料棒は、なぜかスイスの関連企業を経由して、ドイツに渡っていることになっていた。
そしてドイツの検察は、EnBW とバイコフとの契約について調査しているという。

ロシアにとっては、核兵器解体によって、ウランとプルトニウムという新たな輸出用資源を得た。
ウラン鉱石を採掘して濃縮するよりも、安価な核燃料を世界中に売ることができる。
核軍縮や核不拡散・核セキュリティーの問題解決よりも、やはりこの世は金目当てで動くのだ。

最近のウランビジネスの概要について、2008年の資料だが引用しておこう(みずほ情報総研)
www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2008/economist080624.html
【…
2006年のウラン需要約6万5,000トンに対して、天然ウラン産出量は約60%にあたる約4万トンであり、残り2万5,000トンはウランの2次供給によって賄われている。
2次供給源には、…ロシアの解体核兵器からのウラン供給…などがある。…
しかし、2次供給は必ずしも持続的なものではない。特にロシアの解体核兵器からのウラン供給は2013年に終了する可能性があり、民間在庫取り崩し量の減少を考慮すれば、2次供給量は2015年ごろまでに大幅減少する懸念がある。
…】

ヨーロッパの企業は、国際政治とは無関係に、裏取引をしてまでウランを確実に手に入れていたのだ。
日本はいつも後手に回っているわけだが、今年の夏、原発が不要だったことが知れ渡ったので、もうウラン確保に奔走する必要もないだろう。


今朝もデータベース翻訳を始めたが、1時間くらいで疲れてしまい、休憩することにした。

昨日19日から福井大学で、日本原子力学会の春年会が開催されているので、関連ニュースを探してみた。
すると、福島第一原発事故の特別セッションで東京電力が発表していたことを知った。
www.aesj.or.jp/meeting/2012s/j/J12Spr_TOP.html (学会の案内)
www.aesj.or.jp/meeting/2012s/j/J12Spr_specialsession.html (3月19日、福島第一原子力発電所事故特別セッション)
【第2部 福島第一原子力発電所事故対応の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(東京電力)福田俊彦

第3部 福島第一原子力発電所事故対応技術セッション(その1)
(1)福島第一原子力発電所事故 1)事故後の取り組みと今後の中長期計画 ・・・・・・・・・・・・・・・(東京電力)山下和彦 
(2)福島第一原子力発電所事故 2)地震・津波の影響について  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(東京電力)土方勝一郎 
(3)福島第一原子力発電所事故 3)事故時の対応状況とプラント挙動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(東京電力)宮田浩一 】

この特別セッションの内容について、福井新聞の記事から抜粋しておこう。
www.fukuishimbun.co.jp/localnews/earthquake/33698.html
【…東京電力福島第1原発事故を受けた特別セッションでは、東電が福島での事故対応や事故時のプラントの動き、地震・津波の影響などを報告。「想定したシビアアクシデント(過酷事故)を超える事故に対する備えが十分ではなかった」と謝罪した。同学会は6月末を目途に、福島事故の進展を技術的な見知からまとめる方針を示した。

…特別セッションには会員や一般聴衆ら約500人が参加。東電の福田俊彦原子力品質・安全部長はプラントパラメーターの解析結果などから「地震発生から津波到達までの間、プラントの安全性は維持できていた」と指摘。過酷事故に至った主な原因は地震ではない―とあらためて説明した。

一方、燃料損傷に伴い被覆菅の金属ジルコニウムと水蒸気が化学反応し発生した水素が、原子炉格納容器から原子炉建屋内に漏れて水素爆発を起こすことは予想していなかったと強調。想定を超える重大事故への備えが不十分で、安全対策に不備があったと認めた。
…】

東京電力は原子力ムラ代表として、原発推進派・所轄官庁の意向を尊重しているのか、「津波が原因で過酷事故に至った」という主張を繰り返している。
旧式の原発が地震動で壊れたと認めてしまうと、推進派にとっては非常に困った事態となるためだ。

同じプラントパラメーターを用いて、強い地震動で既に配管などに損傷が起きた、というシミュレーション報告もあるのに、講演者として招待していない(田中三彦、「科学」、2011年5月号0420~0425ページ、岩波書店)。

田中三彦氏は以前、福島第一原発4号機の圧力容器の設計を担当したのだから、関係者として招待してもよかったはずだ。
しかし、圧力容器製造時の変形について、不適切な補修を行ったことを告発したためか、原子力学会からは無視されているようだ。

一般の人たちが持つ学会のイメージとしては、様々な意見を持つ研究者たちが、自説をぶつけあって熱い議論をする場であろう。
確かに新説に対して反論があったり、座長が司会できないほどの応酬合戦となることもあるが、日本原子力学会の主流派は原発推進派で占められており、反対派をわざわざ招待することはありえない。

まあ、学会として報告書をまとめるそうだから、どの程度偏った内容になるのか、その発表を待つことにしよう。


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