カテゴリ: 原子力問題

原発メーカー東芝の元社員で、現在は東京大学教授である班目(通称デタラメ)春樹・原子力安全委員会委員長が、辞任したいという意向を表明したという。
4月に発足する予定だった原子力規制庁は、法律の成立が遅れているため、原子力安全委員会は存続することになる。
3月末で終わると思っていたのに、いつまで続くのかわからないということで班目委員長は、もう辞めたいと本音を漏らしたという。

しかし3月12日の記者ブリーフィングでは、誰にも相談していなかったことを告白し、しかも「本音を漏らした」と、またまたアホ発言をしてしまった。
www.nsc.go.jp/briefing/info.html
www.nsc.go.jp/info/20120312.pdf
【…冒頭のあいさつで申し上げましたけれども、今、避難している方々のお気持ちなんかを考えたら、私なんかが決して言ってはいけないことかもしれませんけれども、ちょっとさすがに、私自身も精神的にも少しやや限界かなと思っているところもあって、どこかでは区切りを付けたいなと思っているというところもあると。

ただ、原子力安全委員の人事というのは、これは国会の同意が必要なもので、非常に重たいものだと思っていますので、これについては、よく相談してからでないと決められないということは、私自身よく承知しています。
ちょっと、金曜日にちらっと本音を漏らしてしまいましたけれども、まだ、誰にも相談してない状況でございますので、ちょっとこれから考えさせていただきたいというのが本当のところでございます。】

このブリーフィングについての報道として、朝日新聞を引用しておこう。
www.asahi.com/national/update/0312/TKY201203120543.html
【内閣府の原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長は12日、「精神的にも少しやや限界かなと思っている。どこかで区切りをつけたい」と述べ、4月1日に予定される原子力規制庁の発足が遅れた場合でも、3月末で退任する意向を明らかにした。】

事故後の2011年5月24日の衆院復興特別委員会で、参考人として呼ばれた時、委員長を解任するという意見が出た。
しかし班目委員長は、【職務を全うすることが使命だ。ここで逃げたら末代までの名折れ。この問題にとことん付き合いたい】と反論していたが、もう限界ということか。 

まあ、たまたま委員長の順番が回ってきただけだし、審査書類などの点検をするだけだったのに、原発事故後は連日、記者たちから厳しい質問を浴びせられ続けたから、「精神的にも…限界」と口をすべらせても当然だろう。

原発事故を特集したNHKの番組でも、「3月11日の前に戻りたい。なかったことにしてほしい。」 という主旨の本音を語っていた。

班目委員長は、あだ名が「でたらめ委員長」であり、これまでも専門家とは思えない不思議な発言をしたり、責任転嫁とも言える発言も目立つ。
「精神的に限界」ということで、「ちらっと本音を漏らした」のだろうから、もう仕事をする能力は残っていないのではないか。

他の貴社からの再質問に対しても、次のように答えている。
本件は私が、ぽろっと勝手なことを言ってしまっただけで、他の委員の方のいろいろな意向等というのは、全く伺っておりません。】

東芝の元社員という経歴だけではなく、これまでも原子力関係の委員として推進派だったことは明白なので、委員長を続けさせる意味はないだろう。
「ここで逃げたら末代までの名折れ」という自分の発言、しかも国会での公式発言も忘れているくらいなので、、内閣の権限で即刻解任して、現在の委員から委員長代理を選出すれば済むことだ。

予算面から言うと、原子力安全委員会の来年度予算は計上されていない。
4月以降の予算がないのだから、3月末で辞任してもいいと、班目委員長は勝手に思い込んだのかもしれない。
そして、辞めたいという本音もあったので、この二つが絡み合って、「ぽろっと勝手なことを言った」のだろう。

精神的に限界とのことならば、カウンセリングを受けたり、適切な安定剤を処方してもらうなどで、平穏な日常生活が送れるように対処すればよい。
そして本来の研究生活に戻って、原子力安全規制などの検証論文執筆に専念すればいい。
あとは、浜岡原発に関する訴訟での発言を撤回するなど、過去の自分の発言を、客観的に見直す作業をしてほしいものだ。

追記(3月22日):
3月19日の記者ブリーフィング速記録を読んだところ、班目委員長は、やはり何も知らないデタラメ委員長であることが再度露呈した。
www.nsc.go.jp/info/20120319.pdf

【・電気新聞山田記者:……4月以降の業務計画は立てていないとおっしゃっていましたけれども、その現状は変わっていないわけですか。

・班目原子力安全委員長:全く変わっていません。というか基本的には4月以降の予算というのは原子力規制庁という予算で提案がされており、原子力安全委員会の予算そのものもないと理解しています。

・電気新聞山田記者:その予算なんですけれども、規制庁が3月末までに、あの法案が通らなかった場合は、規制庁分の予算が保安院と安全委員会に振り分けられて計上されるというふうになっているらしいんですよ。…

・電気新聞山田記者:…委員長としては3月いっぱいで区切りをつけて、4月に安全委員会が残ったとしても辞意したいということをおっしゃっていましたけれども、このお考えも変わりないということですか。

・班目原子力安全委員長:正直なところ、あの時は、他の安全委員4人とも全く相談していないし、事務局にも何も相談しないでパッと本音を述べてしまったんですけれども、他の安全委員に相談したところ、強く慰留されているというのが実情です。それから、もうちょっと難しい問題としては、安全委員会の委員というのは、これは国会同意人事なので、よほどの事情がないと辞表を出しても受理されるものではないということもあるみたいなので、ちょっとそういうことも考えて、ちょっとどうしたものかと私自身考えあぐねているというのが実情です。


・朝日新聞小堀記者:…久住先生や久木田委員はこの情勢なので任期を伸ばすということは可能なんでしょうか

・班目原子力安全委員長:…次の国会同意人事が同意を受けられなくてという時には、緊急避難的に任期は伸びることになると思います。何かそういうことなしに、ずるずるというのはどういうことになるのか。ちょっと法解釈の問題なので、私自身もよく勉強してないところです。】

こんなアホな班目教授の研究室で、研究指導を受けている学生がかわいそうだ。

(最終チェック・修正日 2012年03月22日)

独立行政法人・放射線医学総合研究所(放医研)の研究チームでは、福島第一原発事故で放出された放射性核種の分析研究も、継続的に行っている。
www.nirs.go.jp/index.shtml

世間一般では、事故直後は放射性ヨウ素、そして今は放射性セシウムに関心が集まっているが、放医研では不揮発性のウランの分析結果も学術誌で発表している。

共同通信の配信記事によると、放医研は福島県内の土壌から、原発事故由来のプルトニウム241を検出したそうだ。
www.47news.jp/47topics/e/226454.php
【放射線医学総合研究所(千葉市)は、東京電力福島第1原発から北西や南に20~32キロ離れた福島県内の3地点で、事故で放出されたとみられるプルトニウム241を初めて検出したと、8日付の英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」の電子版に発表した。

人体に影響のないレベルだが、プルトニウム241は他の同位体に比べて半減期が14年と比較的短く、崩壊してできるアメリシウム241は土壌を経由して主に豆類に取り込まれやすい。放医研は「内部被ばくを避けるためにも 原発20キロ圏内での分布状況を確かめる必要がある」としている。

同位体の比率から今回の事故が原因と分かった。
…】

Scientific Reports 電子版に掲載された英語論文は、無料でダウンロードできる。
プルトニウムの他の同位体、239、240との比を比較すると、長崎に投下されたプルトニウム型原爆や過去の核実験、そしてチェルノブイリ事故由来とも異なることからも、福島第一原発から放出されたと結論付けられている。
また、崩壊により生じるアメリシウム241が今後増加し、特にマメ科植物に蓄積されることが懸念されている。
www.nature.com/srep/2012/120308/srep00304/full/srep00304.html

朝日新聞の記事から、追加された情報を中心に引用しておこう。
www.asahi.com/national/update/0308/TKY201203080724.html
【…浪江町と飯舘村の落葉の層から1キロあたりそれぞれ34.8ベクレルと20.2ベクレル、Jヴィレッジの表土から1キロ当たり4.52ベクレルのプルトニウム241を検出した。プルトニウム241は、アルファ線やガンマ線を出すアメリシウム241(半減期432.7年)に変わる。

研究グループの田上恵子・放医研主任研究員は「大気圏内核実験が盛んに行われていた1963年当時の放射性降下物のデータから推定すると、今回のプルトニウム241の検出量は当時と同程度かそれ以下。特別な対策は必要ない」と話す。】

両方の記事では、気になる相違点がある。
論文では、アメリシウム241による内部被ばくを避けるために、さらに詳しい調査が必要だとしている。
しかし朝日新聞の取材に対して、共著者である田上主任研究員は、「特別な対策は必要ない」と矛盾している。
論文の主著者は、鄭建(ツン・ジェン)主任研究員なのに、研究グループ内で意見対立があるのだろうか。

今回は4か所しかサンプル採取ができなかったので、放射性セシウムと同様に、もっと濃度が高い場所、つまりホットスポットが見つかるかもしれない。
過去の大気圏核実験によるフォールアウト(降下物)よりも少ないとは言っても、22世紀になっても残る放射性核種であり、
放射性セシウムと同様に、その動向を追跡調査すべきだろう。

放医研の研究発表は学会や学術誌が中心で、研究所HPでのプレスリリースに出ていない。
報告書などの出版物もあるが、迅速な発表がされていないことが批判されてもいる。

確かに日本原子力学会では、福島第一原発事故関連の論文については、迅速な発表を支援する体制を整えていて、論文投稿を推奨している。
www.aesj.or.jp/publication/AnnouncementAESJ110414.htm
【日本原子力学会編集委員会(論文誌)では、大震災による福島原子力発電所事故に関連した研究論文(Rapid communication[速報]、Article[論文]、Technical Material[技術資料])を募集しています。科学的な根拠に基づく事故関連の研究論文を掲載することは、本学会論文誌の果たすべき役割であると認識しております。

投稿された原稿は、迅速な審査により、可能な限り早く公開(電子版および冊子体)できるように配慮いたしますので、積極的な投稿をお願いします。なお、速報での公表後に、同内容を含んだ論文として投稿することが可能です。また、和文論文誌へ掲載された論文にあっても、申請により編集委員会が認めた場合には、英文誌に転載することができます。…】

国際的に注目されている原発事故だから、外国の英文誌に掲載した方がインパクトはあるだろうし、多くの研究者の目に留まることだろう。
ただ、この情報を一番知りたいのは、避難生活を強いられている人たちであり、日本語での発表も必要だったのではないか。
論文がアクセプトされた2月17日の時点で発表できなかったとしても、電子版で公開された3月8日には、日本語で概要を発表すべきだった。

放医研の原発事故関連情報のページには、メディア報道後の本日3月12日22時半を過ぎても何も出ていない。
www.nirs.go.jp/information/info2.php

日本原子力学会の行動指針には、社会に対する責任について、次のように書かれているのだから、すぐに日本語で情報発信してほしいものだ。
www.aesj.or.jp/rijikai/shishin.html
【「日本原子力学会の理念、ビジョン」
6. 公平、公正、透明な議論の場となり、国民・地域社会に対して、原子力に関する技術情報の最も信頼できる情報源となる

「日本原子力学会の社会に対するつとめ」
3. トラブル発生時に的確な知識を迅速に発信する。】

ついでだが、「人体に影響がないレベル」という表現は、「人体への影響が他の要因と区別できないレベル」と言い換えるべきだろう。
内部被ばくによる発がん率の上昇を心配する住民に対して、「タバコをやめればいい」と答えた専門家がいる。
「発がんには様々な要因があるため、放射性物質だけが原因と特定することは困難だ」ということだが、質問した人の立場では、何かごまかされたという気持ちになる、というのが普通の反応だ。

ところで、「プルトニウムは飲んでも大丈夫」と豪語していた大橋弘忠・東大教授に対して各メディアは、今回の論文についてのコメントを求めてほしいものだ。


The Nuclear Threat Initiative(NTI、核脅威イニシアチブ)は、高濃縮ウランおよびプルトニウムを1kg以上保有する32か国を、核兵器に利用可能な核物質を保有している国として扱っている。
日本はプルトニウム利用を国策として推進し、再処理工場で抽出したプルトニウムを保有しているため、危険な国の仲間入りをしたとも言える。
www.nti.org/

そして1月11日にNTIは、Ecomomist Intelligence Unit(EIU)の協力を得て各国のリスク評価を行い、核セキュリティー度の指数としてまとめたレポートを発表した。
www.ntiindex.org/ (レポートはPDFでダウンロード可能・核物質を少量保有および全く持たない国も含む)
www.nti.org/newsroom/news/nti-launches-nuclear-materials-security-index/

このレポートは主要国のメディアでは取り上げられているが、日本では時事通信が簡単に配信記事を出しているのみで、引用しているメディアは現時点で朝日新聞のみ。
www.jiji.com/jc/c

【米民間団体「核脅威イニシアチブ(NTI)」はこのほど、核兵器の燃料となるプルトニウムなどの物質に関して、国の管理状況など安全度に関する初の調査を実施、国別の順位を発表した。日本は核兵器に利用可能な物質を1キロ以上持つ32カ国の中で23位にとどまり、先進7カ国(G7)では最低だった。…】

日本はロシアより一つ上だが、ウラン産出国のカザフスタンよりも下で、しかもチェルノブイリ原発事故があったウクライナよりも下だ。
他の政治的に不安定な国や、麻薬マフィアが暗躍するような国よりも、残念ながら日本の方が下である。

日本の場合、下に引用した資料でも明らかなように、核物質(特にプルトニウム)の保有量と核施設の数が、順位低下の原因である。
プルトニウム利用の核燃料リサイクル事業に固執しなければ、そして原発を全廃すれば、順位は上がるだろう。

イメージ 1

リストを見ると、総合1位はオーストラリアである。
ウラン埋蔵量世界一で、二酸化ウラン(イエローケーキ)を輸出しているが、国際条約を順守しているし、原発も核兵器もないため、国内に高濃縮ウランはないし、プルトニウムもない。

最も低い32位は北朝鮮で、独裁国家であることと、核兵器開発が目的のウラン濃縮施設と原子炉を建設をしているから。
この北朝鮮と、社会的要因の項目で同順位にイスラエルが登場する。
このレポートでは、スラエルを核兵器保有国としているし、国内右派勢力の動向が危険視されているからだろう。

レポート中では、プルトニウム保有量が増加している4か国として、インド・中国・イギリス・日本が名指しされている。
ただし、イギリスと日本は核兵器用ではなく、原発で使用するMOX燃料用にプルトニウムを抽出していると注記されている。。
イギリスは、日本から委託されてプルトニウム抽出をしているので、日本が国内で再処理しきれないから増えたようなものだ。

日本はプルトニウムを貯め込んでいるが、兵器用ではなく、商業用原子炉にだけ使うということで、順位が23位にとどまっていると思われる。
政治家以外にも、日本が核武装するように提言しているので、次回は国内不安要因が増大して、順位を落とすかもしれない。


日本の原子力発電は、政治主導の国策として推進されているため、学者も住民も大半が、金の力で無力化されてしまった。
そして原発が危険だと指摘したり、国の審査体制に不備があると発言しても、そのような意見は無視され、存在しないとされた。
2011年3月11日以降の大惨事を経験したのに、未だに原発全廃を決定できない政府・政治家も、実は金の力に負けていたようだ。

朝日新聞の記事によると、東京電力と関連会社が、有力国会議員のパーティー券を購入していたそうだ。
www.asahi.com/national/update/0107/TKY201201070496.html

東京電力が電力業界での重要度を査定し、自民、民主各党などで上位にランク付けしてパーティー券を購入していた計10人の国会議員が判明した。電力会社を所管する経済産業省の大臣経験者や党実力者を重視し、議員秘書らの購入依頼に応じていた。1回あたりの購入額を、政治資金収支報告書に記載義務がない20万円以下に抑えて表面化しないようにしていた

また、東電の関連企業数十社が、…多数の議員のパーティー券を購入していたことも判明した。

…電力業界から見た議員の重要度や貢献度を査定し、購入額を決める際の目安としていた。2010年までの数年間の上位ランクは、…自民では麻生太郎甘利明大島理森石破茂石原伸晃の5氏、元自民では与謝野馨(無所属)、平沼赳夫(たちあがれ日本)の2氏。民主では仙谷由人枝野幸男小沢一郎の3氏だった。】

1回当たりの購入金額は少なくても、政治家に原発廃止と言わせないように、電力業界から金をもらっていたという実績作りが重要なのだ。
資金援助の見返りを期待したかどうかは知らないが、原発推進の発言をさせようという意図はあったと思われる。

甘利明は経済産業大臣の経験があり、大島理森は核施設が集まる青森県選出だから、電力業界は率先して金を渡すはずだ。
石破茂は核武装のために原発推進を支持しているから、プルトニウム利用の核燃料サイクル事業にとっては重要人物だ。
石原伸晃も原発全廃が非現実的だと発言し、反原発派のことを集団ヒステリーとまで酷評している。

自民党議員だけでなく、民主党議員のパーティー券も買うという手法は、他の業界でも同様に行われている。
もし自分たちの業界に不利な法案などが出た時に、国会の場で与野党どちらも発言できないようにするための予防策というわけだ。

枝野幸男が官房長官だったときに原発事故が起きたが、「ただちに人体に影響はない」などと連日言い続けたこと、そして事業仕分けで、プルトニウム利用の「もんじゅ」が廃止されなかったのは、パーティー券購入実績が関係したのかもしれない
今は経済産業大臣として原発問題に取り組んでいるものの、年頭所感で安全対策強化については発言しているが、全原発廃止と言わないのも、パーティー券購入の効果なのか。
www.meti.go.jp/speeches/data_ed/nentou2012.html (平成24年(2012年)年頭所感 ~経済産業大臣 枝野幸男~)

【…昨年12月、東京電力福島第一原子力発電所の全ての原子炉が冷温停止状態となり、いわゆるステップ2は完了しました。しかしながら、原発事故で避難を余儀なくされた方々に豊かで活気ある暮らしを取り戻していただくまで、この戦いは終わりません。発電所内では、「中長期ロードマップ」に沿って廃炉に向けた作業が始まります。長い道のりですが、一日でも早く達成できるよう、安全・安心を第一に取り組みます。…

事故の反省に立ち、全国の原子力発電所の安全確保を強化することも喫緊の課題です。原子力安全規制の強化に道筋をつけ、本年4月に設立が予定される原子力安全庁(仮称)にしっかり引き継いでいきます。ストレステストについては、原子力安全委員会やIAEAと協力して適切に実施します。点検済の原子力発電所の再起動は、地元の御理解が得られることが前提であるとの方針に変わりはありません。…】

原発推進派の東京電力と政府が、事故後にどのように情報を出してきたのか、あるいは出そうとしなかったのか、その検証については、岩波新書「震災と情報」(徳田雄洋著)を参照してほしい。


もう少し時間が経てば、「原子力守旧派という抵抗勢力」が息を吹き返し、いつの間にか原発推進政策が復活するかもしれない。
私の出身地であり、母と姉、そして多くの知人が住む東北地方を、これ以上苦しめないでほしい。


日本では第二次大戦前から核物理学の基礎研究が行われていて、戦時中は原爆開発が試みられたこともある。
敗戦後に一時中断していた研究は、原子力平和利用の名の下で再開した。
アメリカからの濃縮ウラン受入のために日本原子力研究所が設立され、研究用原子炉の開発を始め、さらに実用化も検討していた。

研究の進展が遅いことに業を煮やしたのか、それとも日米同盟推進の主役になりたかったのか、中曽根康弘(当時・改進党議員)が政治主導の原子力開発を推進するため、「学者の頬を札束でひっぱたいて目を覚まさせる」という主旨の発言をした(ただし本人は否定しているが)。
そして原子力関係予算を成立させ、日本の原子力開発は政治主導という不穏な状況に変化した。

純粋な科学研究の発展ではなく、政治主導の国策体制となった時点で、金の力で全てが決まる時代が始まった。
そして電力会社や原子力関係機関、そして関係省庁が形成する強固な「原子力村」が、どのように国民をだましてきたのか、これまで何度も指摘され、そして原発および再処理施設などの危険性が何度も警告されてきた。
しかし、国民の多くは国家プロパガンダに騙され、「あたかも原発が存在していないかのような日常生活」をおくってきた。

ところが2011年3月11日以降は状況が一変し、「原子力村」に対する抗議活動が盛んになってきた。
そして反原発関連の書籍も急に増え、これまで沈黙させられていた声、無視されてきた声が、国民に届くようになってきた。
ここでは最近の資料として、岩波書店の雑誌「科学」(2011年12月号)の特集「核と原発」、そして角川SSC新書の「まやかしの安全の国」(田辺文也著)を挙げておきたい。

そして2012年元旦の朝日新聞の記事では、原子力村の金の力が、原子力安全委員会にも及んでいたことが指摘されている。
www.asahi.com/national/update/1231/OSK201112310119.html
【東京電力福島第一原子力発電所の事故時、中立的な立場で国や電力事業者を指導する権限を持つ内閣府原子力安全委員会の安全委員と非常勤の審査委員だった89人のうち、班目(まだらめ)春樹委員長を含む3割近くの24人が2010年度までの5年間に、原子力関連の企業・業界団体から計約8500万円の寄付を受けていた。朝日新聞の調べで分かった。

うち11人は原発メーカーや、審査対象となる電力会社・核燃料製造会社からも受け取っていた。

原子力業界では企業と研究者の間で共同・受託研究も多く、資金面で様々なつながりがあるとされる。中でも寄付は使途の報告義務がなく、研究者が扱いやすい金銭支援だ。安全委の委員へのその詳細が明らかになるのは初めて。委員らは影響を否定している。】

寄付金で研究をした場合、論文発表ならば謝辞に書くので資金提供があったことが発覚するが、学会出張旅費などに使った場合は表に出ない。
「委員らは影響を否定」とあるが、「瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず」という故事は、原子力村では通用しないようだ。
金の力に負けた者たちだから、電力会社や関係機関の出した資料を、ただ追認するしかできないわけだ。

先ほど紹介した新書、「まやかしの安全の国 - 原子力村からの告発」から、51-55ページの内容を抜粋して紹介したい。

金にものを言わせる電力会社や保安院
…保安院が国民の税金を使って、悪さをしている。自分たちではデータの分析もやらず、すべて外部に委託して、お金だけを回しているのです。
…研究費予算は、原子力安全・保安院などの委託研究に頼るようになりました。つまり、保安院から委託された研究に対してはお金は使われるが、定常的な「安全研究」のための予算はなくなっていったのです。
…大学の研究費も自分たちで取ってこなければならないという厳しい環境になっています。…
…企業や官庁から寄付金や研究費をもらってきたりして、なんとかやっている。そういう現状だから、学者たちが、電力会社や保安院の言うなりになってしまうのです。
…学者だって生活がある。家族がある。…将来まで安泰に暮らすためには安全なルートを歩かなければいけないわけです。
では、一番安全な場所はどこかといえば、「原子力村」です。だから研究者もここに生息する。しかしそうなると、反対意見は言えなくなる。結局、学者の世界も、金がものを言う世界なのです。


諸悪の根源は、原子力安全・保安院
お金のあるところに人は群がる。そういうシステムを作って大学や研究所を堕落させたのも、保安院であり、日本の官僚機構です。…
…原子力村は、対立する意見は受け入れない。論議をしない。
…JCO臨界事故調査委員会が…事故調査報告書をまとめて本として出版しました。私はその中で事故原因分析を担当し、…旧動燃(当時:核燃料サイクル開発機構)の役割と責任、規制機能の不全などを明らかにしましたが、それに対する抵抗はすごいものがありました。
2004年の原子力学会の春、秋の大会のときでした。旧動燃の役割と責任を明らかにした委員会報告を発表する段になると、会場で、旧動燃の理事や訴訟対策室幹部などが前列に陣取って、「裁判に訴える」などと発言して圧力を加えようとしたのです。
さらには、報告書を出版する段階に至っても、最後の印刷所でのゲラ校正のときまで、裁判に訴えると脅かされていた…】

お金のあるところに人は群がる」という表現、そして都合の悪い発言を抑え込もうとする反応は、原子力村だけではなく、ほとんどの学問分野に共通している。
タバコ会社が、脳腫瘍の原因が
携帯電話だという研究に資金援助すれば、逆に携帯電話会社はそれを否定する研究に資金援助する。

研究室に入る前は、純粋な好奇心で研究しようと考えていたはずの若手が、お金の力や学界権力に負けて取り込まれたり、逆に
失望して去ったりする。

これが日本の現実であり、こんな国には原発を運転管理する資格はない。
今後は核廃棄物処理・汚染除去の研究に資金が回るかもしれないが、原子力村の中だけで循環するシステムがある限り、本当に安全な生活は実現しないことだろう。

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