タグ:その他語学

ドイツ語翻訳をしていると、特に学術論文や新聞記事などで、冠飾句を目にすることが多い。

冠飾句は、冠詞と名詞との間に置かれた長い形容詞句である。
関係節で書き換えることもできるが、冠飾句から順に訳すと日本語の語順に近くなることが多いので、理解しやすいのではないだろうか。

原稿を紙に印刷してから翻訳していたときは、冠飾句の部分を( )でくくっていた。
長い冠飾句のときに間違えることがなくなるし、推敲時に見直すときにも楽になる。

しかし最近は、CATツールを使ってPC画面上で原文を読むことが多いからなのか、うっかりして冠飾句を見逃してしまう人もいるようだ。

今月チェックしたドイツ語和訳案件の例を示しておこう。

ある工作機械の製品紹介パンフレットに掲載された写真は、アップグレードした製品の前に開発担当者が立っているものだった。
その説明のところに、次のように書いてあった(冠飾句部分を青にした)。

vor dem zur 4-Achsen-Bearbeitung aufgerüsteten 3-Achsen-CNC-
Bearbeitungszentrum.

翻訳者の和訳は、「3軸CNCマシニングセンタを4
軸加工用にアップグレードする前」。
修正例は、「4軸加工用にアップグレードされた3軸CNCマシニングセンタの前で」。

写真を見れば、機械の前に開発者が立っているのだから、その状況からも翻訳者は間違いに気づいてほしかった。

もしかすると、冠飾句を把握する前に、前置詞 vor が「時間的に前」だと誤解してしまったのが、誤訳の原因なのかもしれない。
「アップグレードする前
(vor dem Aufrüsten」という先入観から逃れることができず、無理に意訳したようになったと思われる。

冠飾句を除いて書くと、vor dem 3-Achsen-CNC-Bearbeitungszentrum であり、これならば前置詞 vor が「空間的に前」を表すことは明白だろう。

私も完璧ではないので、いろいろな事例から学習を一生継続することになるだろう。

日々の聖句・ローズンゲンのサイトから、誕生日の聖句をメールで送ってもらった。
私が生まれたことと直接の関係があるとは思えないが、特別な日に神から与えられた言葉として記憶しておきたい。

なお、ローズンゲンに使われているルターの聖書は、私が生まれた当時使われていたものなので、最近のものとは表現が異なる。

旧約聖書からは、歴代誌上第23章25節の一部で、ダビデの最後の言葉。

Luther: 25 Der HERR, der Gott Israels, hat seinem Volk Ruhe gegeben.
聖書協会共同訳:25 イスラエルの神、主はその民に安らぎを与え(る。)

このダビデの最後の言葉は、神殿の奉仕を行っていたレビ族に対するものだった。
そして私は生まれたその日に、将来は教会で奉仕する者として、神に選ばれたのかもしれない。

新約聖書からは、エフェソの信徒への手紙第6章23節の一部。

Luther: 23 Friede sei den Brüdern!
聖書協会共同訳:23 平和が、きょうだいたちにありますように。

聖書での平和は、イエス・キリストによりもらたされる平和である。
そして異邦人の私も招かれていることは、エフェソの信徒への手紙全体を読むと理解できるだろう。

ここでは第2章19節を引用しておこう。
19 ですから、あなたがたは、もはやよそ者でも寄留者でもなく、聖なる者たちと同じ民であり、神の家族の一員です

このローズンゲンが与えられた意味について、時間があるときに、牧師に聞いてみよう。

現代ドイツ語では2格目的語をとる動詞は少ないと言われる。
例えば、次のような動詞がある。

1) js. / et.2 bedürfen …を必要とする
2) et.2 entbehren …を欠く
3) js. / et.2 gedenken …のことを思い出す,(故人を)しのぶ | …に言及する

2格目的語の他に4格の再帰代名詞を伴う動詞には次のような例がある。

4) sich4 js. / et.2 annehmen …を引き受ける,…の面倒をみる
5) sich4 et.2 bedienen …を用いる,…を使用する

もう1つ、本日のローズンゲンから取り上げよう。

6) sich4 et.2 rühmen …を自慢する,誇る

ローマの信徒への手紙第5章11節(一部)

Luther 2017: 11 .. Wir rühmen uns4 Gottes2 durch unsern Herrn 
Jesus Christus, durch den wir jetzt die Versöhnung empfangen haben.

聖書協会共同訳:11 …私たちの主イエス・キリストによって、私たちは神を誇りとしています。このキリストを通して、今や和解させていただいたからです。

並列の接続詞 und は、同一の語をつなぐことで、その語が持つ意味の漸増や強意を表す。
(ドイツ語文法シリーズ6 接続詞 (村上重子著、大学書林)19~20ページ)

以下のような例文が掲載されている。

1) Wir marschierten durch den Wald und Wald. 我々は森また森を行軍して行った。

2) Er 
aß und aß. 彼は食べに食べた。

3) Sie hat das Gedicht durch und durch auswendig gelernt. 彼女はその詩を完全に暗記した。

今回は本日のローズンゲンの詩編89編2節に出てくる für und für を例示する。

für 副詞 1 ((時間的)) 引きつづき,さらに先へと: für und für ((雅)) 引きつづき,いつまでも,ずっと

詩編89編2節
Luther 2017: 2 Ich will singen von der Gnade des HERRN ewiglich und 
seine Treue verkünden mit meinem Munde für und für.

聖書協会共同訳:2 主の慈しみをとこしえに歌い 私の口はあなたのまことを 代々に告げ知らせよう

私は大学で有機化学の研究をしたため、ドイツ語の論文や専門書を読む必要があった。
そのため、現在は、英語・ドイツ語の両方で翻訳の仕事ができるようになった。

しかし、日本では、ドイツ語はマイナー言語の扱いとのことで、ドイツ語翻訳者は足りない。
様々な機会を利用して、英語翻訳者に対して、ドイツ語翻訳に参入するように促してみたが、なかなか増えない。
フリーランスの登録翻訳者を募集しても、
既に他社で専属となっているのか、一緒に仕事ができる人が、なかなか見つからない。

トライアル課題で大丈夫そうだと思っても、実際に依頼してみると、特許の技術内容が正確に理解できていないことに加えて、勘違いやケアレスミスが多い人もいる。

たぶん、CATツールを使用するときの弊害と思われるが、一文ごとに分割されているため、前後の文脈を無視した和訳をする人もいる。
文書全体の流れを把握していれば、推敲の時点で解釈のミスに気付くはずなのに、そのまま納品してしまう人もいる。

最近もあるマニュアルのドイツ語和訳のチェックで、単語の意味を取り違えている和訳に遭遇した。
その実例をそのまま掲載できないので、一部修正して引用しておこう。

Alle Dokumente müssen an folgende Adresse gemailt werden:
(セグメント区切り)
mailto: abc@xyz.com

作成したファイルを、次のセグメントに出てくる電子メールアドレス宛に、電子メールで提出するのだが、和訳では「以下の住所に郵送してください」となっていた。

ドイツ語の動詞 mailen は、自動詞と他動詞の両方の用法があるが、いずれも 「電子メールを送る」 という意味だ。

ドイツ語の mailen に対応する英語の動詞は、e-mail である。
つづりが似ているアメリカ英語の動詞 mail には、「郵送する」という意味があるが、イギリス英語では post を使う。
そしてドイツ語で 「郵送する」 は、通常、et4 per Post schicken / senden を使う。

mailen という動詞はアメリカ英語の mail と同じ意味だと勘違いしたとしても、次のセグメントは電子メールアドレスであり、その後も郵便で送るための宛先住所は出てこないのだから、気付くはずなのに残念なことだ。

やはり、CATツールを使用して一文ごとに分割されていると、そのセグメントのみに注目しすぎて、文書全体での文同士の関係を無視するような意識が生まれるのかもしれない。

私は副業翻訳を始めてから、約8年後にCATツールを使う案件を受注するようになった。
その前は、PDFなどで提供された原文を印刷して、それを見ながらワードに和訳を打ち込んでいたので、文書全体を見ながら翻訳することを学んだと思う。
そのためなのか、CATツールを使うようになってからも、推敲の時点で間違いに気付くことができるのだと思う。
だから他者の翻訳チェックもできるし、機械翻訳のポストエディットもできるのだと思う。

今回の事例で一般化するのは早いが、CATツールを使う前に、昔ながらの紙に印刷した原稿を読んで翻訳するトレーニングも必要なのではないかと思う。

また、PC画面を見ながら翻訳作業するときに、目の動きも含めて、人間の認知機能はどのように働いているのかや、ツールや機械翻訳が提示した訳例や用語を見たときにどのような反応をするのかなど、より科学的な研究も進めて、翻訳者にフィードバックしてほしいものだ。

↑このページのトップヘ