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私は元々大学で研究することを望んでいたし、父が獣医で農協関係の団体で働いていたから、この数か月話題となっている加計学園の獣医学部新設に関わる報道を毎日気にしていた。

私が加計学園に関係しているかどうか、そして父がどの大学を出たのかは、ここでは個人情報に関するため公開しないことにしたい。
そのため、これから書く内容は、引用した資料が存在しない場合、伝聞のこともあれば、私が直接見たことも含む。

私の率直な意見として、この加計学園の獣医学部は、最初に
優秀な教員と研究者を確保すれば、なんとかなりそうだ。
海外で研究している日本人をスカウトするのかもしれないし、傘下の大学から異動させるのかもしれない。
ただし人選を誤ったり、論文数が少なければ、中間評価時などに特区の条件を満たしていないという批判が起きるリスクもある。

加計学園ではこれまで、幼稚園から大学までの様々な学校や各種学校などを設立し、それぞれの理事長などの要職は、加計一族でほとんど占めている。
20年くらい前にも、大学関係者から、親族の人数分の学校を作っている、と悪口を言われていた。

今回も、親族の誰かにプレゼントするために獣医学部を作りたかったのではないかと思っていたら、理事長の息子が獣医だという。
今は傘下の倉敷芸術科学大学の講師で、獣医学博士を目指して、他大学院に社会人学生として在籍中のようだ。

ということで、息子の博士号取得に合わせて獣医学部を新設し、運営を任せるのかもしれない。
www.kusa.ac.jp/teachers/satoru-kake/ (倉敷芸術科学大学の教員紹介)

加計学園は、その傘下の大学の入試偏差値がそれほど高くないこともあり、「単なる卒業証書販売業」という批判を聞いたことがある。
「夜の帝王」と呼ばれた理事長は、世界最先端の研究のみならず、教育にどれほど興味あるのだろうか。

また、傘下の大学には、文部科学省からの天下りの他に、国立大を定年退官した有名教授をスカウトしている。
その学会重鎮の力で国から予算を確保し、ハイテクリサーチセンターなどの付属施設も作っている。
大学では常に何らかの工事が行われており、業者の仮出張所が大学敷地内にあるが、これは常駐と同じだ。
癒着とまでは言えないものの、研究すると言って国から予算を取り、そして仲良しの建設業者に分配しているようなものだ。

これからは少子化で潰れる大学も出てくるのだから、せめてまともな運営をして、学生が困ることがないようにしてほしいものだ。

ただ、文部科学省や日本獣医師会などの関係者が、もっと早く獣医教育改革を実現していれば、安倍首相などに抵抗勢力と呼ばれることもなく、加計学園に有利に働くこともなかったのではないだろうか。

山本大臣の「日本の獣医学部の質は落ちている」という発言について、日本獣医師会が反論している。
www.jsvetsci.jp/pdf/20170608iken.pdf

また、全国大学獣医学関連代表者協議会のHPも参考にしてほしい。
plaza.umin.ac.jp/~vetedu/index.html

しかし、もっと前に改革が成功していれば、こんな事態にならなかったと思う。

以前から課題となっていた獣医教育の改革は、ようやく共通の獣医学教育モデル・コア・カリキュラムが2011年3月にまとまり、昨年度から国際水準の教育を目指してスタートしたばかりだ。
times.sanpou-s.net/special/vol5_2/ (大学タイムズ2012年6月Vol.5)
www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/__icsFiles/afieldfile/2011/06/16/1307168.pdf (獣医学教育モデル・コア・カリキュラム)

これまでも課題の指摘や改革案の提案がなされてきたので、せめて10年前にまとまっていればよかったのにと思う。

例えば、日本獣医師会誌で2005年に、「獣医学教育改革運動の反省と今後」という記事が発表され、経緯が概観できる。
www.jstage.jst.go.jp/article/jvma1951/58/3/58_3_148/_pdf

更に、抜本的改革を提言する文書も日本学術会議でまとめられている。
www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-17-t933-9.pdf

国立大学の再編が様々な事情で実現できなかったため、各地に分散したまま効率的な教育ができず、加計学園に付け入る隙を与えたように思える。

引用した日本獣医師会誌の記事でも、再編に言及しているが、結局は実現しなかった。

【第3段階は,入学定員60~80名,教員72名以上の獣医学部の設立である.
もちろん,自主努力によりこれが達成できることが最も望ましいが,客観的に見て,その実現の前提は再編整備であろう.】

単独で獣医学部を維持しているところもあるが、小さい地方大学は、複数校が連携して共同獣医学科を作った。
ある大学から獣医学科のみが、別の大学に移籍するというのは、様々なしがらみもあって無理だったのだろう。

これより前、約30年くらい前の話だが、父が関与していた、ある獣医学科の獣医学部への昇格計画も、結局は実現しなかった。

戦前からの歴史ある獣医学科であるが、戦後は農学部に属する一学科の扱いであり、父を含めたOBの運動もあって、獣医学部への昇格を申請することになった。
父も委員に選ばれて、カリキュラムに加えて、どのような講座を追加するのか、教授から助手までの研究室体制も細かく検討されていた。
家畜から小動物まで、生理学や疫学、その他の幅広い分野を網羅する学部になるはずだった。

最後にもう一度言うが、このような改革が進んでいて、国際的に通用する獣医学教育が早く実現していれば、加計理事長が息子に獣医学部をプレゼントするために特区に選ばれるようなバカなことも起きなかったはずだ。

今後、何か問題が発生しても、誰も責任を取らないのだろう。

学術誌に投稿された論文は、編集部と専門家による審査を経て、新規性などの重要度が認められると掲載される。
論文掲載が認められても、内容が正しいかどうかの保証はなく、追試によって間違いだったと判明することもある。
間違いに気付いた場合、その論文を掲載した編集部に対して意見書を送ったり、追試結果そのものを論文にすることもある。

他にも、自分が著者に入っていない、サンプルを提供したのに謝辞がない、自分の論文が引用されていないなど、様々なトラブルはよくあることだ。
編集部を通して著者と交渉することになるが、直接メールで著者に意見を伝える人もいる。

New England Journal of Medicine に最近掲載された臨床試験の論文の著者に対して、ある医薬・医療器具メーカーが直接メールで、論文内容の修正要求をした。
試験に使った薬品は他社品だが、論文の表記のままでは自社品と誤解されるとのことで、「修正しない場合は、法的措置を取る可能性がある」という内容だった。

論文の主著者で、修正メールを受け取ったのは、デンマーク・コペンハーゲン大学病院の Anders Perner 医学博士
forskning.ku.dk/search/profil/

論文は6月に既にオンライン版で公開されていたが、印刷版の7月12日号では、次のようにタイトルと抄録は修正されている。 
www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204242
【Hydroxyethyl Starch 130/0.42 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis】

修正前の論文タイトルは、臨床試験が行われたコペンハーゲン大学病院のサイトに掲載されている。
www.rigshospitalet.dk/RHenglish/Top+menu/News+and+Media/News/News+Archive/Hydroxyethyl+Starch+130+04+versus+Ringers+Acetate+in+Severe+Sepsis.htm
Hydroxyethyl Starch 130/0.4 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis

論文本文の修正個所は不明だが、タイトルと抄録部分で、臨床試験に用いたHES(ヒドロキシエチルスターチ)の表記を、「130/0.4」から「130/0.42」に修正している。

この修正要求をしたのが、ドイツに本社を置く Fresenius Kabi(フレゼニウス・カービ)ということもあり、この裏話は、ドイツの SPIEGEL Online で取り上げられている。
www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/hes-von-fresenius-kabi-pharmakonzern-bedraengt-kritische-forscher-a-846611.html

Fresenius Kabi 社のサイトは以下の通りだが、今回の修正要求については何も発表していない。
www.fresenius-kabi.com/index.htm
www.fresenius-kabi.de/ (ドイツ語)
www.fresenius-kabi.jp/ (日本支社)

Perner 教授はメールチェックをしていて、「修正しないと法的手段を取る」という、アメリカ支社の弁護士から届いたメールに驚いたことだろう。
Fresenius Kabi 社からも研究費をもらっているのに、修正を強要するようなメールが突然来るとは思ってもいなかっただろう。

修正要求対象の論文は、B. Braun Melsungen 社のHESである Tetraspan (表示は130/0.42)を使用していたが、タイトルも含めて Fresenius Kabi 社が使っている表示の 130/0.4 と書いてしまった。

METHODS のところで使用した製品名を明記しているし、Disclosure forms をチェックすると、
B. Braun Melsungen 社から臨床試験用に援助を受けたことがわかる。
だから、一般的な表示としても受け入れられている、「130/0.4」でもかまわないと思う。

しかし、論文タイトルに「130/0.4」と書いてあるだけでは、どこの会社の製品なのかは判断できないとも言える。
ということで Fresenius Kabi 社としては、誤解による自社製品 Volven の売り上げ低下を恐れて、論文の修正を要請したと思われる。
会社側は教授への圧力を否定しているものの、リスクが高いHESとは、市場で競合する
B. Braun Melsungen 社の製品の方だと印象付けたいのかも。

抄録の最後には次のようにあるのに、メールの指示に従ったのだから、何も影響を受けていないとは言えないだろう。
【Dr. Perner reports receiving grant support from Fresenius Kabi. 
No other potential conflict of interest relevant to this article was reported.】

ヒドロキシエチル基の平均置換度が 0.4 と 0.42 とで有意差があるのかどうか、という疑問を持つ研究者もいるのは事実だ。

今回は有名学術誌に掲載された論文で、数え切れないほどの医師が読むから、会社側も修正を求めたのだろう
ところが、他の学術誌はそれほど有名ではないためか放置されているので、修正要求をするかどうかは学術誌の認知度が影響しているのだろう。

Pernar 教授のHES関連の論文は、Trials という学術誌にもあり、タイトルに「130/0.4」とあるが、これは訂正を求められていないようで、そのまま残っている。
www.trialsjournal.com/content/12/1/24
【Comparing the effect of hydroxyethyl starch 130/0.4 with balanced crystalloid solution on
mortality and kidney failure in patients with severe sepsis …】

ところで、日本支社のHESの説明では未承認の製品も含めて、以下のように、高い評価を受けていることを紹介している。

HES製剤
Fresenius Kabiは、長年にわたり、代用血漿剤、特にHES(hydroxyethyl starches, ヒドロキシエチルデンプン)製剤の開発を進めてきました。
現在、本邦では分子量 70,000の、低分子HES製剤を販売しています。低分子HES製剤は、日本で数十年に渡り使用されており、効果と安全性の面で非常に高い評価を受けています

そして海外では、分子量 130,000或いは 200,000の、中分子 HES製剤(本邦未承認)を販売しています。
特に、1999年に販売開始された分子量 130,000の中分子HES製剤は、それまでに得られた知識や経験を活かして開発された製剤であり、より良い物理化学的特徴を有し、安全で高品質のVolume Therapyに最適のHES製剤と言われています。】

最適のHES製剤」と記載しているが、HESについては、「Crystalloid Versus Hydroxyethyl Starch
Trials (CHEST)」という、安全性に関する大規模な比較試験が現在も継続している。
clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00935168

会社の研究費を使う研究者の論文よりも、できるだけ公的機関による臨床試験の結果を参考にして、日本での導入を検討してほしいものだ。
医薬メーカーで勤務する者として、リスクがないかのように説明する企業は、どうも信用できない。
SPIEGEL Online の記事でも、サリドマイドのような薬害にならないように注意喚起しているし。

日本経済新聞の連載・コラム 「ニッポンこの20年 長期停滞から何を学ぶ」 は、第5部として 「揺らぐ土台」 というキーワードを選んだ。
www.nikkei.com/news/topic/

本日2月27日の記事は、「科学立国のつまづき 既得権残り政策生かせず」 で、博士号取得者の活用が不十分であることも指摘している。

私は元々、高校理科教員を目指していたが、教師として教える前に、まずは好きな化学で博士号を取得して、授業で使う実験教材などを自分で開発できる能力もつけようと考えていた。
ただし、ある事件をきっかけに、教員になることはやめたが、その次は研究者として生きていくことを目指した。

私が大学院在学中に
ちょうど、 「科学技術立国」 という言葉が出現し、研究費や奨学金が増えてきた。
建設国債を財源にするという科学振興策には疑問を持っていたものの、私は大学等で研究職に就けると信じて博士号を取り、ポスドクも4年間続けた。
しかし、ある事件をきっかけに、アカデミックに残ることはあきらめ、研究職派遣会社に登録して、民間企業で働くことにした。

日経記事の後半では、【博士の育成策も破綻している。毎年生まれる約1万6000人の博士のうち、3分の1が企業に就職し、3分の1が大学で職を得るか、非正規雇用のポストドクターとして大学で働く。残る3分の1は「行方不明」。研究プロジェクトの終了後に解雇された若手研究者は行き場を失い、フリーター化している。】 とある。

私は学術振興会海外特別研究員だったが、帰国後の所属先を届け出る規定を無視しており、統計上は  「行方不明」 である。
海外に派遣された場合のみ、自分の職場と自宅連絡先について、定年退職するまで届け出る義務を課すのは変だ。
それに、学術振興会を批判する投書が雑誌に掲載されたため、彼らも私の情報など抹殺したいはずだろうし。


また、
専門性は高いが、視野が狭くて使いづらい」として、企業は博士を雇用したがらない。】 は、企業の本音だ。
昔は縁故採用ということで、有名教授が無理矢理頼んで就職させることも多かったが、今ではわずかな事例となった。
確かに、勤務先で50代以上の博士社員の様子を見ると、研究はできるが、企業の求めるミッションを理解していない自己流博士社員が多いと感じる。

当時の文部省が労働省に対して、博士号取得者を採用するように通達を出してほしいと頼んだが、無視されてしまった。
博士倍増を言い出した有馬氏は、「アメリカ並みに博士を増やせば日本は良くなる。」 と言っていた。
しかし就職できないことを指摘されると、「私も3年くらいは無職のようなものだった。頑張れ。」 と言うだけ。
さらには、「人数を増やせばレベルの低い博士も増えるだろう。ただ、底辺が広がれば、氷山の一角は大きくなる。」 と、当事者の博士号取得者の将来など、全く考えていなかったことを自ら話している。

博士の就職難は深刻で、結局は税金の無駄使いになってしまった。

サイエンス・サポート・アソシエーションの榎本英介代表のコメントが掲載されている。
結果として「大学はお金をかけて育てた若手研究者を即戦力としてだけ利用し、使い捨てにしている」と、若手支援で活動する
NPO法人の榎木英介代表は言う。

この
サイエンス・サポート・アソシエーションと、事業分離前から関係するサイエンス・コミュニケーションのHPは次の通り。
sci-support.org/
scicom.jp/


記事の最後には次のようにあり、やはり科学が文化として根付いていない日本では、博士の活用などどうでもよく、
「科学技術立国」 を口実にして、各省庁が科学技術予算の分捕り合戦をしただけ。
大学発ベンチャーの失敗例も含めて、産学協同で世界をリードするなど夢物語だった。


安倍政権で内閣特別顧問を務めた黒川清・東大名誉教授は「一部の政策だけ欧米流をまねても、社会の仕組みが変わらなくては矛盾が生ずるばかりだ」と指摘する。
例えば若手だけが非正規雇用で流動化する一方、定年延長で教授の在職は長いまま。科技基本計画は戦略投資が建前だが、現実には役所の要求を束ねたにすぎない。
官庁や大学の既得権益を壊さず、付け焼き刃で欧米流を取り入れてきたツケが回ったといえる

ノーベル賞を受賞すれば熱狂する割に、自然科学の基礎研究の重要性について、日本国民は官僚も政治家も含めて、本当に理解してはいないのだ。
こんな国は元々、環境の変化に適応できないのだから、衰退しようが破滅しようが、どうでもいいのではないか。

貴族出身のツー・グッテンベルク独国防相は、バイロイト大学で2007年に取得した博士号を正式に返上した。
引用したAFP記事にあるように、21日に大学に返上を申し出て、大学側も博士号はく奪を発表した。

バイロイト大学のプレスリリース2件は次の通り(ドイツ語)
http://www.uni-bayreuth.de/039-036-gutten.pdf (国防相からの博士号返上の申し出について)
http://www.uni-bayreuth.de/presse/info/2011/040-037-gutten.pdf (博士号はく奪について)

この博士号はく奪後、大臣個人HPと、国防省HPでの大臣経歴紹介から、博士号取得の記載が消えている。
学歴としては、バイロイトとミュンヘンで法学・政治学を学んだ、というだけになっている。
http://www.zuguttenberg.de/person.php
http://www.bmvg.de/portal/a/bmvg/!ut/p/c4/04_SB8K8xLLM9MSSzPy8xBz9CP3I5EyrpHK9pNyydL3czLzM4pLUoszSXL2U1KJ4GF8vJzUpNa84J7E0Tb8g21ERAAbcn9k!/

これで、ドイツ人が憧れる肩書の一つの 「Dr.」 を使えなくなり、貴族であっても非常に残念に思っているだろう。
本名は正式には、「Karl Theodor Maria Nikolaus Johann Jacob Philipp Franz Joseph Sylvester Freiherr von und zu Guttenberg」 と非常に長いもので、それでも一番最初に 「Dr.」 を付けたしたいというのは、不思議な感情だ。

卒業単位をなんとか楽して取ろうという手抜き学生と同じような行動なので、
通称 「コピペ大臣」 だとか、言い訳ばかりの 「自己防衛大臣」 と呼ばれてもしたかないだろう。

加えて恥ずかしいのは、少しずつ情報を出したり、態度を変えてゆく、いわゆる 「サラミ戦術」 である。
最初に間違いを認めて学位返上をしていればいいものを、「あくまで一時的に博士号を返上する」  だった。
目立たないように小出しにしたつもりが、ネット上に不正検証サイトができた後、「正式に返上」 に変わった。
http://de.guttenplag.wikia.com/wiki/GuttenPlag_Wiki

ただ、記事にあるように、未だに 【「深刻な過ち」があったという表現で、剽窃(ひょうせつ)は認めてはいない。】 だ。
約 1,300 個所の引用部分について、全て原典を示すことで、解決しようと考えているのかもしれない。

記事中にある 【科学的研究とは相容れない深刻な過ち】 とは、上記の引用方法のことでは単純すぎる。
文献の引用だけで書いたもので、自分の考察は一切入っていない、単なる報告書レベルだったという意味なのか。


大臣の論文については、この撤回した博士論文以外にも、もう一つ疑惑論文が見つかっている。
次のリンクに示したように、トルコとEUの関係について2004年に発表している。
http://www.hss.de/fileadmin/migration/downloads/aa33_internet.pdf

この二つ目の疑惑論文についても、GuttenPlag Wiki では検証する予定だという。


20年くらい前は、「ドイツ人は論文ねつ造などしない。競争主義のアメリカで起きることだ」 と言っていたが、
ドイツ人研究者の論文ねつ造事件は後を絶たず、今回のコピペ大臣の出現によって、
ドイツ人研究者のプライドは、さらに傷ついたことだろう。

まあ貴族でも聖職者でも、ただの人間ということなのだ。

過去記事で示したように、ドイツ人が欲しがる肩書の一つに 「Dr.(ドクター・博士)」 がある。
http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/41009782.html

ドイツ留学中、テレビニュースに出てくる政治家はほとんど 「Dr. ○○」 だったので、同僚のドイツ人に質問すると、「政治学や歴史学などのドクターは、何か物語を少し書いて、楽してもらったものだ」 と、半分ばかにしていた。

引用したAFP日本語記事のように、貴族出身で人気のあるドイツのツー・グッテンベルク国防大臣もドクターの称号が欲しかったようだ。

【ドイツで最も人気の閣僚、カールテオドル・グッテンベルク(Karl-Theodor zu Guttenberg)国防相(39)は18日、2006年に執筆した博士論文の大半が盗用だったとの疑惑が報じられたことを受けて、一時的に博士号を返上すると発表した。

グッテンベルク国防相は記者団に対し、大学当局が盗用疑惑の調査を終えるまで、「一時的な、くりかえすが一時的な措置として」博士号を返上すると語った。

グッテンベルク氏は、「わたしの論文は盗作ではない」ものの「疑いなく、間違いが存在している」と認め、母校バイロイト大学による調査に積極的に協力することを約束した。…】

今のところ、博士論文盗用疑惑ということだが、ZDFのニュース番組 heute では、他人の記述とほぼ一致している部分を紹介し、単語を1つか2つほど変えているだけであることを明示していた。
自説の展開上必要であれば、引用文献として紹介し、それに反論したり、自説の補強をすればいいはずだ。
ところが、引用元をほとんど明記していないことが、他人の著作や論文を盗用して博士論文審査を受けた、という疑惑を呼んだ。
それに、連邦議会の学術関連の委員をしていたので、議会委託研究の報告書からも盗用していると指摘されている。

国防省の記者会見に現れなかったため、記者が全員退席してしまい、結局は数台のカメラに向かって声明を読むことになった。
国防省のサイトに掲載された大臣の声明文は次の通りで、YouTube の画像もついている。
www.bmvg.de/portal/a/bmvg/kcxml/04_Sj9SPykssy0xPLMnMz0vM0Y_QjzKLd4k3cQsESUGY5vqRMLGglFR9b31fj_zcVP0A_YLciHJHR0VFAFBC9EY!/delta/base64xml/L2dJQSEvUUt3QS80SVVFLzZfRF80Skwy


ドイツのメディアは、アフガニスタンでのドイツ連邦軍兵士死亡のニュースと共に、国防相の学位スキャンダルも大きく取り上げている。
例えば、ZEIT Online の記事を引用しておこう。
www.zeit.de/politik/deutschland/2011-02/guttenberg-krisenmanagement

また、次の SPIEGEL Online では、オリジナル論文からの盗用疑惑部分を例示している。
赤い下向き三角形の下にあるカーソル部分を左右に移動すると、オリジナルから表現を変えた部分が徐々にハイライト表示されるので、比較しやすいだろう。
www.spiegel.de/flash/flash-25296.html

さらに 「GuttenPlag Wiki」 というサイトが出現し、盗用疑惑のある部分がページごとに、オリジナル論文と並べてリストアップされている。
de.guttenplag.wikia.com/wiki/Plagiate


ツー・グッテンベルク大臣の個人HPでは、この博士号一時返上宣言後は、名前の前から 「Dr.」 を消しているが、経歴では博士号を取得したという記載をそのままにしている。
「最優秀
成績」 を意味するラテン語の "summa cum laude" を自慢げに載せているのも、一般家庭出身博士の私から見れば、貴族の嫌味に感じてしまう。
www.zuguttenberg.de/index.php

Biographie (bis 2002):

Studium der Rechts- und Politikwissenschaften, Pr?dikatsexamen, Promotion im Jahr 2007 zum jur. (summa cum laude)
…】

(追記1:2月21日に大臣は、バイロイト大学に博士号の返上を正式に申し出た。
バイロイト大学では22日付のプレスリリースで、その申し出を公表している。
www.uni-bayreuth.de/039-036-gutten.pdf

追記2:2月23日付でバイロイト大学は、正式に博士号はく奪を決定した。

www.uni-bayreuth.de/presse/info/2011/040-037-gutten.pdf (大学のプレスリリース:ドイツ語)
www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,747358,00.html (SPIEGEL Online)

そのため、ツー・グッテンベルク大臣の個人HPの経歴から、博士号取得の記載は消去されている。)


ドイツ連邦国防省のサイトでも、大臣の経歴紹介のところで、博士号取得について消し忘れている。
ただ、まだバイロイト大学での再審査中なので、消し忘れというのは言いすぎかもしれないが。
www.bmvg.de/portal/a/bmvg/kcxml/04_Sj9SPykssy0xPLMnMz0vM0Y_QjzKLd4k38TEGSYGZbub6kTCxoJRUfV-P_NxUfW_9AP2C3IhyR0dFRQAf14No/delta/base64xml/L3dJdyEvd0ZNQUFzQUMvNElVRS82X0RfNEw4

【… Anschlie?end studierte er Rechts- und Politikwissenschaften in Bayreuth und M?nchen und wurde 2007 zum Doktor der Rechtswissenschaft (Dr. jur.) promoviert.  …】

(追記(2月26日):上記と同様の理由で、博士号を取得したという部分が削除され、単にバイロイト大学とミュンヘン大学で法学と政治学を学んだだけになっている。)

他の政治家もたいてい博士号を持っており、アンゲラ・メルケル首相は物理学で博士号を取得した。
理系だから信用するというわけでもないが、政治家になる前に東ドイツ科学アカデミーの研究所研究員だったので信じたい。
http://www.bundeskanzlerin.de/Webs/BK/De/Angela-Merkel/Biografie/biografie.html

そうは言っても、「磁場中で立体選択合成が可能」 という再現不能な実験で博士号を取り、裁判沙汰になったドイツ人もいるので、実験系の理系博士だから大丈夫ということはない。

それにしても、姓に貴族出身を示す 「zu」 があり、「von」 と同様にドイツ人が欲しがるものを既に持っているのに、「Dr.」 までさらに付け加えようというのは欲張り過ぎだ。
または、一般家庭出身者でも博士号を持っているので、貴族の自分が持っていないのでは、くやしいと思っていたのかも。

ここは一度博士号をはく奪して、ドイツ基本法と連邦軍海外派遣の関係について、新たに博士論文を書けばいいと思う。


ところでドイツ語好きには気になるのだが、大臣の姓は zu も含めるので、できれば 「ツー・グッテンベルク」 と書いてほしい。
ただ、ドイツ政府の公式文書では 「zu Guttenberg」 としているが、メディアでは 「Guttenberg」 と略しただけだったり、両方混在している記事もある。
後で調べてみようと思うが、カラヤンやベートーベンと同様に、有名人なら略すのかもしれない。


追記:
zu Guttenberg 大臣(通称コピペ大臣)の本名は実に長いものである。
「Karl Theodor Maria Nikolaus Johann Jacob Philipp Franz Joseph Sylvester Freiherr von und zu Guttenberg

これを短くして 「Karl-Theodor zu Guttenberg」 にしているので、「zu」 を付けるかどうかは、どうでもよいのかもしれない。

(最終チェック・修正日 2011年02月26日)

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